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INTERVIEW | Last Dinosaurs


1000年後の退廃的な未来を描く新作『KYORYU』、その構想と日本カルチャーへのオマージュ

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2024.08.05

日本にルーツを持つLachlan(Gt.)とSean(Vo. / Gt.)によるCaskey兄弟と、Michael Sloane(Ba.)の3人編成で活動するオーストラリア出身のインディロックバンド、Last Dinosaurs。

5月にリリースされた彼らの新作『KYORYU』は、「1000年後の文明崩壊後の世界を描く」というテーマの下に作られた5作目のアルバムである。バンドのオフィシャルサイトには作品のテーマと連動した漫画が展開されており、そちらを眺めてから聴くことで一層その魅力を堪能できるだろう。快調に飛ばしていくオープニングナンバー“Keys To Your Civic”から、幻想的な宇宙遊泳を楽しむようなラストの“Not From Here”まで、そこにはこのバンドらしいキラキラと輝くギターサウンドと、胸のすくようなメロディが詰まっている。

ZOOMでの取材に応じてくれたLachlanに、日本でMVを撮影したという“Keys To Your Civic”や、Y.M.O.“君に、胸キュン。”へのオマージュを取り入れた“N.P.D”など、新作についてのエピソードを語ってもらった。

Text by Ryutaro Kuroda
Interpretation by Hitomi Watase
Header Photo by Keaidkumchai Tongpai


オカモトレイジは「ミスター東京」

――“Keys To Your Civic”のMVは日本で撮られたようですね。夜の首都高速を走るシーンが印象的でした。

Lachlan:すごく楽しくて、夢が叶ったいう感じでした。千葉に行って実際にレンタカーを借りて、僕自身は国際免許を持っていないので運転はできないんですけど、東京や千葉の郊外をドライブしてもらって、楽しい思い出がいっぱいできました。

――また、同じく日本で撮影された“N.P.D”のMVではOKAMOTO’Sのオカモトレイジさんがドラムを叩いていますね。

Lachlan:OKAMOTO’Sはすごく好きなバンドで、仲が良いし日本とカリフォルニアでも一緒にツアーをしました。レイジは本当に「ミスター東京」と言えるぐらいいろんな人たちを知っていて、僕らがパフォーマンスするヴェニューも探してくれました。映像に出てくるクラブのシーンも彼が手配してくれたんです。僕も東京に友だちが行くときは彼に紹介したりしています。

――日本の文化で好感を持っているものと、逆にオーストラリアの文化で日本に紹介したいものはありますか?

Lachlan:オーストラリアと日本のカルチャーは全く違います。今は世界中が日本の文化に注目しているように感じています。僕は母が日本人なので、子供の頃から日本にはよく行っていて、日本の文化はよく理解してると思うけど、もっともっと日本語を喋れるようになりたい。また勉強しようかな。日本食は本当に世界の料理の中でも一番美味しいと思うし、日本のアーティストやビジュアル、作家、作曲家も素晴らしい人/作品がいっぱいあるから、日本の血を継げて僕自身はとても誇りに思います。

その一方で、オーストラリアは若い国で独自の文化がそんなにないというか、みんなに紹介するほどのユニークさがあまりないように感じています。もちろんオーストラリアのアイデンティティはあるし、イギリスとかアメリカとかの影響もあったりとかするんだけど、僕自身のイメージとしては、まだオーストラリアは白いキャンパスっていう感じですね。

――Last Dinosaursがシンパシーを感じるようなインディーズのバンドは周囲にいますか?

Lachlan:実はLast Dinosaursって、オーストラリアのインディロックシーンの中に入っていないんですよね。8年前に僕らがバンドを始めた頃は、なんとなくオーストラリアのインディバンドということで紹介されて、そのときはオーストラリアにもいいインディ系のバンドがいっぱいいたんです。でも、僕自身はもうオーストラリアに住んでなくて、メキシコやカナダを経て今はLAに住んでいます。オーストラリアに残っているメンバーもそんなにバンドを聴きに行かないから、もしかしたらローカルシーンにはいいバンドがいるのかもしれないけれど、あんまりその辺を把握できてないんです。

――なぜ拠点を移したんですか?

Lachlan:LAは西洋ポップ文化の中心地だから。ベストな人材がいるし、音楽にしても映画にしてもいろんな機会に溢れている。クオリティもすごく高いし、僕自身も色々学べるんじゃないかなと思ったんです。あと、カリフォルニアも好きですね。歴史もおもしろいし、画期的で楽しい。

――この1年ほどで、現地の音楽や映画からどんな刺激を受けましたか?

Lachlan:僕自身は映画からインスピレーションを受けることが多いです。バンドに関してはBad Sunsと仲が良くて、一緒にツアーもしています。僕自身は環境によって音楽が変わったりすることはないと思うんだけど、やっぱりLAという街が持ってるエネルギーがすごく大事で。プレッシャーに押し潰されそうになることもあるけど、そこにインスピレーションを受けて鼓舞されたりもするし、いろんな意味で前に突き進むことを可能にしてくれるところではあると思う。

――キャリアを通して言えることでもありますが、Last Dinosaursの音楽ってすごくキラキラしてるしエネルギッシュだと思います。これはLachlanさんやメンバーたちのどういう音楽観が表れてるんだと思いますか?

Lachlan:(オカモト)ショウがすごく興味深いことを言ってくれたんです。僕らは西洋のバンドだけど日本っぽいサウンドを持っていて、OKAMOTO’Sは逆に日本のバンドだけど西洋っぽいサウンドを持っているバンドだと。それは2バンドをすごく上手く言い表していると思う。僕は日本のBase Ball Bearからとても影響を受けていて、そういう僕自身が持ってる音楽的なDNAに、キラキラしたサウンドやメランコリックな感じの音楽を作らせる何かがあるんじゃないかな。


1000年後のディストピアをテーマとした新作

――新作の『KYORYU』ですが、まずEPとして『KYO』と『RYU』が先行リリースされました。それぞれLachlanさんとSeanさんが別々に作っていたものだそうですね。

Lachlan:『RYU』はSeanがメインで作って、『KYO』は主に僕の作品です。僕の日本語の名前はKyouheiで、SeanはRyusukeなんだけど、お互いに別々に作っているときに、そのふたつの言葉を合わせると「KYORYU(恐竜)」になるということに偶然気がついて。これはおもしろいんじゃないかなと思いました。バンド自体がLast Dinosaursという名前だから、恐竜という言葉の意味合いも通じるし、ドラゴンだから辰年で干支にも関連して作れる。それで自然にこういった形になりました。

――『KYORYU』は1000年後の文明崩壊後の世界を描いた作品ということですね。なぜそういうテーマでアルバムを作ろうと思ったんですか?

Lachlan:SeanがLuke Nugentというアーティストが描いた絵に影響を受けたんです。それはAIに侵略されるような内容の作品だったんだけど、それで僕らの中でAIやサイエンスフィクションっぽいテーマが浮かんできました。Seanが影響を受けた絵のイメージが先にあって、そこからストーリーを自分たちで膨らませて、漫画も作って作品にしていきました。

――なるほど。

Lachlan:僕らのオフィシャルサイトでは漫画が読めるので、そこで作品のコンセプトをよく理解してもらえると思います。最初にインスピレーションを受けたLuke Nugentの絵はフューチャリスティックで、レトロな見た目のパンクロッカーたちがコンピューターを手に持っているんです。そのミニチュアテレビみたいなコンピューターが、1000年前のAIのサテライトと交信する。それはラジオみたいにチューニングして聞けるんだけれど、バッテリーが弱くておかしくなったりして、人類のアルゴリズムみたいなものを想定しながら繋がっていく……みたいなイメージで。そのイメージから音楽を作っていこうと思ったのが最初の発想でした。

――漫画は『AKIRA』からの影響も感じました。

Lachlan:もちろん! 『AKIRA』とか『パーフェクトブルー』、『カウボーイビバップ』とか、あの辺のイメージ。そういったものからすごく影響を受けてると思うし、僕らのプロモーションポスターには『パーフェクトブルー』をオマージュしたポスターもあるんです。そういった日本の作品からは多大なインスピレーションを受けています。

――AIに侵略されるようなイラストから影響を受けたということですが、Lachlanさんは1000年後の未来に対して、どういうビジョンを持っていますか?

Lachlan:その辺のことは僕自身に専門的な知識がないから、その質問に適した回答ができるかどうかはわからないんだけど……。でも、僕自身のクレイジーなマインドの中では、AIというのはスーパーインテリジェンスだから、1000年後にはもう自分たちで独自に進化して、肉体的にも色々なことができている。だから1000年後には人類ってものはもういないんじゃないかと思う。もしかしたら僕たち人類は、神や古いものとして崇められたりするような、そういう昔の存在となっていくのかもしれない。

――そうしたテーマや題材を、どのようなサウンドで表現しようと思いましたか。

Lachlan:漫画の方は結構テーマに沿って描いているんだけど、音楽は全部が全部ストーリーと連動しているわけではないんです。合う部分もあれば、異なるところもある。たとえば『KYO』ではナルシストのことをテーマにした曲があったり、あるいは1980年代のHONDAのCMのような音楽、80年代のバブル経済を彷彿とさせるようなイメージがあったりする。その一方でSeanの作った曲は、AIが「人間が音楽を作るとしたらどんなものを作るだろう」っていうものを想定していて、サウンドはストーリーの雰囲気全てを表すものではなくて、まだまだ人間的な要素がすごく入ってるんじゃないかと思う。


Y.M.O.“君に、胸キュン。”へのオマージュ

――“N.P.D”のMVにはY.M.O.“君に、胸キュン。”のオマージュが入っていますね。

Lachlan:“君に、胸キュン。”は僕のフェイバリットソングであり、Y.M.O.で一番好きな曲なんです。それに漫画のKYOというキャラクターが持つエネルギーが、割とマテリアリスティック(物質主義的/実利主義的)で、1980年代の日本のバブルの頃を象徴するようなもの──たとえば「社長」とか「ヤクザ」とか、そういうような人たちが持ってるようなエネルギーというか、そういうイメージがあって。あのオマージュは映像自体が80年代を連想させるようなものとして作ったんです。

――また“N.P.D”の音源には最後の方でThe Beach Boysを思わせるようなコーラスが子供の声で入っています。これはどういったアイデアから生まれたんですか?

Lachlan:2曲目の“N.P.D”から3曲目の“Self-Serving Human Being”はひとつの流れになっていて、最後の方に出てくるThe Beach Boysっぽいコーラスのところは、次の曲のコード進行に則って子供のような声で歌っています。

Lachlan:『KYO』の漫画の中にはAIに侵略されていく箇所があって、ポップスの精神性におけるインナーチャイルドというか、自分の中にいる子供の意識もどんどんAIに侵略されていってしまうんです。その中で、たとえば親が聴いていたThe Beach Boysとか、子供の頃の記憶みたいなものが出てくるいうか。漫画の中でKYOはだんだんサイコパスになっていくんだけど、その前はすごく純粋な子供の心を持っていた。そういったことを表現しています。

――なるほど。

Lachlan:それでKYOの内なる子供はサイボーグになって、そこから今度は衛星(サテライト)になっていく。アルバムの最後の“Not From Here”という曲は、その衛星のテーマソングです。

――4曲目の“Paranoia Paradise”にはGLAZEというバンドがフィーチャーされていますよね。彼らはどういった経緯で参加することになったのでしょうか。

Lachlan:僕がメキシコに住んでいたときに、GLAZEのStephen McElweeがやってきて一緒に作曲したんです。だから、彼らを紹介する意味も込めて、バンド名をクレジットさせてもらいました。GLAZEとは今でも仲良くしています。

――本日は色々とお話頂きありがとうございました。日本と縁の多いLast Dinosaursのライブを、また日本で観れることを楽しみにしています。

Lachlan:まだわからないけど、近いうちに行きたいと思っています。どのような形でもショーが実現したら嬉しいですね。

Photo by Andre Cois

【リリース情報】


Last Dinosaurs 『KYORYU』
Release Date:2024.05.21 (Tue.)
Label:ASTERI ENTERTAINMENT
Tracklist:
1. Keys To Your Civic
2. N.P.D
3. Self-Serving Human Being
4. Paranoia Paradise (feat GLAZE)
5. 14 Occasions
6. Wait Your Turn
7. Elton
8. Slow
9. Yin and Yang
10. Afterlife
11. Walking On Ice
12. The Way You Are
13. Not From Here

配信リンク

Last Dinosaurs オフィシャルサイト


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