JABBA DA HUTT FOOTBALL CLUBやZOMBIE-CHANG、MCpero、中小企業などなど……ヒップホップを主軸としながらも、あくまで自由で幅の広い音楽性のアーティストを擁するネット・レーベル〈OMAKE CLUB〉の第一弾アーティスト……というかそもそもこのレーベルを立ち上げるキッカケでもあった4人組ヒップホップ・グループ、TOKYO HEALTH CLUB(トーキョー・ヘルス・クラブ、以下THC)。
彼らは最初にフリーのEPを数枚リリースし、その後フィジカルにてアルバムを2枚リリースしたが、1stアルバム『プレイ』は12曲入り500円、そして続く2ndアルバム『HEALTHY』は14曲入り999円と、そのクオリティとは裏腹に、市場価格を完璧に無視した”オマケ価格”でのリリースを敢行したことでも話題を集めた。
そのように、マイペースながらもコンスタントな活動を続けてきたTHCが、今年に入りなんと国内ヒップホップ〜R&Bシーンにおける老舗レーベルの〈Manhattan Records〉からおよそ2年ぶりとなる新作『VIBRATION』をリリースするとの報が入ってきたのだから驚かされた。
作品毎に確かな成長を感じさせるとともに、ゆっくりと、しかし確実に自身の認知を拡大させてきただけに、これはある意味当然のステップアップとも言えなくはない。しかしそれと同時に、意識的にヒップホップの正道からは外れた姿勢を打ち出しているようにも思えた彼らだけに、その選択の裏にはどういう思惑があるのか、確かめずにはいられなくなった。
そこで今回、レーベル〈Manhattan Records〉の事務所にて、ロング・インタビューを敢行。
昨年の7インチ・リリースのことや新作について、そしてTHCの活動におけるモチベーションやインプットなど、様々なことを語ってもらった。
Interview by Takazumi Hosaka
Photo by Yuma Yamada
(L→R:TSUBAME、DULLBOY、SIKK-O、JYAJIE)
—イキナリなのですが、TOKYO HEALTH CLUBは毎回MVのクオリティに驚かされます。なので、まず最初につい先日公開された「天竺」のMVについてお聞きしたいのですが、あれは撮影はどこで行われたのでしょうか?
DULLBOY:静岡の砂丘っすね。
—それはライブか何かで行った際に、っていう感じですか?
DULLBOY:いや全然。その日に丸っと全部撮るぞっていうスケジュールで、撮影のためだけに行きました。
SIKK-O:静岡のなんてとこだっけ?
TSUBAME:中田島砂丘だね。
—MVのストーリーとか、アイデアはどこから来たんですか?
JYAJIE:それは今回のMVの監督をやってくれた泉田っていう人に託しました。
TSUBAME:快速東京とかのMVとかも撮ってる人なんですけど、まあ大学の後輩なんです。単純に西遊記をテーマにした、「天竺」っていう曲ができたので、「なんとなく4人がそのキャラっぽく見えるように」って、なんとな〜くそのぐらいのイメージをポンと渡したら、「あ、じゃあ考えてみるっす」みたいな感じであそこまでおもしろくしてくれたっていう(笑)。
—おそらく友人などとの絡みが多かったこれまでとは違い、今回のMVにはプロの俳優さんを起用していますよね。
JYAJIE:サラリーマンのひとは、そうですね。
—レーベルも移籍し、新たなアルバムをリリースするということで、予算もしっかり組まれたのかなって。
SIKK-O:そう見えますか?(笑)
—はい。初っ端のシーンから「おお! すごいな!」って(笑)。
TSUBAME:予算を使い切っておもしろいことやってみようって感じで。そしたらなんか俳優さんもその監督と仕事を何回かしたことある人みたいで。最初の打ち合わせで向こうが作ってくれたストーリーとかを見て、とりあえず爆笑したんですよ。
JYAJIE:「もうこれしかない!」みたいな。
TSUBAME:爆笑して、「じゃあ、やってくれ」って。「もう全部任せるわ」みたいな。
期待を裏切らない友達で、本当に信頼してるし、とりあえずもうおもしろいモノ作ってくれればイイから、みたいな。
JYAJIE:そしたら期待以上のモノができたっていう。
—あと、今回のMVを観て、今さらながらTOKYO HEALTH CLUBっていうグループ名の由来が気になってしまいました。結成の経緯みたいなのって色々なところで語られてると思うんですが、意外とグループ名の由来って知らないなと。
JYAJIE:そうっすね、実はさっきの取材でも話したんですけど(笑)。
TSUBAME:削除されそうだからまた話しておこうか(笑)。……単純に、ぼくが五反田に住んでいた時に、「ヘルス東京」っていう看板が駅から見えたんですよ、もう今はなくなっちゃってるんですけど。その看板がまだあった5年前ぐらいにSIKK-Oにその言葉をグループ名の候補として言ったら、「ヘルス東京だけじゃ嫌だ」みたいになって。
SIKK-O:そこに「CLUB」を足してTOKYO HEALTH CLUB、略してTHC、みたいなのがイイかなって。一応「HEALTH」って健康って意味だけど、色々な意味に解釈できるじゃないですか。
TSUBAME:それこそエロい感じとか。
SIKK-O:エロくもなるし健康にもなるし、なんか空洞な感じの言葉っていうのがイイかな〜と思って。思わせぶりにもなるし。そういう意味でつけたんですけど、今回の「天竺」のMVでモロそのまんまの意味で使われるっていう(笑)。
TSUBAME:どストレートできたよね(笑)。
—なるほど。では次は「ASA」のMVについてお聞きしたいのですが、映像のことに関しては素人ながらも、このMVの撮影手法にはとても驚かされました。これはどのようにして撮影されたのでしょうか?
TSUBAME:あれはもう単純に、キャノンのものすごいズームができるカメラがあって、ぼくがやってるスタジオ無っていう映像チームがいるんですけど、そこにいる高橋謙吾っていう、「天竺」のMVにも一番最初のサラリーマン役で出てる子がいるんです。そいつがこの機能でなんか作りたいって言ってきたので、「じゃあやろうか」って。単純にズームカメラで追っていって、ピントを合わせていくっていう表現で構成しているだけですね。
—どこかでカットは切れているのでしょうか?
DULLBOY:いや、ワンカット長回しですね。めちゃくちゃゆっくりズームアウト、ズームインを繰り返すので、その間にめっちゃ移動してるだけです。新大久保で撮ってたんですけど、最終地点の軍艦ビルの屋上から、布とかを垂らして「今だ!」みたいな感じでGOサインを出して。かなり人力で作ってます。
SIKK-O:ズームするのもすげえプログラミングが必要なんですけど、スタジオ無にカメラのオタクがいて。そのオタクがプログラミングして狙った地点にズームするようにしてもらって。
—時間かけて撮ると太陽の位置とかが変わっちゃったりしないのかなって思ったのですが。
JYAJIE:朝一から撮り始めて、結局最後のカットはやっぱり夕方とかでしたね(笑)。
TSUBAME:そこは上手いこと加工して。
SIKK-O:加工できるんなら一発撮りじゃなくて良かったじゃねえかって思ったけどね(笑)。
JYAJIE:確かに。結果合成でなんとかできたよね(笑)。
DULLBOY:「CITY GIRL」のときに一発撮りの良さみたいなのに味をしめちゃって(笑)。
SIKK-O:一発撮りでやればカッコよくなるだろ、みたいな。
JYAJIE:あんまだったけどね(笑)。
—でも、あのMVの反響はすごかったんじゃないですか?
JYAJIE:いや〜……なんか知ってる人は知ってて、「いいよね」みたいな。
SIKK-O:「しょうもないね」って(笑)。そんなに反響あったっていう実感はないですね。
—今おっしゃった「CITY GIRL」のMVは、確かSpincoasterのイベント、”SPIN.DISCOVERY Vol.02“に出てもらった日に撮影されたんですよね? あれもなかなかに緻密な計画とリハーサルが必要ですよね。
JYAJIE:あれはヤスダタカヒロっていう同級生に頼んで。
TSUBAME:スタジオ無をサポートとして入れて。一発撮りで女の子を全部配置してって「この間は何秒で走れるね」とかっていうのを一ヶ月前ぐらいからずっと話し合って。じゃあ「何秒ね」「ここで変わろう」「ここで走ろう」っていうのを全部計算していって、一発で本当に撮りました。
DULLBOY:4テイクか5テイクぐらいで。
TSUBAME:リアルに終電があるんで2時間しか女の子全員を拘束できなくて、時間的にハラハラしました(笑)。
—なるほど。では、そろそろ新作『VIBRATION』についてお訊きしたいと思います。まずは前作『HEALTHY』のリリースからおよそ2年ぶりのリリースとなりますが、その間に7インチのリリースが続きましたよね。これは今作のリリース元でもある〈Manhattan Records〉さんの方からコンタクトがきて、っていう感じですか?
TSUBAME:一応もうその時に〈Manhattan Records〉さんからお話を頂いていて、これをもうちょっとクオリティ高くっていうかリエディットみたいな感じで作ってみない? って言われて。
SIKK-O:機会をくれたっていうか、その時ちょうど契約というか「一緒にやろうよ」みたいな話になってた時だったんで、じゃあ早速何か出そうって。
JYAJIE:「とりあえず7インチ切ろっか」みたいな感じになって。それでMACKA-CHIN(マッカチン)さんにRemixをお願いして。
—MACKA-CHINさんにアプローチをしたのはその時、THCから声をかけたってことですか?
SIKK-O:MACKA-CHINさんがおれらのこと「良いね」って言ってくれてるよっていうのを、レーベルの方から聞いて、「マジすか! じゃあ、やってもらえないかな」って。
—そこで繋いでもらったっていう感じなんですね。ちなみに、THCはアルバムを出すって決まってから楽曲を作っているんでしょうか? それとも普段からコンスタントに作っているタイプですか?
JYAJIE:1、2枚目は完全にアルバムありきで曲も作ってたんですけど、今回のは割と普段から作ってたのもある感じで。それで最終的にアルバム作るぞってなってから……。
—固め始めた?
JYAJIE:そうですね。
DULLBOY:ちょうどその何曲か作ってるときに「アルバム出さないか」っていう話が来たんで、じゃあ形にしなきゃねっていうのでケツを決めました。
—別媒体のインタビューでもおっしゃっていましたが、今作はこれまでのオマケ価格とは違って2500円でのリリースとなるだけあって、これまで以上に気合が入っていることだと思います。具体的な制作のプロセスとして、これまでの作品からの変化はありますか?
TSUBAME:作る過程でめっちゃ変化があったってわけではなくて、なんか本当に、ワードのクオリティをあげたりとか、音も頑張ってクオリティあげたりっていうのはあったんですけど、単純に〈Manhattan Records〉さんになった瞬間まあ予算があるわけじゃないですか(笑)。
それでクオリティ高いエンジニアさんとか、いろんな大人の人たちが囲ってくれるんで、グッと製作の工程が複雑になったというか。
SIKK-O:それまでレコーディングは宅録だったんですけど、今回はレコーディング・エンジニアが隣にいて、その方から今までのおれらでは思いつかなかったようなアイデアをもらったりすることが詰めの段階で結構あったんですよ。それでグッとクオリティが高くなった曲も何曲かあって。だからぼくたちだけじゃ絶対にできなかった作品になってるっていうのは言えますね。
—でも、一応プロデューサーという名義では誰もクレジットされていないんですよね?
TSUBAME:そうですね。確かにちゃんとしたプロデューサーはいないっちゃいないです。でも、1、2枚目はこの4人だけで完結してたのが、今回はそれこそトラックダウン、マスタリングのところで他の人が関わってくれて。
—初めて外部の人が製作に入ることで、改めて何か発見などはありましたか?
JYAJIE:でも、基本的に自由にやらせてもらった感はあるよね。
DULLBOY:最終的な着地点がこういうとこになるんだろうなっていうのは最初から見えていて、そこから大きく離れるっていうことはなかったですね。
SIKK-O:ただ、今までローファイな音のままリリースされてたんですけど、今回は「ローファイ中のハイクオリティってなんだろう?」みたいなところを、みんなと一緒に考えて作っていった感じはあるかもしれないです。ただのローファイじゃダメだ。それじゃあ2500円じゃ売れねえぞ、みたいな。
—なるほど。では、MCのお3方にお訊きしますが、今作におけるTSUBAMEさんのトラックに、今までと比べて何か変化を感じましたか?
JYAJIE:ぼくらはあんまり感じてなかったですけど、本人的には……。
DULLBOY:「黒子に徹した」っていうのをすごい言ってましたね。
TSUBAME:単純に今回は「ラップをどう惹き立てるのか」っていうのを自分の中のテーマとしていて。3人には伝えずに、ずっとそれだけを考えてましたね。なるべく音数減らしたりとか。
—確かにシンプルですよね。ちょっとミドルスクール的な。
TSUBAME:そうですね、まあそこはちゃんとしたヒップホップ・グループなんだぞっていう見せ方の部分と、あとはみんなが共通して好きな90年代のミドルスクールの雰囲気をアルバム全体で踏襲したかったっていうのがあったんです。
JYAJIE:どおりでね、いや〜リリック乗せやすかったわ〜(笑)。
SIKK-O:スムースだったな〜(笑)。
TSUBAME:だろ〜?(笑)
—(笑)。では、逆にTSUBAMEさんはお3方のリリックやフロウに何か変化を感じましたか?
TSUBAME:セカンドとはまるで違うようなアプローチの仕方があって、クオリティがやっぱ高くなってるし、逆にぼくがツッコんだりしても、ちゃんとそれに応えてくれたなって。
今作の製作中は今まで以上にお互い意見を言い合いまくったんですけど、結果的にそれで良くなったんですよね。みんなのラップのスキルも上がったし、内容もすごい詰まって、伝わりやすくなった。なんか……「こんなところまで行けるんだ」ってちょっと個人的には感動もしました。「あ、なんだ、全然良いラップできんじゃんコイツら」って。……いや、もちろん前からそう思ってたんですけど。なんていうか、それを超えてきた、みたいな。
SIKK-O:トラックもリリックも今までは割と住み分けてた部分があったんですけど、今回はおれらもトラックとかに口出しして、TSUBAMEもおれらのリリックやフロウに対して口出ししてっていう環境下で進みましたね。
—これまでの作品よりも、より一層この4人全員が一丸となってアルバムに向き合ったということですね。
TSUBAME:そうです。本当にしっかりと話し合った感じしたよね。「歌詞、これじゃわかりにくいわ」とか、お互いケチつけまくって(笑)。
JYAJIE:納得いくまでやりましたね。
TSUBAME:「この音じゃつまんないんだけど」とか「ちょっとこれ音数多いから減らしてよ」って言われたりもして。
TOKYO HEALTH CLUBは正直、セカンドを出した時点で活動休止にしようと思ってたんだけど、どっかのレコ屋のPOPに「学生ノリHIPHOPグループ」みたいなことを書かれていたので、もっと頑張ろうと思いました
— sasakishun (@nuhsikasas) 2014年11月14日
—以前SIKK-OさんがTwitterで「THCは正直、セカンドを出した時点で活動休止にしようと思ってたけど、レコ屋のPOPに『学生ノリHIPHOPグループ』みたいなことを書かれていたので、もっと頑張ろうと思いました」といった内容のツイートをしていたと思うのですが、こういったモチベーションは、今現在はどのように変化していますか?
SIKK-O:あぁ、それは割と今でも根にもってる(笑)。
まあ、おれらがゆるいって言われることもわかるし、実際ゆるいし、シティラップって言われることも、スチャダラパーっぽいとか、なんとかっぽいとかそういうのも、わかるっちゃわかるんですけど……。
JYAJIE:意外と気にするよね(笑)。
DULLBOY:そんな気にしてたっけ(笑)。
SIKK-O:だから「(そう言われるなら)逆にこういう感じにしようか」とか、「これだと今までと同じになっちゃうな」とか、前作も割とそういうことを考えてたけど、まあそれでもそうやって言われたし。う〜ん。今回はどうなんすかね……。
JYAJIE:かといって「こう見られたい」みたいなのもないんですけどね。
SIKK-O:でも「す〜ぐそういうこと言う!」みたいな。そういうのはあるよね(笑)。
—「こう見られたい」みたいなのはないけど「こう見られたくない」っていうのはある、みたいな?
SIKK-O:うん。まあ、いいんですけどね。だから別に否定も肯定もせず、「すぐそういうこと言う〜」って文句言い続けるっていう(笑)。
DULLBOY:でも今回のアルバムは割りと結構ケツが決まってたんで、途中から多分それどころじゃないっていうか。最初のキッカケというか、モチベーション的には確かにそういう感じもあったんですけど。
SIKK-O:まあ結構アルバムって作るの大変だし、4人もいるし、それぞれの意見もあるから労力かかっちゃって。みんな仕事もしてるし、毎回「もう終わりにしよう」とか思ってるけど、いざ出したら出したでなんか「そういう意見があるならもうちょっとやろうかな」みたいなのを繰り返してますね。「もうやりたくねえな〜」って、今も思ってますよ。
TSUBAME:今も思ってんのかよ(笑)。
SIKK-O:まあレビューとか見たらまたやろうってなるかもしんないっす。
TSUBAME:人の意見で動くっていう(笑)。
—例えばゴリゴリのヒップホップに見られたいならある意味簡単じゃないですか。形骸化しているイメージもあるわけだし。でも、そこは絶対やらないで、ある意味先駆者がいないような隙間のポジションというか、イメージ像を目指しているような印象を受けます。だからこそ、難しいというか。
SIKK-O:まあ、やれないだけ(笑)。
TSUBAME:やらないんじゃなくてやれないんですよ(笑)。
バックグラウンドがないし、ゴリゴリの悪でもない。カッコいいなっていう憧れはあるんですけど、やっぱりできないんで、自分たちの等身大を表すしかないっていうだけの。
SIKK-O:まあ、それでも結構色んなことやりたいっていうのはあって。「MAD-ONNA」とかは「こういう曲をおれらが真面目に作ったらおもしろいんじゃない?」っていう感じでできた曲で。そういうアプローチでいろんな曲をやりたいっていう気持ちもあります。
JYAJIE:段階段階でできることが増えていっている実感があって。「Last Summer」みたいな歌モノとかはちょっと1、2枚目じゃできなかったし。だから、多分また「新しくこういうのやりたくね?」みたいなのが出てくれば、次のアルバムを作り始めるかもしれない。
TSUBAME:一回ドカンとアウトプットしちゃうと、次はインプットをいっぱいして貯めこまないとまた吐き出せないんで。それをみんなでやりながら、今回の場合は2年かかっちゃったって感じですかね。
SIKK-O:あと、そうやって今までやったことないことに色々挑戦していった結果、アルバムとして今作はやりきったっていうか、名盤っぽい要素は結構いれられたかなっていうのはありますね。
—名盤っぽい要素っていうのは?
SIKK-O:……いや、「名盤って夏の曲入ってるよな」みたいな。「名盤って、たいがい女の曲入ってるよな」とか、それなのに急に自分の人生語っちゃったりとか(笑)。
JYAJIE:王道っぽい感じに挑戦した感あるよね。
SIKK-O:アルバムとして王道っていうか。
JYAJIE:今までは本当、思いつきでやってた(笑)。
TSUBAME:斜に構えたりね。
SIKK-O:そうやって活動してきたおれらが、今回敢えて王道をやるっていうのがおもしろいかなって。
—その王道っていうもよくわかるのですが、それこそMCperoさんが参加してる「オシャレ」や「OFF 名盤ができた」辺りの曲には、かなり皮肉というか反骨精神みたいなものが込められているような気がします。
TSUBAME:でも、そうやって聴こえちゃうだけなんだと思うんですよね。
SIKK-O:普段もそういう人間たちっていうか、わりと陰湿な奴らなんでそうなっちゃうっていうか。バカなやつに直接「バカ」って言わないでバカにするっていう方法を考えたりしてるって感じですね。
DULLBOY:聴きづらい曲とか、聴いててウンザリするな〜っていうのはあんまりやりたくないんですけど、よくわかんないグレーゾーンみたいなところを目指しているんですよね。なんかおれらの中にある「良い塩梅」みたいなのを探っているというか。そういう皮肉みたいなのとか、ポジティブでもネガティブでもない変なところに行きたかったみたいなのが最終的な着地点なのかなって。
JYAJIE:どっちに捉えても良いよ、的な。
DULLBOY:でも曲としては聴いてて不快じゃない曲っていうのがいいなっていう。
JYAJIE:誰も傷つけたくないんです。
TSUBAME:自分たちも傷つきたくないし(笑)。
—ちなみに今インプットの話が出ましたが、レビューなどではなく音楽的なインプットで、ココ最近みなさんが「コレだ!」ってなったモノを教えてもらえますか?
JYAJIE:Baby Metalっすね。結構聴いてる。
SIKK-O:Baby Metalのライブでおれ顔殴られたことあるよ。
JYAJIE:え? 観に行ったの? しかもそんなワチャワチャしてるところに入るんだ(笑)。
SIKK-O:サマソニとかでしか観たことないけどね。一応入ってみたけどすぐ出た。殴られたから(笑)。
DULLBOY:なんだよそれ(笑)。
……ぼくは何か結構イベントとかで知り合いが増えて、その関係で身近な人たちのライブとかイベントに顔を出す機会が増えて。そういうところに出てる人たちの音源とかを聴く機会は増えましたね。ヒップホップとかだと〈VLUTENT RECORDS〉っていうVOLOさんが主宰しているレーベル周りの人たちとかですかね。GAMEBOYSとか。
TSUBAME:STUTSさんとかね。DULLBOYのマイメンたち。
DULLBOY:いやいやいや。STUTSさんは知り合ったのかなり最近なんで。
SIKK-O:おれはSMAPのベストをTSUTAYAで1年半くらい前に借りたんですけど、そっから結構そればっか聴いちゃって。なんか、すげー……全部イイんですよね。全曲知ってるし。
JYAJIE:ベストだからね(笑)。
SIKK-O:そう。すげー知ってるし、すげー曲のクオリティが高い。なので、「ポップとはなんぞや」みたいなことを考えた時に、結構参考にはなりましたね。曲としての聴きやすさとか、そこにさり気なく潜ませる変な要素とか。たぶんそれが今作にも多少どこかには反映されていると思いますね。
JYAJIE:SMAP的DNAが(笑)。
TSUBAME:それでいうとぼくも90年代〜2000年代くらいの、ミドルスクールなものを聴いてましたね。今作でいうとECDさんとかDe La Soulみたいな感じのトラックを作りたかったので、そういうルーツ的なものをしっかり勉強しようっていう感じでしたね。
JYAJIE:一体感ねえな(笑)。
—今回改めて過去作も聴き直したのですが、THCのアルバムってこれまでの作品も全てイントロとアウトロがあり、実質1曲目となる2曲目にタイトル・トラックが配置されていますよね。これはこだわりだったりするのでしょうか?
SIKK-O:癖ですかね。常にトピックを求めてて、アルバム・タイトルを決めたらそれってどういう曲になるんだろう、みたいな。こういうタイトルのアルバムの曲っていったらどういう曲がくるんだろう、みたいなことを考えて作るからかもしれないですね。
ーアルバム・タイトルが先なんですね。
SIKK-O:タイトルが先でしたね。今回も、これまでも。
DULLBOY:何曲か作って、途中でどんな感じにするかとか話し合いながらアルバム・タイトルを決めて。そっから全体のバランスみたいなのを見ながら、「この感じだったらここにこういう曲があったらいいよね」っていう風に、結構アルバムありきで考えて楽曲を作ってますね。
ーちなみに今作のタイトル『VIBRATION』というのはどこから出てきた言葉なんですか?
SIKK-O:基本的に、割と「こういうことが言いたい」っていうよりかは、「TOKYO HEALTH CLUBがこういう名前のアルバム出したらおもしろいよね」みたいなことを考えてて。なおかつどこかヒップホップっぽい感じにもしたかったんです。今回の「VIBRATION」っていう言葉は「HEALTH」と同じで、ちょっと変な誤解を生むところがイイなって。
あと、おれらの中でもうちょっとわかりやすくというか、人に伝わりやすい、伝わらせるっていうことを目標にしてたっていうこともあったんですよ。そこで「VIBRATION」って振動で伝えるっていう意味もあってイイんじゃない? ってなりました。結構色々な案を出し合ってるなかで、割とそこでみんな納得したというか。
TSUBAME:本当にそこで満場一致したよね。
ーでは、このタイトルからどのようにしてこのジャケットに辿り着いたのでしょうか?
SIKK-O:これもめっちゃ話して決まったんですよね。
DULLBOY:「VIBRATION」=バイブっていうのが一番近いと思うんですけど、バイブでやっちゃうと、「TOKYO HEALTH CLUBが遂にエロに走ったか」みたいな、そういう感じになるので、直接的すぎるのはちょっと嫌だなってみんな思ってて。そこから広げていって、シンボリックで、バイブみたいなニュアンスがやんわり残る何かっていうのを色々探っていって……なんか棒とか言ってたもんね。
SIKK-O:棒とかただの壺とか寿司とか色々アイディアがあって、壺に「VIBRATION」って入ってるとちょっとそれは遠いよね、とか。寿司はよかったけど……。
JYAJIE:寿司は関係ないでしょ(笑)。
SIKK-O:おれは寿司を推してたからね。なんかその距離感みたいな、わりとそこは詩的な部分で、タイトルと合わさった時におもしろい見え方になるモノっていうか。タイトルとアートワークの絶妙な距離感みたいな、そういうのを大事にしてるんですよ。……で、そうして色々話してたら土偶になったんすよね、なぜか(笑)。
DULLBOY:後ろにスイッチとかもつけて。これ、CD開けると後ろにスイッチがついてるのが見えるんですよ。まぁ、そういうちょっと卑猥な何かにも見えつつ、敢えて具体的な説明はしない、みたいな。
SIKK-O:説明的にするのはダサいっていう考えは常にあって。
TSUBAME:余白を残して、後は好きに考えてくださいっていう、ちょっとクエスチョン的なやつですね。
DULLBOY:あとこういうフィギュアとか作って、「バイブちゃん」みたいなマスコットとかがあったらカワイイよね、とか。そういうので無駄に盛り上がってましたね。
SIKK-O:グッズ作れるんじゃねって。
JYAJIE:女子高生のカバンに「バイブちゃん」ついてたらウケるよね、みたいな。よく知らないのに「これヤバいんだよ〜」、「超カワイイ!」みたいな感じで。
DULLBOY:そういうので、最終的になんか腑に落ちたっていう。まあ、友達に見せたら「わかりづれーよ」って言われましたけど(笑)。
TSUBAME:まぁ、でも変な感じで気に入ってますけどね。逆にどうですか?(笑)
ー前作は「HEALTHY」であのジャケだったので、直接的といえば直接的というか、結構わかりやすい感じだったじゃないですか。それと比べると今回は距離が離れたような気もします。
SIKK-O:あれもわかりづらいかなって思いましたけどね。どうなんだろう。
TSUBAME:銀色の米みたいな感じで、逆にブリンブリン。
ーでも、個人的には薬のカプセルのようにも見えるような気がして。「HEALTHY=健康」って言っておいて、逆に何かアシッドな感じを出してるのかなって思ったのですが。
JYAJIE:あー、そうそう。それもあるっすね。まぁ基本的に自由なので。
DULLBOY:もう作っちゃったからね。
TSUBAME:しょうがないっす、これで出てるんで(笑)。
ーしかも裏の帯の、「歴史的名盤」っていうどデカいキャッチコピーもすごいですよね。
SIKK-O:余白がいっぱい空いてたんで、入稿前に入れてみました(笑)。
ーさっきの話にも被ると思うんですけど、この裏の帯や、「コレも今話題のニュータイプ(笑)!!」っていうキャッチコピーもだいぶ皮肉だなって思ったのですが、アレはレーベル側のアイディアなんですか?
DULLBOY:これはそうですね、マンハッタン・ギャグですね。
TSUBAME:昔SALUくんが1stの時に「これが今話題のニュータイプ」っていうキャッチコピーでプロモーションされていたらしくて、それをサンプリングしたっていう(笑)。
—なるほど。では、今作には先述したMCperoさんやZOMBIE-CHANGさんなど、最近〈OMAKE CLUB〉からのリリースがあった方々が参加していますが、そもそも彼女らとはどのように繋がったのでしょうか?
TSUBAME:MCperoちゃんに関してはJYAJIEが連れてきて。
JYAJIE:最初下北沢THREEで、ペロちゃんがやってるいやいやえんっていうバンドを観て、「めっちゃイイな!」って気に入って。CDを買ってメンバーにも貸したりしてたんですよ。そっから誰かがTwitterとかでやりとり始めたんじゃなかったっけ? ぼくはTwitterやってないんでわからないんですけど。
SIKK-O:おれかな? まぁカワイイし、声も良いし、「なんかやったら?」みたいなことを言ったのかな。
TSUBAME:ぼくは「ラップやりたいんですってペロちゃんが言ってるから、おまえトラック作れ」みたいなことをSIKK-Oに言われて。じゃあ一回やってみる? みたいな。JYAJIEからいやいやえんの音源は聴かせてもらってたので、声の性質とかもわかってたし、メロディー・センスもバンドやってるからあるだろう、リリック・センスも元々良かったし。
JYAJIE:で、気づいたら〈OMAKE CLUB〉から出してた(笑)。
TSUBAME:最初何も考えずに作ってて、途中で「これ、出さなきゃいけないのかな」って思って「〈OMAKE CLUB〉に入ることになるけど、大丈夫ですか?」って言ったら「ぜひ〜」って感じだったので、じゃあ、出そう! みたいな感じで今に繋がるのがMCperoちゃんで。
ZOMBIE-CHANGに関しては完全なるぼくの趣味ですね。友達の主催してるイベントにZOMBIE-CHANGが出演してて。
—彼女は元々あのテイストでやってたんですか?
TSUBAME:そうなんすよ。あの時は明け方の4時ぐらいだったかな? ほぼ今のままのテイストでやってて、でも誰も聴いてなくて。一人でシンセをブブーって弾いてて、「なんだいこいつ、無茶苦茶ヤベーな。音のセンスヤバい!」って思って、速攻サンクラをチェックしました。
で、音源聴いたらニューウェーブだし、「自分が元々やりたいって思っていたようなことを自然にやってる!」ってなって。これは絶対〈OMAKE CLUB〉から出したいって思って「(〈OMAKE CLUB〉に)入りませんか?」って誘ったんですけど、最初は普通に断られました(笑)。
でもその一週間後くらいに、「やっぱり興味があるんですけど……」って言われて、「じゃあ一回話しましょう」って言って話し合って、結果EPを出して、今回うちらのアルバムにも参加してもらったっていう経緯です。
—あまり〈OMAKE CLUB〉界隈というのは、個々で他のイベントに呼ばれることがあっても、自分たちでイベントを主宰して集まるっていうことはしていませんよね。どうやって仲を深めるというか、繋がりを強めているのでしょうか?
DULLBOY:でも実際おれらもたまにしか会わないもんね。
JYAJIE:みんなでガッと集まることはないですね。だから、今度静岡にお呼ばれして開催する”OMAKE NIGHT”は本当に貴重な機会ですね。
TSUBAME:基本ぼくが各々と連絡取り合ってやっているだけなので、あまりみんなで何かをやるっていうことはないですね。でも、そろそろちょっと何か、〈OMAKE CLUB〉全体でガッとみせれるようなことをやろうかなっていう企みはあります。
DULLBOY:でも、最近は一緒に呼ばれることとか結構あるよね。
TSUBAME:あるね。みんながイイ感じに粒立ちしてきたというか、目立ってきたんで。まぁでも、今後も基本はぼくがみんなと話して、たまにみんなと会った時に繋いで……って感じだと思います。
—では、〈OMAKE CLUB〉に関しては、今後もこれまでと同じようなスタンスで続けていくおつもりですか?
TSUBAME:そうですね。早くドンドン〈OMAKE CLUB〉から羽ばたいていってくれる人たちが増えたらいいなとは思いますけどね。「いつまでもこんな弱小レーベルにいてもしょうがないだろ!」って感じもあるんで(笑)。
—THCとしてはの今後の展望というか、「こうなっていきたい」的なビジョンのようなものはありますか?
TSUBAME:だいたい……この感じになるよね。やっぱり(笑)。
DULLBOY:毎回困るんですけど、基本ないんですよね。
JYAJIE:決めとかなきゃね(笑)。
まぁ本当にさっき言ったように、やりたいことが出てきたら作るか……って感じなので。
SIKK-O:そうそう。だから外的な刺激がないとダメなのかもしれないですね。レビューとかでどう書かれるかとか、そういうことに寄ってくるんですよね。レコ屋のポップとかTwitterにどう書かれるか。どうしても「あ、そういう風に思われてるから、次はこうしよう」とか、そういう考え方をしてしまうので。そういう意味では、世の中の人にもう少しだけ知ってもらいたいっていうのはありますね。いろいろな人に知ってもらって、色々なレビューが上がって……みたいな。
TSUBAME:とにかくレビューなんだね。インプットが(笑)。
DULLBOY:それオマエだけだろ(笑)。
TSUBAME:次のアルバム・タイトルは『レビュー』だね(笑)。
—例えばの話しなんですが、今作がメディアやTwitterで絶賛の嵐だったらどうなると思いますか?
TSUBAME:そしたら……逆にもう全然違うことやるとか?
DULLBOY:「あーもうこういうのやめよう」ってなるかもしれないっすね(笑)。
TSUBAME:絶対そうなるね(笑)。
そういう反応ばかりだと、次は「コイツらクソだ」って思われるモノを作りたいって思ってしまうかもしれない。期待を裏切りたいというか。
JYAJIE:逆にね。
DULLBOY:あとたぶん、”アルバムを作る”みたいな、一個形にするっていう目標があれば割りと頑張るんですよ。今回は〈Manhattan Records〉さんからそういう話が来て、「じゃあ作ろうか」ってなったんですけど、次はどうなるのか。曲とかはちょいちょい作っていくと思うんですけど、またそういうキッカケがあれば、頑張るぞ!っていう感じになると思います。
TOKYO HEALTH CLUB『VIBRATION』
Release Date:2016.06.08(Wed)
Label:Manhattan Records
Cat.No.:LEXCD16009
Price:¥2,500 + Tax
Tracklist:
1.ON -飛んでくLOVE-
2.Vibration 弱
3.ASA
4.天竺
5.オシャレ ft.MCpero
6 悪魔
7.休日はHoliday
8.MAD-ONNA ft.ZOMBIE-CHANG
9.Last Summer
10.ミューージック
11.OFF -名盤ができた-
12.ズラカル ft.MACKA-CHIN(YONIGE ver.)
■TOKYO HEALTH CLUB オフィシャル・サイト:
http://tokyohealthclub.com/