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INTERVIEW | Otis Lim


韓国R&Bシーンの新星が語る音楽家としての道のり、愛犬への想い

2025.03.26

愉快で率直、そして淡白。人への評価としても十分に魅力的な言葉だが、それがアーティストを形容するとなると、これほど惹きつけられるものはない。まさにそのイメージを体現しているのがOtis Limだ。ポジティブで快活な人柄をそのまま音に乗せ、R&Bやファンクのサウンドを響かせる。彼の音楽には、ポジティブで快活な人柄が色濃く反映され、R&Bやファンクのサウンドと共に、彼のエネルギーがリスナーに届く。

2021年に発表した最初のEPで、SUMINやHoodyをフィーチャリングに迎え、韓国R&Bシーンに新星が現れたことを強く印象づけた。さらに昨年リリースの1stアルバム『Playground』にはJay Park、THAMA、Peakboy、hikoが参加し、大きな話題に。アートワークからもあふれ出す愛犬への深い愛情や、日常のさまざまな瞬間を切り取りながらも、独創性と高い完成度を両立させた曲の数々によって、Otis Limは改めて「韓国R&Bシーンの期待の星」として注目を集める存在となった。

そして先日、ボーナストラック付きの日本盤『Playground』がついにリリースされた。これを機にOtis Limの音楽と出会う日本のリスナーも、きっと増えていくだろう。本インタビューでは、「限りなく楽しい音楽づくりのプロセス」や「愛犬へのあふれる想い」、「ビッグネームとのコラボが実現した背景」、そして「日本のリスナーにぜひ聴いてほしいトラック」など、多面的な魅力をとことん掘り下げる。読み終える頃には、きっと彼の音楽がさらに愛らしく、そして楽しく耳に響くだろう。

Interview & Text by soulitude (Yonghwan Choi)
Header Photo by Jun

Photo by Jun

「ノウォン区のThe One」からOtis Limへ

――まずは日本の読者にご挨拶をお願いします。アーティスト名の由来も教えてください。

Otis Lim:R&Bとファンクをベースにした音楽をやっているOtis Limです。名前は、1960年代を代表するソウル/R&BアーティストのOtis Reddingから取りました。Otis Reddingの“I’ve Been Loving You Too Long”を聴いていたときに、ふと彼の名前に自分の姓(Lim)を付けてみたところ響きがよく、そのまま活動名にしました。

――音楽活動を始めたきっかけは?

Otis Lim:中学生の頃からカラオケが大好きで、3年間ほぼ毎日のように、週に5~6回は通っていました。最初から上手かったわけではないのですが、周りと比べると上達が早かったらしく、友だちに「音楽スクールに通ってみたらどう?」と勧められて。高校1年生のときに行き始めたのがきっかけで、本格的にミュージシャンを目指すようになりました。

――カラオケではどんな曲を歌っていたのですか。

Otis Lim:その頃は4MENやVIBE、SG Wannabeなどのバラード曲が流行っていて、そういう曲をよく歌っていました。学校のイベントで披露したりもして、特にThe Oneの歌い方を真似するのが得意だったので、「ノウォン区(地名)のThe One」なんて呼ばれていました(笑)。

――ポップバラード中心だった当時と、今の音楽性には大きなギャップが感じられますね。

Otis Lim:高校時代、音楽スクールでの経験がすごく大きかったんです。音楽スクールといえば、一般的にはボーカルの発声や歌い方を教わるイメージが強いと思いますが、僕の先生は「音楽を理解すること」を重視していました。そのために毎週アーティストを2組調べる宿題を出してくれましたが、それがすごくおもしろくて、音楽を掘り下げること自体にハマりました。

その頃にOtis ReddingやMarvin Gaye、Donny Hathawayなどを聴き込み、ブラックミュージックにすっかりのめり込み、それが今の自分の音楽の基盤になっています。

Photo by Aaron Park

愛犬への想いが詰まった1stアルバム『Playground』

――そんな音楽性が込められた1stアルバム『Playground』が日本でもリリースされることになりました。タイトルに込められた想いは?

Otis Lim:僕は最初から「こういう音楽を作ろう」と決めずに、そのとき気になったものを自由に形にするタイプなんです。そうやって作り溜めた曲をまとめようとしたら、共通のテーマが見当たらなくて……。でも「遊び場(Playground)」ってキーワードがふと浮かんだんですよね。シーソーや滑り台などいろんな遊具があっても、子どもたちは自然に一緒に遊んでいるじゃないですか。そんな雰囲気が、自分のアルバムとも通じるなと思いました。

――日本盤としてリリースされることについて、改めてどんな思いがありますか。

Otis Lim:本当に不思議な感覚ですし、すごく嬉しいですね。友だちがタワーレコードで僕の作品が並んでいる写真を送ってくれたときは、ようやく実感が湧いて感慨深かったです。初めてアナログ盤を作ったのも新鮮でしたし、日本語の帯が付いているだけで雰囲気がガラッと変わるんですよ。CDのブックレットも写真や配色を変えて、韓国盤とはまた少し違う印象になっています。

ボーナストラックで“SUMMER”を入れられたのも大きいですね。前から作りたいと思っていた夏向けの曲が完成して、日本の皆さんにも聴いてもらえるのが楽しみです。

――アートワークに映っている可愛い犬が気になる日本のリスナーも多いと思います。

Otis Lim:自慢の愛犬です。ウェストハイランドホワイトテリアの「シエル」という子で、名前は両親が付けてくれたんですが、フランス語の「空(Ciel)」と、2NE1のCLが好きだったことから取ったとも聞いています(笑)。もう11歳で、高校のときからずっと一緒に暮らしている大切な家族ですね。

Otis Lim:アートワークは本当は別の写真で進めていたんですが、「愛犬を撮ってみませんか?」というコンテンツで有名なフォトグラファーさんと出会って、撮ってもらった写真がすごく気に入って、急遽アートワークを差し替えました。音楽もカバーも、将来自分がおじいちゃんになったときに振り返って、「ああ、あのとき本当に楽しかったな」って思えるような、そんな思い出の一枚にしたかったんです。最初にカバーデザインを一生懸命作ってくれた友だちには本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだったんですけど……思い切って変えることにしました。


※日本語字幕あり

――『Playground』リリース前から“woorizip puppy is cute(うちのワンコはかわいい)”が話題になっていましたよね。

Otis Lim:タイトル通りで、「うちの犬が可愛すぎる!」というだけで作った曲なんです(笑)。歌詞にもシエルとの日常がそのまま入っていて、MVも散歩や遊んでいる姿を撮影したものです。愛犬家の方々がリール動画などで使ってくれたおかげか、すごく反響が大きくなりました。韓国の有名人の方も動画で使ってくれたりもしました。この楽曲を使用したリールはすでに5万本くらいあるらしくて、愛犬家の間では有名曲になっていますね。

――アルバムには他にもシエルが登場する曲があるそうですね。

Otis Lim:それだけ僕にとって大切な存在なんだと思います。“My Story and My Puppy(僕とワンちゃんの物語)”(アルバムには“Me and My Dog’s Story”として収録)っていう曲があるんですが、1番は犬から飼い主へのメッセージ、2番は僕からシエルへのメッセージという構成になっています。「お互いの立場から見たら、どんなふうに感じるんだろう?」って考えながら書いた曲なんです。

1番では「僕も人間のごはん食べてみたい」みたいな、ちょっとクスッと笑えるようなフレーズから始まるんですけど、2番には「君の一日がどんなだったのか、僕はすごく気になる」っていう歌詞があって。外出中、シエルはスマホもないし、きっと一日中おうちで待ってるんだろうなって思うと、すごく胸が痛くなって……。動物福祉や環境をメインにした雑誌『OhBoy!』が主催したイベントでこの曲を歌ったとき、思わず涙が込み上げてきちゃって。ステージの上でそんなふうになったのは、初めての経験でした。

Otis Lim:それから、“Ciel Laughed, Too(シエルも笑った)”っていう、犬の鳴き声が入った曲もあるんです。これは友だちとソングキャンプをしていたときに生まれたんですが、韓国語で「ありえない話だね」っていうのを「通りすがりの犬も笑うよ」って表現することがあって。それを冗談っぽく「うちのシエルも笑うよ」って言ってたら、いつのまにかそれがそのまま曲になってました(笑)。

ちなみに、曲に入っている鳴き声はシエルのものではないんですけどね。そしてもう一曲、“FEELING!”の歌詞の中にも、シエルが登場しています。


楽しく、仲間と音楽を作る

――アルバムの制作スタイルがとても自由で即興的なんですね。

Otis Lim:そうですね。基本的にスタジオにいることが多いので、自然と友だち同士で集まって、サクサクっと曲を作ることが多いんです。コード進行やひとつのテーマをきっかけにして、みんなでアイデアを膨らませていくこともあれば、ジャムセッションみたいな形で始まることもあります。

一緒にスタジオを使っているのは、地元の友だちであるパク・ヒョンテと、Schpes4という名前で活動しているヨンジェの2人。特にヒョンテとは音楽を始める前からの仲で、中学1年生の頃からずっと一緒にいる、いわゆる親友です。気づけばそんな気心知れた友人たちが音楽もめちゃくちゃ上手くなっていて。だからこそ、3人でいるときはいつも楽しく、自由なムードの中で自然と音楽が生まれていく感じですね。

――ミュージシャンのなかには、創作の過程が孤独で苦しいと感じる方も多いようです。

Otis Lim:僕はそんなに孤独を感じたことはないですね。大体いつも仲間がいるし、ひとりで突き詰める時間もありますが、それもなんだかんだ楽しんでます。MBTIで言うとENTJ(指揮官)タイプで、よく「リーダー気質」と言われるんですけど、何か企画して人を集めたり、新しいことを始めたりするのが好きなんです。みんなの予定を合わせてソングキャンプを開くこともあります。

この前も、深夜4時に「飲んでるから遊ぼう」と友だちから連絡がきたんですけど、僕はあまりワイワイしたい気分ではなかったので、代わりに「じゃあ一緒に曲作ろうよ」って誘ったんです。結局そこからみんなで集まって、朝まで制作して、そのまま一緒に寝ちゃいました(笑)。

――遊ぶよりも、音楽を作る方が楽しいタイプなんですね。他に趣味などはありますか。

Otis Lim:いわゆる「遊ぶ」ってことは、普段あまりしないですね。やっぱり音楽を作っているときが一番楽しいので。旅行もそんなに好きじゃなくて。済州島(チェジュド。韓国のハワイと言われるリゾート地)も一昨年、家族旅行で初めて行ったくらいですし。海外旅行も、一度だけ。昔付き合っていたアメリカ在住の恋人に会いに行ったきりですね。お酒も飲まないし、タバコも吸わないです。

音楽以外で唯一「趣味」と言えるのは、サッカーかもしれません。敢えて言うならサッカーが趣味で、週に3~4回はフットサルやサッカーをしに行きますし、深夜にEPL(イングランド・プレミアリーグ)の試合を見るのは欠かせない習慣です。マンチェスターユナイテッドのファンなので、旅行にはあまり興味ないけれど、(マンチェスターユナイテッドのホームグラウンドである)オールドトラッフォードだけは数年以内に必ず行ってみたいと思っています。

――その性格や制作スタイルの影響か、MVにもシットコムのようなユーモアが感じられます。

Otis Lim:音楽にもMVにも、ある程度の「ユーモア」を常に残しておきたいと思っているんです。実際、ああいうMVのアイデアはすべて自分で出したんですね。もともとカートゥーンネットワークの「Adult Swim」でやっていた、Odd Futureのコメディ番組『Loiter Squad』とか、そういうシュールで少しふざけた世界観が大好きで。おちゃめなコンセプトをよく出すThundercatの影響も大きいかもしれませんね。

あと、「これやったらおもしろそうじゃない?」ってアイデアがふっと浮かぶと、すぐに形にしてみるタイプなんです。そこで迷っちゃうと流れが止まっちゃう気がして。音楽だけじゃなく「人生も勢いが大事」だと思っているので、その流れに乗って動いていくことを大切にしています。

――デビュー当初からJay Parkなどビッグネームをフィーチャリングに迎えているのは、そういった勢いが大きいのでしょうか。

Otis Lim:そうかもしれません(笑)。よく「もともと親交があったから実現したフィーチャリング」だと誤解されることもあるんですが、そういったケースはほとんどないですね。「ダメ元で依頼してみる」という感じが多かったです。1st EPでSUMINさんをお呼びしたときもメールでしたし、“Give Me the Night”でJay Parkさんが参加してくれたのも、僕が無謀にDMを送ったのがきっかけです。

……あの曲を作っていたときのことはよく覚えています。周りは「さすがに断られるでしょ」みたいな反応でしたが、「送るだけはタダだから!」って(笑)、勢いでDMを送ってみたんですよ。まさか本当に実現するなんて、当時は僕自身も思っていませんでした。最近のpH-1さんとのコラボも、彼がトークショーで「アーティストの知名度は関係なく、曲がいいと思えばやる」と発言しているのを見て、翌日にすぐ真剣なメールを送ったら、本当にOKしてくれて。ありがたい限りです。


Otis Limの今とこれから

――日本のリスナーには、どんなふうにOtis Limの音楽を聴いてほしいですか。

Otis Lim:R&Bやソウル、ファンクなどが好きな方なら、韓国語がわからなくても演奏やボーカルのグルーヴだけでも楽しめるんじゃないかと思います。個人的にはベースラインにすごくこだわっているので、そこが好きな方ならきっとおもしろいと感じてもらえるはず。昔ながらのファンクが好きな方は、僕の歌い方に何かしら魅力を見出してもらえるかもしれません。

特に、THAMAさんを迎えた“JAMI”や“FEELING!”はファンキーな要素が際立っているので、ぜひ聴いてみてほしいですね。あと、日本盤限定のボーナストラック“SUMMER”はこれから暑くなる季節にピッタリなので、ドライブ中とかにかけてもらえたら嬉しいです。

――最近はどんな音楽をよく聴いていますか。

Otis Lim:Keloraというデュオの“I Call To You”をよく聴きますね。フォークとエレクトロを融合させたような独特の雰囲気があっておもしろいんです。あとはAddison Rae。元TikTokerだと聞きましたが、ArcaやCharlie XCXとコラボしていて興味を持ちました。“Aquamarine”という曲が特に好きです。

スペインのアンダーグラウンドシーンのRalphie Chooも2年ほど前から注目していて、最近ROSALÍAとコラボしているのを見てワクワクしました。Bibi Trickzというラッパーもいいですね。日本の音楽では関藤繁生さんというエレクトーン奏者のアルバムが印象的でした。昔からYellow Magic Orchestraも好んでよく聴いています。

――幅広いインプットのためか、1stアルバム以降の曲はサウンドに変化がある印象です。

Otis Lim:1stアルバムを作る中で学んだことが多くて、今はもう少し肩の力を抜いたり、ボーカルにトレンド感を取り入れたりして、いろいろ試しています。ラッパーの友だちと一緒にトップラインを考えるセッションもあって、ボーカルのキャッチーさを高めようとしているところですね。

――2ndアルバムを準備中と伺いましたが、進捗はいかがでしょう。

Otis Lim:大まかには完成していて、あとはアレンジやミックスを仕上げる段階です。リリース時期はまだはっきりと言えませんが、夏の終わり頃には出せるかもしれません。前作が「やりたい音楽を全部詰め込んだ総合メニュー」みたいな感じだったのに対して、今回はもう少し淡白な構成にして、ボーカルにフォーカスを当てています。ボーカリストとしての新たな一面を見せられたらなと。

――最後に、日本のファンのみなさんに一言コメントをお願いします。

Otis Lim:まずは1stアルバム『Playground』をたくさん聴いてもらって、次の作品も楽しみにしていてください。


【リリース情報】


Otis Lim 『Playground』
Release Date:2024.11.20 (Wed.)
Label:P-VINE
Cat.No.:PCD-25446
Price:¥2,750 (Tax in)
Tracklist:
1. Body Ache
2. JAMI (feat. THAMA)
3. Give Me the Night (feat. Jay Park)
4. Ciel Laughed, Too
5. Me and My Dog’s Story
6. George Clinton Is Playing at My House
7. FEELING!
8. (sigh) Finally, The Alley Has Now Become Quiet
9. Half Asleep (feat. Peakboy, hiko)
10. woorizip puppy is cute
11. Only Cicadas
12. Summer

※CD

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Otis Lim 『Playground』
Release Date:2025.03.05 (Wed.)
Label:P-VINE
Cat.No.:PLP-7519CO
Price:¥4,950 (Tax in)
Tracklist:
1. Body Ache
2. JAMI (feat. THAMA)
3. Give Me the Night (feat. Jay Park)
4. Ciel Laughed, Too
5. Me and My Dog’s Story
6. George Clinton Is Playing at My House
7. FEELING!
8. (sigh) Finally, The Alley Has Now Become Quiet
9. Half Asleep (feat. Peakboy, hiko)
10. woorizip puppy is cute
11. Only Cicadas
12. Summer

※LP(初回生産限定盤/クリアオレンジヴァイナル仕様)

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