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INTERVIEW | Sakura Sessions


The InternetのPatrickが国内拠点のアーティストと繰り広げたコライトセッション。その背景や企画意図を訊いた

2024.04.22

Syd率いるバンド・The Internetのベーシストとしても知られ、ラッパー/SSWとして自身のソロプロジェクトも展開するPatrick Paige IIと、日本を拠点とする気鋭のミュージシャンたちによるコライトセッション企画『Sakura Sessions』が今年3月に開催された。

舞台となったのは近年、カネコアヤノやくるりの傑作が生み出された場である・伊豆スタジオ。Shin Sakiura、LEO、Seann Bowe、ボン竹村郁哉(Yogee New Waves)、SUNNY ONLY 1(bala)、week dudus、reina(w.a.u)といったキャリアも出自もジャンルも異なるアーティストたちを迎えて行われた本企画。果たして、異色のラインナップでどのようなセッションが繰り広げられたのか、そしてそもそも、本企画はどのようにスタートしたのか。今回はPatrick Paige II本人と、主催であるコロムビア・マーケティング株式会社の大木貴之氏を迎えてインタビューを慣行。一足早い桜の季節に行われた、刺激的な試みについて話を訊いた。

Interview & Text Takazumi Hosaka
Photo by Ikuya Nishikado

大木貴之, Patrick Paige II


ゼロイチの出会いや化学反応をドキュメントする

――このセッション企画がスタートした経緯を教えて下さい。

大木:実は私とPatrickは10年来の友人でして。昔、私が在籍していたバンドがThe Internetのショーのオープニングアクトを務めたんですけど、その後にみんなでジャムったりして。それ以来、交友関係が続いていて、彼らが日本に来たときは一緒にご飯を食べに行ったり、昨年は私がアトランタに会いに行ったりもしました。

そんな関係を続ける中で、ある日Patrickから「日本に行きたい」「音楽を作りたい」といったような短いメッセージをいただきまして。そこでせっかくPatrickが日本に来てくれるんだから、何かできることはないかなと考えていくなかで、今回のセッションの構想が生まれました。

――そもそも、なぜPatrickさんは日本に来たかったんですか?

Patrick:日本のアーティストと一緒に音楽を作りたいっていう思いも確かにあったんですけど、一番の理由は桜が見たかったからです(笑)。桜は私の最も好きな花で、アメリカでも見ることはできるのですが、やっぱり日本で見てみたいなと。参加ミュージシャンの方々とスタジオの近くの大室山に一緒に行ったんですけど、そこで見た桜が本当に素晴らしかったです。

――セッション企画を立ち上げるに際して、コンセプトやテーマのようなものはどのように考えていたのでしょうか。

Patrick:今回は「こういう作品を作りたい」とか、そういった目標やビジョンは何も考えずにセッションしました。全くの新しい環境で、自分は何をできるのかっていうことを確認したかったんです。ただ、それと同時に、絶対にいい内容になるだろうなという直感もありました。

大木:我々としても今回のセッションは事前に準備をして、ゴールに向かっていくという感じではなくて。ゼロから出会って関係を構築していったり、そこで生まれる化学反応のようなものを大事にして、それをドキュメントしたいという想いがあったんです。なので、敢えて言うなら自然な成り行きに任せることがコンセプトのひとつだったのかなと。

大木:個人的にカナダでミュージシャンとして活動していたときに、友人の家で開催したハウスパーティでみんなでジャムって、それがバンドになり、色々なパーティに呼ばれるようになる。そして最終的には大きなベニューでもショーを開催する……そんな流れが当たり前にあったんです。それと同じようなことを、国境を越えて挑戦したかったんです。

Patrick:君は今でもアーティストだね(笑)。

大木:ありがとう(笑)。

――参加アーティストの人選はどのように?

大木:Patrickからのメッセージを受け取ったとき、仕事でタイにいたのですが、そのプロジェクトでご一緒していたShin Sakiuraさんにも相談させてもらって。そこで見えてきたのは、ただセッションをするのではなく、カルチャーとしての音楽を世界に発信したいということ。なので、そういった海外へ羽ばたいていきそうな、もしくは世界を見据えた活動を展開している方々にお声がけさせてもらいました。

――具体的なセッションの内容についてもお聞きしたいです。まずは1日目。Patrickさんに加え、今お名前が挙がったShin Sakiuraさん、そして琴アーティストのLEOさんが参加しています。

Patrick:琴を見るのは初めてだったし、本当に美しい楽器だと感じました。3人でのセッションも楽しかったんだけど、その日Shinが帰ってからすぐにセッションデータをリミックスした音源を3つも送ってくれて。短時間でここまでできたことに驚いたし、感動しました。

大木:実は琴のLEOさんには私たちからのリクエストで童謡の“さくらさくら”を弾いてもらって、そのフレーズも使用してもらいました。3人でセッションしてもらって、最初は当然探り探りだったのですが、「これでいこう」というフィーリングが生まれてからの作業の速さには驚かされましたね。

Shin Sakiura, Patrick Paige II, LEO

――2日目はSeann Boweさん、Yogee New Wavesの竹村郁哉さん、そしてbalaのSUNNY ONLY 1さんがラインナップしています。

Patrick:初日よりもアップビートなセッションになりました。ベース以外の楽器を触ることができて楽しかったです。特にスタジオに置いてあったローズ(Rhodes Piano)が気に入りました。テクニカルな面でも慣れてきたし、いいセッションができたと思います。

大木:プロデューサーのSeannさんはスタジオに入るなり、前日に作ったトラックに乗せて即興でメロディを歌っていて。そこでいいものが出てくると採用していくっていうスタイルだったのですが、その工程がとても興味深かったですね。初日のShinさんとは大きく異なる進め方だなと。あと、この日は作業自体は21時頃に終わったのですが、まだまだセッションし足りないPatrickとSeann、そして僕とディレクターとして参加していた弊社の人間で朝4時頃までジャムっていました(笑)。

――(笑)。

大木:ミュージシャンと裏方の間の線引などもなく、いち音楽好きとしてハートで繋がれる瞬間というか、すごく有意義な時間を過ごせたと思います。音楽を通して深くコミュニケーションできたことで、その後の作業などもよりスムーズに進めることができたと思います。

Patrick Paige II, Seann Bowe, ボン竹村郁哉, SUNNY ONLY 1

――3日目は同じメンバーに、ラッパーのweek dudusさんと、シンガーのreinaさんが加わったようですね。

Patrick:3日目はメロディやボーカルを重ねていきました。特にweek dudusのラップのエネルギーが印象的でした。それまで彼の作品を聴いたことはなかったんだけど、とてもファンになりました。

大木:Seannさんの即興でメロディを作るプロセスを見て、reinaさんも同様の手法に挑戦されていて。実際の成果物がどうだったかというより、そういったスキルや知識などの共有、交換がとてもいいことだなと感じました。

reina, Seann Bowe, Patrick Paige II, week dudus, SUNNY ONLY 1

自由度の高さが表現に繋がる

――改めて、今回のセッション全体での手応えや、感想などを教えてもらえますか?

Patrick:ありきたりな言い方になってしまうけど、最高の経験でした。様々なアーティストと交流して、もちろん言語の壁はあったんですけど、音楽はその壁を乗り越えられるということを再認識しました。制限などを設けずに、未知の環境で自分は何をできるのかっていう限界に挑戦できた気がしていて。この体験を経たからこそ、今後はどんなところへ行っても大丈夫な気がしています。

大木:私は主催側ということもあって、まずは無事に終わって安心しているというのが素直な感想です。最初はどうなるんだろうという不安もあったのですが、参加アーティストさんそれぞれが楽しそうにセッションしたり、エキサイティングしている様子を見たり、「またやりたい」って言ってもらえたのが嬉しかったですね。

――Patrickさんは今回セッションした日本のミュージシャンに対して、どのような印象を受けましたか?

Patrick:相手への尊敬や謙虚な姿勢など、日本独自の文化を感じました。スタジオに入るときにお辞儀したり、他人が何かをやってくれたことに対してお礼したりする姿を見て、とてもいいなと感じました。個々の印象に対しては、日本人だからとかは関係なく、本当にみんないいミュージシャンでした。みんなわざわざ遠くまで来てくれたことに対しても感謝します。

――伊豆スタジオの機材面はいかがでしたか? ヴィンテージの機材も多く置いてあると聞いたことがあります。

Patrick:Jaco Pastoriusが使ってたのと同じモデルのアンプが置いてあって、それが素晴らしかったです。エンジニアの濱野さんが持ってきてくれたフィルター系のペダルも気に入りました。あとはさっきも話したローズですね。あと、私が一番好きなマイクである「NEUMANN U87」がたくさんあったのも嬉しかったです。

――アメリカのスタジオとの違いなどは感じましたか?

Patrick:特に違いは感じませんでした。ただ、オーナー自らが料理を振る舞ってくれたり、快適な環境で宿泊できるのは、私の知っているどのスタジオにもない魅力的なポイントでした。

――今回はゴールを設けずに、かなり自由度の高いセッションを行ったわけですが、こういった手法のメリットやデメリットについてはいかがお考えでしょうか。

Patrick:ネガティブなことは特に思い当たらないですね。自由度の高さが表現に繋がったと思いますし、その自由さっていうのは、作業以外の余白の部分から生まれるんだと思います。敢えて今回のセッションについて改善点を挙げるなら、もっとセッションを長くやりたかったということです(笑)。

――何よりも自由であることが大事だと。

Patrick:もちろんビジネス的な思考だったり、もっと効率を求める手段を考えるのも大事だとは思うんだけど、それ自体は目的にはなり得ません。一番大事にしなければいけないのは、ミュージシャンそれぞれのクリエイティビティと、それを発揮できる環境を用意することだと思います。

――日本ではこういったコライトセッションで曲を作るという手法は、それほど広く浸透していないと思うのですが、今回のような取り組みを通して少しずつ広まっていくと、より多様な音楽が生まれそうですね。

Patrick:そもそもアメリカでは一人のミュージシャンがひとつのバンドやグループだけに属しているのではなく、複数のプロジェクトを掛け持ちしていることの方が多くて。だからこそ、コライトも一般的な制作方法として広く採用されているんだと思う。自分だけで毎日自炊して、美味しい料理を作れるならそれは素晴らしいことだけど、たまには友だちを呼んで、そこにバラエティを加えれば、より素晴らしいものができると思います。音楽もそれと同じじゃないかな。

大木:これはPatrickとも話していたことなのですが、今の時代はミュージシャンそれぞれが能動的にコミュニケーションを取って発信していくことが大事だと考えていて。こういったセッションでコネクションを広げて、そしてミュージシャン同士で表面的ではなくちゃんと心で繋がる。この『Sakura Sessions』がそういったことに役立つ機会になってくれればと思います。

――ちなみに、今回のセッションででき上がった音源の最終的な仕上げやアウトプットについて、現時点ではどのように考えていますか?

Patrick:ポストプロダクションはとてもデリケートな工程だから、そこで本当に満足のいく作品に仕上げられるかどうかについては、まだなんとも言えません。ただ、私は無数のデモ音源をハードディスクに眠らせているタイプのミュージシャンではなくて、作りかけの音源は必ず完成させたいと思う性格なので、期待して待っていてほしいです。特に2日目に作った曲は自分のスタイルにもハマった感覚があって、気に入っています。

大木:最終的なアウトプット、リリースするしないについては、やはりアーティスト同士が納得する形で話し合ってもらうのがいいかなと考えています。今回は実験的な側面が強かったのですが、今後2回、3回と続けていきたいので、そのためのマネタイズっていう部分はこれからしっかり考えなければいけないなと。

――最後の質問になります。今年の初めにThe InternetのInstagramにスタジオ内で作業しているような様子が収められた写真が投稿されました。今、バンドはどのような状況なのか、可能な範囲で教えてもらえますか?

Patrick:去年の11月からアルバム制作に着手しています。これからNYのスタジオに行って、また作業を再開する予定です。いつになるか、まだ明確なことは言えないけど、必ずアルバムを完成させて戻って来るので、楽しみにしていてください。


参加アーティストからのコメント

【Shin Sakiura(Day1参加)】

ボーダレス、ジャンルレスなアーティストと向き合いジャムセッションを繰り返す中で、
未知のグルーヴを体験することができました。
SAKURA SESSIONSから新しい音楽が生まれるとこが楽しみですし、
また参加したいです。
Patrick、LEOさんと出会えたことに感謝。

Shin Sakiura

【LEO(Day1参加)】

普段交わらないジャンルのアーティストたちとまずはセッションすることから始めて、
お互いを理解していく過程がとても新鮮でした。
新しい出会いと発見の1日になりました!

LEO

【ボン竹村郁哉(DAY2参加)】

伊豆の開放的な空気のなかで、ジャンルレスなメンバーが集まって、
各々の個性が混じり合ったセッションになりました。
とても刺激的な制作ができたと思います!

ボン竹村郁哉

【Seann Bowe(DAY2、DAY3参加)】

It was a great honor to work amongst so many talented and open minded musicians. We jammed for hours and it felt like an entirely free and creative experience.

・編集部訳
才能に溢れたオープンマインドなミュージシャンと共に作業することができてとても光栄でした。私たちは何時間もジャムセッションをしたのですが、それは完全に自由で創造的な経験のように感じました。

Seann Bowe

【SUNNY ONLY 1(DAY2、DAY3参加)】

富士山の見える丘を登った事から、始まったさくらセッション。日常を抜けて、
プロフェッショナルな方達と過ごし、刺激をたくさん感じました。
すごく、いい経験でした。
伊豆スタジオの方達もすごくあたたかく迎えてくれて、ご飯も美味しかったです
また行きたいです。
ありがとうございました。

SUNNY ONLY 1

【week dudus(DAY3)参加】

めっちゃ楽しかったです
最高でした!

week dudus

【reina(DAY3参加)】

様々なバックグラウンドを持ったアーティスト達と共に0から曲を作っていく中で、自分の可能性や弱点を新たに学ぶことができました。しかし、それ以上にアイデアを出し合って1つの作品にしていくという共通の目標に同じ歩幅で進んでいく環境が、とても新鮮で貴重な体験となりました。今後の制作における新たな原動力となるようこの経験を活かそうと思います。

reina

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