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INTERVIEW | Wendy Wander 溫蒂漫步


衝突も化学反応も糧にして──3年ぶり3rdアルバム『The House Of』と世界進出への展望

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2026.10.29

台湾の5人組バンド、Wendy Wander(ウェンディワンダー / 溫蒂漫步)がおよそ3年ぶりのアルバム『The House Of』をリリースした。「アーバン」や「メロウ」といった言葉で形容される彼らのアブストラクトな魅力は損なわれないまま、ポップネスにいっそう磨きがかかり、これまで以上に多くの人々へ届きうる力を持った作品だ。

台湾のバンドというと、諸外国で支持されているSunset Rollercoaster(落日飛車)という前例もあり、Wendy Wanderにも世界の舞台での活躍を期待してしまう。彼ら自身は今後の展開をどのように考えているのだろうか? 今回のアルバムは世界へ打って出る試金石としての意味合いもあるのだろうか?

そのほか、かねて盟友として知られる日本の気鋭バンド・Billyrromとの関係性など、バンドの今を知るため来日公演翌日に彼らの下を訪ねた。

Interview & Text by Kei Hasumi
Photo by Motomi Mizoguchi

Wendy Wander 溫蒂漫步
L→R:Jenny(Gt. Vo.), Jiang Yang(Ba. Vo.), Ray(Dr.), Joe(Gt.), Jonathan(Key.)

壁に穴が空くほどの衝突を経てできたアルバム

――前作である2ndアルバム『Midnight Blue』の発表が2023年です。それからの3年間の活動を経て、自分たちのどんな部分に成長を感じますか?

Ray(阿叡):「耳」ですね。私が今回のアルバムで一番成長したと思うのは、周波数を聴き分ける能力や、鳴っている音が表現していることに対する理解力です。格段に向上した自信があります。

Jiang Yang(江楊):自分の場合は……端的に言うとコミュニケーション能力ということになると思うんですけど。私たちは一緒に過ごす時間が長いので、どうしても意見が食い違うことがあります。激しい衝突も、お互いをより深く理解しあうための糧になったと思います。

――気まずい質問かもしれませんが、どんな衝突がありましたか?

Jonathan(曜如):どんな質問にも答えますよ(笑)。アルバム制作期間でいうと、Jiang YangとJoe(瑋翔)が作曲のことで言い争うことがありました。私たちは全員がそれぞれにアイデアを出すバンドなので、制作中は意見が食い違うことなんて日常茶飯事なんです。それ自体はお互いあまり気にしません。

……でも、結局衝突が起こるのは言い方の問題なんですよね。どこかのタイミングで2人の激しい怒鳴りあいがはじまりました(笑)。Joeが言い争ったはずみでスタジオの壁に大きな穴を空けちゃったりもしたね。

Jiang Yang:Joeと言い争ったあと、頭を冷やそうと上の階に行ったんですけど、そこに他の3人が来てくれて。

――他のメンバーが仲裁してくれたんですね。

Jiang Yang:私たちは普段声を荒らげたりしない分、1度ぶつかるとすごくおおごとになってしまうところがあって。まぁ、5分くらい経ったら冷静になって、すぐに仲直りしたりするんですけど。

Ray:普段は穏やかだもんね。

Wendy Wander 溫蒂漫步

――日本のバンドでそういう揉め方をしたら、なんというか、取り返しがつかない場合が多いと思うので、ちょっと衝撃です。

Jiang Yang:そうなんですか? 日本ではぶつかりあったあとどういうふうに仲直りするんです?

――どうでしょう……それだけ怒鳴りあったり壁に穴を空けたりとなったら、お互いにもう関係修復を諦めているかもしれません。

Jiang Yang:そうなんですね!

Jonathan:台湾の人は率直に伝えるタイプが多いから、お互いそのつもりでいるので、仲直りできるのかもね。

――みなさんは、日本のバンド・Billyrromと親密な交流を続けていますね。彼らとはどのようにコミュニケーションされているんでしょうか? 使う言語がまず違うと思うんですが。

Jiang Yang:Billyrromはとても親しい兄弟のような……単純にとても仲のいい友だちなんです。言葉が違っても、住んでいる場所が離れていても、通じあっていると確信が持てるんです。そういう感じだよね?

Jonathan:うん。本当にね。

Ray:知り合って何年か経ちますけど、関係性に大きな変化はありません。ただどんどんよくなってます。


「やっぱりライブの体験はAIには生み出せない」

――激しいぶつかりあいの末に完成した今回のアルバム『The House Of』ですが、全体のテーマやコンセプトはどのように固めていったのでしょうか?

Ray:『The House Of』のコンセプトは「空間」です。

Jiang Yang:1曲1曲、ひとつの空間に入り込むような感覚で聴いてほしいなと思って作りました。

――今回のアルバムでは、ソーシャルメディアやAIが生活に浸透していく中で変化を迎えている人々の関係性といったテーマもあると伺っています。そういった問題意識は常日頃持っていたものだったんでしょうか?

Jiang Yang:まず自分たちの立場を明らかにしておくと、私たちはAIはおろか、SNSもあまり使っていないんです。

Jenny(曾妮):ChatGPT、ほとんど使ったことない。

Ray:私たちは自分の世界が大好きなんです。たぶん、私たちの世代は台湾ではデジタルネイティブというわけでもないから、子供の頃の感覚のまま今でもあまり触れずにいるだけで。こういうものの発展にあまり注意を払ってきていないかもしれないです。ときどきそういったテクノロジーに触れることがあると、なんというか……あまりにも正確すぎて人間らしさが感じられないと思うことがあります。

Jenny::人間のようなパフォーマンスを完全に再現することはできないよね。人間はミスをしたり、物をなくしたりするけれど、AIにはそういうことがない。でも、AIは本物の人間のように見せることもできて、真実のように感じてしまう。

Jiang Yang:以前、ある曲を聴いていいなと思って、しばらく経ってからそれがAIの作った音楽だと気づいたことがあります。気づくまでに1週間くらいかかったかな。そのときは少し怖かったです。技術の進歩は本当に速いですよね。でも、やっぱりライブの体験はAIには生み出せない。そういうところを大事にしたいと思います。


「火花を散らす」プロデューサー陣との協業

――制作にあたって、今回のアルバムの方向性を決定づけるような曲はありましたか?

Jiang Yang:ひとつ選ぶとしたら“the traces of you”だと思う。

Jonathan:“the traces of you”はとてもこのアルバムらしい曲だね。

Jiang Yang:この曲はアルバムのために書いた最初の曲だったと思う。まさに出発点ですね。

――“the traces of you”はThomas Chuangのプロデュースです。彼とのやりとりで特に印象に残っていることはありますか?

Jiang Yang:この曲はデモからあまり大きな変更はしていないんです。最初の編曲ほぼそのまま。そういう意味では、Thomasは私たちの持ってきたものに大々的に手を加えることはせず、なるべく本来のよさを活かそうとしてくれました。

ただ、彼は音作りについてはかなりこだわりがあるんです。音色の調整に関しては非常にきめ細かく取り組んでくれました。
制作面だけではなく、スケジューリングや、私たちに話しあう必要があるときのコミュニケーションの手伝いもしてくれました。様々な場面で意見を出し、方向性を示して、私たち5人で決断を下すときに助けになる言葉をくれました。

――過去の作品と比べて、今回は多くの外部クリエイターが参加していますね。その背景にはどのような考えがあるのでしょうか? 個人的には、世界進出に向けてより視野を広げたいという思いもあったのではと感じたのですが。

Jiang Yang:一番の理由は、さまざまなプロデューサーと組むことで、可能性を広げてみたかったからです。もちろん、今後も海外でのライブ活動は続けていきたいと考えていて、今年から来年にかけても海外ツアーがいくつか予定されています。

異なるプロデューサーと組んで多様な音楽スタイルに挑戦して、新たな化学反応が生まれるのを見てみたい、というのに尽きますね。この人たちとどんな火花を散らせるんだろう? というのを、今後も試していきたいです。

Jonathan:プロデューサーとの化学反応については私も言いたいことがあります! 私が作詞・作曲した“angel’s calling(如天使一樣拯救)”のことなんですけど、考えをまとめてきました。(メモを取り出す)読み上げますね。

この曲は以前出した“明白我的心(Angel Angel)”という曲の双子のような位置づけの作品なんですが、Jerry Liさんがプロデューサーとして入ってくれたことで、デモのときと比べてとても明るく、ロマンチックになったと感じます。

愛を探し求め、抱きしめられ、理解されたいと切望する、そんな気持ちをまるでひとりで抱え込んでいるかのような。傍から見ると孤独な人に見えるかもしれないけれど、心の中には確かに誰かがいる。聴く人それぞれに違った「誰か」を思い浮かべながら聴いてほしいです。

――“明白我的心(Angel Angel)”についても少し伺っていいでしょうか。

Jonathan:“明白我的心(Angel Angel)”は、私が兵役中に見た景色を元にした曲なんです。配属されたのは東引島という台湾本島から離れた小さな島でした。東引島は夜の海面が青く輝く「青い涙」という神秘的な自然現象が名物です。

私の連隊の建物は小高い丘の上にあって、外へ出て見下ろすとどこまでも続く大海原だったんです。恋人やメンバーと離れて過ごす寂しさが一層引き立てられて、忘れがたい景色になりました。そこから着想したのが“明白我的心(Angel Angel)”で、歌詞の中に「青い涙」も登場します。

――Wendy Wanderの特色のひとつとして、男女ツインヴォーカルであることが挙げられます。歌のパートをどのように分担しているのか気になるのですが、その点いかがでしょうか。

Jenny::私の作る曲にはそれぞれにキャラクター設定みたいなものがあります。そのキャラクターは必ずしも女性ではないので、自分がメインで歌わない曲を作ることもあるんです。デュエットや役割分担のある曲も作るし、片方の声にしか合わない曲を作ることもあります。

Jiang Yang:ものによってバラバラですね。

Jenny::例えば今回のアルバムの最初の曲(“breath”)は、当初からハンサムな男性の声をイメージして作っていました。

Wendy Wander 溫蒂漫步


目指すはフジロック──言葉がわからなくても伝わる部分がある

――みなさんは積極的に外国での公演をおこなっている印象があります。その経験が皆さんの音楽に及ぼした影響はどんなものでしょうか。

Jiang Yang:日本でもそうですが、外国で公演をおこなうと、やっぱり私たちが歌っている台湾華語の歌詞をオーディエンスが理解できていないことを肌で感じる瞬間があります。ですが、私たちの音楽には言葉がわからなくても伝わる聴きどころがたくさんあるので、いかにそういった部分を伝えられるかを意識しないと、と思うようになりました。

純粋な楽器演奏の力、メロディのよさにより注意を払うようになったことで、言葉の通じないオーディエンスが以前より楽しんでくれるようになった気がしています。

――その点に関していうと、本作は今まで以上にグルーヴを感じさせるアルバムだと思います。ファンクネスを意識した面はあるんでしょうか。

Jiang Yang:そうですね、あると言えばあると思います。少し違う話かもしれませんが、アルバムを作るうえで意識したある種のヴァイブスがあります。YouTubeによくある、3時間ぶっ通しのミックス動画が持つあの空気感というか……。

前作にもそういう要素はあったんですけど、今作ではアルバムとしてのまとまりをより感じさせるものにしたくて、前作以上にそのあたりが上手く表現できたというか、完成度が高まった気がします。全体を通して聴いたときの印象がよりスムーズに繋がってるんじゃないかなと。スローな曲とエレクトロニックな曲が混在していても、アルバムの一貫した世界観が立ち上ってくるものを目指しました。

Wendy Wander 溫蒂漫步

――訪れた国からインスピレーションを受けることはありますか?

Jonathan:音楽的なインスピレーションじゃなくてもいいですか?(笑) 私はプライベートで大阪に行ったのが初めての来日だったんですけど、街並みを見て衝撃を受けました。あまりに清潔で整理整頓されているでしょう? よく目を凝らすとゴミが落ちていることもあるんですが、1度そういうわずかなゴミをスーツを着た男性が通りすがりに拾っていくのを目撃して「信じられない!」と思いました。

あと、何かのお店の店員さんが店の前の道路を掃除していたんです! 道路を掃除するなんて台湾では絶対にありえないです。

Ray:自分が感じる日本と台湾の街並みの一番大きな違いは、建物に指定の喫煙所があること。台湾は全面禁煙ですから。

Jiang Yang:あと、日本ではあんまりバイクを見ないね。

Jonathan:たしかに。台湾では18歳以上の人はほとんどみんなバイクを持ってるんですよ。

Jiang Yang:日本の話になったので最後に言っておくと、私たちの今後の目標のひとつは、フジロックに出ることなんです。台湾のバンドが何組も出演しているから、フジロックは台湾でもよく知られていて。ドームや世界各地での公演と並んで、叶えたい夢なんですよ。

Jonathan:ぜひ呼んでください!


【リリース情報】

Wendy Wander(温蒂漫步)『The House Of』
Wendy Wander(温蒂漫步)『The House Of』
Release Date:2026.09.24 (Thu.)
Label:MOMENTO
Tracklist:
1. breath
2. the last kiss
3. the traces of you
4. THEHOUSEOF.
5. holdmeholdme
6. fading dream
7. angel’s calling
8. the hidden me
9. approaching

■配信リンク

■Wendy Wander 溫蒂漫步:Instagram / X


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