「〇〇で生まれたから〇〇音楽をやらねばならない」というドグマから解き放たれたプロジェクトが世界中で次々と立ち上がっている。モンゴル出身のDulguun Bayasgalanによるインディロックプロジェクト・Magnolianはそのひとつだ。
The NationalやBon Iverなど2000年代以降のUSインディをインターネットなどを経由して浴びた青年は、2015年にシングル“Someday”でデビューすると、翌年のEP『Famous Men』が海外メディアからも高い評価を受け、以降も日本や北米など各国のフェスティバルに出演。2020年には〈AntiFragile Music〉からアルバム『Slow Burn』を発表し、収録曲“The Bride & the Bachelor”はSpotifyで1,300万回以上再生され、Netflixドラマ『Outer Banks』でも使用された。
また2025年には小島秀夫監督による『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』に楽曲“Woods”を提供し、さらに大きな注目を集めた。その後半で聴こえる、麗らかな馬頭琴の音色。そこにはMagnolianというプロジェクト──そもそも、このステージネームの由来はモンゴリアン(Mongolian)との類似性に端を発しているという──が、彼自身のモンゴル人というアイデンティティとの距離感が込められている。分かちがたいルーツと、国境を越えて共有されるインディロック。その間に立つMagnolianは、自身の音楽を通して何を見つめているのか。音楽的ルーツから『DEATH STRANDING 2』への“Woods”の提供、さらには本楽曲の収録されている最新アルバム『Supermarket Daydreams』のコンセプトやモンゴルシーンの現在についても訊いた。
※記事の末尾にはプレゼント企画も掲載
Interview & Text by Ikkei Kazama
Interpreted by Miho Haraguchi
Photo by Official
音楽に支配されていた10代、USインディとの出会い
――過去のインタビューから、あなたはモンゴルという土地に根差した音楽よりも、むしろ2000年代以降のUSインディ──The NationalやBon Iverなど──からの影響をしばしば強調していますよね。
Magnolian:そうです、私の10代は音楽に支配されていました。眠るときも音楽を聴いていましたし、朝起きるとすぐに音楽を再生していました。その頃の自分のアイデンティティといえば「音楽好きの人間」でしたね。ギターを覚えて、授業中に歌って、今にしてみれば迷惑な奴だったかもしれません(笑)。
The NationalやBon Iverを知ったのも10代でしたね。誰も知らないようなバンドを見つけようとしてインターネットやSNSを探し回っていたんです。同時に、私はテレビ番組からインディバンドを知ることも多かったんです。オタクっぽい青年がスパイになる『Chuck』というコメディドラマでインディロックが多く使われていて、そのおかげでBon Iverとも出会うことができたんです。あとは自分でプレイリストを作って、それをCD-Rに焼いていて友だちに配って……そういった昔からの文化もインターネットと同時に体感していました。
――なるほど、それで自身の原体験としてはUSインディの方が大きいと。
Magnolian:まさにそうです。今でも曲を作るときに「これはThe Nationalっぽい響きになっているかな?」みたいな基準を設けたりしています。インスピレーションが欲しいときに改めて聴き返すことも多いですね。
もちろん、新しいバンドも次々に出てきていますし、新譜もたくさん聴いています。アーティストというのは常に、自分の周りで起きていることに反応しているものだと思うんです。その時代の空気──ドイツ語で「ツァイトガイスト」と呼ばれるようなものですね──や時々のトレンドにも応答しながら音楽を作っているつもりです。
――直近のフェイバリットは誰ですか?
Magnolian:Mon Laferteですね、『Femme Fatale Vol. 2』は最高でした。St. Vincentと組んだ“While I Keep Writing Songs for You”を聴いて以来、彼女のファンなんです。個人的に英語圏以外の音楽を聴きたい時期なので、彼女のスペイン語がとにかくツボにハマりました。どこかチリらしい空気感を持ちながらも、同時に多くの人が親しみやすいポップさもあるんですよね。
あとは……(手元のスマートフォンで検索をする)Olivia RodrigoとかEthel Cainとか、Kanye West(Ye)の新作もよかったですし、Japanese Breakfastのアルバムも良かったですね。あとはJulia JacklinとかHermanos Gutiérrezとか、とにかくたくさん聴くようにしています。
――英語圏の音楽を中心に聴いていたからこそ、ご自身でもモンゴル語ではなく英語で歌うようになったんですね。
Magnolian:そうですね、カナダに留学していた経験も大きいとは思います。個人的に、モンゴル語より英語の方が得意なんですよ。それに、歌詞を書くのって本当に、とても難しいんです。数曲は(モンゴル語詞の曲が)ありますし、これからもっと歌っていきたいんですけど。
「自分のアイデンティティをより強く確認した」──デスストへの楽曲提供を経ての変化
――「Magnolian」というステージネーム──モンゴリアン(Mongolian)と非常によく似ていますね──にも表れているように、母国であるモンゴルとの距離感は常に念頭にあるのでしょうか?
Magnolian:そう、マグノリア(Magnolia/モクレンの花を指す)という単語と出会ったときに直感したモンゴリアン(Mongolian)との相貌性に今の自分はインスパイアされています。「人混みの中で見覚えのある顔を見つけたと思って近づいていったら、実は知らない人だった」みたいな感覚といいますか(笑)。活動を始めてアーティスト名を決めるとき、「自分のアーティストとしてのアイデンティティって何だろう?」と考え、「Magnolian」という名前を選んだのです。
というのも、私は英語を話して育ったので、ある意味で自分はモンゴルから見たアウトサイドにいる感覚がずっとあったんです。他方で、私がモンゴル人であることには疑いようがない。「Magnolian」という名前にはその違和感が込められています。普段曲を書くときも「モンゴルっぽくしよう」とは考えず、自分に素直に考えているだけで。例えば“The Bride & The Bachelor”のラストでは馬頭琴を使っていますが、最初にデモを作った段階では全く考えず、レコーディングの最中にたまたま思いついただけなんです。そのような要素を入れるのは構わないですけど、私の目的はモンゴル音楽を作ることではないんですよね。ただ直感に素直でありたいんです。
――『Supermarket Daydreams』に収録された“Woods”でも馬頭琴が使用されていますね。ここでも馬頭琴は伝統音楽のマナーというより、むしろバイオリンのように用いられており、Andrew BirdやGrizzly Bearのようにも聴こえます。
Magnolian:まさに、最初はバイオリンを入れるつもりだったんです。ただ、最終的にはメロディそのものが馬頭琴に向いてると思ったんですよね。
ただ、“Woods”に関しては、意図的にモンゴル的なサウンドを引き出したかったんです。小島(秀夫)さんの『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』のための曲ということもあって、何百万人もの人に届く作品であることを想定して、あえてモンゴルの響きを入れることは非常にインタレスティングなんじゃないかと。
――『DEATH STRANDING 2』への提供を通じてアイデンティティを再発見したというか。
Magnolian:正確には「自分のアイデンティティをより強く確認した」という感じで。この曲を書いたあと、「これこそ自分の音楽だ」という実感があったんです。「『DEATH STRANDING』シリーズに音楽を提供してほしい」というオファーを貰ったこと自体は自分の活動に対する最大級の評価ですし、結果的に『DEATH STRANDING』シリーズのために“Woods”を書いたことも大きかった。これまで書いた中でも間違いなく最高の曲のひとつだと思います。歌詞もメロディも、全てが噛み合っています。
最新アルバムで描いた「日常の中に美しさを見つける尊さ」
――なるほど。その“Woods”も収録された『Supermarket Daydreams』ですが、これはご自身のアイデンティティとどのように結びついたアルバムなのでしょうか?
Magnolian:『Supermarket Daydreams』ではありふれた日常の中に美しさを見つける尊さを描いています。というのも、私はいたって普通の日常を送っているんです。幼い息子を学校に連れて行ったり、それこそスーパーマーケットに買い物に行ったり。アメリカに住んでいたので、車に乗ることも多かったですね。
世の中には、失恋や別れについて大きなラブソングを書く人がいますよね。でも、それは私自身の人生経験とはあまり重ならなかった。やはり、私は正直なものを作りたいだけなんです。私にとって真実味があるのは、例えばひとりで車に乗ってスーパーマーケットへ行ったり、特別おしゃれでもない服を着てテレビを見ていたり、眠れなくてベッドで夜通し起きていたり、それでぐったり疲れてしまったり。
最初からアルバム全体のコンセプトを決めていたわけではありません。まずメロディから始めて、インストを作って、歌詞を書く。そうして曲を書き終えたあとに、「ああ、もしかしたらこの曲はこういうことについて歌っているのかもしれない」と気づくんです。実は『Supermarket Daydreams』というタイトルにする前は、別のタイトルにしようと思っていたんです。アートワークも別のものを考えていました。だけど作品を全て作り終えた段階で、アルバムで言いたかったことがわかった。結局のところ、全てはありふれた日常の中にある崇高さや美しさを見つけることに繋がっているんだと、そこでようやく気づいたんです。
――『Supermarket Daydreams』でのありふれた日常をインディロックに乗せて歌うというアイデアは、先ほど仰っていたアウトサイドにいるアーティストだからこそ為せる芸当なのではと。
Magnolian:なるほど。今はインターネットがありますし、あらゆるものが以前よりずっと簡単にアクセスできるようになっていますよね。もちろんその中にもインディロックは含まれている。それによって、アジアのバンドたちの間では「国境の開かれた音楽」のような概念が生まれているような気がしているんです。Magnolianもその運動の一部にあるとは確実に思います。私はモンゴル人であり、アジア人でもある。それと同時にインディロックを作っている。そして、自分が作った音楽が、モンゴルはもちろん、ヨーロッパやアメリカ、さらには日本にいる方にも届いている。すごく重要な流れだと思います。

多様化する自国の音楽シーンの現状と、今後の課題
――ローカルな文脈としては、「Fat Cat Jazz Club」というライブハウスをモンゴルで運営しているとお聞きしました。この活動にはどのような意義を感じていますか?
Magnolian:Fat Cat Jazz Clubはアートのための文化施設だと思っています。ライブハウスでもあり、バーでもあり、クラブでもある。そしてそれ以上に、アートのための場所でもあるんです。ミュージシャンが観客の前で演奏し、観客と繋がれる場所にしたかった。そして、観客側もモンゴルのアーティストを知ることができるような場所にしたかったんです。
私たちはFat Cat Jazz Clubで毎晩ライブをやっています。ミュージシャンにとって、ここは実際にステージに立って演奏する練習ができる場所でもあるんです。自分の部屋で演奏するのと、人前に立って演奏するのでは全然違います。ステージに立って、人前で何度も演奏する経験が必要なんです。Fat Cat Jazz Clubは今年で8年目になりますが、ここで演奏していたアーティストの中には、その後に大きな音楽キャリアを築いていった人たちもいます。もちろん、全てが自分のおかげだと言うつもりはありませんけど。
――これからモンゴルのインディシーンはどのように展開していくと思いますか?
Magnolian:特にロックはますます多様になっていると思います。20年前はバンドなんてほんの一握りしかいなかったんです、『Playtime Festival』(毎年7月にウランバートルで開催されるモンゴル最大級の音楽フェスティバル)でもみんなThe StrokesやArctic Monkeysの曲をカバーしていました。
でも、今は色々なバンドが、それぞれのジャンルを自分たちなりに解釈したサウンドを探し出しています。シューゲイザー寄りのバンドもいればパンクバンドもいるし、メタルバンドもたくさんいる。色々な音楽を聴いて、そこから刺激を受けて、それぞれバンドを始めている。そしておもしろいバンドがどんどん出てきているんです。
そして、モンゴルのアーティストにとって次のステップに進むためには、音楽産業そのものをもう一段階上げることが必要なんです。まだシステムの部分が追いついていない。エージェントやマネージャーはもっと必要だし、舞台裏を支える業界そのものが成熟していかなければならない。ステージを支えるプロフェッショナルたちが成長して、モンゴルのアーティストたちをサポートできるようになれば、彼らの音楽をモンゴルの外にいるリスナーにも届けていくことができるようになると思います。
――最後に、ご自身の展望についても教えてください。直近では青木カレンさんとのコラボ作品をリリースするとお聞きしました。
Magnolian:(青木)カレンとは〈Rambling RECORDS〉のおかげで知り合うことができました、この前もモンゴルで食事をして、Fat Cat Jazz Clubへ行ったんです。
作品は5曲入りのEPになる予定です。制作は2023年からスタートし、全てリモートで行いました。当時、私はLA、カレンは東京に住んでいました。私がアイデアを送ると、数時間後にはカレンが新たに録音したボーカルを加えて送り返してくれたんです。
カレンは日本のジャズシンガーで、私はモンゴルのインディロックシンガーですが、コラボレーションはとても自然に進みました。Magnolianとして普段書く曲とは大きく違う曲を作れましたし、カレンも普段とは異なるスタイルを探求できたので、とても楽しかったです。このEPをとても誇りに思っていますし、みなさんに聴いていただくのが楽しみです。

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— Spincoaster/スピンコースター (@Spincoaster) September 30, 2026
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【リリース情報】

Magnolian『Supermarket Daydreams』
Release Date:2026.06.26 (Fri.)
Label:Magnolian
Tracklist:
1. Big Machine
2. Woods
3. Supermarket Daydreams
4. The Minimum
5. St. Petersburg
6. Supersonic/Psychedelic
7. Walk the Fire
8. Hush Hush
9. Darling
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Magnolian & Karen Aoki『A Dream That Felt So Real』
Release Date:2026.09.30 (Wed.)
Label:RamblingRECORDS
Tracklist:
1. A Dream That Felt So Real
■Magnolian:Instagram














