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んoon『FIRST LOVE TOUR』ファイナル公演レポート到着「集大成と呼ぶに相応しい一夜」


2025.03.25

結成10年という節目に、んoon(ふーん)が満を持して発表した1stフルアルバム『FIRST LOVE』。そのリリースツアーの千秋楽が東京・渋谷WWW Xで開催された。満員のオーディエンスに迎えられたツアーファイナルは、まさに集大成と呼ぶに相応しい一夜となった。

今回のツアーは、んoonの4人に加えて、ドラマーの岸田佳也、そして一部の楽曲に稲泉りんがコーラスで参加するという5~6人編成でのパフォーマンス。さらに、この日は活動初期からんoonのMVを手がけてきたメディアアーティストの谷口暁彦がDJとVJで参加し、んoonの世界観が開演前のSEから終盤の視覚的な要素に至るまで貫かれていた。

開演予定時刻の午後7時、静謐なフリージャズのSEが止んだところで、いよいよ6人がステージに登場。6弦ベーシストの積島直人が多動フレーズを弾き始めると、岸田がそこに重たいキックを乗せていく。なかなかシリアスな導入…と思いきや、JCの繊細なソプラノボイスを合図にそれぞれのメンバーが音を重ねてゆき、瞬く間に華やいでいくバンドサウンド。その流れを受けてボッサ風の跳ねるようなフレーズが鳴った途端、待ち構えていたオーディエンスの歓声が上がる。1曲目は“Amber (Summer ver.)”。暗闇に忽然と光が差し込んでいくような幕開けだ。

積島の「にゃんにゃん」から始まるコズミックなファンク“Age”、ウエスユウコによるハープの美しいリフレインがアンサンブルを先導する“Freeway”と、ライブは序盤から新旧織り交ぜたセットリストが展開されていく。スムース & メロウな印象も強いんoonだが、ライヴにおける出音はレコードよりもはるかにヘヴィでラウド。江頭健作によるクラヴィネットのフレーズが粘っこいファンクネスを醸し出す“Lobby”ではゲストラッパーのvalkneeが颯爽と現れ、早速ライブ前半のハイライトを演出していた。

valknee

このバンドのネオソウル、あるいはアンビエント的な側面を垣間見せた中盤を経て、今度は台湾のインディバンド・I’m difficult(我是機車少女)のボーカリスト、Ernest Ling(凌元耕)が“Pillow”に参加。ブレイクビーツをナマに置き換えたエッジーなサウンド上で楽しげに歌う姿がなんとも微笑ましいデュエットだった。

Ernest Ling(凌元耕)

即興も含む自由度の高いセクションを踏まえて、演奏はどんどん加速していく。DaedelusをサンプリングしたMadvillainのカバーやA Tribe Called Questのマッシュアップ曲も挟み、披露されたのはSquarepusher“A Journey To Reedham”。原曲におけるプログラミングとグリッドノイズの高速ドリルンベースを人力で再現していくバンドの超絶技巧ぶりにフロアは狂喜し、ライブは早くも最高潮を迎えようとしていた。

ところが、ここでちょっとしたアクシデントが起こる。会場の熱気が高まりきったところで、バンドは演奏を急停止。体調不良の観客を見つけた彼らは、その人を救助するようにステージから指示を送っていたのだ。そして無事が確認できたところで、んoonは先ほどのピークに達したところから“A Journey To Reedham”を再開。結果として演奏のテンションはさらに高まり、その勢いのままゲストラッパーのACE COOLを招き入れて“Forest”へと傾れ込んでいく。このバンドのプレイアビリティの高さと瞬時の対応力、そしてこの会場にいる者を一人残らず楽しませようとするんoonの本気を見た瞬間だった。

ここまで既存のジャンルや固有名詞を引き合いにしながら彼らの楽曲に触れてきたが、正直それは表面的な説明でしかない。というか、この初見では絶対に読めないバンド名が物語るとおり、んoonは決して「わかりやすい」バンドではないのだ。言い方を変えれば、んoonは自分たちの音楽的な欲求にどこまでも忠実なバンドであり、それが今こうして熱狂的な反応を集めていることに、思わず本人たちも胸を熱くしているようだった。

「私たちはバンドです。自分たちのやりたいことをやりたいように、誰に言われるでもなく、やらずにはいられないことを自分たちでやると決めてやってます」。ライブ後半でそう語ったJCは、自分たちの「やらずにはいられないこと」に共鳴してこの場に集まった人々への感謝を静かに伝えていた。

JC

ツアーファイナルもいよいよ大詰め。控えめな伴奏がJCの歌声と稲泉りんのコーラスを際立たせていた“Sherry”、徐々に高揚感を増していく展開がえも言われぬほど美しい“Kaiya”、このバンドのアヴァンギャルドな部分を象徴するような“Sniffi’n”、終盤でブーストする瞬間のカタルシスが凄まじかった“Billion”を経て、本編ラストは“Summer Child”。これまで何度もライブのクライマックスを飾ってきた曲に谷口暁彦の3DCG映像が同期した瞬間の興奮は、ちょっと得難いものがあった。

アンコールは“Tokyo Family Restaurant”。オーディエンスに捧げるラブソングでこの夜はエンディングを迎える……はずだったが、その後もアンコールを求める声が止まず、んoonは再びステージに登場。2回目のアンコールを想定していなかったバンドは、本編中に一度中断したカバー曲、そしてゲストボーカル全員をステージに上げた状態で“Summer Child”を急きょ再演。2時間に及んだ宴はこれにて大団円となった。このまま夜が明けるまで続いてほしい――思わずそう願いたくなるほどの、完璧なツアーファイナルだった。

Text by 渡辺裕也
Photo by 宮下夏子


【リリース情報】


んoon 『FIRST LOVE』
Release Date:2024.11.20 (Wed.)
Label:FLAKE SOUNDS
Tracklist:
01. To Dog
02. Kaiya
03. Age
04. Forest feat. ACE COOL
05. Sunde
06. Conversation Piece pt.3
07. Pillow feat. 凌元耕Ernest Ling
08. Gary
09. Touch
10. Sherry
11. NANA
12. Billion

※CD/デジタル

配信リンク

んoon オフィシャルサイト


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