Sulky Boyは2014年にDaniel Taylor自身がベッドルームで録音した曲が好評だったのをきっかけに、ブライトンで結成されたDIYのスラッカー・ポップ・バンド。今年の4月28日に初となるEP『Sulky Boys Play Songs of Love』をリリースした。
最近のイギリスのインディ・ロック・シーンは低迷し始め、以前Yakのフロントマン・Oli Burslemはインタビューで「最近のイギリスのバンドは閉鎖的で、アメリカほど開放的でDIYで活動しているバンドは少ない」と語っていたのも記憶に新しい。
そんな中、イギリスのロンドン市内から南に1時間半ほど電車でいったところの海沿いにある街ブライトンにて、DIY精神で活動するコレクティヴ、〈Echochamp〉が密かに出現。地道な活動でじわじわと注目を集めている。
この〈Echochamp〉には、いまイギリスで人気急上昇中のThe Magic GangやManuka Honeys、Abattoir Bluesといったバンドが所属しており、本稿の主役であるSulky Boyももちろんその中一組。徐々にではあるが知名度を上げているインディ・バンドだ。
昼下がりの中、お酒片手にダラダラ過ごす休日にはもってこいのローファイ感たっぷりの爽やかなサウンドを奏でるSulky Boy。今回はそのフロントマン・Daniel Taylorがプライベートで来日したとのことでインタビューを行った。
Interview & Text by Takashi Komine
Interpreter by Tomoko Fujiwara
Header Photo by Jai Monaghan
Photo by Takazumi Hosaka
――かなりの長旅でお疲れかと思いますが、日本の感想はいかがですか?
Daniel:日本に来たのは初めてで、とてもワクワクしているよ。すごい賑やかな通りもあれば、ふとした瞬間に閑静な住宅街や綺麗なお寺が見れたりと、二重性のある街を楽しんでる。明日は京都に行くことが楽しみだな。もっとゆったりとした時間が過ごせると思うよ。
――今回の滞在で一番の目的は?
Daniel:今回は主に観光が目的かな。日本の文化であったり、日本の人々を理解しようと思って来たんだ。日本は興味深くて、学ぶべきことが多いから、それをできるだけ多く吸収して帰りたいね。
――BREAK A LEGのインタビューでは日本のことが大好きとおっしゃっていましたね。日本に興味を持ったきっかけは?
Daniel:成長して行く過程で、アニメであったり日本の音楽に興味持って触れてきたというのもあるし、個人的には日本のデザインや建築とかに強く惹かれるものがあるんだ。今回の来日でも、街を歩いてるだけで色々な建築物が目に入ってきて、それがぼくにとっては宝物のように感じるんだ。
――具体的に日本のどのようなアニメやデザインに惹かれるのでしょう?
Daniel:アニメで言うと、初めは子供の時にテレビでたまたまポケモンやデジモンが放送されてて、それがきっかけだね。そのうちに年を重ねていって、自分でも調べて色々なアニメを観るようになった。最近では『DEATH NOTE(デスノート)』や『ワンパンマン』、『カウボーイビバップ(Cowboy Bebop)』がとても好きかな。あとはそれぞれのアニメのサウンドトラックであったり、ヴィジュアル自体もとても魅力的なんだ。デザインは、日本の古い刺青や浮世絵にある”波”のようなデザインに惹かれるね。
――アニメ以外にも日本の音楽に興味があると言ってましたが、BREAK A LEGのインタビューでthe pillowsとマキシマム ザ ホルモンの名前を挙げていましたよね。この2バンドはどのようにして知ったのでしょうか?
Daniel:そうだね、どちらのバンドもアニメを通して知ったんだ。アニメの主題歌とかで流れていて、自然に興味を持つようになった。イギリスではテレビやラジオで日本のバンドが流れることは基本的にないから、アニメを通して知れたのは大きかったよ。
――あなた自身の影響を受けてきたバンドについて、Queens Of The Stone AgeやReubenといったハードな音楽を聴いてきたとのことでしたが、Sulky Boyの楽曲にはその影響はあまり出ていませんよね。なぜヘヴィなサウンドではなく、爽やかでキャッチーなインディ・ロックになっているのだと思いますか?
Daniel:これには2つの理由があるね。1つは僕自身が落ち着いたこと。こういうヘビーな音楽が好きだったのは、主に反骨精神むき出しの10代の頃だったんだ。今はもう大人になって落ち着いたから、ただノイジーな音をぶちまけるのはなく、よりソングライティングに重点を置きたくなった。もっとデリケートで、シンプルな曲にしたかったんだ。
2つ目の理由は、実は僕はあまりギターが上手くないんだ(笑)。練習しててもあんまり成果が出てこなくて、ヘビーなサウンドを生み出すテクニックがないんだよね。だから、結果的にSulky Boyのようなインディ・ロック的なサウンドになったんだ。
――その他に、Sulky Boyの音楽性に影響を与えたバンドはありますか?
Daniel:Sulky Boyのメンバーが共通して影響を受けたバンドとして、Weezerが挙げられるかな。シンプルなポップ・ロックでありながら、強いテーマ性があったり、ロマンティックであることや人間味溢れる楽曲に惹かれたんだ。そこから自分なりに解釈して、今のSulky Boyのようなサウンドにしていったよ。まぁ、WeezerはWeezerでも初期のアルバムに限るけどね(笑)。
――最初はあなたひとりで作っていた曲をネットにUPし、それが話題となり、バンドとしてスタートしたそうですね。4月にリリースされたEP『Sulky Boys Play Songs of Love』はどのように制作されたのでしょうか?
Daniel:正直、このプロジェクトをスタートした頃から変わってなくて、今回のEPも同じく僕のベッドルームで録音したよ。宅録特有のローファイなサウンドになってるだろ?
でも、今までと違う点は、バンド・メンバーみんなが僕の部屋に集まって、それぞれが弾いて録音していったんだ。今までは自分一人で作っていたけど、今回のEPはバンドみんなの努力で作り上げたものなんだよ。
――The Magic Gangらのメンバーも在籍するブライトンのコレクティヴ、〈Echochamp〉を立上げたキッカケを教えてください。
Daniel:きっかけは些細なもので、ただみんな一緒に住んでいたからなんだよね。みんなそれぞれ音楽活動をしていて、一緒にレコーディングとかをするようになって、自分たちがシーンを作ってるいかのように感じたんだ。〈Echochamp〉は音楽好きが集まるような場所であって、レコード・レーベルというよりは、コミュニティーに近い存在かな。
――その〈Echochamp〉としては何か目的のようなものを掲げていますか?
Daniel:さっき言った通りに、レーベルというよりコミュニティのような存在だから、厳しい規律があるわけでもないし、決められた仕組みがあるわけでもないんだ。みんながリラックスして音楽が作れるような場所であって、いい音楽をリリースしていけたらなっていう感じだよ。あと、自分たちでライブを企画したりして、そこに自分たちの好きなバンドを呼んりしているよ。
――今回のEPのレコーディングにも携わっている、〈Echochamp〉の一員でもあるというDaniel Mooreとは一体どのような人物なのでしょうか?
Daniel:まず、〈Echochamp〉っていうみんなが住んでいる家があって、そこに彼が引っ越してきたんだ。元々そこの家の住人の友人で、今回の僕たちのEPのレコーディングに関わってくれた。彼はプロデュースに興味がある人で、僕たち以外にも〈Echochamp〉の一員で、これから出るManuka HoneysっていうバンドのEPも手がけたんだ。
彼は〈Echochamp〉の中のそれぞれのバンドと関わりがあって、各バンドを繋げる役割でもある重要な人物なんだ。あと、先の話なんだけど、彼自身のプロジェクトを始める予定もあるんだ。
――〈Echochamp〉がDIYな活動ににこだわっている理由を教えてください。
Daniel:〈Echochamp〉にはThe Magic GangやAbattoir Bluesがいて、彼らはUKで全国的に有名になってきているんだ。彼らはもうスタジオでレコーディングするようになったんだけど、僕たちは彼らを羨むばかりでなく、ベッドルームでレコーディングすることを重視してるんだ。例えば、ベッドルームでレコーディングしてるからといってそれが悪い音なわけでもないし、そこにある不完全さや感情を広く表現できるところは長所だとすら思っている。だから、DIYでやることを大切にしてるんだ。
――今のイギリスの音楽シーンでは、ここ数年の”BBC Sound Of〜”でもロック・バンドが選出されることがめっきり減り、ロック・バンドの勢いがあまり感じられないように思います。実際あなたたちはどのように感じていますか?
Daniel:確かにギター・ミュージックは下火になってきてるって感じている。自分でも全国レベルで勢いのあるバンドはあまり思いつかないかな。でも、ローカルなもっと小さい音楽シーンに目を当てると、安定的に活躍しているいいバンドはいっぱいいるよ。
――ブライトンはアーティストとして暮らすには最適な街だそうですが、具体的にはどういった点からそう思うのでしょう?
Daniel:ブライトンという街はかなり小さくて、みんながみんなを知っているような強い結び目でつながったようなコミュニティなんだ。例えば、レコーディングをしようとすれば必ずレコーディングを手伝ってくれる友達がいて、そういう面でもとても楽な街なんだ。それにいいライブハウスがたくさんあって、観客のみんなが心広くてバンドのライブを真剣に聴いてくれるんだ。だから音楽をするにはとても適した良い街だと思ってるよ。
――あなたの日本への興味は今回のEP『Play Songs of Love』のジャケットにも表れていますよね。この女の子は何をモチーフにしているのでしょう? また、このアートワークを手掛けたkikkujoとは?
Daniel:このアートワークは僕たちのために特別に作ってもらったものじゃなくて、元々kikkujoのネット・サイトにあげられていたものなんだ。そこに載っている他の絵もとても魅力的で好きだったんだけど、特に今回のEPのジャケになった女の子が自転車に乗っている絵に惹かれたんだよね。僕たちの曲の青臭い感じであったりとか、夏っぽいところとすごく合っていて、「これだ!」と思ってkikkujo本人にコンタクトを取ったんだ。僕たちは貧乏なので、「報酬は少ないけどどうかお願いします!」ってお願いして(笑)。
――Sulky Boyの楽曲は歌詞がわかりやすく、心に投げかけてくるような直接的な表現が印象的です。リリックを書く際にはどのようなことを意識していますか?
Daniel:僕の曲はどの曲も自分がそれを書いていた時の感情が入ってしまうんだ。その時々によって異なる感情を抱いているんだけど、それを歌詞にする時は、確かに他の人にも理解してもらえるように、明確でわかりやすい、直接的な歌詞にすることを意識している。その方が、聴く人がそれぞれ歌詞を自分流に解釈して、曲に入り込めるんじゃないかな。
――では、作曲プロセスはどうでしょう? どのような時にメロディが浮かんでくるのでしょうか?
Daniel:普通にギターを持っている時に、色々なコードを組み合わせていくんだ。そこでいい感じのコード進行を思いついたら、そこにハミングを乗せたりして作っていく。それがSulky Boyのサウンドの全てだよ。
――最近ハマっているお気に入りのバンドはいますか?
Daniel:ひとつは僕たちと同じくブライトン出身のSpillっていうバンドかな。かなりベビーなギター・サウンドが特徴で、初めて彼らのライブを観たときは僕の想像力が強く掻き立てられたよ。
もうひとつのバンドも同じくブライトン出身のDIYガールズ・バンド、Porridge Radio。彼女たちの楽曲は生音で録音していて、かなりローファイなサウンドなんだけど、その不完全さがとてもいいんだ。ライブ・パフォーマンスもエネルギーに満ち溢れていて、情熱を感じるバンドだよ。
――Sulky Boyとしての今後の展望を教えてください。
Daniel:僕たちはベッドルーム・レコーディングからバンドを始めたんだけど、キャリアも長くなってきたし、昔に比べたらバンドとして随分成長してきたと思う。だから、次こそは一回ちゃんとしたスタジオでレコーディングをしてみたいな。もうベッドルーム・レコーディングだけでは物足りなくなってきてる部分もあるからね。もし、僕たちがスタジオでレコーディングできるようになれば、〈Echochamp〉の他のバンドもそれに続くと思うし。
――やはりバンドとしての知名度も上げていきたい?
Daniel:いや、全国的に人気になるよりも、もっと多くの人にSulky Boyの音楽を聴いて欲しいかな。もしもっと多くの人が僕たちの音楽を聴いてくれるようになって、音楽だけで生活できるようになれたらいいな。それが僕の夢かな。
あとは1日でも早く、そして今度はバンドとして日本に戻ってこれることを願っているよ。何せ僕は日本のことが大好きで仕方ないからね(笑)。