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INTERVIEW / NAGAN SERVER


「何度も諦めてきた。しかし、辞めようと思ったことはない」――多様なキャリア、経験から生まれたNAGAN SERVERの哲学。

2020.12.04

ヒップホップとジャズにルーツを持ち、ラッパー/ウッドベーシストという異色の肩書き/キャリアを持つ音楽家、NAGAN SERVER。これまでに3枚のオリジナル・アルバムをリリースしているほか、精力的にライブ活動を展開。2019年には『FUJI ROCK FESTIVAL』やGEZAN主催の『全感覚祭』出演するなど、シーンやジャンルを横断した活動を展開している。

2020年はビートメイカー・FKDのアルバム『editoreal』への参加やSATTU CREWとのコラボ曲「MAD BLACK」発表で注目を集めつつ、コロナ禍以降もアーティスト支援企画『origami Home Sessions』を利用しての新曲リリース、大型配信ライブへの参加など、困難な状況でもその歩みを止めることなく前進し続けている。

今回はそんなNAGAN SERVERがこれまでの音楽活動を経て確立した芯を聞くと同時に、連続リリースとなったJambo Lacquer、Aaron Choulaiとのコラボ曲、そして今後の展望まで、様々なトピックについて語ってもらった。(編集部)

Interview & Text by Naoya Koike
Photo by Takazumi Hosaka


「大事なのは、自分が新しいと思えるかどうか」

――コロナ禍で活動はどう変化しましたか?

NAGAN SERVER:以前はライブをしていなかった月が無かったくらいで、この数年は常に全国を回っていたんです。なのに、今は3、4カ月ほど空いていて。最初の2カ月は焦りもありましたが、頑張らずに諦めようと。ライブが無くてもできることは多くありますし、コロナ前と後とでは世界が変わっているので、同じ構成で演奏してもおもしろくない。リスナーもそうだと思うし、僕も新しいものを常に提示していきたいので。

今は「次にライブをした時に進化してたらOKでしょ?」くらいの余裕がありますね。だから、ソロのライブは来年からスタートしてもいいのかなと。でも感覚が鈍るのが嫌なので、セッションには顔を出しています。

――2カ月連続の配信リリースもその流れのなかにあると。

NAGAN SERVER:そうですね。まず関西でお世話になった仲間と曲を出したいという想いが強かったので1発目の「You feat. Jambo Lacquer」でした。なので、プロデューサーのPhis Light ジャケットのGURU KATOも関西。第2弾は東京で出会ったAaron Choulaiと作りました。次はdhrma(EPISTROPH)と一緒に作ります。彼とは以前「see the star」という曲を作りましたが、常に新しいものを発見して生み出していける仲間と思っています。

NAGAN SERVER:当初は連続リリースにするつもりではなかったのですが、マネージメントしてくれているルンペくん(IN THE FLIGHT inc.)と話していたノリでそうなりました。彼はバックDJみたいな存在で、「やりたいことを100パーセントやって。それを助けるから」と言ってくれるし、「こういうのおもしろいんじゃない?」というアイデアも出してくれる貴重な相方です。

――Aaronさんとの「sign」について、もう少し詳しくお聞きしたいです。アブストラクトなビートの上でラップされているのが印象的でした。

NAGAN SERVER:もともと4曲ほど候補があって、もっとジャズなビートもありましたが、Aaronと作るなら尖ったものにしたくて。でも個人的にこのビートはポップですね。そのなかで彼のピアノの存在によってジャズの要素が入っています。だから僕らがリリースする意味があるし、自分らしさが出せるトラックだと感じました。

Aaronに仕上がりを聴かせたら「SAC!」(Sexy Aaron Choulaiの略)って返事がきました(笑)。彼とはリリースとか関係なく、他にも色々な曲を作っていますが、常にノリで作っている感じです。自然体で作っていくなかで、偶然に作品として出せた、というくらいでいいかなと。

僕にとっては「皆に聴かせたい」というのが初期衝動なんです。「こういうのが流行っているから、こういう音楽をやろう」とかはどうでもよくて。大事なのは、自分が新しいと思えるかどうか。ウッドベースを持ってずっと音楽を続けていきたいですし、今から出てくる若い可能性ともどんどん混ざっていきたい。


「視界が開けたのは、自分の感情にウソなく生きようと思った時」

――ジャズ・ベースの世界も相当ディープだと思うのですが、初めてベースに触れて難しいと感じることはありませんでしたか。

NAGAN SERVER:ベースもやったこともないのにジャズのレコードに影響を受けて、20歳の時に安いウッドベースを買ってしまったんですよ。それからジャズメンに1年習いましたが「ラップと一緒にするのは不可能だ」と思い、一度は辞めてオブジェになりました。それから当時運営していたレーベル・ショップに飾っていたのですが、店が少し暇になった時に「これは弾かないと宝の持ち腐れになるな」と。

それから「どんなにミスっても人前で演奏する」と決めて、1年間やりこみましたね。大好きな鈴木勲さんと共演した際サインを書いてもらいましたし、このベースでやらなきゃという使命感があります。鈴木さんは今87歳ですが、常に今を生きている方。自分もそうありたいし、彼を見て遅いということはないと思えたんですよ。

特にこだわっているのは音。安い楽器でもウッド本来の音にしたかったので、indigo jam unitの代表 立岩さんのお店(basis records)でピックアップやケーブル、プリアンプの組み合わせを考えました。悪くて土臭い音を出したいんですよ。ただ「もっと上手くなりたい」という気持ちも同時にあります。ラップもベースも上手くなりたいから、まだまだですね。Miles(Davis)も言ってましたが、練習はしなきゃダメ。

――若い世代も含めて、ジャズ・シーンは上手い人が多いですよね。

NAGAN SERVER:若くて上手い人がたくさん出てきているので、教えてもらってます。自分の味で勝つしかないですよね、ジャズのセッションしたらナメられますから。「おまえはラップだけやってろ」と未だに言われることもあります。Aaronも酔った勢いで「SERVERはベーシストなの? ラッパーなの?」とか言ってきますし(笑)。

でも、挫折しながら成長していきたいですね。ラップもそうでした。グループを組んでいた頃は人との価値観の違いによく悩み、色々な言葉に惑わされたりして。視界が開けたのは、自分の感情にウソなく生きようと思った時で、やっと自分の音が出せるようになった。

――確かにSERVERさんは色々な人と演奏して、特定のコミュニティに属していない印象です。

NAGAN SERVER:属さない方が自分を出せるなと思ったし、仲間意識が強すぎて外の人が入ってこれない雰囲気になるのが嫌なんです。コミュニティのサウンドがあるヒップホップ文化はもちろん好きなんですけど、自分はひとりでしか生み出せないものを常に作りたい。孤独ではなくて孤高ですね。

ただ東京に来てからはコミュニティではないのですが、Aaron ChoulaiやFKD、石若駿、仙人掌くんなどミュージシャンたちが近場に住んでるのでよく遊んでます。僕みたいにそれぞれが色々なところでセッションしているので、たまに集まって飲むくらいの関係が心地良くて。

――他に今まで共演したなかで印象深かった人はいますか?

NAGAN SERVER:KenKen(RIZE)とトランペッターのドクター長谷川とはレギュラー企画『ランチキンスキン』を一緒にやっていました。リハーサルなしで40分セッションする、という超ファンクなイベントです。毎回ドラマーが代わったり、出演者が変わるなかでラップをやるのはおもしろかった。妖怪プレイヤーたちなので、生半可な演奏をしたら殺されますよ(笑)。間違えてステージに立った人は怒られたりするくらい。

色々な人が融合するところが僕にとってジャズに近かったんですよ。曲が決まってないので、着地点は目線だけ。その空気を読んで出るときは出なきゃいけないし、読めずに出すぎたら「めっちゃ出てるやん」という感じになる。その空気感が理解できるようになったのは彼らと演奏したおかげですね。

――川谷絵音氏と新進気鋭のギタリスト・ichika nito氏を擁するichikoroに客演された経緯も教えてください。

NAGAN SERVER:もともと川谷くんが僕のアルバム『-sen-』を吉祥寺WARPに併設するCDショップで見つけて、聴いてくれていたんです。それで突然「ichikaくんとのプロジェクトで曲を作ってほしい」とNabowaの奏くんを通してオファーしてくれました。最初はあまりにも自分とかけ離れ過ぎているし、どういう人なのかわからないと共演できないので、「とりあえず会いましょう」とお伝えして。

NAGAN SERVER:実際に会って彼の目を見た時、「本当に自分とやりたいんだな」ということがわかったので引き受けさせてもらいました。自分と違う様で実は同じ色を持っていると感じたんです。メロディが複雑なので、ラップを作るのは難しかったですね。日本語を載せると違和感があって、英語の方がマッチするんじゃないかとも思いました。

正直なところ、メジャーな人とのコラボについて「何でやったの?」という声もあったんですよ。でも、自分は分け隔てなくフィールしたら有名、無名かかわらず一緒に作ります。

――なるほど。では、ご自身の多彩な音楽の要素を言葉で表すとしたら?

NAGAN SERVER:「Hybrid」「Inspiration」「Experiment」ですね。やはり音楽性としてはジャズとヒップホップがルーツとして大きいので、それが匂わないと自分ではなくなってしまいます。でもエレクトロニカ、アンビエント、現代音楽などにもジャズの要素を感じることも沢山あるんですよ。Steve Reichも、自分の音楽的なサークルに入ってて。ひとつの音楽に特化するタイプではなくて、基本的にはカッコいいと思ったものがいい、というくらいでしかないんです。


「諦めはもう通り越している」

――SERVERさんは服のセンスも良いなと思うのですが、ファッションと音楽について思うことはありますか。

NAGAN SERVER:表に立つ人間って音よりも先に風貌が出るじゃないですか。だから着飾っていた方がいいし、服のこだわりは音にも出る。僕にとって服は楽器と同じくらい大切なものなんです。服に着られている人もいるし、楽器に振り回されてしまう人もいる。「今日だけスペシャルな格好してるな」というのも見れば分かりますから(笑)。Milesも1日3回着替えたらしいですし。彼に影響を受けたわけではありませんが、スタイルにこだわっている人はそれくらい自分が見られることを大事にしている気がしますね。

ジャズも昔の楽曲が継承されて今があるじゃないですか。服も同じように、ヴィンテージものとか昔のものを取り入れています。やっぱり当時にしかできない染とか色合いがあるんですよ。今日着ているのも古着とブランド・ミックスで、レコードをディグするように古着も常にディグしています。もちろん現行のブランドや、10代からお世話になっている〈TIGHTBOOTH PRODUCTION〉という仲間のブランドも着ますが。

ただ、何においても“今”を追いかけてばかりだと薄っぺらくなる。昔を知ると深みが増すじゃないですか。ある程度のルーツを知ることは大切だと思っています。

――サステナブルな活動を目指すなかで、続ければ続けるほど辞めていく人や一緒にやらなくなる人もいると思います。寂しく感じることはないですか。

NAGAN SERVER:辞めてもいいんじゃないかなと思います。またやりたくなったら、戻ってくればいい。それくらいドライですね。その人から最初に出た「辞めたい」という言葉が答えだと思うんですよ。「諦める」とはまた違う、相当な覚悟だと思うので。ただ自分に相談してくれたら、次の人生を聞いて「いいんじゃない?」と声をかけて応援したい。

ちなみに僕は「辞めよう」と思ったことがないです。作品を作る毎に次が見えるので、もし辞めたいと言う時はそれが見えなくなった時かもしれません。ただ諦めはもう通り越しているんですよ、もう何度も諦めてきましたからね(笑)。

――最近はカナダの〈Inner Ocean Records〉というヒップホップ・レーベルからもリリースを行うKazumi Kanedaさんともコラボレーションしています。このコラボについても最後に教えてください。

NAGAN SERVER:彼はもともとビートメイカーで、30歳からピアノを始めて10年間毎日引きこもって練習して、最近表に出る様になった人。彼からInstagramでDMをもらって、会って話してみたら、楽器をスタートした年齢も遅いし境遇が似てるなと。それで一緒に作ってみたら何曲もできてしまったんです。それから同じピアニストでビートメイカーのAaronにも紹介しました。そういう関係性も大事にしながら音楽を続けていきたいですね。


【リリース情報】

NAGAN SERVER 『sign』
Release Date:2020.10.28 (Wed.)
Tracklist:
1. sign

NAGAN SERVER オフィシャル・サイト


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