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Interview / Daughter


ヘビーで閉塞的な歌詞・サウンドのなかにも少しの希望が残されていてほしい ー Daughter Interview

2016.01.14

2013年に名門レーベル、4ADからデビュー・アルバム『If You Leave』をリリースするや否や、世界中でファンを獲得したロンドン発の3ピース・バンド、Daughter(ドーター)。

ボーイング奏法なども用いた幽玄なサウンドスケープを描く演奏力の高さや、ボーカルであるElena Tonraの熱っぽくも透明感のある歌声、そしてキュートなルックスやキャラクターに魅了されているリスナーも多い。

Dautghterは今月およそ3年ぶりにリリースされる2ndアルバム『Not To Disapper』に先駆けて、昨年11月のHostess Club Weekenderで3度目となる来日を果たした。先行公開されていた楽曲「Numbers」、「Doing The Right Thing」のトーンや、イラストレーションで描かれたジャケットのアートワークが示す通り、新作はより人間の深淵を映し出すようなディープなものに仕上がっている。

しかしそれはバンドとして、辛い時期を過ごしたからではないという。

寒々しい雨が降った11月某日。中目黒川沿いの夜道を歩きながらのフォトセッションを行った後、リラックスした雰囲気のなか、ときに誠実に、ときにユーモラスに、そして聴き手を煙に巻くように、自信たっぷりと新作について語ってくれた。

Interview & Text:Hiroyoshi Tomite (the future magazine)

Photos:Haruki Matsui


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ヘビーで閉塞的な歌詞・サウンドのなかにも少しの希望が残されていてほしい

ー今作はNYブルックリンでレコーディングされたとのことですが、『If You Leave』をリリースした後、2年以上にわたって世界中をツアーで巡り、そこからアルバムを製作するまでに至った経緯について教えてください。

Elena:最初から敢えてブルックリンでレコーディングすることがプランの中に含まれていたわけではなかったのよ。でもツアーで世界を巡るなかでNYをすごく気に入ったということもあって、チャンスがあればまたNYに行きたいと思っていたの。またそれとは別の文脈で、自分たちが楽曲を仕上げる過程で、最後は他の人のサポートがあったほうがいいものに仕上がるんじゃないかと思っていた矢先、知人がNicolasを紹介してくれて。彼が人としても魅力的であったので、タッグを組んでやることにしたという運びね。彼はブルックリンにスタジオを構えていたし、その仕事ぶりには共感する部分も強かったから。

ーDeerhunterやAnimal Collectiveとの仕事でも知られるNicolas Vernhesですが、同世代のNY・ブルックリンのシーンなどに共鳴したというより、彼が魅力的であったから一緒にやったということですね。

Igor:そうだね。もちろんNYで生まれた音楽が好きだし、色々なミュージシャン同士がコラボレーションしあって、相互に作用しあっているというのは知っていたよ。実際、出会った人たちに共感したり、共鳴できるものは多分にあったしね。けれども僕たちの楽曲はブルックリンに行く前に既にあって、それを2ヶ月半かけていかに磨いてくかという作業をしにいったわけだから、そうしたNYの状況やフィーリングがどこまで反映されているかというと定かではないかな。

ー楽曲のストックはどのくらい溜まっていたのでしょうか?

Igor:ツアーをしながら1年以上にわたって楽曲を制作していたから、楽曲のストックは100くらいはあったよ。ロンドンに戻ってそこから20曲に絞って、NYに行くことが決まってからさらに15曲に絞ったんだ。そしてそのなかでレコーディングしたのはがアルバムに収録されている11曲だったということになる。

ー今回のアルバムのタイトルが『Not To Disappear』(=消滅しないために)となっていることからも想像できる通り、Daughterのキーワードとして挙げられる孤独や悲しみについて、さらに掘り下げた楽曲が並んでいるように感じられました。前作の頃に比べて、サウンド面も歌詞もより深化されたものになったことにはどのようなことが影響しているからだと思いますか?

Elena:確かに音像は前作よりヘビーになっているし、シンフォニックにもなっているわね。歌詞も『ここまで言っていいのかしら?』って戸惑うくらいパーソナルなものになっているしね。それは単純に自分達のミュージシャンとしてのスキルがあがって、より物事を深堀りできるようになったからという部分が大きいのかもしれない。

それからもう1つの要因としては、世界をツアーし続けるなかで孤独を感じるときや、自分自身に向き合わざるを得ない瞬間が多かったというのも作用していると思うわ。

……でもだからといって、救いのない音楽を作りたいと思っているわけではないのよ。単純に絶望や孤独を表現するだけの音楽にとどまらないで、どこかに暖かさが残されているものを作りたいとは常々思っているの。それは『If You Leave』の頃からずっと変わらない部分ではあるのだけれどね。

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ーなるほど。個人としての印象で申し訳ないのですが、単純に聴き流しただけでは、その希望とか暖かさを見つけるのが難しいかもしれないと思いました。もちろん丁寧に聴けば根底に流れている人肌や暖かさ、希望みたいなものを見つけられたのかもしれないのですが。

Elena:あら、そうなのね。私にとっては、NYが夏だったから、その頃の雰囲気が反映されているんじゃないかしら? なんて思ったりもしたけど……まぁ、そんなこともないのかもしれないわね(笑)。

Igor:君の言うことはわかるよ。ただこれは決してバンドとしてネガティブなことではなくて、僕たちの進歩の結果だと思っているし、Elenaが言った通り自分達の表現に自信がついた故の結果なんだと僕も思うよ。自分達を不快にさせる物事、悲しい出来事などについてダイレクトに表現してもいいって思えたんだ。

Remi:そういう意味では、サウンド面でも色々とチャレンジをしたね。例えば、「No Care」みたいにかなりBPMの早い曲にトライしたりした。一方で同期されている楽曲もあったり、エレクトロニックなものもあったりするし。

Igor:そうだね。『自分達にどんな表現ができるんだろうか』という命題をもっと突き詰めて考えて、深いところまで潜ってそれらを引っ張り上げたという感覚なのかもしれないな。

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(Left → Right)
Igor Haefeli(Producer/Gt.)
Elena Tonra(Vo./Gt./Ba.)
Remi Aguilella(Dr.)

耐えがたいほどの悲しい状況を、初めて外側から語ってみたくなった

―『If You Leave』の頃に比べて、楽曲制作の方法で変わったところはありますか?

Elena:基本的には共作という形をとっているし、大きな変化はないわね。誰が楽曲のどの役割を担うかという部分で、予め決められたルールみたいなものを作ってはいないのよ。かなりオープンなマインドでアイデアを取り入れてるようにしているしね。

Igor:仮にメンバーの誰かが提案したアイデアが自分にとって受け入れられないようなものに思えても、一回は受け入れて試すようにしたね。それを何度も繰り返して、磨いていったということだね。

Remi:だからこそ制作の時間は以前よりかなりかかった。そうした探究心が影響してサウンド面での変化も生まれている。今作でエレクトロニックなフィーリングを取り入れたのは、1つのチャレンジでもあったよ。

ーサウンド面での変化は、アルバム後半の楽曲群に顕著に思えます。一方で現時点で先行公開されている楽曲として「Doing The Right Thing」がありますが、これはMVでは年配の男性がこれまでの人生で失ってきたものを振り返っているといったストーリーに仕上がっています。この楽曲の歌詞の表現方法は、今までにないようなものに感じられました。

Elena:そうねぇ…。Daughterの楽曲の歌詞は基本私自身のパーソナルな視点がベースになっているからね。で、ご指摘の通り「Doing The Right Thing」は初めて別の人の視点で歌詞を書いたの。

Igor:MVを見た人の多くが「年老いた男性の視点で描かれているのでは?」と想像するんだけど。それはちょっと違うんだよね(笑)

Elena:実は、この歌詞は祖母の視点から描いてみたのよ。悲しい状況にある1人の女性の物語を外側から描くことで、自分自身がどのように感じるのかを知りたくなったの。そういう風に別の人の視点で物事を書いてみることで、それが結果として自分自身を見つめることにもつながるのではないか、という発想になったから。

―先ほどもおっしゃられていた探究心を持って制作に取り組んだというマインドを示すエピソードですね。ではこのアルバムを、ファンにどんな風に聴いてほしいと思いますか?

Igor:今回のアルバムは、より内容の濃いものになっているからバックグラウンド・ミュージックとして、さらっと聴き流せるような代物ではないよね。『If you leave』はもっとシンプルだから、聴き流しても心地いいアルバムになっていると思うけれどね。今作がカフェで流れたら人をイラっとさせるような気もするし……。だから1人で、じっくりと聴いてくれたら嬉しいな。

Remi:自分の理想の聴き方として頭にふっと浮かんだのは、自分のお母さん主催のディナー・パーティーで流れているような感じかな。

Igor:嘘でしょ?(笑)

Remi:いや、本当にそういうイメージが浮かんだよ。決してそういう聴かれ方をされたいってわけじゃないけどね。

Elena:私としては最初から最後まで通して聴いてほしいなって思うわ。「Numbers」とか「Doing The Right Thing」とか気に入った1曲をピックアップしてプレイリストに入れて聴くという人が多いのも知っているけど……。でもそうじゃなくって、全体の流れを意識して音楽の旅路を楽しんでもらえたらいいなって思う。……えーっと、そうね。シチュエーションとしては真っ暗闇の部屋の中で座って、このアルバムを通して聴いて、自分自身のインナー・ジャーニー(内なる旅)を楽しんでもらえたら嬉しいわね。

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Daughter

Daughter 『Not To Disappear』
Label:4AD / Hostess
Cat. No.:BGJ1008
Release Date:2016.1/15 (Fri)
Tracklist:
1. New Ways
2. Numbers
3. Doing The Right Thing
4. How
5. Mothers
6. Alone / With You
7. No Care
8. To Belong
9. Fossa
10. Made Of Stone

■ボーナストラック、歌詞対訳、ライナーノーツ付(予定)


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