シカゴ拠点の音楽家、Sen Morimotoが9月に野外フェスティバル『MIND TRAVEL』を含む3年ぶりのジャパン・ツアーを開催した。
シカゴのレーベル〈Sooper Records〉創設者であるNnamdïと出会い、2018年に同レーベルよりアルバム『Cannonball!』を発表し、〈88Rising〉によるフックアップも手伝い世界的な注目を集めたSen Morimoto。2020年にリリースしたセルフタイトル・アルバムには来日公演で交流を深めたAAAMYYYも参加、さらに2021年からはKan Sano、食品まつり a.k.a foodman、Maika Loubtéといった日本人アーティストとのリミックス企画もスタートするなど、ここ数年は自身のルーツのひとつである日本と多くの接点をもって活動してきた。
今回はジャパン・ツアー終了後にメール・インタビューを敢行。パンデミック渦中に起きた心境の変化、リミックス企画の経緯、そして今のムードについて、彼の実直な人柄が伝わる内容となった。
Interview & Text by Takazumi Hosaka
Translation by bacteria_kun
Photo by toshimura
――ハードなスケジュールを縫っての出演になったかと思いますが、『MIND TRAVEL』でのライブはいかがでしたか?
Sen Morimoto:『MIND TRAVEL』での演奏はすごく楽しかった! とても美しいロケーションだったし、クールなアーティストが数多くラインナップしていて、アクティビティも充実していたから素晴らしい時間を過ごせました。滞在自体は短い時間だったけど、新潟の自然を満喫できたし、こうやって郊外でライブをするのは旅行気分を味わえるから、もっといろんな都市でライブをしてみたいと思いました。これからこのフェスティバルがどのように成長して発展していくのかを楽しみに見届けたいと思います。
――その他、今回のジャパン・ツアーで特に印象深い公演や出来事があれば教えて下さい。
Sen Morimoto:このツアーで巡った全ての場所にそれぞれ独特の雰囲気があったことが、とても興味深くて新鮮に感じました。プレイする各都市で異なるカルチャーに触れることができることが、ツアーにおいて自分の一番好きなことかもしれません。
このツアーではいつも以上に自分のコンフォート・ゾーンを飛び出して、できるだけ日本語を話すようにしました。とはいえ、まだかなり荒削りなのですが。これまでは自分の知っている語彙の少なさが恥ずかしくて、日本語を話すことに積極的になれない部分があったんです。でも、いつまでも臆していたら日本語は上達しないし、日本で出会う素晴らしい人たちと繋がる機会を数え切れないほど失ってしまうということに今回のツアーで気づかされたから、頑張りました。
――久しぶりの日本だったと思いますが、何か変化は感じましたか?
Sen Morimoto:今回思ったのは、前回日本に来たときよりもレコードを聴く人が増えているということ! 日本ではまだCDが主流だと思っていたからびっくりしたのだけれど、だんだん変わっていくものだなと。私はレコードが大好きなので、その変化を知ることは自分にとって嬉しい驚きでした。
――パンデミック以降のおよそ2年半はどのように過ごしていましたか? 音楽活動への影響は?
Sen Morimoto:最初の1年間は、何をしたらいいのかわからなくて何も手がつかないような状態でした。ツアーが全て中止になってからは、他の多くのアーティストと同じように、バーチャルなコンサート体験を演出できるように、撮影とビデオ編集について多くを学んでいました。そのスキルを磨きながら、セルフタイトル・アルバムをリリースすることになりました。
Sen Morimoto:アルバムをリリースした後も、依然としてツアーができない状態だと明らかになってからは、シカゴの地元のヴェニューでライブのキュレーションやブッキングの仕事をするようになりました。そこで働いている間は忙しくて、自分自身の音楽に取り組む時間がほとんどなかったのですが、それがリミックス・アルバムの構想に繋がった理由でもありますね。
――最近では積極的にライブ活動も行っているようですが、あなたにとって人前でパフォーマンスするということはどういった意味や意義があることだと思いますか?
Sen Morimoto:この問いについて多くを考えさせられる中で、ライブ活動を再開するということがこれまでいかに非現実的なことになっていたかを改めて思い知りました。自分にとってライブとは、思い出に残る体験を創り出すことです。
私は常々コンサートで、パフォーマーとオーディエンスがコラボレーションするように、ユニークな体験をまさに今一緒に作り出しているんだと話します。その両者の間におけるエネルギーの伝達こそが、自分のパフォーマンスにおける重要な要素なのだと思います。
――昨年からスタートしたリミックス・プロジェクトはここ日本でも話題を呼びました。この企画が始動した経緯は?
Sen Morimoto:先ほど構想のきっかけとして触れた通り、ブッキングの仕事をしていた間は新しい音楽を作る時間がほとんどなくて。自分ができない代わりに、日本のアーティストに声をかけて、リリースしたばかりの曲をリミックスしてもらうことで、それぞれに新しい命を吹き込んでもらいました。
そしてこの経験は、自分にとって本当に特別なものになりました。自分が制作の勘を失っていたような時期に、日本の音楽シーンと深く関わって、たくさんの素晴らしいアーティストが自分のアルバムの曲をどう解釈したかを聞くことは、非常に大きな喜びと刺激になりました。ある意味音楽を作ることを辞めてもいいとまで思ってしまっていた時を、そのおかげで乗り越えることができたのだと思います。
――リミキサーの選定や、リミキサーとのやり取りはどのようにして行われたのでしょうか。
Sen Morimoto:自分の日本のチームや友人、新旧のコラボレーターを通じて、たくさんのアーティストとすぐに連絡を取り合うようになりました。自己紹介がてらZoomで話をするときもあれば、ソーシャル・メディア上のDMのやりとりだけで話が進むこともありました。まだ今回のように日本語で自分からコミュニケーションをとるようになる前のことだったので、自分が感じたことを詳しく語るようなことは難しかったのですが、それぞれのアーティストが作る音楽からたくさんのことを理解できたように思うし、それが私たちを繋ぐコミュニケーション・ツールとして機能していました。
――リミックス・アルバムと平行して自身の楽曲制作も進めているのでしょうか。今後のリリース計画について、可能な範囲で教えてもらえますか?
Sen Morimoto:リミックス・アルバムを出した後、徐々にツアーやライブが再開されてきたなと思ったら、気づいたら自分もツアーに出ていたような感じで。その合間に新しい曲を書いたりレコーディングしたりしてはいるけど、まだまだ途中の段階ですね。今はたくさんのことに挑戦することに、ただワクワクしています。「世界にはこんなにも色々な場所があって、いつ何が起こるかわからない」――自分の作品には今後、今持っているこのフィーリングが反映されてくると思います。
――2022年も終わりが近づいていますが、年内における未達成の目標などはありますか?
Sen Morimoto:今持っている目標は、ほとんどがパーソナルなものです。仕事と日々の生活の間で、自分にとって健康的と感じられるルーティンを続けていきたい。それから、多くの友人と会って彼らのことを気にかけ、毎日できるだけ多くのことを学ぶこと。月並みだけれど、このようなことを考えて、願っています。それ以外の全ては、おまけみたいなものだから。