The Strokesの良心ともいうべきメロディーメーカーのギタリスト、Albert Hammond Jr.（アルバート・ハモンド・ジュニア）が帰ってきた！ The Strokesのメンバーとして時代に奔流された時期を経て、ドラッグ中毒を克服して、かわいらしいワイフもゲットして、自分の正しい軌道に帰ってきたのだ。7月に発売されたアルバム『Momentary Masters』（束の間の支配者、の意）を引っさげて、8年ぶりの日本でのライブも行われるというからこんな嬉しいことはない。
アルバムのリードトラックである「Losing Touch」とは関わりをなくすという意味。サビで、「Happy here?/The rest’s a wreck!」（ここで幸せなのか？ 他の場所は廃墟だ！）と絶唱するアルバートは、いつも諧謔の心を忘れない。得ることで失うこと、なされなかった選択、建て前の表情や周囲に対して取り繕う自分の姿とは裏腹の深層心理。そして何かを支配しようとしても、結局は全て束の間の出来事だということを、人懐っこいメロディーに乗せて唄ってみせるアルバートは本当に力強い。「盛者必衰の理をあらはす」なんて言葉も古来から日本に受け継がれているけれど、アルバートはそうした物事の真理に対して、謙虚で真摯な姿勢を身につけたのだ。The Strokesで栄華を極め、2015年の今もなおトップクラスの注目を浴びているにもかかわらず、だ。
OneWay StudioというNYのはずれにある彼のスタジオで撮影された「Losing Touch」のパフォーマンスの何が面白いって曲ど頭で、「He’s got so much hair!」（意訳：めっちゃ髪の毛増えてきた！）って叫ぶところ。
これはバンドメンバーを困らせたくての発言なのか、自虐を楽しんでいるのか、はたまた本心なのかはわからないけれど、楽しそうで何より。そして心身ともに絶好調の彼のライブをここ日本でも楽しめるのはすごく嬉しいこと。前作のEP『AHJ』のリリース時にNYでライブを目撃したのだけど、ものっすごい盛り上がりだったから、10月21日22日に渋谷で行われるライブも是非とも全力の歓迎の心で迎えたい所存です。
（Text by Hiroyoshi Tomite）
