Nico、Nick Drake、Joni Mitchell、Mazzy Star、荒井由実、大貫妙子、森田童子……。
あるときは朴訥とした、またあるときは凛とした佇まいを見せ、フォーキーな中にアシッド感を忍ばせるSSWたちの系譜。そんな中でも、ここ数年で一際注目を集めるmei eharaが今年11月にリリースした1stアルバム『Sway』から、ラストを飾る「冴える」のMVが公開された。
フォトグラファーとしての顔も持つ彼女らしい、たくさんの写真を繋ぎ合わせてコマ撮りにしたかのような映像の中には、mei eharaの音楽を聴いているときにいつも脳裏に浮かんでくるどこか懐かしい「日本の原風景」――ススキ野原、ゆっくりと流れる雲、鮮やかな花びら、落ち葉、きらきらと輝く水面といった要素が詰め込まれている。
mei eharaはかつてmay.e名義で2013年以降、『Mattiola』、『私生活』といった弾き語り主体の作品を発表し注目を集めてきたシンガーだ。深いリヴァーヴに包まれたその音像から「アシッド・フォーク」として語られることも多かったが、「Fine Shoes」や「あなた」、「浜においてきて」、「海へ」、「s.a.y.u.」、「会話」、「跳ねたり飛んだり」といった楽曲を聴いてもらえればわかる通り、そのメロディメイカーとしての才能はこの頃からすでに完成されていたと言える。そしてそのメロディは、シンプルなサウンドだからこそ際立っていた。
キセルの辻村豪文による初プロデュース作となったこの『Sway』は、ソングライターとしてのmei ehara、シンガーとしてのmei ehara、そしてプロデューサーとしての辻村豪文が出会い、それらの才能が互いの魅力を高めていった作品だと思う。
辻村氏はそのメロディを殺すことなく、D’Angeloすら彷彿させる「タメ」のあるファンク・ビートや、「異なるリズムを持つ各パートが複雑に絡み合う」といった意匠(「道路」に顕著に表れている)を大胆に組み込み、mei eharaの新たな魅力を引き出すことに成功している。もちろん彼女自身もバンド・アレンジとしてのノウハウはmay.e+丘名義での経験が十分に活かされている。
そんな『Sway』の中でもタイトルからして”冴え”ているこの「冴える」という曲は、構成としては非常にシンプルながら、悠久の時を穏やかに過ごすためのBGMのように美しく、どこまでも牧歌的だ。CINRA.NETのインタビューで彼女は本作を「引っ越しがてらの道」になぞらえ、思い出や人生を振り返る「出発からゴールまで」をテーマにしていると語っているが、この「冴える」を聴き終えた後は1曲目の「戻らない」に戻りたくなる……というわけで、ちょっと不思議な感覚に陥らせてくれる、そんな作品。
【リリース情報】
mei ehara 『Sway』
Release Date:2017.11.08 (Wed.)
Label:カクバリズム
Cat.No.:DDCK-1053
Price:¥2,500 + Tax
Tracklist:
1. 戻らない
2. 狂った手
3. サイン
4. 蓋なしの彼
5. 頬杖
6. 道路
7. 地味な色
8. 毎朝
9. 街の様子
10. 冴える
■mei ehara オフィシャル・サイト:http://eharamei.com/
■カクバリズム オフィシャル・サイト:http://www.kakubarhythm.com/
(Text by deidaku)