FEATURE

INTERVIEW / Foals


連作となる新作を上梓したFoals。混沌とする世界情勢を反映させたアルバムで、彼らが我々に投げかけるメッセージとは

2019.11.07

英バンド、Foalsが今年3月に『Everything Not Saved Will Be Lost – Part 1』、そして今年10月には『Everything Not Saved Will Be Lost – Part 2』と連作となったニュー・アルバムをリリースした。アルバムよりもシングル(単曲)、アルバム形態でも尺の短い作品が多くの支持を集める傾向にある昨今、彼らが取った手法はまさしくその真逆。2作で合計20曲、濃厚なニュー・アルバムとなったが、全英チャートでPart 1は2位、Part 2はなんとバンド初の1位を獲得し、高い評価を受けている。

環境問題やBrexitといった世界情勢への懸念や終末論的テーマをも掲げた両作は果たしてどのようにして生まれたのか。今回はバンドのフロントマン・Yannis Philippakisへのオフィシャル・インタビューを掲載する。

鋭く現代を切り取る新作について語る彼らの言葉に、ぜひとも耳を傾けてほしい。(編集部)


「どうしても残したい曲が20曲仕上がった」

――前作『What Went Down 』(2015年)のツアーの終了後(2017年秋?)から、新作『Everything Not Saved Will Be Lost』の制作が始まったと伺っています。どのような形で作品制作が始まったのでしょうか? また、制作過程などを教えて頂けますか?

結構長いオフを取ったんだよね。メンバーはそれぞれ別のことをやっていた。僕はギリシャの各地を旅したりして、ギリシャを満喫したよ。数ヶ月間はギターを触る気にもならなかったな。それだけオフが必要だったんだ。最終的にようやく何か作りたいという意欲が沸いてきたから、ロンドンの自宅の近所で小さなリハーサル部屋を借りた。独りでいくつかアイデアを形にしようと思ってね。今まで使ったことのないレコーディング技術を覚えたいというのもあったし。そんな感じで、オリジナル曲のアイデアやその断片をゆっくりと作り始めていったんだ。

その夏はいくつかライブをやったんだけど、それがWalter(Ba.)とやった最後になった。その頃には楽屋でアイデアをいくつかメンバーに聴かせていた。2017年10月頃にはもう少しアイデアができていたかな。それからエンジニアと一緒にアイデアをバンドのフル・メンバーとデモ化するようになったんだ。最初はほんの2~3週間のつもりだったけど、とてもうまくいったから、結果的に1年以上もそのスタジオを借りていたよ。そのスタジオで作ったものを生の楽器で演奏できるように別のところに持っていった。2ヶ所を行き来するという環境だったね。そういう感じでできたアルバムなんだ。

――オフを十分に取ったからこそその後のクリエイティヴな意欲や勢いがとても強くなったと思いますか。

そうだね。あのオフがあったからこそ、何かを作りたいという切迫感が生まれたんだと思う。アルバムを作りたいという意欲もとてもピュアになったしね。ルーティンや習慣みたいな感じになるよりも、ある意味刺激的だったとも言えるな。メンバー間での「何かを作りたい!」という意欲が久々に強かったよ。

――それで、新作『Everything Not Saved Will Be Lost』も2連作になったのでしょうか。あまりにクリエイティヴだったために曲がたくさんできたとか。

そうだね、そう思うよ。それも理由の一部だったと思うし、それから今回はプロデューサーがいなかったから、特に時間の枠というのがなかったんだよね。どんなアイデアも編集で切り落としたりすることなしに発展させることができたんだ。

――Part 1とPart 2は同時期に録音され、2枚に振り分けられたと聞きました。ストリーミング・サービスが普及した現在では収録分数や曲数に縛られることはありません。それでもあえて2枚に分けて、なおかつリリースの時期をずらしたのはどうしてでしょうか?

確かにストリーミングだったらあまり縛られないんだけど、制作している時は、ストリーミングを念頭に作ってはおらず、とにかく溢れるアイディアをどんどん形にしていったら、どうしても残したい曲が20曲仕上がっていて。不思議と各々の曲がひとつのアルバムの中での立ち位置があるような気がしたんだ。

例えば、この曲はどうしてもアルバムの〆の曲にしたい、と思う曲が2曲あったりね。同じアルバムで存在させたい曲、させたくない曲などを考えていったら、2枚出すのが自然だったんだ。リリースをずらすことによって、リスナーに量に圧倒されずに楽しんでもらいたかった。テレビ・ドラマの「Season 2」を待つようにね。また、ツアーする中で、ライブにおいてもPart 1とPart 2があるのは新しい発想だったし、それもあって時期をずらしたんだ。今回はそういう理由だけど、今のストリーミング時代は、同時に多くの楽曲をどんどん出せるし、アートワークなどのクリエイティブを発表できる場が増えてアーティストにとってもいい時代になったと感じているよ。

――Part 1からのリリースからおよそ半年が経過しました。改めてPart 1を振り返ってみていかがでしょう? またファンの反応はあなたたちが期待するようなものだったでしょうか?

ずっとツアーをしているので、正直言ってじっくりと振り返る余裕がないまま、Part 2のリリースの準備にとりかかっている感じなんだ。でも、ファンのレスポンスは想像以上、期待以上のものだった。みんな、2作のリリースの意図を気持ちよく理解してくれている気がする。

――聴き手にとっては非常にイマジネイティヴな作品になったと思います。Part 1を聴いて、あれこれと思いを巡らし、Part 2の展開を想像するというように。それはあなたたちの狙いだったのでしょうか?

そう言ってもらえるのが一番嬉しいね。もちろん、その意図でリリースした。画面のハーフスクリーンを見せられて、やっとPart 2でフルスクリーンを観るような感じかな。

Photo by Alex Knowles


「諦めない、打ち破くという強い意志を持つ必要性をテーマに」

――そもそもこの2作の壮大なテーマはどこから生まれてきたものなのでしょうか? 直接的、直接的ではないにしろ、あなたたちの音楽に影響を与えている映画や本、アートはあるのでしょうか?

具体的に、すぐに出てくる作品っていうのはないけど、映画も本もアートもかなりの量をインプットをしているので、自ずと何らかの形でアウトプットに影響しているんじゃないかな。また、この作品に関しては、今の時代の空気、特に乗り越えなくてはならないこの時代特有のチャレンジ――環境問題、社会問題など――に対しての意識が大きかった。

――メンバーの間でテーマについて議論は行なわれたのでしょうか? それとも全員でこのテーマを膨らませていったのでしょうか?

テーマや歌詞をみんなで議論しながら作っていったわけではない。歌詞が仕上がったら、それを各国に散らばっているメンバーに見てもらってそこからアイディアを膨らませていくことはもちろんしたけど、歌詞は結構パーソナルなものなので、それに対してみんなで話し合うことはあまりない。ただ、テーマが見えてきたとき、みんな共感してどんどん楽曲のアイディアを出し合ったよ。

――2連作のタイトルに冠された『Everything Not Saved Will Be Lost』(保存していないものは全て失われる)の意味は?

このフレーズは、あるときピンと来てノートに残しておいたんだ。そのときは気づかなかったけど、考えれば考えるほどこのフレーズは色々な意味を含ませられるんじゃないかと。表層的にはテクニカルな表現だけど――例えばOCゲームの注意書きでよくあるよね――今切羽詰まった問題としての環境問題や社会問題は、今アクションを起こさないと元に戻れない、というメッセージにもなるし、同時に何も永遠ではない、人生の試練も永遠に続くわけではない、というメッセージも伝えられると思ったんだ。

――制作中にベースのWalterが脱退しました。彼の替わりを迎えずにYannisとEdwinが分担したそうですが、新たなベーシストを待つのではなく、そのまま続行して録音するという判断はどのようにして下されたのでしょうか? また自分たちが弾いてみて、新たな発見はありましたか?

この時期に新しいメンバーを入れるという発想がまずなかった。一人のメンバーがいなくなってしまうことは、ある種バンドの危機といえるんだけど、それが制作面においては実はよかったんだ。まず、危機を乗り越えるために各々がより強いエネルギーで制作に集中した。みんなが同じ目的に向かって突き進むことが大切な時期だとみな分かっていたから。そして、今までの方法をがらりと変えようという気になった。その意識こそが、我々にとっては新しい境地となったね。俺がベースラインを色々考えるというのも新しかったし、コンピューターに打ち込む、という作業も初めてやってみた。今まで同じ部屋で5人でやっていた作業を、バラバラの環境でやってみるということも試みた。5人の意見が4人になるだけでも、構造上に大きな違いが出てくるんだ。

――これはPart 1用の曲、これはPart 2用と録音前に明確な線引きがあったのでしょうか? またPart 1用の曲を一気に録音してから、Part 2に取り掛かったのか。それともバラバラに録っていって、できたものをそれぞれ振り分けていったのでしょうか?

後者だね、楽曲がある程度あがってから2枚にしようと思ったし、先ほども言ったけど楽曲が主張してくるゆえに家を分けた感じなんだ。出来上がってみたら同じDNAを持つ楽曲同士を合わせる方が自然に感じて。音楽的にいえばよりダンスなものと、よりロック色が強いものとか。

前のアルバム制作の時は、アイディア・ベースで終わっていたもの、あるところまで進めたけど終わりを見なかった曲が沢山あったけど、今回は意図的に「いいアイディア、いいベースができたらフィニッシュ・ラインまで持っていってみよう」というルールがあったんだ。でも単に多くの曲を仕上げたいという気持ちからではなく、とことん向き合う作業をやってみたかった。結果、本当に残したいと思える20曲に出会ったよ。

――今、地球温暖化やBrexitなど、私たちの周りでは解決しなくてはいけない問題が多々あります。この2作はあなたたちなりの考えの表明なのか、それともそうした時代背景によって自然と生み出されたものなのか、どちらでしょうか?

両方だと思う。このアルバムは時代が生み出したアルバムとも言える。政治的に見ても激動の時代で、環境問題をはじめ将来を不安を抱くことが多い。その中で諦めない、打ち破くという強い意志を持つ必要性をテーマにしたんだ。

Photo by Alex Knowles


伝えたかったのは「とにかく走り続けることの大切さ」

――2連作を舞台に繰り広げられた壮大なストーリーテリングの中でPart 1が起承転結の「起」「承」。Part 2は言わば「転」と「結」に該当するクライマックスの一枚だと思います。前作(Part 1)のラスト・ナンバーだった「I’m Done with the World」は世界の終わりを告げるバッド・エンドだったわけですが、Part 2で描きたかったものは? そこから反撃に向かうということ?

まさにそうだね。だから、Part 1は敢えて意図的に(続く)という余白を残してある。そして、Part 2はその荒涼としたイメージの「Red Desert」、「The Runner」で幕を開けるんだ。この曲は意思とヴィジョンを持って突き進む、サバイバルを表現した曲。それが両アルバムを通して伝えたかったこと。音楽的には、この曲はリフから入ったんだよね。だから、リフが気に入って演奏していて楽しい曲なんだ。

――9曲目の「Into the Surf」は、Part 1で同じく9曲目だった「Surf PT.1」が同曲のイントロになっていますよね。

この曲は、もともとPart 2のみに入るはずだったんだけど、Part 1のヴィジュアル・トレーラーを作っているときに何かが足りない、と感じてしまったんだ。ヴィジュアル・トレーラーってアルバムの楽曲を短く編集してつなげるだろ? それで初めて「しっくりこない、どうしてだ?」と考えるようになって、実験的に「Into the Surf」の違うVer.を入れてみたら、驚くほどぴったりとはまった。それでこの曲は2つのアルバムをリンクしてくれる大切な曲と思えるようになったんだ。それに、同じメロディーが2つのアルバムで違う形で数ヶ月後に顔を出すのも遊び心あっていいかも、と。

――クライマックスのラスト・ソング「Neptune」は宇宙の彼方のブラックホールに吸い込まれていくような感覚を覚えますが、この曲で伝えたかったことはなんでしょう? 最終的に「希望」に繋がっていくのでしょうか。

この曲は全てのカオスや混乱からの脱出、Departure(立ち去る/出発)を表現したもので、希望、とまで言い切れるかわからないけど、とにかく走り続けることの大切さを両アルバムで伝えたかったんだ。

――何かこれまでに来日した際日本の思い出などはありますか?

日本のファンで一番驚くのが、俺たちの音楽への細やかで真摯な聴き方で、それがとてもありがたい。例えば音楽からイメージするアートワークなどをよくもらうんだ。それがレベル高くてね。また、手作りのプレゼントをくれる率が一番高いのが日本のファンで、文句なしに一番クオリティが高い。

日本は本当にホスピタリティの国だと思う。初来日でメンバー皆が驚いたよ。日本でまた行きたいと思うところは、名古屋の手羽先屋さん。あの名古屋の手羽先が忘れられなくて。東京にもお気に入りのバーがいくつもある。あと、原宿にある「FIVE G」いうシンセサイザー専門店。もうここはおれの巡礼地になっているよ(笑)。

でも、とにかく日本のファンにまた会いたい。楽しみに待っていてほしい。

――3月には来日公演も控えています。この2作を聴き終えたあとではイメージする映像や画像と共に完全再現を望みたいところですが、どのようなライブになりそうでしょうか?

また日本でライブができることがとにかく嬉しい。今まさにヴィジュアルをどうするか相談しているところなんだ。期待に応えたいね。サマソニとはもちろん違うセットになるし、よりよいライブになることを目指すよ。また会えることを楽しみにしているよ! 楽しみに待っていてほしい。


【イベント情報】

Foals 『JAPAN TOUR 2020』

日程:2020年3月3日(火)
会場:愛知・名古屋 CLUB QUATTRO

日程:2020年3月4日(水)
会場:大阪 BIG CAT

日程:2019年3月5日(木)
会場:東京・新木場 STUDIO COAST

チケット詳細

お問い合わせ:SMASH 03-3444-6751


【リリース情報】

Foals 『Everything Not Saved Will Be Lost – Part 2』
Release Date:2019.10.18 (Fri.)*
Label:Sony Music
Tracklist:
1. Red Desert
2. The Runner
3. Wash Off
4. Black Bull
5. Like Lightning
6. Dreaming Of
7. Ikaria
8. 10,000 Ft.
9. Into the Surf
10. Neptune

*日本盤発売日:10月23日(水)

==

Foals 『Everything Not Saved Will Be Lost Part 1』
Release Date:2018.03.08 (Fri.)
Tracklist:
1. Moonlight
2. Exits
3. White Onions
4. In Degrees
5. Syrups
6. On The Luna
7. Cafe D’Athens
8. Surf Pt.1
9. Sunday
10. I’m Done With The World (& It’s Done With Me)

Foals 日本アーティスト・ページ


Spincoaster SNS