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INTERVIEW | Sala


兄妹 & 多彩なプロデューサー陣で作り上げた初のアルバム。その影響源と滲み出るY2K感

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2024.09.02

Salaが1stアルバム『EVERY HOUR』を8月28日(水)にリリースした。

同作はR&Bやヒップホップ、Y2K期のJ-POPといった様々な要素が感じられつつも、Salaの凛とした歌の存在感によって2020年代のポップスへ昇華された作品となっている。また、デビュー時から兄のRyoma Takamuraと制作してきた楽曲群を元にアルバムとしてまとめ上げた、これまでの集大成的作品とも言えるだろう。

“Balloons”がApp Store CMでフィーチャーされたことも話題になったが、いま次から次に新たな才能を輩出している国内R&B/ポップシーンのニューウェーヴを代表するひとりになりつつあるSala。アルバムについて、Ryoma Takamura & Salaの兄妹に話を訊いた。

Interview & Text Tsuyachan


「飽き性な性格」を反映した初のアルバム

——おふたりは湘南出身なんですよね?

Sala:そうです。出身自体は横須賀なんですけど,今の実家は逗子ですね。湘南の端っこなので、江の島方面の明るい湘南エリアほど陽キャではないです(笑)。

——音楽制作はいつ頃から始めたのでしょうか。

Sala:6年くらい前だから、16歳の頃です。2人で作ってサンクラ(SoundCloud)にあげてました。

Ryoma Takamura:僕がプロデューサーの熊井吾郎さんのレッスンを受けて、MPCでビートを作ってみたんです。それでSalaに「歌ってみてよ」って言って始まったのが最初。

Sala:最初はノリというか、遊び半分でしたね。家では昔からリコーダーとピアノでセッションしたり、Wiiでカラオケをやってたりしてたので、音楽には馴染みがありました。

——Salaさんが影響を受けた、好きなアーティストは?

Sala:これ! といった特定の人はあまりいないんですが、Ariana Grandeは昔すごく好きでした。ヘアスタイルを真似したり、小6くらいで学校にCDを持って行ったり。ちょうどそのくらいからボイトレにも通うようになりました。

——小6ということは、もうその頃からシンガー志望ではあったんですね。

Sala:将来、歌を歌いたいとはぼんやり思ってましたね。

——その後、制作はRyomaさんで歌うのはSalaさん、という体制はずっと変わらず?

Sala:そうです。ただ、去年くらいから私も少しずつ制作に興味を持ちはじめて、歌詞を書いたりはしています。

Ryoma Takamura:デビュー当初は粗削りだったので、完成した曲を熊井さんに磨き上げてもらう感じでしたね。そういった流れで(所属する)〈Suppage Records〉とも出会って、色んなプロデューサーさんとご一緒させてもらうようになりました。

——満を持してのアルバム『EVERY HOUR』ですが、いつ頃からアルバムという形を意識しはじめたのでしょうか。収録曲には、シングルで出されている曲も多いですよね。

Ryoma Takamura:そうなんです。最初はアルバムを作るって言ってたけど、先にシングルカットしちゃった感じです。でも、『EVERY HOUR』というタイトルだけは当初からあったんです。

Sala:全員がしっくりきたタイトルでした。このアルバムにはダンス系だったりバラードだったり、色んな曲が入ってるじゃないですか。私のキャラクターもそんな感じで、すごく飽き性なんです(笑)。だから、今回のコンセプトは「あれもしたいしこれもしたいし、一分ごとにやりたいことが変わっちゃう女の子」っていう感じだったんですよ。

——あぁ、なるほど。たしかにバラエティ感に富んだ作風ですよね。とはいえ、やはり軸としてはR&Bがある気がします。

Ryoma Takamura:それはやっぱり曲を作ってるのが僕だからで、Salaの曲を作りはじめてからはJorja SmithとかMahaliaあたりの海外の女性アーティストをよく聴いているので、その影響だと思います。あと、僕は『高校生ラップ選手権』世代なんですよ。高校のときにサイファーをやってて、大学ではラップクルーを組んでいました。RIP SLYMEなどのメロラップを聴いていた一方で、JinmenusagiさんやAKLOさんといったスキルフルなラッパーも大好き。(ボーカルの)刻み方は、そういったヒップホップの影響があると思います。

——かなり腑に落ちました。だから、歌の刻み方がラップっぽいんですね。その点で、このアルバムはボーカルに関してかなり難しいことをしているんじゃないかと思いました。レコーディングは苦労されたのでは?

Ryoma Takamura:今はだいぶ上達したけど、1st EP(2021年リリースの『Fragments』)の頃は結構大変でしたね。

Sala:歌は好きでずっとやってたけどラップは初めてだったので、苦労しました。今思えば、初期の“Together”とかも言葉が詰まったタイトな曲で、なかなか上手くいかなかったです。

Ryoma Takamura:レコーディング中、険悪なムードだったね(笑)。「もうよくない?」みたいな。

Sala:当時は16歳くらいだったし、すぐに機嫌悪くなってました(笑)。でも、だいぶ大人になりましたね。今回のタイトル曲“EVERY HOUR”はShin Sakiuraさんと3人で久々にレコーディングに入ったんですけど、スピーディーに終わって自分のレベルアップを感じました。

Ryoma Takamura:最近はもう自分もレコーディングではあまりディレクションしてなくて、Salaが自分の解釈でやってます。


プロデューサーも交えた分業スタイル

——アルバムでは、そういったラップ的な歌唱法がかなり進化していると感じました。例えば、“花一匁”のライミングはすごいですよね。《課金しなきゃ出逢えない恋/社会のゲームで迷えるBoys & Girls/適当にゲットしてポイ/You get lonely/待ち合わせはあのカフェ/ソイミルクに変更》あたりとか特に。しかもこれみよがしではなく、さりげなく韻を踏むようなスタイルを披露されています。

Ryoma Takamura:以前は、ビートができたら何も考えずにリリックを書いていたんですよ。でも今は、コンセプトを先に決めた上でその周辺の情報を入れつつ、どうしたらそれが伝わるかを考えて設計してます。

Sala:Pinterestをよく見てるよね。

Ryoma Takamura:そうそう。それこそ“ひとめもり”だとモネの絵を見ながらイメージを膨らませていったり。「この曲、何を歌ってるの?」となるのは嫌で、しっかりコンセプトが伝わるようにしていたいんです。

——たしかに、具体的な言葉が多くてイメージしやすい曲になっていると思います。仮歌もRyomaさんが入れたものをSalaさんに渡すわけですよね?

Ryoma Takamura:そうです。

——Salaさんは、自己流で歌い方のアレンジを加えたりもするんですか?

Sala:メロは変えないけど、歌詞は歌いやすく変えたりしますね。あとは、ハモやコーラスをつけて返すので、そこでは結構変化します。

Ryoma Takamura:分業だから、こだわりすぎず相手に渡せるんですよ。

Sala:プロデューサーも含めて信頼ある人同士でやってるから、いい意味で適当にできるというか。アイデアもたくさんくれるし、本当にプロデューサーさんたちの協力があっての作品だと思います。

——兄妹で制作されている分、外から見ているとおふたりですごく密に制作しているようなイメージだったんですが、プロデューサーさんたちも結構入り込んで作業されてるんですね。

Ryoma Takamura:そうですね。例えば、“EVERY HOUR”はこちらでフックを作ったんですけど、Shin(Sakiura)さんがメロディを書き直してくれています。元々アウトロの《それでも続く》というパートがフックだったんですけど、そうじゃないラインを書いてくださって。自分は昔だったら変なプライドが邪魔してたんですけど、今はもう柔軟に受け入れられるようになりました。アイデアが自由に行き交う方がおもしろいので。

——この曲にはこのプロデューサー、というのはどのように決めているのでしょうか。

Ryoma Takamura:それもコンセプト先行なので、最近Salaがどんなモードかというところからコンセプトを決めて、それに合うプロデューサーさんを探す感じです。先にプロデューサーさんを決めることはないですね。

Sala:今回のアルバムだと、“UTOPIA”が一番自分のキャラクターに近いです。ひとりで海外旅行に行くところとか、まさに。もやもやしている時期があって、実家に帰ったら「ベトナムとか行っちゃえばいいじゃん」って言われて、次の日にひとりでベトナムに行ったり(笑)。

Ryoma Takamura:すごすぎるよね(笑)。

Sala:“Balloons”のプリプロは電話しながらベトナムで進めました(笑)。

——“Lazy”はSalaさんが作詞作曲に関わってるんですよね。歌詞もかなり具体的です。

Sala:本当はリリースする気で書いた曲ではなかったんですけど、せっかくなら出そうよという話になって。いつも作ってもらってるので、自分が書くものに対しては自信がなくて、歌詞を50回くらい書き直しました。

Ryoma Takamura:朝方まで、LINEで何度も送信取消があって(笑)。

——(笑)。あと、トラックは遊び心が効いているものが結構あって、ユニークだなと思いました。例えば“Gacha Gacha”は、ポップスとしてのギリギリのラインで遊んでますよね。

Ryoma Takamura:そうですね。“Gacha Gacha”はタイトル先行なんですよ、当時Spotifyのプレイリスト『Gacha Pop』が話題になってて、あと「親ガチャ」という言葉が流行ったり。

Sala:ジャージークラブからのインスピレーションもありましたね。「Gacha Gacha」という言葉があり得ないくらい何度も出てくるんですけど、制作過程ではもっと多かった時期もあったんです。あと、結構ガヤも入れていて。

Ryoma Takamura:作曲に関して言うと、ちょっと前と違って今は緩急を意識しています。以前の方がたくさん詰め込んでいて緩急がなかったんですよ。今は詰めるところと抜くところをちゃんと配置していますね。ラップの後にフックで頂点まで持っていくと、その対比で印象に残るから。

——“ひとめもり (maco marets &TOSHIKI HAYASHI(%C) Remix)”は、なぜリミックスを制作しようと思ったんですか?

Ryoma Takamura:リミックス入れたいねって話になって、最初は“Gacha Gacha”も候補にあったんですけど、話し合っていく中で“ひとめもり”になりました。それで、maco maretsさんがいいなという話になり。

Sala:サンクラに曲を上げはじめたくらいの頃からmaco maretsさんは憧れで、ずっと聴いてたんですよ。だから受けていただけるって聞いたときはすごく嬉しかったです。

Ryoma Takamura:歌詞もオリジナルの2ヴァース目をいい感じに書き換えてくれたんですよ。しかも元の歌詞の言葉を上手く拾ったり紐づけたりしていて、それが本当に素晴らしくて。

Sala:届いたその日に50回くらい聴きました。


滲み出るY2K感、R&Bを軸としたシーンの連帯

——BENNIE Kを想起するような“Balloons”に顕著ですが、Y2K感覚がいい塩梅で出ているアルバムだなとも思ったんです。さっきおっしゃっていた通り、Ryomaさんは2000年前後のJ-RAPを通ってますよね。

Ryoma Takamura:あぁ、なるほど。めちゃくちゃ通ってますね。それはたしかに出ているかもしれないです。他にもmihimaruGTとか。

——対して、Salaさんはそういった年代の音楽は通ってないですよね? というのも、近年流行っていた狙いすましたY2Kというよりは、まだそれを対象化していない世代のY2Kだなと感じたんです。「リバイバルやってみました」ではなく、素直にここに辿り着いた感じというか。

Sala:私は2000年生まれなので通ってないですね。でも、車とかで流れていて耳にしていたかもしれない。Y2Kについては、そのくらいの接し方ですね。

——その感じが出ているように思います。おふたりは、現行の音楽シーンってどのくらい意識されていますか? 気になっているアーティストなどいれば知りたいです。

Sala:目指したいところとしては、iriさんですね。

Ryoma Takamura:同じ逗子出身だしね。やっぱりiriさんは憧れの人です。

Sala:あと、仲がいいのはサギリさん(Sagiri Sól)。週一くらいで会ってます。ただ2人でお散歩して喋るみたいな(笑)。

Ryoma Takamura:VivaOlaもすごいしカッコいい。あぁいう作品を出されるとちょっと焦る。

Sala:VivaOlaとかWez Atlasが出てきて、英語詞を書くのをやめたもんね。

Ryoma Takamura:そう。彼らには勝てないと思った。VivaOlaにも直接言ってるけど、「もう英語は任せた」って感じで(笑)。彼ら周りのミュージシャンはみんな仲良しです。

——今、その周辺のR&B~ソウルミュージックシーンが横の繋がりを広げてどんどん大きくなってきてますよね。しかも、みんな仲がいいという。今後、国内ポップミュージックにおける中核を担うような存在感になっていく気がします。

Sala:〈Re.〉(アールイー:DJ・Shun Izutaniが主宰するイベントチーム)がやっているイベント『BLOW YOUR MIND』にこの前出演させてもらったんですけど、そういったところでシーンがまとまっていったらいいなと思っています。あの日はお客さんもたくさん集まって、シーンができていくってこういうことなのかなと体感できるような、すごくいいパーティでした。

——ヒップホップは強固なシーンがありますが、R&B寄りのシーンはなかなか可視化が難しかったところに、最近はその辺りが見えるようになってきた印象です。

Ryoma Takamura:たしかに。ヒップホップはそこがすごくわかりやすいですよね。クルーでまとまっていて、フィーチャリングも交えながら、みんながパッケージされて出てきている印象がある。僕たちの周りもそうなっていけたらいいですね。

——LIU KOIやkikomoriなど最近は海外アーティストとのコラボもされていますが、どういう形で実現したんでしょうか。

Sala:LIU KOIはインスタのDMをもらってたんですけど、ずっと気づいてなくて。彼が日本に来てたタイミングがあって、YonYonさんのBLUE NOTE PLACE公演でお会いした際に、「DM送りました」って言われて「一緒にやろう!」っていう流れになりました。LIU KOIは長く日本に滞在していて、色んなライブを観に行ってましたね。曲のベースとなる部分はすでにできていたので、彼が日本にいる間にレコーディングして。MVはその数週間後に私がノリで台湾に行って撮影しました。

kikomoriさんは、Orchard(The Orchard Japan。NYに本社を置く音楽ディストリビューター)経由でお声がけいただきました。すごく親日家で、日本のアニメやゲームのカルチャーに影響を受けている方で、一緒に制作をしている中で日本のカルチャーへのリスペクトも感じました。

Ryoma Takamura:kikomoriとのコラボは楽しかったですね。日本人同士であれば、事前に「大体こんな感じでまとまりそう」というイメージが沸きますけど、それがわからないのが刺激的でした。今後は海外へ向けてももっとやっていきたいですね。

——海外展開も楽しみです。1stアルバムを経て、今後の活動予定は?

Sala:自分が初めてライブをしたGRIT at Shibuyaで、12月に初のワンマンライブを開催しようと思っています。ベース、キーボード、ギター、ドラムのバンド編成です。オリジナルの楽曲イメージをいい意味で裏切れるようなアレンジも考え中なので、楽しみにしていてください!


【リリース情報】


Sala 『EVERY HOUR』
Release Date:2024.08.28 (Wed.)
Label:Suppage Records
Tracklist:
01. EVERY HOUR
02. 花一匁
03. Gacha Gacha
04. Balloons
05. Ctrl Z (feat. Foi)
06. UTOPIA
07. Lazy
08. ひとめもり
09. ひとめもり (maco marets & TOSHIKI HAYASHI(%C) Remix)

配信リンク

■Sala:X(Twitter) / Instagram


【イベント情報】


『MIND TRAVEL 2024 – TOKYU KABUKICHO TOWER EDITION -』
日時:2024年10月26日(土) 12:00〜23:00
会場:東京・新宿 東急歌舞伎町タワー(B2F – B4F ZEPP SHINJUKU、1F 野外エリア、17F SPACE WEST)
出演:
ADOY(from Korea)
Ace Hashimoto(from US)
?te (from Taiwan)
Billyrrom
BREIMEN
CHIANZ
どんぐりず
HOME
luvis
Sala
SIRUP
SHINICHI OSAWA(MONDO GROSSO)
VivaOla
w.a.u(DJ set) feat. MÖSHI & MK woop
YonYon
YOSA&TAAR

+ 1 act

主催:Spincoaster inc. / TST inc.

チケット詳細

MIND TRAVEL オフィシャルサイト


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