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Interview / Jamie Lidell


「君の愛を受けるまで僕はどのように生きていたのか」――最愛の妻と息子へと捧げた、キャリア史上最もスウィートな新作に込められた想い

2016.10.14

テクノ・アーティストとしての出自を持つ異色のシンガーとして、エレクトロニック・ミュージックの老舗レーベルである〈Warp〉で主にこれまでのキャリアを築いてきたJamie Lidell。
ソウル、R&B、ファンク、ロック、ポップス、そしてエレクトロニックと、様々なジャンルや音楽的要素を縦断するその唯一無二の音楽性でメディアからも高評価を得てきた彼だが、この度古巣である〈Warp〉を離れ、自主レーベル〈Jajulin Records〉を設立。およそ3年半ぶり6枚目となる新作『Building a Beginning』をリリースした。

本作ではオーバー・プロダクションを避け、より純粋に楽曲そのものにフィーチャーした作風へとシフトし、音もこれまでにないほどにオーガニックかつ柔和な質感を放っている。
おそらくキャリア史上最もスウィートなソウル・ミュージックへと接近した本作のキッカケとなったのは、新しい家族となった長男、Julianの存在と、愛妻であるLindseyとの共作だという。まるで新たな生命を授かったことにより起きた心情の変化が、そのままサウンドへと反映されているかのような本作について、メール・インタビューを敢行し様々なことを訊いてみた。

Interview by Takazumi Hosaka


―まずは新しい家族が加わったことにお祝い申し上げます。彼が生まれてから、アナタ自身の心境はどのように変化致しましたか?

「全ての時はあっという間に過ぎてしまう」。これが第一に思うことかな。「時間」というものをすごく感じている、「時間」の貴重さというものをね。どのようにして赤ん坊から少年になり、少年から”小さな大人の男性”になるんだろう、って。
こんな感じで愛情がとっさに湧き出てくるのは自分にとっては新鮮なんだ。感謝の気持ち、それに自分が持っている全ての知識をこの子に果たしてちゃんと伝えることができるのかどうか、そういう風に心配になったりする気持ち。全ての感情がごっちゃになって混乱しながら一日が過ぎていくよ。

―アルバムの製作中にお子さんがお生まれになったのでしょうか?

そうだね。このアルバムは時間をかけて素材集めをしたり、それらをブラッシュアップさせながら制作を進めていったアルバムだからね。アルバムの中の数曲は、完成まで4年もかかったものもある。そしてJulianが誕生したのはアルバム・レコーディングの最後の方で、とても大変だったから今でもその時のことは一つの夢のように思えるよ。本当に神様に感謝だね(笑)。
その夢から目覚めた際には、作品に関するあらゆることがピュアになり、新しく段違いの喜びが加わっていたんだ。Julianがそれを生み出してくれたんだね!

―オーセンティックで祝祭感に溢れたソウル・ミュージックという今作の方向性は、制作開始当初から固まっていたのでしょうか? それとも自然な流れでそのようになったのでしょうか?

Julianがこの世に誕生した後にこのサウンドがまさしく出来上がったんだと思う。それまでは本当にたくさんの曲があったんだ……そうだね、80曲くらいデモはあったかな。でも、大抵のものはリアルで普遍的な魅力を放つようなクオリティのモノとは思えなかった。

―直接本作のインスピレーション源になっていなくてもいいので、最近あなたが個人的にハマっている作品やアーティストを教えてください。

今この解答を書きながらDrakeを聞いてるよ。すごく気に入ってる。Drakeに限らずいろんな種類の音楽が今出てきてるよね。おかしなところはそれらを全て見つけて、聴けてしまうことだけど。それが今の世の中なんだよね、そうだろう? その中にはすごく考えさせられるような素晴らしいものもあるし、そうじゃない凡庸なものも沢山あるんだけどね! 最近はAnderson .Paakが好きで、今年ベルキーの音楽フェス、”Pukkelpop”まで彼を観に行ったんだけど、彼はすごくナチュラルで素晴らしかったんだ。すごく元気づけられたよ。Chance The Rapperもそうだね。周りのルールを変えて古い業界の縛りから離れたところで力をつけてる、それもクールなやり方でね。それは素晴らしいことだよ。

―今作にはPino PalladinoやPat Sansoneなど、多彩なゲスト・ミュージシャンが参加していますが、それぞれどのような経緯を経て参加することになったのでしょうか? また。彼らとの作業で特に印象深いエピソードなどがあれば教えてください。

僕がラッキーな男であることは確かだね! 幸運の持ち主なのは違いない。Pino Palladinoはこの数年、何度となく声をかけてくれてたんだけど、会う機会がなかった。だけど、ついにKeith Urbanのレコーディングでナッシュビルに立ち寄ってくれたんだ。
僕らはお互いしこたま酔っ払ったりしたこともあれば、彼のやっていた曲に一曲参加したりしていたこともあったから、ちょっと馴れ馴れしく「数曲一緒に演奏してくれないか」って頼んだんだよね。お互いかなり仲良くなってきたと感じてたんだけど、実際には会ってまだ二、三日しか経ってなかったんだ(笑)。
すごかったのは彼がキマりながらレコーディングしていたこと。僕は最近そんなにやらないけど、彼の方を振り返ってみると僕のソファーに座りながら小さなSilvertone(シルバートーン)のベースを弾くんだけど、それがすごい迫力でね。僕自身がレコーディングを邪魔してたんじゃないかって心配したほどだよ(笑)。
PinoがDaru Jonesを紹介してくれたんだけど、彼のドラムがまた素晴らしくてね……。Pinoは今作の大恩人だね。他にもPat SansoneやMockyなどの友人はいつものように素晴らしく、ここ数年は僕と一緒にやってくれている。まさに”ファンクの輪”だね(笑)。僕は彼らみんなが大好きなんだ。

―これまでの作品と比べて、制作プロセスで変化したことはありましたか?

今回のアルバムは大半が自宅で作られ、妻のLindseyと書いた曲がたくさんあって、それは素晴らしい制作プロセスだった。彼女と僕は深く繋がっているから、全てを力強く、それも正しい方法で作り上げることができた。お互いに作ったセンテンスを完成させたからこの共同作業は本当に意味のあることだったんだ。つまりファミリー・アフェアー(家庭内での出来事)さ! 愛に愛が重なりあってね!

―この作品『Building a Begenning』の両隣に、あなた以外のアーティストの作品を一枚ずつ置くとするならば、誰の何の作品を置きますか?

David Bowieの『Young Americans』とPrince(And The Revolution)の『Parade』かな。偉大なるパイオニアに対しての純粋なリスペクトとして。自分もその道に続けたら、とね。

―今作の全曲において、あなたの妻であるLindseyが作詞で大きく関わることになったのはどのような経緯があってのことなのでしょうか?

それはこのアルバムの本質的なところで僕が示そうとしていたことなんだけど、実は僕らは2人で”一つの個人”なんだ、つまり一つの大きな生物。昔の僕自身の考え方も、彼女と出会ってしまった今の僕とは間違いなく違っているんだろうと思う。今や自分が一体どのような人間かわかってるんだ。彼女は僕が自分自身では知ることのない部分を教えてくれて、奮い立たせてくれる。だから僕らは人生において素晴らしいチームなんだ。それはもちろん愛と音楽両方の部分についてね。
彼女が書くのは自分の考えを書き留めておきたいから。一例として「Julian」という曲は、彼女が何かに刺激を受けて書いたもの。最初から彼女が曲を書いたわけではなく、彼女が書いたその言葉に僕が刺激を受けて曲にしたんだ。というのも、僕が彼女と一緒に何かをしたかったからなんだよね。まさにタッグ・チームさ。

今作において、「あなたの家族」以外のインスピレーション源がなにかあれば教えてください。

そうだね、このアルバムは単にJulianに関してのものだけでは決してなくて、これは愛というものに対する想いであったり、もしくはその本質についてのものなんだ。その全てがスムーズにいくというものでもなく……。それは時間の経過、愛や孤独というものの中で選択した間違った方法、それに祝いの喜び――君の愛を受けるまで僕はどのように生きていたのか、それぞれのことを反映したものなんだと思う。

―自身のレーベル〈Jajulin Records〉からのリリースとなりますが、レーベルを新たに立ち上げた理由と経緯を教えてもらえますか?

僕にとって、一人で新たな道を歩み始める時期だったんだと思う。実際は一人じゃないけど(笑)。自由だけど、全くの一人ではない道をね。

—また、このレーベルの名前の由来はあなたの妻であるLindseyとお子さんのJulianの名前から来ているのでしょうか?

その通り。もしまた新しく子供ができたら名前を変えなきゃなんないね(笑)。

―近年あなたはLianne La HavasやA-Trakなどとコラボしていましたが、そのような外部アーティストとのコラボは、あなた自身の音楽活動に対してどのような影響を与えていますか?

他の人々と一緒に曲を書くというプロセスが好きなんだ。最初はまっさらなキャンバスから一日が始まって、その日の最後にはちゃんとした楽曲に仕上がってるんだからね。上の2つのセッションはともに大成功と呼べるものだし、僕自身も本当に嬉しかったよ。
“見ず知らず”とも言える人と曲を作り上げていくというのは素晴らしい挑戦の一つ。徐々に興味が湧き続けてくるような会話みたいな感じなんだ。僕はすっかりコラボにハマってしまっているね(笑)。本当に楽しいよ!

―この作品『Building a Begenning』を聴くときの、アナタが思う最もベストなシチュエーションはどのようなシチュエーションでしょうか?

う〜ん、テータイムでホッと一息つく時間かな。


【リリース情報】

jamie-lidell

Jamie Lidell 『Building A Beginning』
Release Date:2016.10.12 (Wed)
Label:Traffic
Cat.No.:TRCP207
Price:¥2100 + Tax
Tracklist:
01. Building A Beginning
02. Julian
03. I Live To Make You Smile
04. Find It Hard To Say
05. Me and You
06. How Did I Live Before Your Love
07. Walk Right Back (1st シングル)
08. Nothing’s Gonna Change
09. In Love And Alone
10. Motionless
11. Believe In Me
12. I Stay Inside
13. Precious Years
14. Don’t Let Me Let You
15. Love Me Please(*日本盤ボートラ)
16. You Rewind(*日本盤ボートラ)

※日本先行リリース
※解説:内本順一 / 歌詞対訳付


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