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INTERVIEW / Declan McKenna


「どんなに厳しい状況にあっても、僕たちは楽しむことをやめちゃいけないと思う」――早熟のSSWが語る、現代を生きる若者のリアル

2017.07.26

Declan Mckennaを知ったのは2年以上前。当時、イギリスのメディアでジワジワと話題になっていたデビュー・ソング「Brazil」のMVを観たのがキッカケだった。とてもシンプルなギター・ソングではあるけれど、その叙情的なメロディーに相反するような、当時15歳の幼い顔からは想像のつかないハスキーな歌声に心奪われた。また、MVの中でDavid Bowieの壁画を見つめているシーンもとても印象的に記憶に残っている。当時、ライブではギターを手にキーボードも弾きながら、忙しなくひとりで歌っていて、その様子が可愛らしく何度も映像を観ていた。

その後、”グラストンベリー・フェスティバル”の新人発掘コンペティションで勝ち上がり、あっという間にイギリスの有望な新人アーテイストの一員となる。FIFAの汚職問題を取り上げた「Brazil」以降も、キャッチーなロック・ソングながら、世の中で起きている問題に対する自分の意見をしっかりと反映させた曲をリリースするなど、その若さとは裏腹に確固たるスタイルを打ち立て、さらなる評判を集めることに。また、ライブ時もバンド編成となり、そのサウンドもより重厚さを増していった。

さて、ついに彼のデビュー・アルバム『What Do You Think About The Car?』がリリースされる。アルバムのリリースに先立って、プロモーション来日していた彼に話を訊いて来た。時に真面目に、時に冗談めいて、くるくる表情の変わる様子はまだ18歳の少年の姿そのもの。政治からポップ・スターについてまで語ってくれた本記事を読めば、彼の人柄だけでなく、Declan Mckennaの音楽に対する理解が深まることだろう。

Interview by Aoi Kurihara
Photo by Takazumi Hosaka


――昨日のライブはアコースティック・セットでしたが素晴らしかったです。思ったよりもティーンの若い女の子のファンが多く、中には泣いてしまった子もいましたが、イギリスでもファン層は同じようなのでしょうか。

Declan McKenna:そうだね、イギリスでも若い子たちが中心なんだ。僕は音楽を作る時に背伸びしないようにしているし、等身大の自分というものを音楽に反映させるようにしているからね。当然自分よりももっと年上の人も観に来てくれるけど、やっぱり10代の人たちがメインなんじゃないかな。僕も子どもの頃から好きなアーティストがいて、そのアーティストの成長と共に僕も成長していったっていう感覚があって、それは僕にとっても人生の中で重要な一部なんだけど、僕も自分のファンの人と共に成長していければいいなって思っているよ。

――小さい頃から共に成長してきたアーティストというのは?

Declan McKenna:僕にはちょっと年上の兄がいて、音楽に関しては彼からの影響が大きいんだ。だから、僕よりも年上なんだけど、Mystery JetsとかThe Maccabeesは小さい頃から観てきて、一緒に成長してきたっていう思ってるよ。そう、The Maccabeesはもうすぐ解散ライブがあって、チケットも買ったんだけど、その日はベルギーに行くことになってしまったから観れなくなっちゃったんだ。残念だよ。テムズビートって言われていた(200年代中盤〜後半にかけて、イギリス/テムズ河畔を中心に初期のMystery JetsやThe Holloways、Larrikin Love、Jamie Tらを中心に盛り上がっていた)シーンが好きだったんだよね。

――そういえば、あなたはDavid Bowieからも多大な影響を受けているそうですね。昨日はカジュアルな格好でしたが、最近ではパフォーマンス時に目元だったりネイルだったりにメイクをしている映像や写真をよく見ます。これはあなたのヒーローであるDavid Bowieを意識してのことなのでしょうか?

Declan McKenna:そうだね。ファッションだったり自分のスタイルに最も大きな影響を与えたのは、やっぱりDavid Bowieだよ。昨日はアコースティックのショーだったし、特にめかしこんだ衣装ではやらなかったんだけどね。あとはSt. Vincentの影響もとても受けている。それからPerfume Geniusも。ファッションについては自分が好きだなと思ったアーティストを参考にして、彼らのスタイルを取り入れるようにしているよ。

――先日、Instagramでピンクの猫耳のカチューシャをつけていたのも見ました。そういった女の子っぽいスタイルやメイクアップは自分で行なっているのでしょうか? それともバンドのメンバーの女の子に頼んでいたり?

Declan McKenna:あのピンクの耳のカチューシャは光るんだ(笑)。パリの街中で2ユーロでおじさんが売っていたものを買ったんだ。バンド・メンバー全員分買って、みんなに配ったんだよね。
あと、大きなTV番組の時はメイクアップ・アーティストがメイクを施してくれたりするんだけど、それ以外の時は自分でメイクしているよ。今はまだ成長している段階だから、自分でどういう格好をしたいのかも色々と模索しながら勉強しているんだ。自分にとって居心地のいいスタイルっていうのがどういうものなのかっていうのはきちんと考えていきたいね。

PINKPOP TODAY! 5pm at Stage 4 Thanks for a fantastic sold out show in Amsterdam last night ! X ?@bentevdzalmfotos @evazeegers

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――そのパリの公演は、あなたの友人であるヒップホップ・アーティストのGIRLIと共演していましたよね。彼女とあなたの音楽性はかなり異なりますが、彼女とはどういった経緯で仲良くなったのでしょうか?

Declan McKenna:去年フェスに出演した時に、自分の出番が終わって機材を運び出している時に、ダーっと走って来て「Declan McKenna!!!」と一言叫んで、またダーッとどこかに走り去っていた女の子がいて。髪はピンクだし「あの女の子は一体誰なんだ?」ってなったんだ(笑)。
その時はピンクの人っていう印象しかなかったけど、その後正体がわかって。それで今年の頭ぐらいのブライトンのライブにも来てくれたり、フェスとかで共演した時にも彼女のライブを観たらすごくよくて、それで自分のブッキング・エージェントから「今度のツアーの前座は誰がいい?」と聞かれた時に、彼女の名前を挙げたんだ。一緒にツアーを回るようになったらますます仲良くなって、彼女と仲の良いDJとも知り合えたりして。彼女のメッセージ性の強い音楽や楽しいライブ・パフォーマンスが本当に好きなんだ。

――原宿に行くと、彼女みたいなファッションや髪型をした人がたくさんいるので、機会があれば是非行ってみてください(笑)。

Declan McKenna:本当に? それは行ってみたいな! 写真を撮って彼女に送ってあげなきゃ(笑)。

――話は変わって、少しシリアスな質問をさせてください。先日マンチェスターで開催されたAriana Grandeのコンサートにてテロ事件が起こりました。あなたもその少し後にマンチェスターでライブをしていましたよね。あなたと同じ、音楽が好きなティーンエイジャーが犠牲になってしまった凄惨なこの事件について、どう思っていますか?

Declan McKenna:本当に悲しい事件だったね。楽しみに来ている人たちをターゲットにするなんて。イギリスは本当に嫌な状況だよ。あの事件の直後に僕もロンドンやマンチェスターで公演があって、みんなに「キャンセルするの?」と聞かれたけど、結局キャンセルはしなかった。セキュリティは十分すぎるぐらいだったよ。確かにキャンセルした方がいいのかもしれないって思ったりもした。でも、どんなに厳しい状況にあっても、僕たちは楽しむことをやめちゃいけないと思うんだ。悪いことはどうしても避けられないし、あの事件についてはすぐに解決したり答えが出ることではなかったから、僕はできるだけ人々が安全にライブを観れるように努力したよ。もちろん、よくない出来事がこれ以上起こらないように解決して、平和でいられたら本当にいいんだけどね。

――あなたの曲はそういった世界で起きている出来事や政治的なトピックから作られた多いですし、今朝もちょうどイギリスの選挙についてTwitterで呟いていましたよね。自分の目の前にある問題についてよりも、世界中で起こっていることを歌にしたり、発信し続けているのはどういったモチベーションからなのでしょうか?

Declan McKenna:うーん、難しいな。今はインターネットに簡単にアクセスできて、多くの情報が溢れていて、そういったトピックが目につきやすいからかも。あとは、友人とそういった世の中で起きている大きな出来事について話し合ったりもするね。なんで発信し続けるのか? と聞かれると答えるのに困るんだけど、僕はそういった出来事を想像して、もっと理解したいと思っている。だからかな。みんなと議論して、意見を交換したり話を聞くのがおもしろいんだ。

――イギリスの若い子たちの間では、そういった政治的、社会的な問題を議論するのは日常的なことだと言えますか?

Declan McKenna:イエス!……いや、イエスでもありノーでもあるかな。うーん、あんまり色々な世代とそういったことをいつも話しているわけでもないから、他の世代とも比較した話はわからないな。でも、間違ってはいないと思う。イギリスに住む人間にとって、今は政治的なトピックを避けることはできないと思う。色々な情報が手に入りやすくなっているし、みんな若い子はTwitterのアカウントを持っているしね。自分の周りでは、政治の話は重要なことだからよく話すよ。僕はそういったことを他人と話し合うことで、理解を深めていると思う。そうだね、うん。若い子たちも政治についてよく話題にしていると思うよ、

――なるほど。日本だとそういう政治的な議論は、友人同士の日常会話の中では避けられがちです。少し意地悪な質問ですが、日本にはそういう背景があり、さらに英語に対しても苦手意識を抱く人が多いです。メッセージ性の強い歌詞を書くあなたは、この日本で音楽を通じてどういうアプローチができるのか、またはそういった文化の違いをどうやって超えられると思いますか?

Declan McKenna:実は僕もメジャーでポップな音楽を聴いている時は、歌詞をあまり深く考えていなかったりするんだよね。ほとんどの人も実はそうなんじゃないかな。僕のファンももしかしたら大体の人が歌詞よりも単純にサウンドとかを気に入っているだけなのかも。歌詞を気にせずに楽しんでくれても大丈夫だよ! 僕はサウンド自体を作ることも楽しんでいるし、僕の音楽を気に入ってくれればそれだけで嬉しい。今はインターネットで音楽が拡散していくから、ロンドンだけでなくてここ東京だったり大阪だったり色々な場所で僕の音楽が聴かれていて、本当にすごい状況だよね。僕が伝えたいことが完璧に伝わらなくても問題はないと思ってるよ。僕の曲がただ好きだって言ってくれるだけで嬉しいね。

――話は変わって、もうすぐリリースされるアルバムについて訊かせてください。収録されている半分の曲は既にシングルでリリースされているので、デビューから今までのあなたの足跡を辿ったコンピレーション的な作品になっているかと思うのですが、アルバム1枚を通してのコンセプトや伝えたいメッセージなどはありますか?

Declan McKenna:コンセプトはないんだよね。僕自身も最初にリリースした15〜16歳ぐらいの頃から大分成長してきたし、アルバムに収録される曲にはそれぞれ別々のコンセプトがある。だから、このアルバムは何かひとつのコンセプトにフォーカスしたわけではなくて、自分自身や自分の成長を表しているものなのかもしれない。ただ、次のアルバムはもう少しコンセプチュアルなものになるんじゃないかなとは思うよ。

――本作からまだシングルとしてリリースされていない曲の中で、特に思い入れがあったり強いメッセージ性を擁した曲などはありますか?

Declan McKenna:うーん……。でも、シングルとして既にリリースされている曲よりも、まだ未発表の曲の方が政治的は要素が少ないのは確かだね。「Listen to Your Friends」には個人的に思い入れがあるかな。僕はBob Dylanじゃないから、全部に政治的な強いメッセージがあるわけではないんだ。この曲はVampire WeekendのRostamがプロデュースしたんだよ。誰かが電車の中で新聞を読んでいる、そして学校が終わった子供を親が連れているんだけど、子供が休日にどこかへ行きたいと言うことに文句を言っている。なぜならどこへ行くにも高くて彼らにはお金がないから。この曲の中で言いたいのは、人は文句を言うのは簡単だってこと。僕はこのアルバムで、こういった自分のボイス(声)をそれぞれの曲の中に入れているんだ。

――「Brazil」でFIFAの批判をしていたのに、「Isombard」がFIFAのビデオ・ゲームのサウンドトラックになったのは皮肉な話だと思いました。これについてはどう思いました?

Declan McKenna:うーん、まぁ、エキサイティングなことだったね(笑)。「Brazil」を作った時は僕も若かった……いやそんなに昔でもないか。でも、今より若かったし。僕の曲がビデオ・ゲームのサウンドトラックに使われたこと自体はとても気に入っているよ。何千人とか何万人とかがゲームを通じて僕の曲を聴いてくれるなら、それはいいことだよね。僕たちもゲームをやらなきゃ(笑)。

――ライブではBeyonceの「Hold Up」のカバーをしたりしているようですが、彼女からも影響を受けているのでしょうか? なぜこの曲をカバーしたのでしょう?

Declan McKenna:いい質問だね! なんでかな(笑)。有名なポップ・ソングをカバーしようっていう話になったんだよね。最初はQueenにしようかなってなったんだけど、うーん、なんでだろう。もちろん僕はBeyonceが好きだし、あとVampire WeekendのEzraも彼女のアルバム『Lemonade』にクレジットされているしね。ドラムのGabbyがBeyonceの大ファンで、それでカバーするようになったのかな。ポップ・ソングをカバーするのはなんか変な感じだったけど、大衆にウケる曲を学ぶためにはとてもいい経験だったし、おもしろかったよ。

――今、イギリスだとグライムのシーンが盛り上がっているように思いますが、そういった音楽も聴いたりしますか?

Declan McKenna:もちろん! グライムやUKのヒップホップを聴いたりするよ。やっぱりSkeptaはよく聴いているね。

――先ほど、GIRLIと仲が良いという話をしたかと思いますが、他に同世代で仲の良いバンドやアーティストはいますか?

Declan McKenna:Will Joseph Cookだね。彼はとてもクールなミュージシャンだし、先日リリースされたアルバムもよかった。あとは、Blaenavonかな。新しいバンドなんだけど、彼らの音楽はカッコイイし、とてもフレンドリーだよ。それから……SuperfoodにJAWSもかな。新しい次の世代がどんどん出てくるのはエキサイティングなことだよね。

――1年ぐらい前ですが、Justin Bieberと比較した写真をinstagramにアップしていたのが今でもすごく気になっていて。15〜16歳ぐらいの若い時に、インターネットを通じて有名になったという点ではある意味共通するものがあるのかなと。彼からシンパシーを感じたり彼の音楽を聴いたりしますか?

Declan McKenna:うん、すごい似ているよね。僕ら基本的にはほとんど同じじゃない?(笑) っていうのは冗談で。実はJustinがヘッドライナーのフェスでプレイしたこともあるけど、ビッグ・ファンではないね(笑)。まぁ、彼の曲はキャッチーでいいのもあると思うよ。ただ、彼の曲が好きというよりも、プロダクションとか戦略の部分の方に興味がいってしまうな。Instagramで写真を並べたのは、僕の前髪が彼の前髪と似てたからだよ。「ワォ、僕ってJustin Bieber?」てね(笑)。

――では最後に、ようやくデビュー・アルバムがリリースされ、ようやくスタート地点に立ったばかりともいえると思うのですが、今後どのようなミュージシャンになっていきたいと思いますか? また、ミュージシャンとして、アーティストとして目指している人はいますか?

Declan McKenna:やっぱりDavid Bowieはクールだから、彼の影響は今でも受け続けているし、その影響を僕は反映し続けると思う。彼は人間をも超越した存在だよね。宇宙から来たって人に信じ込ませることができるんだから。あとは、最初に少し述べたけどSt. Vincentをお手本にしたいね。彼女はアーティスティックでライブも本当にすごいんだ。ファンタスティックだよ。彼女は現代のギターの神だね。僕も、ただロックンロールな感じでやるんじゃなくて、エイリアンだったり、何か他の存在に見えるようなスタイルでやりたいと思う。でも、僕は常に変わっていきたいとも思っているから、実際には5年後どうなっているだろうね(笑)。


【リリース情報】

Declan McKenna 『What Do You Think About The Car?』
Release Date:2017.07.26 (Wed.)
Cat.No.:SICX78
Price:¥2,200 + Tax
Tracklist:
01. Humongous
02. Brazil
03. The Kids Don’t Wanna Come Home
04. Mind
05. Make Me Your Queen
06. Isombard
07. I Am Everyone Else
08. Bethlehem
09. Why Do You Feel So Down
10. Paracetamol
11. Listen to Your Friends
12. Excitement ※
13. Brew (Live at The Garage) ※
14. Basic (Live at The Garage) ※

※日本盤CD ボーナス・トラック3曲追加収録

■Declan McKenna 日本オフィシャル・サイト:http://www.sonymusic.co.jp/artist/declanmckenna/


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