DYGLとの2マン公演という形で、今年2月に念願のOnly Real来日公演が実現した。
Niall GalvinのベッドルームからスタートしたこのOnly Realは、2012年に発表した「Cinnamon Toast」、「Backseat Kissers」でメディアや早耳リスナーの注目を浴び、その後マイペースな活動を続けながらも着実に認知と支持を拡大。シングル、EPのリリースを挟みながらも2015年には待望の1stアルバム『Jerk At The End Of The Line』を、なんと大手〈Virgin UK〉からリリース。そのようにして、順調にステップアップしているように見える彼の次なる一歩を探るべく、SpincoasterではNiall本人とコンタクトを取ることに成功。
初来日公演の会場となった渋谷WWWXの楽屋にて行った今回のインタビューでは、自身のルーツ的な部分から今後の展望まで、包み隠さずに語ってくれた。
Interview by Aoi Kurihara
Photo by Takazumi Hosaka
―初めての日本はいかがでしょうか?
Niall:着いてから今までノンストップで遊んでるんだ。すごい楽しんでるよ! 今日はこのライブ・ハウスに来るまで寝てたけど、他の日には美味しいモノを食べたり代々木公園に行ったりもした。あれは本当によかったね。あとは、カラオケにも行ったし……ほら、昨晩は君たちのバー(Spincoaster Music Bar)で飛び入りでDJもさせてもらったしね!(笑)
―Instagramには「Lost In Translation」とコメントを付けた写真をUPしていましたが、そういった映画や小説などを通して抱いていた日本に対するイメージと、実際のイメージの間にギャップはありますか?
Niall:確かに映画と実際のイメージは少し違うと思う。特にあの映画(『ロスト・イン・トランスレーション(原題:Lost In Translation)』)はスロー・ペースだからね。ウィスキー片手にして東京の夜景を眺めている、みたいな。
―最近、本名であるNiall Galvin名義で「Ms Laurent」や「The Moon is Ours」といった楽曲を公開していますが、なぜOnly Realではなく本名で活動を始めたのでしょうか?
Niall:単純にこれまでとは違うスタイルで曲を作りたかったんだよね。もっと歌いたかったし、Only Realとは完全に別物なんだ。僕自身が新たなステージに立ちたいと思って、この名義で曲を書き始めた。レーベルのこととか、Only Realでの音楽活動のこととか、色々な物事に対して、これからどうしようかなって考えてるべき時期だったんだ。それで、もっと自由なことをやろうって。
―確かにNiall Galvin名義の曲は、Only Realのサウンドに含まれているヒップホップ的要素が減り、ノスタルジックでローファイな要素が増したサーフ・ロックとでも言えるようなサウンドですよね。こういったスタイルに辿り着いたキッカケは?
Niall:僕はただ常に違うスタイルの音楽を作っていきたいと思っていて。それでこういった音楽をやろうと決めて、本名名義でのリリースにしたんだ。でも、ラップすることを止めようと思ったわけではないよ。次のアルバムではもっとヒップホップであったりラップの要素があると思う。これはただの小さなサイド・プロジェクトのひとつだよ。
―ということは、すでにOnly Realとしての2ndアルバムの構想があったり?
Niall:うん、今まさに書いているところだよ。KlaxonsのJamie Reynoldsと一緒にやっているんだよね。まだ方向性を探っているっていう感じなんだけどね。ただ、前作よりもギターを減らして、ピアノで音楽を作っているんだ。デビュー・アルバムの時よりもバンド的な要素は減って、よりヒップホップに近づくんじゃないかな。
―ちなみに、最近のヒップホップのアルバムでお気に入りはありますか?
Niall:今だったらグライムがいいよね。UKではグライム・シーンが盛り上がっていて、僕もNovelistの大ファンなんだ。あとはAJ TraceyとStormzy。あと、ヒップホップだったらChance the Rapperかな。
―そういえば、あなたはNARUTOなどの日本のアニメが好きだそうですね。そういったアニメもあなたの音楽へ影響を与えていると思いますか?
Niall:日本のアニメというか昔のカートゥーンからの影響は最初の頃の音楽に表れているかも。ポップな感じだし、僕自身もカートゥーンのキャラぽいだろ? 実際はもう大人になったから、今はそこまでチェックしてないけど、Only Realには確かにそういうキャラクターっぽさもあるかもね。
―以前の曲はティーンや若者の心情を歌ったものが多かったですよね。今言っていたように、大人になったことは楽曲制作や歌詞に表れていると思いますか?
Niall:歌詞はこの3年で変わったものもあるけれど、変わっていないものもある。相変わらず「愛」についても書き続けているしね。でも、今作っているものはもっとダークなものになっていると思う。だって、もう僕はキッズじゃないからね。
―Only Realってハッピーなイメージだから、ダークになっていくっていうのは少し意外ですね。
Niall:うん、そうだね。でも、落ち込むような暗い曲を作るってわけではないからさ。ただ、もっと現実的な音楽になるってだけだよ。もっと人間臭くて現実的な歌詞になるんだ。
―ヒップホップが好きなあなたが、なぜ敢えてバンド形式を取り続けるのかを教えてください。
Niall:僕はヒップホップと同様にバンドが好きだし、ギター・ミュジックも好きなんだ。だから、バンドという形式をとる方が僕にとっては自然なんだよね。グライムみたいな曲も作れるかもだけど、僕はグライムのラッパーじゃないし。あくまでもバンドがやりたかったんだ。
―そうすると、あなたの音楽的なルーツはどこにあるといえるのでしょうか?
Niall:若い頃はピアノのレッスンを受けていたんだけど、それがおそらく僕のミュージック・ライフのイントロダクションだったんだと思う。それでジャズ〜クラシックから影響を受けたんだ。それから成長するにつれてヒップホップもたくさん聴いていたんだけど、同時にYo La TengoだったりDeerhunterみたいなインディ・バンドも聴くようになってさ。
―そういえば、Lou Reedからも影響を受けているようですね。そういったクラシカルなロックからの影響も?
Niall:もちろん。The Velvet Undergrondも大好きだし、T-Rexとかもね。
―ChildhoodのLeoとは幼馴染で、Only Realのバンド名も彼の提案だったようですね。「ふたりで何か一緒にプロジェクトをできれば」と語っているインタビューを読んだのですが、今それは進んでいますか?
Niall:そうだね、彼とは古い友達でちょっとだけ一緒に曲書いたり色々やったりはしているんだけれども、本格的なプロジェクトとかはまだスタートしていないね。でもスプリット・アルバムだったり一緒にバンドやれたらいいなとは思う。まあ、ChildhoodとOnly Realは確かにテイストは似ているかもしれないけど、細かいところでは結構好きなものとかも違うからね。
―最近のUKのインディー・シーンはどうでしょうか?
Niall:今は変化の時期だと思うんだ。僕やChildhood、Palma Violets、Splashhとかがいた時代から、shameみたいな新世代へと移り変わってきているなって。具体的なトレンドでいえば、サイケデリックでサーフっぽい音から、もっとアグレッシッブでパンキッシュな音が支持されるようになってきていると思う。もちろん、それは素晴らしいことだよね。shameのライブは本当にクールだし、新しい世代が出てきていることは、本当に素晴らしいことだと思う。
―確かにそういった新人バンドが台頭してきているようですが、一方では”BBC Sound of 2017″や他のUKメディアの今年の新人リストを見ると、数年前とは異なり、バンドは影を潜め、ラッパーやソロ・シンガー、もしくはプロデューサー・タイプのアーティストばかりがノミネートされているのが事実ですよね。そういった状況についてはどう思います?
Niall:それも素晴らしいことだと思うよ。数年前よりもそういったラッパーとかがメインストリームのメディアで取り上げられるようになったし、広く認知されるようになった。それによって音楽の可能性もどんどん広がると思うからね。
―ただ、そういった今のUKの状況は、私のようなインディ・ロック・ファンからすると少し哀しいことかもしれませんね。
Niall:そうだね。でも、多様な音楽が広がっていくこと自体はとてもいいいことなんじゃないかな。
―今回のインタビューも、レーベルやマネージャーを挟まず、あなた自身と連絡を取り合い実現しました。今現在、Only Realは自分自身でマネージメント、プロデュースをしているのでしょうか? 実は先日YakのOliにインタビューをした際に、「イギリスではDIYなバンドが少ない」という話をしていたのですが、あなたは実際そう思いますか?
Niall:確かにアメリカの方がDIYなバンドが多い気もする。Chance the Rapperも自分でインディペンドにやっているしね。でも、僕はDIYで活動していくかどうかはあまり問題じゃないと思っていて。要は上手くアーティスト活動が回っていくやり方が確立されているなら、形式はなんだっていいんじゃないかなって。
―今回の来日公演はDYGLとの2マンという形式ですが、彼らとはどのようにして交流を深め、今回の来日が実現したのでしょうか?
Niall:最初に知ったのは日本の雑誌・nero(音楽を中心としたアートとカルチャーを扱う雑誌)での対談がきっかけだね。DYGLのNobu(Nobuki Akiyama)とそこで初めてコミュニケーションを取ったんだ。それで彼がロンドンに来た時に会って、一緒にショーをやりたいなって話をしていたんだけど、それが今回ようやく実現したんだ。彼らの音楽は素晴らしいよね!
Olly君とOnly Realが表紙のnero UK issue、新宿シネマカリテでも先行発売しています ?✨✨ pic.twitter.com/SUUn1zaWLN
— nero (@magazine_nero) 2015年8月23日
―最後に、日本のファンにコメントを頂けますか?
Niall:本当に……素晴らしすぎるよ。Only Realとしての最初の数曲をベッドルームで作っていた時なんて、日本はもちろんアジアの国にツアーしに行けるなんて夢にも思っていなかった。みんなありがとう。あと、美味しいご飯にもありがとうを言わなきゃね(笑)。