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REPORT | Night Tempo × 写真家レスリー・キー対談


展示イベントで行われた世代を超えた対談、そしてDJプレイから浮かび上がるNight Tempoの表現の核

2023.09.12

Text by Yuki Kawasaki
Photo by Yuto Fukada

Night Tempo DJレポート – 「あの夏」の再定義 –

8月19日(土)から9月3日(日)まで、東京渋谷区はキャットストリートにあるX8 GALLERYにて、展示イベント『Music Time Travel~あの頃の夏へ~』が開催された。8月21日(月)には前日に『SUMMER SONIC 2023』に出演した韓国出身のDJ/プロデューサー・Night Tempoが登場。サマソニでの彼は、矢川葵(元Maison book girl)、市川美織(元AKB48 / NMB48)と共にレトロ・ポップ・ユニットを結成し、アップリフティングな4つ打ちでオーディエンスを踊らせていた。

夜のBEACH STAGEの喧騒とは打って変わって、この日は往年のシティポップをメロウに聴かせるラウンジ・セットのような内容のミックスを展開。月曜日の夕方にも関わらず100人ほど集まったゲストを前に、野口五郎の「グッドラック」や森川美穂の「ジャスミンを揺らさぬように」などを紡いでゆく。かと思えば、森高千里の「涙Good‐bye」や荻野目洋子の「キラー通りは毎日がパーティー」のような身体的グルーヴを感じるナンバーまで、“ラウンジ”の中で様々なサウンドスケープを表現していた。

DJを始める前に、彼は「今日は動画を撮るよりも音楽に集中してほしいです。良い曲だなと思ったらShazamして」と言っていたが、はっきりと起承転結を感じるサウンド・ジャーニーは、確かにそれぞれの楽曲に明確に役割を与えていたように思う。

それだけでなく、彼が作り出すストーリーは楽曲の魅力を新たに引き出しているように感じるのだ。それはDJに限らず、たとえばアルバム『Ladies In The City』(2021年)を聴いても同じことが言えよう。この作品に至っては、シティポップのレジェンドである野宮真貴や刀根麻理子がフィーチャーされながら、アイドル畑出身の道重さゆみや山本彩、ポップ・シンガーとして常に一線級の活躍を続けるBONNIE PINKらも抜擢され、世代とジャンルを超えたサウンド・アプローチが実践された。そこで鳴っていたのは、シティポップというよりはロウハウスに近い。すなわち、『Music Time Travel~あの頃の夏へ~』という過去への憧憬を踏まえつつ、Night Tempoはそこから別の次元に行こうとしているように見える。

『Ladies In The City』(2021年)の直後にリリースされた野宮真貴の「東京は夜の七時 (feat. Night Tempo)」は、Robin Sのハウス・アンセム「Show Me Love」(1990年)がリファレンスとして感じられる。

“シティポップ”という枠組みにとらわれず、予てより彼は普遍的な音楽観で楽曲をセレクトし、プロデュースを行っていた。その感覚で、松本伊代の「ソリチュードにもたれて」や当山ひとみの「Kissしたい」などが紡がれてゆく。実にスペクタクル。

この日、写真家のレスリー・キー(Leslie Kee)と学生たちのコラボレーション展『夏の想い出の一枚』も同時開催されており、会場内には様々な夏の表象があった。その中のいくつかは留学生が撮った(あるいは描いた)と思われる作品が飾られていたが、奇しくもNight Tempoとも共振するような趣があったように感じる。幼少期から日本で生まれ育った人間の見方とは少し違うパースペクティブ、それがたまらなくスリリングな場合もある。

この日一番の盛り上がりを見せたのは、EPOによる「DOWN TOWN」のカバー(オリジナルはシュガーベイブ)だ。隣で聴いていたご婦人は踊りだし、目の前のカップルは笑顔で頷き合っていた。そこには『オレたちひょうきん族』のエンディング・テーマだったことによる懐メロ感はなく(こればかりは世代によって感じ方は変わるのだろうが)、普遍的なダンス・ミュージックがあった。

最後には、「誰も知らない(かもしれない)良い曲」として泰葉の「かくれんぼStory」がセレクトされた。実際、恥ずかしながら筆者は知らなかったので、Night Tempoの要望通りにShazamしまくった次第である。スタイリッシュなファンクネスが、真夏の都市部の灼熱を涼やかに彩った。

が、何となくおさまりが悪かったのか、彼は最後の最後に亜蘭知子の「Midnight Pretenders」をプレイ。同楽曲は、The Weekndが2022年にリリースしたアルバム『Dawn FM』に収録されている「Out Of Time」でサンプリングされたことでも知られており、まさしく“異なる文脈”まで飛躍していったのだ。Night Tempoが“シティポップ”をどう見ているのか、この選曲からも分かるような気がする。


Night Tempo × レスリー・キー 対談──「実は“シティポップ”を作ろうと思ったことはないんです」

イベント終了後、写真展を開催していたレスリー・キーが同会場を訪れ、Night Tempoとのトーク・セッションが行われた。異邦人として活動拠点のひとつを日本にしながら、世界をまたにかけて活躍を続ける2人。写真家とミュージシャンという違いはあれど、通じ合うものはあったようだ。とりわけレスリー・キーからNight Tempoに向けられる矢印は強烈で、終始熱いリスペクトが送られていた。松任谷由実や浜崎あゆみなどの写真を撮ってきたキーとしては、長年J-POPに携わってきたレジェンドとして思うことはたくさんあるのだろう。前のめりな姿勢からは、一回り以上下の世代の輝く才能に対して大いに期待しているのが見受けられた。

今ほど情報社会が発達していない中で、海を隔てて他国のカルチャーにアクセスする。高い熱量があったという点で共通する2人は、いかにして現在地に辿り着いたのか。「私が生まれた1971年は、シンガポールが生まれてまだ数年という時期でした。当時国内のインフラやショッピング・センター、空港を作っていた会社の9割は日本から来ていました。その関係でバラエティや音楽番組を見られたし、紅白歌合戦だって見られたんです。日本のキラキラしたエンターテイメントが、僕の人生を変えてくれました。シンガポールでは他の国の番組もチェックできたんですけど、日本が一番でしたね」。レスリー・キーはそう回顧する。

一方、Night Tempoもまた、韓国から日本への憧れを募らせていた。彼の少年時代は、シンガポールのように日本のコンテンツが公式に出回ることが少なかったという。「音楽が好きな人は、日本のポップ・ミュージックをこっそり聴いてたんです。ウォークマンを持ってないとダサい、みたいな風潮も確かにありました」。中山美穂の「CATCH ME」に惹かれ、日本のポップ・ミュージックにのめり込んでいったという。「好きで聴いていた音楽が、僕をここまで連れてきてくれました。僕も人生変わりましたね」。

終始テンションが高いまま進行したセッションは、キーによる「いつか紅白の審査員ふたりでやろう!」という熱い提案がなされ、世代を超えた才人同士の邂逅が終わった。

なお、最後には記者側からの質問も募集され、2つほどNight Tempoに向けて投げられた。ひとつは、9月20日(水)にリリースされるニュー・アルバム『Neo Standard』について。作詞を歌い手に発注していることについて、どのようなプロセスで進められたのか? という質問が寄せられた。いわく、「特定のトピックスや感情を想定しつつ、常にステージを意識しているという」。つまり、ライブで演奏される様子を想像しながら、シンガーと歌詞を考えたいそうだ。この答えからも、音楽をボディ・ミュージック然と捉えていることがわかるような気がする。

もうひとつの質問は筆者から。レポートで書いた、そもそもNight Tempoの音楽はシティポップの枠組みからはみ出ており、オルタナティブなダンス・ミュージックとしても解釈される余地があるのではないか。音楽の受容のされ方について、自身ではどう感じているのか。それら諸々を聞いた。彼の音楽を考える上で重要な答えが返ってきたので、以下にまとめる。

「僕の感覚としては、元々インターネットの電子音楽を作っていました。ジャンルに関して言うと、“シティポップ”を作ったことはないんです。DJでもシティポップを加工したダンス・ミュージックをかけているつもりで、クラシカルなハウスがベースになっています。80年代の音楽が好きで、音楽を作り続けてきたんですが、自分のスペクトラムは広がり続けている気がしますね。色々な楽曲を知るうちに、自分ができることが広がっている実感があります。『Neo Standard』は97年くらいまでの日本の音楽を参照しつつ、ガラージ・ハウスなどの要素をミックスして作りました。アルバムごとにジャンルというかコンセプトに関しては、今後も大きく変えてゆくつもりです」。


【リリース情報】


Night Tempo 『Neo Standard』
Release Date:2023.09.20 (Wed)
Label:Victor Entertainment
Tracklist:
1. Input
2. Structure Of Romance (feat. Kyoko Koizumi)
3. Passion (feat. Kaoru Akimoto)
4. Run Or Hide (feat. Marina Watanabe)
5. Shampoo (feat. Yu Hayami)
6. Live Once (feat. Anju Suzuki)
7. Ninna Nanna (feat. Miho Nakayama)
8. Needy Greedy (feat. BONNIE PINK)
9. New Romantic (feat. Maki Nomiya)
10. Silhouette (feat. Asako Toki)
11. One Love (feat. Hitomi Tohyama)
12. Output

作品形態:デジタル/CD/アナログ/カセット/ビクターオンラインストア盤(グッズ付属)
ゲスト・アーティスト:小泉今日子、秋元薫、渡辺満里奈、早見優、鈴木杏樹、中山美穂、BONNIE PINK、野宮真貴、土岐麻子、当山ひとみ


【イベント情報】

『The Night Tempo Show – Neo Standard』
2023年10月11日(水) at 東京・渋谷 Spotify O-EAST – ゲスト有り
2023年10月12日(木) at 東京・渋谷 Spotify O-EAST – ゲスト有り
2023年10月18日(水) at 愛知・名古屋 THE BOTTOM LINE
2023年10月19日(木) at 大阪・GORILLA HALL OSAKA
2023年10月21日(土) at 北九州・井筒屋パステルホール

※全公演にFANCYLABOが出演

問合せ:SMASH

Night Tempo オフィシャル・サイト


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