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INTERVIEW / Lucky Kilimanjaro


2年半の沈黙を経て『Favorite Fantasy』を完成させたLucky Kilimanjaro。フロントマン熊木幸丸にこの2年間とバンドの現在を訊いた

2017.11.26

駆け出しのアーティストにとって、2年という年月は大きく状況を変えるのに充分な期間であり、とても貴重な時間である。それが実現できるのは一握りのアーティストと言えど、Suchmosや水曜日のカンパネラ、never young beachなどといったアーティストの2年前の状況と今を見比べれば、それはすぐに理解できるはずだ。

Lucky Kilimanjaroも彼らと同じ時期に我々の耳に届き、2015年の8月にはSuchmosやGLIM SPANKY、Ykiki Beatらと並びApple Musicの〈NEW ARTIST スポットライト〉にも選出されている。当時、シーンを駆け上がっていくバンドの1組としてLucky Kilimanjaroに期待した人も少なくはないだろう。

しかし、Lucky Kilimanjaroはそうなることはなかった。それどころか、ブッキング・イベントのライブ活動をいくつかこなすだけで、新しい音源はライブ以外で届けられることもなかった。他のアーティストや新しいアーティストが次から次に作品を発表する今日、音源がリリースされないというのは、この流れの早い今の音楽シーンを駆け上がるには致命的な差を生む。

それだけに、Lucky Kilimanjaroがおよそ2年半ぶりとなる2ndアルバム『Favorite Fantasy』をリリースすることが発表された時、正直ホッと胸を撫で下ろした。彼らもようやく前に進むことができたのか、と。そこで今回、バンドの中心人物である熊木幸丸にインタビューを敢行。この2年間、Lucky Kilimanjaroは一体何をしていたのか、そして2年間の沈黙を経て産み出された『Favorite Fantasy』は、バンドにとってどのような作品なのか。率直に話を訊いたみた。

Text by Kohei Nojima
Photo by Takazumi Hosaka


――まずは、前作『FULL COLOR』から『Favorite Fantasy』までおよそ2年半という長い月日がかかってしまいましたが、なぜそうなったのかを教えてください。

熊木:前の作品を出した直後にとあるレーベルからお話を頂き、昨年の夏頃には2枚目をリリースをする予定で動いていました。しかし、諸事情でそのレーベルからリリースできなくなってしまって。その後、改めて自分たちだけで動くことになり、制作を始めて1年ぐらいで今って感じですね。なので前作リリースしてから1年半ほどは曲作りとライブくらいしかできず、アルバムに向けては何もできなかったんです。

――バンドとしてはかなり足踏みをしてしまっていた感じですよね。2015年の3月にnever young beachとLILI LIMITと対バンしていましたが、当時はまだ完全に横並びといった感じで、彼らと同じように大きくなっていく気がしていましたが、結果としてはかなり差がついてしまった。

熊木:そうですよね。もはや遅れを取ったというよりは、自分の中では再スタートに近い感じです。

――その期間、焦りやフラストレーションはありましたか?

熊木:作品が出せないということが一番辛かったですね。

――配信やSoundCloud、Bandcampなどでのリリース、発表といった方法もあったのではないでしょうか?

熊木:当時は1回1回しっかり出して行きたいという想いがあったんですよね。今は逆にペースを早めてガンガン出したいし、どんどんフィードバックをもらいたいっていうモードになってきてるんですけど。今回も最初は配信だけにしようかと思っていたくらいです。

――なるほど。『Favorite Fantasy』には「Fire」や「Frontier」など、かなり昔からライブで披露している曲も収録されていますよね。

熊木:そうですね。逆に「Favorite Fanatasy」と「Isolation」とかは新しめの曲です。「Favorite Fanatasy」は去年の11月には原案ができていて、今年の2、3月に完成したものです。

――楽曲の制作プロセスに何か変化はありましたか?

熊木:『FULL COLOR』の時もそうですけど、僕はわりとデモをしっかり作ってからバンドに持っていくタイプなんです。そういう意味では今回も変わってないですね。ただ、最初のデモを作り込む段階でよりビジョンが明確になった気がします。『FULL COLOR』の時はとりあえず作ってみて、バンドで合わせてどうなるか? って感じだったんですが、今は自分の中で完成形が見えてからバンドに持っていくので、色んなフレーズが入れられましたし、音色の絡まりがすごくよくなったと思っています。

――2年もあれば世の中のトレンドや自身の興味趣向も変わってくると思うのですが、そういう点での変化は?

熊木:実際に『FULL COLOR』と聴き比べると、全然違うアルバムだということは感じて頂けると思うんですが、根本的な自分の好きなポイントはあんまり変わっていないと思います。その上で何が変化したのかというと、自分の伝える手段やツールが増えたということだと思います。技術面もそうですし、色んな楽器を触ったり、もっと遠いところの音楽を参照にしたり。ただ、曲の中で歌メロを一番大切にしているという核の部分は変わっていないかなと思います。

――あとはBPMの遅い曲が増えましたね。

熊木:そうですね。だいたい僕らの曲はBPM123~126くらいで作っていたんですが、今回遅い曲を増やしたので、印象としてはしっとり聴こえるかもしれないですね。

――前作をリリースしたばかりの頃は、BPMの遅い曲はまだ当分は作らないと言っていましたよね。

熊木:そうですよね。それなのに、今回すごい自然にできたんですよね。遅い曲を作ろうと思ったわけではなく。……たぶん、BPMを下げても踊れるグルーヴの作り方がわかったのかもしれないですね。

――それはヒップホップやR&Bなど、BPM遅めのグルーヴを特徴としたサウンドが世の中のトレンドになってきたことと関係はありますか?

熊木:具体的なリファレンスがあったわけではなく、遅い曲を作ってみたらしっくりきた、という感じなんですよね。なので、外的な要素はあまりないかもしれないですね。

――今作ではEd SheeranやLORDE、The Prodigyなど、世界のトップ・アーティストがこぞって指名するというStuart Hawkes(スチュアート・ホークス)にマスタリングをお願いされています。

熊木:彼が所属するメトロポリス・スタジオは、オンラインでマスタリングをしてくれるサービスがあるんですが、それでお願いしました。使っている人は結構いるんじゃないですかね。日本は技術に対してクローズドな空気が強い気がするんですけど、海外は新しい技術をどんどん共有していこうというオープンな文化があるので、色々なスタジオがメールのやり取りだけでマスタリングやミックスをしてくれるんです。

――具体的はどのようなやり取りを?

熊木:「WAVデータとオーダーのドキュメントをここに投げてね」みたいな感じで、複雑なことはありません。キャッチボールもあんまりないんですが、やっぱりミックス前とは全然違うものになりましたね。

――そもそもなぜ、今回Stuart Hawkesにお願いをしたのでしょうか?

熊木:僕は海外の音が好きなので、一度海外の手法やフィルターを通して、自分の作品を聴いたり観たりしたかったっていうのが一番大きな理由だと思います。なので、今回はミックス、マスタリング、ジャケット、MVまでも海外の人にお願いしました。Stuart HawkesはDisclosureやChromeoなど、僕が大好きなアーティストのマスタリングを手がけているので、彼しかいないなと。

――まさに、ですね。実際に海外のフィルターを通してみて、どう感じましたか?

熊木:もちろん多少は向こうの色っぽくはなるのですが、結局は最初に自分が作ったものが一番大事だということに、やってみて気づきました。マスタリングやミックスだけで海外の音にはならないんだなと。自分の音はどこまでいっても自分の音、というか。逆に今度は日本の人としっかりやってみたいという気持ちも生まれましたね。

――海外のエンジニアからはどんなフィードバックを得たのでしょうか?

熊木:ミックスは向き不向きがあるので、色々な人とやってみたのですが、海外の人はとりあえず褒めてくれますね(笑)。
「このシンセのフレーズが好きだから、この音は上げた方がいい」とか「これは低いシンセの音を足したほうがいいよ」みたいなアドバイスをしてくれる人もいますし、何も言わずにしっかり仕上げてくれる人もいます。

――ミックスは複数の人にお願いしたんですね。特に「Frontier」は他の楽曲とはかなり異なった質感があります。

熊木:そうですね。「Frontier」だけ全然違う人にお願いしました。実は素材の音からして結構他の曲からは浮いていて。僕らも「Frontier」はちょっと異質な感じになったと思っています。ちなみに、Royal Conceptとかをやっていた人なんです。

――なるほど。「Frontier」だけはインディ・ロックっぽい感じがしたのですが、それも納得ですね。そして、ジャケットやMVはドイツのグラフィック・デザイナーにお願いしたんですよね。

熊木:ダニエル(DANIEL RAMIREZ PEREZ)ですね。元々モーション・グラフィックスとかがすごく好きで。色々ディグってみて、気になった何人かに連絡をしました。その中でもダニエルはかなり早い段階でラフ案を送ってくれて、それがすごくよかったので、今回はダニエルにお願いしました。

――あと、歌詞に関してですが、今回はすごくシニカルと言うか……なんか怒ってませんか?(笑)

熊木:前からシニカルな歌詞を書いているつもりではあるんですが……。「SuperStar」を作った時から捻くれていて(笑)。
何か生ぬるいというか、「何となく楽しい」みたいなのが嫌で。そういうものに対する怒りみたいなものはずっとある気がします。本当はみんな前に進みたいハズなのに、現実逃避をして、今の自分を守っている感じがすごく嫌というか。「本当はそれでいいわけないだろ!?」みたいな想いはずっとあります。今作で言えば、「Thunderbolt」とか「Channel」にはそいうものが全面に出ている気がしますね。かと言って、何か特別なことがあったわけではないんですが……。あとは、単純に前作の曲調にはそういう言葉があまりハマらなかったから、ポジティヴに見えてしまっていたのかもしれませんね。

――「笑わせないで 識者のフリしてSNS」とか「ため息の出るようなヒットチャート」とか、攻撃的で直接的な言葉が増えた気がします。あと、前作は男女の歌詞が多くてロマンチックなフレーズが目立っていた気がしたので、気付きにくかったのかもしれませんね。

熊木:確かに。否定的な言葉も増えましたね。「Hottest Lover」とか、今回も男女の曲もあるにはあるんですが、全体としては減りましたね。

――それに、否定的なフレーズは特に印象に残りやすいのかもしれません。歌詞に関して、メンバーから何か言われたりはしませんでしたか?

熊木:「さすがにそれは言い過ぎじゃない!?」って責められて、直した歌詞はあります。口が悪すぎるって(笑)。
あと、この2年間で自分が正直になったことも関係しているかなと思います。前まではスター的でありたいみたいな願望があったんですが、もっと人間臭くて素直でありたいという感じになってきたのもあるかもしれませんね。

――なるほど。では、冒頭の方で「再スタートに近い」とおっしゃっていましたが、Lucky Kilimanjaroはこの2年で大きく変わったと思いますか?

熊木:どうなんですかね。どっちの意見が出るか全然分からないんですよね。僕は地続きでいるので、大きく変わってはいないと思うんですが、どちらの意見もあって欲しいですね。

――バンドの状況はどうですか? ギタリストが替わったということもありますが。

熊木:大学生だったメンバーが社会人になり、働くようになったっていうのはありますが、バンドもあまり大きく変わった感じはないですね。『FULL COLOR』から本当に止まっているような感じでした。その分、ずっと制作やライブをしていたので、制作や演奏のスキルはかなり上がったと思います。みんなのモチベーションも、今はとても高い状態にあると思います。

――お金の面も含め、完全にDIYでやっている今の状況に対してはどうですか?

熊木:昔よりも自分で管理するようになってから、お金の流れがより明確にわかるようになりましたし、メンバーもお金を気にするようになりました。そういう意味で、DIYでやってよかったと思う部分も大いにありますが、別に今後も望んでそうしていたいというわけでもないですかね。この2年間色々あって、自分の周りの人もメンバーと同じ気持ちでやれる人でないといけないなと思いました。やっぱり優秀なバンドには優秀なスタッフがいますし、そういう風にやれるのが本来はベストかなと。それができないのであれば自分たちでやった方がいいって感じですね。無理やり考えが合わない人とやると、余計な部分で疲れちゃうのかなと思います。

――バンドのやり方が固まったのであれば、これからどんどん前に進められますね。

熊木:ほんとそうですね。自分たちの曲を自分たちでコントロールできるようになったのが一番嬉しいですね。もう、今すぐにでも次の作品を出したいくらいですし。

――ということは、曲はいっぱいできていると。

熊木:できています。今回のアルバムも元は12曲あったものを色々あって8曲に絞ったくらいなんです。2018年は2枚くらいアルバムを出したいと思っていますね。あと、実はソロでも曲を出したいと思っていて。できたものを時間を空けずに、配信とかでどんどん出していきたいですね。

――今はどんどん次を見ているって感じですね。では最後に、『Favorite Fantasy』のリリース・パーティについて。12月22日(金)の東京公演はDALLJAB STEP CLUB、TOKYO HEALTH CLUB、TENDOUJIが、1月6日(土)の大阪公演ではORLAND、the oto factory、Easycome、AFRICAが出演と、実に多彩なラインナップが揃っていますが、このリリパへの意気込みを教えてください。

熊木:大阪は“MAP”などを主催しているワディさんに協力して頂き、相談しながら進めています。東京は完全に自分たちだけでやっているんですが、どちらも自分たちが観たり聴いたりして。本当にカッコいいと思うアーティストに出てもらえることになりました。絶対に価値のある1日になると思いますので、年の暮れと年明けという大変な時期ですけど、新しいLucky Kilimanjaroをみせられると思うので、ぜひ遊びに来て欲しいですね。


【イベント情報】

Favorite Fantasy Release Party
日時:2017年12月22日(金)
会場:渋谷TSUTAYA O-NEST
料金:¥2,500 (+1D)
出演:
Lucky Kilimanjaro
TOKYO HEALTH CLUB
DALLJUB STEP CLUB
TENDOUJI

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日時:2017年1月6日(土)
会場:南堀江Knave
料金:¥2,500 (+1D)
出演:
Lucky Kilimanjaro
ORLAND
the oto factory
Easycome

and more……!


【リリース情報】

Lucky Kilimanjaro 『Favorite Fantasy』
Release Date:2017.11.22 (Wed.)
Label:B.F.N
Cat.No.:BFNLK-001
Tracklist:
1. Fire
2. Channel
3. Favorite Fantasy
4. Children
5. Thunderbolt
6. Isolation
7. Frontier
8. Hottest Lover

■Lucky Kilimanjaro オフィシャル・サイト:http://lucky-kilimanjaro.tumblr.com/


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