FEATURE

INTERVIEW / Lil Summer


福岡発の新鋭が語る、自身のバックグラウンドと表現の“核”

2023.04.22

タメの効いたゆったりとしたグルーヴに、吐息や音と音の隙間すらも味わい深く感じさせる妖艶な世界感。福岡拠点のSSW、Lil Summerが3月にリリースした初のアルバム『Rojo』は、シンプルながらも滋味深い魅力を湛えた一作だ。

『The Creators 2021』、『BAYSIDE FESTIVAL』といった地元・福岡の注目のイベント/フェスへの出演や、同都市の音楽シーンにおける重要拠点のひとつ、como esでのライブ活動などを経て、じわじわと認知を拡大させてきたLil Summer。アルバム『Rojo』には2021年にリリースした1stシングル「Dirac Sea」から全てのシングルに加え、新曲とリミックスも含めた全8曲を収録。その温かみのあるサウンドは親密感を感じさせながらも、新曲では自身の音楽性を拡張せんとする挑戦心も感じられる。

Lil Summerの東京滞在に合わせて行われた本インタビューでは、これまでの足取りからそのバックボーン。そして1stアルバム『Rojo』の制作背景まで、じっくりと語ってもらった。

Interview & Text by Takazumi Hosaka
Photo by Keigo Sugiyama


yonawoとの出会いを経て加速した音楽活動

――Lil Summerさんの音楽活動のスタートはDJだったそうですね。

Lil Summer:地元のNIYOL COFFEEというカフェでDJをさせてもらったのが一番最初ですね。高校生くらいの頃からDJに興味があって、色々な人に機材を譲ってもらったりして集めていたんです。NIYOL COFFEEは音楽イベントをたくさんやっているようなお店じゃないんですけど、オーナーさんが音楽好きで。仲良くなってお話しているうちに「ここでDJやってみれば?」って言ってくれて。

――当時はどのような音楽を聴いて、プレイしていたのでしょうか。

Lil Summer:自分的に真ん中にあったのはR&B、ネオソウル、ヒップホップなどで、それは今も大きくは変わっていないと思います。

――DJに興味を持ったのはどのような経緯で?

Lil Summer:なんでですかね……(笑)。親も音楽好きで、親の友人にはDJをやっている方もいたので、自然と「自分もやってみたい」って思ったんだと思います。

――今挙げてくれた音楽――R&B、ネオソウル、ヒップホップなどに興味を持ったのもご両親の影響が大きいのでしょうか。

Lil Summer:そうですね。記憶に残っているところでいうと、母はSWVなどの90’sのR&Bを子守唄代わりによく歌ってくれていて。今でもその時代のR&Bを聴くと安心するというか、自分の血肉になっているんだなと感じます。父も色々なライブやフェスに連れて行ってくれましたし、よくゲームもやっていたので、その影響でゲーム音楽も好きでしたね。一番最初に歌えるようになった曲は『Final Fantasy VIII』のエンディング曲「Eyes On Me」(Faye Wong)でした(笑)。

――音楽に興味を持ったのはとても自然な流れだったんですね。

Lil Summer:もちろん小さい頃はなんとなくで聴いてただけだったんですけど、高校生くらいになって昔から聴いてたD’Angeloのすごさに気づいたりして。

――早熟というかなんというか。ただ、そうなると同級生などと好きな音楽を共有するのは難しかったんじゃないでしょうか。

Lil Summer:中学生くらいの頃はBIGBANG、2NE1などのK-POPも好きだったので、そういった音楽は友だちと共有していましたね。ただ、学校でネオソウルやR&Bの話をするのは諦めてました(笑)。実際に音楽活動を始めたのも大学を卒業してからですし、それまでは趣味が合う人とは出会えなかったです。

――DJを始めて以降についても教えて下さい。どのようにして今のスタイルへと移行するのでしょうか。

Lil Summer:ちょこちょこ他の箱やイベントでもDJをやらせてもらえるようになって、yonawoがcomo esで(7インチ『矜羯羅がる / ijo (DMT MIX)』の)リリース・パーティを開催したときに、自分で曲を作ってるって言ったらその場で歌わせてくれて。人前で歌ったのはそれが初めてですね。

――オリジナル曲を歌ったんですか?

Lil Summer:いえ、そのときは荒ちゃん(yonawo/荒谷翔大)と一緒にDaniel CaesarとH.E.R.の「Best Part」をカバーしました。それがきっかけで、como esでライブをさせてもらえたり。

――作曲はいつ頃から始めたんですか?

Lil Summer:大学時代、NYに留学したことがきかっけですね。音楽大学ではないんですけど、DAWの使い方を学ぶ授業があって、興味本位で取ってみたんです。そこで知り合った友だちにも教えてもらいながら、手探りで作曲を初めてみました。楽器もそんな弾けなかったんですけど、その頃からギターやビートメイクにも挑戦するようになって。

あとはyonawoのメンバーが色々な人を紹介してくれて、福岡の音楽シーンと繋がることができたのも大きかったです。当時はcomo esに行けばいつも誰かしらに会えるっていう感じだったので。

――Instagramでは演奏動画などもUPされていて、それでLil Summerさんを知った方もいるのではないでしょうか。特に印象に残っている、もしくは反響の大きかった投稿などはありますか?

Lil Summer:AKAIのパッド付きMIDIキーボードを使って、Elizaの「Livid」という曲をカバーした投稿は、AKAIのオフィシャル・アカウントがリポストしてれたおかげで一番反響がありました。海外の方からのコメントももらえたり、こういうのはモチベーションに繋がりますね。もっと有名な、誰でも知っているような曲をカバーした方が広がるのかなと思いつつ、やっぱり自分の好きな曲をやっちゃうんですけど(笑)。

――Lil Summerさんの初のリリースは2021年発表の1stシングル「Dirac Sea」になります。

Lil Summer:当時、すでに5〜6曲くらいはデモが完成していて、そろそろちゃんとリリースしたいなと思ったんです。それでSPACE SHOWERさんに音源を送って、流通を担当してもらいました。

――アレンジにはSHAKYの小川朝陽さんと、meeさんという方がクレジットされていますよね。

Lil Summer:朝陽くんは曲だけでなくライブも含めてずっと一緒に活動しています。meeさんはCCS records.などと一緒に曲を作っている方で、2ndシングルの「Best & Worst」でも手伝ってもらいました。


これまでの足取りを辿るようなアルバム『Rojo』

――1stアルバム『Rojo』は先行シングルがリリース順に収録されていますよね。Lil Summerさんの足取りを改めて辿るような作品とも言えるのかなと。

Lil Summer:確かに。何か確固たるテーマやコンセプトを設けて、という感じの作品ではないので、わかりやすく時系列で並べた方がいいかなと思って。

――タイトルの『Rojo』にはどのような意味が込められているのでしょうか。

Lil Summer:スペイン語で“赤”を意味する言葉なんですけど、それもただ自分が好きな色ってだけで。特に深い意味はありません。

――アルバムには既発曲に加え、新曲「Way Out」も収録されています。こちらはLil Summerさんのディスコグラフィーの中で最もアッパーな曲ですよね。

Lil Summer:最近一緒に作っているビートメイカーの(小島)穂高さんと「ちょっとダンサブルな曲がほしいよね」って話してたんです。なので、私の方からいくつかリファレンスをお投げして、トラックを組んでもらいました。自分としてもしっくりきたので、今後はもっとこういうアッパーな曲も作っていきたいですね。

――Lil Summerさんの曲を元にトラックメイクしていくのではなく、一緒に作り上げていくというスタイルなのでしょうか。

Lil Summer:そうですね。彼との曲はほとんどがそういう方法で作っています。一緒に作業しながら曲調や音色について、その場で相談しながら組んでもらうことが多いです。

――作曲において、最初の種になるのはどういったものが多いですか?

Lil Summer:他のアーティストさんの作品やライブで刺激を受けると、自分も曲を作りたくなりますね。「私もこんな痺れる曲作りたい!」って思い立ってから、ビートメイカーの方たちにお声がけしたりして、一緒に作っていきます。

――そういうときって、その影響源となった他のアーティストさんの作風に引っ張られたりしませんか?

Lil Summer:多少はあるかもしれません。でも、いざ完成すると大体は(影響源となったアーティスト/作品とは)全くの別物になってるんですよね(笑)。

――なるほど。確かにLil Summerさんの作品って、1stシングルの頃からある世界観が確率されているような印象を受けました。

Lil Summer:あまり意識してないんですけど、自分の好きな音楽の真ん中がかなり固まっているので、どうしてもそこからは離れないんだと思います。ちょっとビート感が違うトラックに挑戦してみても、自分の好きな音色やコード感は譲れないので、そんなにガラッとは変わらないんですよね。

――その核にある部分というのは、すごく大雑把な言い方をすればネオソウルやメロウなR&Bのトーンだと思うのですが、Lil Summerさんはなぜそういった音楽に惹かれ続けるんだと思います?

Lil Summer:なぜなんですかね……。単純に自分が一番グッとくるからというか、母の影響が大きいのかなとも思います。あとはK-POPに一度ハマった経験も大きかったのかもしれません。母に「G-DRAGON(BIGBANG)好きならPharrell(Williams)聴いてみれば?」って教えてくれたり、Pharrellがサンプリングしているソウルへと誘導してくれたり。そうやって色々な音楽に触れた結果、自分として一番フィットしたのがネオソウルだったっていう感じで。ゆったりとしたグルーヴ感というか、心地よさみたいなものは自分の音楽でも大事にしている部分ですね。

――めちゃくちゃいいお母さんですね。これは一般論になりますが、若い頃ってテンポの早い曲だったり、アグレッシブ、エネルギッシュな曲に惹かれる人が多いのかなと思うのですが、Lil Summerさんにとっては、ゆったりとした曲の方が魅力的に感じられたと。

Lil Summer:自分の性格的な部分が大きいのかもしれませんね。昔から「落ち着いてるね」ってよく言われましたし、運動会でもみんなが走り出してから1テンポ遅れて走り出したり(笑)、生まれながらにゆったりした性格だったぽくて。そういう自分のテンションに合ってるのかもしれません。逆に、最近になってからハウスやドラムンベースなどに興味が湧いてきて、自分でもやってみたいなって考えています。

――生まれながらにということは、お母さんが胎教音楽としてネオソウルなどを聴いていたのかもしれませんね(笑)。

Lil Summer:確かに(笑)。あ、でも、母は昔ダンサーで、妊娠していた時期はダンスホール・レゲエをよく聴いていたらしいです。

――そうなんですね。

Lil Summer:だから、自分の中にも少しはノリノリな性格もあるはずなんです(笑)。今後はもっとそういう側面も出していけたらなと。


「半分以上は実体験などを綴っていると思う」

――歌詞についてもお聞きしたいです。いつもどのような物事からインスピレーションを受けますか?

Lil Summer:メロディやリズム感、音の響きを大事にしていて。「このテンポでこういったメロディに合うのはどういう言葉なんだろう?」という風に考えて書くことが多いです。

――「Way Out」に関して言うと、焦燥感や不安といった感情が表出しているように感じます。

Lil Summer:そうですね。出口がないなっていう感じで、たぶん曲を書いたときの心情が表れているんだと思います。

――他の曲にもそのときの自身の心境、状況が表れていると思いますか?

Lil Summer:7〜8割くらいの曲は出ていると思います。

――恋愛的なストーリーというか、R&Bマナーに沿った内容も多いように感じました。

Lil Summer:R&Bをたくさん聴いていたので、自然とそうなっちゃうのかもしれません。でも、半分以上は本当のこと、実際の体験などを綴っていると思います。でも、あまり具体性を持たせ過ぎないように気をつけています。

――作詞の面で影響を受けたアーティストはいますか?

Lil Summer:Erykah Baduの歌詞には影響を受けたかもしれません。英語を勉強することが好きだったので、昔はよく歌詞も調べながら読み解いていたんですけど、何ていうんでしょう、ストーリーテリングというか、物語がしっかりとあるんですよね。その一部を切り取った感じというか。自分もそういう歌詞を書けたらなとは思います。

――アルバムにはもう1曲、シングルとしてはリリースされていない「I will」が収録されています。この曲はcomo esでのライブ映像としても残っているように、かなり前からできていたようですね。

Lil Summer:「I will」はcomo esのコンピレーション・アルバムに収録されているんですけど、作ったのは1stシングル「Dirac Sea」と同じくらいの時期に作りました。自分の中では結構具体性の高い曲で、友人に向けた曲なんです。

――歌詞から察するに、ちょっとネガティブな出来事があったと。

Lil Summer:そうです。手探りでギターを弾きながら、何のコードを押さえているかもわからないまま、衝動的に作った記憶があります。しかも、ギターはiPhoneで録って音をそのまま使ってます。

――とてもシンプルな弾き語り調の曲ですし、Lil Summerさんの中ではちょっと珍しいタイプの曲というか。

Lil Summer:言われてみればそうかもしれないです。

――アルバムには「I will」のオリジナルに加え、リミックスver.も収録されています。

Lil Summer:Kensuke Yukimotoという友人が作ってくれたリミックスなんですけど、とても気に入っていたので、セットでアルバムに入れたいと思ったんです。福岡の音楽仲間のひとりで、ただただ仲が良い人です(笑)

――作ってくれたということは、オファーしたわけではなく、自発的に?

Lil Summer:そうです。勝手に、って言ったら失礼ですけど(笑)、「リミックス作りたいからステム・データちょうだい」って言われて、送ったら完成していました(笑)。

――なるほど。

Lil Summer:自分の曲がリミックスされたのは初めてだったので、とても不思議な気分になりましたね。自分の曲なんだけど、自分の曲じゃない気もするというか。オリジナルは弾き語りみたいな感じなので、リミックスの方がよりちゃんとした曲っぽくて、ありがたいですね。


新たな挑戦も見据えた今後の活動

――今後の活動についてはいかがでしょう? 何か考えていることはありますか?

Lil Summer:引き続きシングルはいい感じのペースでリリースしつつ、次のアルバムを作るなら全体としての流れを意識したコンセプチュアルな作品にしたいなと思っています。あと、できたら海外でもライブしてみたいですね。

――先ほど、ハウスやドラムンベースにも興味があるとおっしゃっていましたが、そういう新たなことにもトライしていきたい?

Lil Summer:そうですね。そういうダンス・ミュージックを自分でやってみたいなとは思っています。シングルか、もしくは3〜4曲作ってEPとしてリリースするのもいいかもしれないですね。あと、やってみたいことと言えば他のアーティストさんとコラボしてみたいです。それこそ海外のアーティストさんとも共作できたら嬉しいです。

――ドラムンベースというとどの年代のものを聴いているのでしょうか? 最近話題のNia Archives辺りとか?

Lil Summer:Nia Archives、大好きです。全然詳しくはないんですけど、90年代とかのドラムンベースも好きで、当時を知っている人たちからすると“昔の音楽”っていう風に思われるかもしれないんですけど、私にとってはすごく新鮮に響くんです。

――4月28日(金)には初のリリース・パーティの開催も控えています。いつもライブはどのような編成でやられているんですか?

Lil Summer:朝陽くんには毎回入ってもらってて、鍵盤かギターを弾いてもらってます。どちらかといえば鍵盤が多いのかな……、鍵盤、ベース、ドラムという編成が多いですね。そこに、可能だったらギターも加わってもらいますね。

リリース・パーティではライブを以前観てくださったことのある方でも楽しんでもらえるように、アレンジ満載にするつもりです。久しぶりのワンマンなので、特別に気合いを入れて準備しています。多くの人に観てきてほしいですね。


【イベント情報】


『Rojo』 Release Party by Lil Summer
日時:2023年4月28日(金) OPEN 20:00 / START 20:30
会場:福岡 ROOMS
料金:ADV. ¥2,500 / DOOR 3,000 (各1D代別途)

チケット予約:
メール[ lilsummer.info@gmail.com ] / SNSにてDM


【リリース情報】


Lil Summer 『Rojo』
Release Date:2023.03.15 (Wed.)
Label:Lil Summer
Tracklist:
1. Dirac Sea
2. Best & Worst
3. Spring
4. my love
5. Baby Blue
6. Way Out
7. I will
8. I will (remix)

配信リンク

■Lil Summer:Twitter / Instagram


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