3組のミュージシャンが〈New Balance〉の人気モデル「550」を着用し、そのブランドやスニーカーの世界観やストーリーとリンクする部分を探る連載がスタート。初回は今年でソロ活動5周年を迎えるTENDREに登場してもらった。
マルチプレイヤー・河原太朗によるソロ・プロジェクトとしてデビューしたのが2017年。以降、他アーティストのサポートや楽曲提供、プロデュースなども行いつつ、これまでに1年に一作ペースでアルバムを発表。多くの仲間たちと有機的な繋がりを作りつつ、着実にその活動規模を拡大させてきたTENDRE。一過性のバズを獲得するハイプとはかけ離れた、実直なその姿はオーセンティックなミュージシャンと呼ぶに相応しいのではないだろうか。
そんなTENDREの哲学と普遍的な魅力を放つNew Balance「550」は、どのように共振するのか。Spincoaster Music Bar Ebisuにてじっくりと話を訊いた。(編集部)
Interview by Shoichi Miyake
Text by Shunsuke Sasatani
Photo by Ryo Sato
Styling by TENDRE
Hair & Makeup by Yuri Takano
TENDREと〈New Balance〉の縁
――太朗くんは〈New Balance〉と度々イベントなどで関わっていますよね?
TENDRE:そうですね。いろんなきっかけでご一緒しています。直近だとAAAMYYYのバンド・メンバーとして出演した招待制イベントもありますし、〈New Balance〉の115周年の企画ではモデルも担当させてもらいました。
おじいちゃんになってもサングラスタワーやろうとおもいます
ニューバランス115周年おめでとござます👟#newbalance574 #AlwaysPopular pic.twitter.com/CFZLBYqEwR— TENDRE / 河原太朗 (@tanaakin) April 23, 2021
――縁が深く、お付き合いも長い。
TENDRE:いいタイミングでこうやって呼んでいただいているなと思いますね。僕は革靴を履くことの方が多いんですけど、それでもスニーカーを選ぶ際は〈New Balance〉が多いので。そういった意味ではいい縁ですよね。
――太朗くんの普段のスタイルや音楽面もそうだけど、〈New Balance〉がしっくりくる印象がありますね。
TENDRE:基本的に、足元はキュッとしていたいんです。だからスニーカーもタイトな感じが欲しい。今回履かせていただいた「550 BBB」は〈New Balance〉らしさはもちろんあるんですけど、どんなスタイルにも絶対に合わせやすいディテールだなと。
――確かにシックなデザインですし、かっちりとした格好やスーツ・スタイル、セットアップにも合いそうです。もちろんカジュアル・スタイルにも。
TENDRE:そういった柔軟性に一番惹かれましたね。今回は黒を選びましたけど、カラーリング展開もたくさんあって。どれも素敵でした。
――シーンに合わせてカラーを選べる感じもいいですよね。
TENDRE:すごくいいですね。白ベースでも「N」の周りの絶妙なラインの入り方だったりとか、総じて見ていて気持ちのいい印象を受けました。
――個人的に、〈New Balance〉ってちょっと背伸びして手に取るイメージがあって。お金を少し服に出せるようになってから買えるようになったという、憧れ的な存在でもあったんだけど、太朗くんは初めて買ったときのことを覚えていますか?
TENDRE:自分で靴を選ぶようになったのって高校生くらいだと思うけど、もともといろんなスニーカーにも興味があったし、高校生のときは私服で革靴を履く感じでもなかったから、型番は覚えてないですけど〈New Balance〉を買ったんですよ。黒のモデルで、それが擦り切れるまで履いたということをよく覚えてますね。きっと安心感があってずっと履いていたんだろうなと。
――ブランド・イメージとして安心感がある。
TENDRE:自分の周りでも「いちばん履き心地がいい」って言う人が多かったです。“THE スニーカー”というか、スニーカーに対しての自分の中のイメージは〈New Balance〉が作ってくれたと言っても過言ではないと思う。それはクッション性しかり、機能性しかり。20代になってからはいろいろな靴を選んできたけど、やっぱり〈New Balance〉を長く履いていた記憶がありますね。
――今回の「550」はバスケットボール・シューズを復刻したモデルになりますが、太朗くんとスポーツって交わりはあったんですか?
TENDRE:全然ないです(笑)。学生時代から球技がダメで、それこそバスケとかも授業ではやったんですけど、投げ方もおぼつかない感じ。両手の手首の曲げ方がおかしかったり……。
だからこそ、逆にスポーツに対する憧れっていうのは強かったかもしれない。単純にファッションとしてバッシュみたいな形のシューズに対する憧れもあって、それを手にするタイミングをずっと待っていたのかも。
「普遍的に聴ける、履ける、触れるもの」の大切さ
――プライベートで「550」をどういうスタイルに合わせたいですか?
TENDRE:古着はめちゃくちゃ好きだから、そういったアイテムに合わせたいですね。きっとコーディネートを締めてくれると思うし。セットアップでも全然いけそうですよね。ほどよくスタイルを崩してくれて、コーディネートに抜け感が出そう。
――ちなみに、太朗くんの現在進行形のファッションはどんな感じですか?
TENDRE:ずっと古着が好きっていうのはあるんだけど、昔よりオーバー・サイズを選ぶことが増えたかも。最近は現行と古着のミックスを好んでいますね。今日も上のニットが古着でパンツは現行のアイテムなんですけど、その方が塩梅を作りやすいというか。革靴も昔は古着で買うことが多かったけど、今はちゃんといいものを買おうって気持ちがあって。ちゃんと10年後履いても自分の中で安心して使えるものを取り入れようと思っています。
――個人的には〈New Balance〉=坂本龍一さんというイメージが強くて。めちゃくちゃ似合っていたんですよ。きっと太朗くんもかっこいい年輪の重ね方をすると思うから、教授のような感じになって欲しいなって。
TENDRE:そうですね。特に今回の「550」はおじいちゃんになってもカッコよく履ける形だと思うから。やっぱり、いくつになってもカッコいいと思えるものをまとっていたいですよね。
――今回の企画のテーマには「タイムレス」というキーワードがあって。〈New Balance〉は機能性の進化と向き合いつつスタンダードなアイテムを生み出してきた。そのスタンダードを作っていくという意味では、太朗くんの音楽家としての理念ともクロスするところがあるのかなと。
TENDRE:数年経ったときに自分の曲を聴き返して、当時とは違うポイントに魅力を感じたりする。それは音楽にもファッションにも、それこそ靴にも同じことが言えると思うけど、経年劣化/経年変化することで出てきた味やヴィンテージ感があって。もちろんそこに目掛けてやっているわけではなく、その時々で最適解を追求しつつ、後々振り返ったときにも「これは間違ってなかった」って感じたり、その当時の自分の思考や感情を知れる。そういう意味では、リンクしている部分は多いと思います。
この「550」も、長年履いていったらどういう風に変化していくんだろうって思いますね。いろんな場所に行けばそれ相応の傷や味がついていくわけで、そういったところは楽しみな靴でもあるし、自分がやっていることにも紐付きますね。
――ずっと普遍的に聴ける、履ける、触れるものは大事ですよね。
TENDRE:そうですよね。自分の音楽も無理に時代感を出そうとは思ってなくて。時代ごとのワードだったりはあまり入れず、たとえば数十年後に聴く誰かがその言葉をちゃんと理解できる作品として残したいなと。
――音像や音色が時代を映すトレンドだとしたら、それって靴においてはマテリアルも含めた機能性だと思うんです。ただ、スタイルの根本にはずっとスタンダードでありクラッシックな王道感みたいなものがある。太朗くんの場合それが歌心やリリックでもあり、だからこそいつの時代に聴いてもリスナーが共鳴できる。
TENDRE:リスナー自体が自分に取り入れることのできる幅というか、その余白みたいなものが重要なのかもしれないですね。これからもそういった作品を作れればなと思います。
TENDREという概念を遺したい
――「550」は88年〜89年頃の復刻ということなんですが……。
TENDRE:1988年は僕の生まれ年ですね。
――そっか。バブル前夜に誕生したということですね。
TENDRE:ギリギリ景気がいいときに生まれてるんです(笑)。
――ちなみに、太朗くんと80年代の音楽はどういう関わり方なの?
TENDRE:両親が聴いていたものが自分に染み付いているのが大きくて。時代問わずですけど80’sのR&Bやソウルがずっと家で流れていることが多かったし、割と80’sという見方で聴いてたよりかは、生まれたときに聴いていた曲として、取り入れていると思いますね。
――やっぱりブラック・ミュージックが多かった?
TENDRE:多かったです。それこそStevie Wonderもそうだし、“THE R&B”な歌手・Luther Vandrossがいたり、Earth, Wind & Fireとか、今となっては当たり前のようにクラシックと呼ばれている人たちをずっとカーステレオとかで聴いてました。うちには膨大なCDがあったから、それを子供ながら知らず知らずのうちにデッキに突っ込んで聴いてみてというのが記憶としてはデカいですね。
――いま例に挙げた人たちって、2024年でも多くの人に聴かれてるじゃないですか。
TENDRE:本当にそうですね、当たり前のように音楽好きの人は知ってる。
――そう考えると、太朗くんの音楽も例えば30年後、そうあってほしいと思う?
TENDRE:思いますね。だって30年経ったら、60歳を超えていて、そこまで音楽をやっている、できているのかなって予想はしています。形式はわからないけど。
――太朗くんは必ず続けていますよ。
TENDRE:うちの両親もいまだに音楽をやっているわけで、そう考えると自分はソロ活動を始めて5年しか経ってないんですよね。いろいろどうなっていくのか、今後も楽しみなことが多いです。
――今年はデビュー5周年でしたね。
TENDRE:12月から6周年に入っていきますけどね。
――ちなみに〈New Balance〉は117周年? 118周年? くらいですよね。
TENDRE:すごいですよね(笑)。100年以上生きれるかって考えたらもちろん難しいとは思うけど、たとえばTENDREという概念みたいなものを、それこそ2代目に継がせるという形式はアリかもなって最近思うんです。人生に置き換えれば5年ってまだ幼稚園児だから、知らないことも多いと思うし、まだまだやってみたいことは多い。ひとつの歴史を作る上での土台作りが、この5年で多少なりともできたのかなって。
でも、2代目は結構本気で考えてます。それは自分の子供になるのかどうかわからないけど、ジュニア的なポジションというか。
――それができたら本当におもしろいですよね。
TENDRE:おもしろいと思う。それはある意味でソロの特権かもしれない。自分のジュニアなのか、自分の下の世代なのかわからないけど、概念みたいなものをおもしろがってくれる人がいたら、それはひとつの夢と言えるかもしれないですね。
――ありえそうな未来だと思うし。
TENDRE:想像はしやすいですよね。元々バンドをやっていたけど、5年間の活動でより“個”としての自我が芽生えてきた感覚があるんですよね。自分自身がどういうことを書きたくて、どういう音を作りたいのか、というのがより具体的に見えてきた。そこで構築してきたものを、スクラップ & ビルドして、凝り固まらずちゃんと分解しながら、その時々で一番新しいと思うところに真っ直ぐ向かっていきたいです。
TENDREが考えるタイムレス/オーセンティックな表現
――5周年イヤーだった2023年は、太朗くんにとってどんな年でした?
TENDRE:めちゃくちゃ時間の流れが早かったですね。それと同時に、昨年からどこか地続きな感じもあって。年間に一枚アルバムを出し続けているけど、それを出すことで自分自身の今年のモードや現段階での自分を提示している感じがあったんです。
けど、今年は5周年という言葉を使ってきたから、一度5年間の振り返りをすることによって、自分がやってきた音楽への取り組み方やチームに対しての自分の向き合い方も意識するようになって。バンド・メンバーしかり、それぞれが主戦場を持っている人たちだから、その個々に対して自分ができることだったり、是正したいことだったり。あとはみんなが各々頑張っているからこそ、“個”としてできることを見つけるための下準備が今年たくさんできたのかなって思います。それは音楽のみならず、来年以降に取り組む表現全般として。
――2枚のEPをドッキングさせることで、この5年と次の布石というのを同時に行ったアルバムを完成させた2023年でもありました。
TENDRE:そうですね。そこは合体できたからこそ、自分の中でしっくりくるものがあるし、一度合算したものを出したことで次の自分の行きたい場所にちゃんと行けるという、そんな意味合いがあると思いますね。
――別媒体でお話したときに、TENDREの祝祭として武道館公演をやってみたいということも話していて、前の太朗くんだったら具体的な会場の名前を出すこともなかったと思うし、そこは変わった部分でもあるのかなって。
TENDRE:やっぱり公言していった方がいいというのも当然あるんですけど、昔はそこに恐れと恥じらいがあったんですよね。その恥じらいの必要も今は要らないし、仮に無理な夢でも公言していいと思う。それが酒の肴になるんだったらそれでいいんです。
以前、知人が「人生においてのイベントは、自分自身で作っていかないと」って言っていて。その言葉を聞いて、自分自身で本当によかったと思えた瞬間もちゃんと公言していくべきだなと思いました。人に言う必要はないのかもしれないけど、自分が感動したポイントを残す、伝えていくことってすごく大事だなと最近考えるようになって。それも踏まえての武道館というか。武道館じゃなくて、紅白(歌合戦)でもいいんですけど、それはきっと目標だから過ぎ去るものであって……という感じですね。何にせよ、楽しくやっていけたらいいなと(笑)。
――それこそ、〈New Balance〉はユニバーサルなブランドだけど、太朗くん自身海外への興味はありますか?
TENDRE:もはや海外進出って言葉もそんなに使わなくなりましたよね。近々、アジアのミュージシャンと曲を作る機会があったり、ロンドンのミュージシャンからDMで連絡をもらったりもしていて。
前は言語的な部分での遠慮もあったけど、結局音楽という最も意思疎通しやすい表現があるんだから、海外の人ともどんどん交流していきたいです。それが日本での活動にもいい影響をもたらすと思うし。
――最後に、アーティスト/音楽家としての太朗くんが考える、タイムレス/オーセンティックな表現とは?
TENDRE:服や靴と一緒で数年、数十年後の自分がちゃんとカッコいいと思えるものを残していくことが大事だと思います。未来の自分に対しての手紙というわけではないけど、後の自分に恥ずかしい思いをさせたくない。そういったいい意味での責任感や理念さえ持っていれば、間違いのないものしか残らないだろうなという気がします。
オーセンティックについては……音楽が本当に好きなのであれば、もっともっと深くまで突き詰められるんじゃないかって考えていて。それは届ける相手に対して、よりヘビーなことを伝えたいというわけではなくて、表現の仕方ってもっといろいろな形があるだろうし、その可能性を自分が広げていくことが大事なのかなって。みんなが「こういうことやっても意外と大丈夫なんだな」って思ったり、みんなの想像力を広げるということ。それが後に「オーセンティック」って言われるのかなと。自分もそういう表現を目指していきたいですね。
【リリース情報】
TENDRE 『TENDRE / 5th Anniversary Album ~ IN WONDER & BEGINNING ~』
Release Date:2023.12.13 (Wed.)
Label:Universal Music
Tracklist:
1. COLORS
2. DOCUMENT (2023)
3. HEAVENLY
4. RIDE (2023)
5. DAZY
6. DON’T KNOW WHY
7. hanashi (2023)
8. YOUTH
[CD] UPCH-20662 ¥3,080(Tax in)
[UNIVERSAL MUSIC STORE限定セット] CD + GOODS(「LOVELY TENDRE BANDANNA」付属) ¥5,720(Tax in)
[LP](HMV OEM作品)¥3,630(Tax in) 2024年1月3日(水)リリース