Communions――幸せの国、デンマークで時代に流されず退廃的に生きる彼らは、本物のロック・スターになるだろう。
ここ数年デンマークはコペンハーゲンのロック・シーンが大いに盛り上がっている。その音楽シーンを世界に知らしめたポスト・パンク・バンド、Iceageを筆頭に、Iceageの系譜を継ぐLowerや最近ではR&Bを昇華した音楽性を擁するLiss、そしてこのCommunionsが同シーンの代表格として挙げられるだろう。
Martin(Vo./Gt.)&Mads(Ba.)のRehof兄弟と、そして彼らの友人であったJacob(Gt.)、Frederik(Dr.)でバンドを結成をしたのが2013年。2枚のEPをリリースし、ここ日本でも〈Big Love Records〉の尽力で早耳リスナーの間では話題になっていた彼らだが、今年2月には満を持して〈Fat Possum〉からデビュー・アルバム『Blue』をリリース。そして、今回”Hostess Club Weekender”(以下:HCW)にて初来日が実現した。
今回、HCW2日目のトップ・バッターを務めることになったCommunionsは、「Forget It’s A Dream」からスタートし、一気に会場を彼らのドリーミーな世界へと誘う。アルバムのタイトル通りブルーのライトに包まれて演奏する彼らは、淡々とはしているが、その姿はどこまでも儚く美しい。ただステージで黙々と演奏しているだけで、バンドとしての華があり、画になってしまうのである。特にブロンドのヘア・スタイルに黒のライダースで決めたボーカル、Martinは往年のロックスターのような、カリスマ的な魅了を放っていた。
続いて1stアルバムより「Midnight Child」、「Today」、「Come On, I’m Waiting」とアンセミックな曲の連続に、思わずシンガロングしたくなってしまった方も少なくないだろう。そして最後は「Out of My World」にて、ダークでいてノスタルジックなエンデングを迎えた。初来日公演ながら堂々たるパフォーマンスを披露し、バンドとしてのポテンシャルを十分発揮してくれた彼ら。なんと、早速今夏に開催される”SUMMER SONIC 2017″にて再来日公演も決定しているので、HCWでのパフォーマンスを見逃してしまった方は是非ともこちらをチェックしてみて欲しい。
さて、そんなHCWでのライブ直後に、今回はバンドのグルーヴを支えるリズム隊、MadsとFrederikのふたりに話を訊くことができた。
Interview by Aoi Kurihara
Photo By Takazumi Hosaka
(L→R:Jacob、Mads、Martin、Frederik)
―たった今あなたたちのパフォーマンスを観たところですが、素晴らしかったです。特にFrederikのドラムは激しいパフォーマンスでよかったです。日本のオーディエンスもかなり盛り上がっていましたが、デンマークのオーディエンスとの違いを感じたりはしましたか?
Frederik:ありがとう! 日本のファンはすごく盛り上がってくれたね。
Mads:そうだね、すごくエナジーを感じて、ハッピーな光景だったな。
―日本では女の子のファンが多そうに見えましたが、デンマークでも同じでしょうか?
Mads:うーん、正確にはわからないけど、デンマークでは男の子も女の子も半々ぐらいな感じだと思うよ。
―さて、バンドについて訊かせてください。Communionsというバンド名はアルチュール・ランボーの「First Communions」から由来されているようですが、彼の作品は他にも有名なものがあると思うのですが、敢えてこの作品からバンド名を拝借した理由は?
Mads:バンド名を決めるために長くディスカッションをして、色々考えてみたんだけど、最終的にはバンド名の案を全部リストにして眺めていくなかで、これが音的に一番良いなってなったんだ。書いた時の文字の見た目も良いし、発音的にも良いんじゃないかなってね。それだけだよ。
―デビュー・アルバム『Blue』はキェシロフスキーの映画『トリコロール/青の愛(Three Colors:Blue)』からきているそうですね。これはフランス国旗をモチーフにした三部作で、青の次に白、赤と続いていきますが、青を選んだ理由は? 映画のテーマである”自由”と重ね合わせているのでしょうか?
Mads:実はこれはMartinのチョイスなんだよね。これを選んだ理由としては、映画に込められた実際の意味というよりも、感情的なものがアルバムとマッチしたからだと思う。すごく抽象的なものだと思うけれど。本当のところは実は僕はわからないんだ。ただ、青は僕らの表現したい特定のムードを表してくれると思うけど、白と赤は違うんだ。……それに、実はあの映画、僕自身は観ていないんだよね(笑)。
―なるほど。ちなみに映画以外にもフランス文化に興味はありますか?
Mads:そうだね、フランスとドイツのカルチャーに興味があるんだ。フランス語とドイツ語は、たぶん世界でも重要な言語だと思うんだよね。統計的にもフランス語を喋る人は世界的に多いし。
―あなたたちの故国、デンマークは「世界一幸せな国」とも言われ、国連が発表している”2016 World Happiness Report(世界幸福度報告書)”では1位に輝いています(※2017年の同レポートではノルウェーに抜かれデンマークは2位となっている)。ロック・バンドは、怒りやフラストレーションを音楽にぶつけることが多いと思いますが、あなたたちはその幸せの国デンマークで育ち、何を考え、どう音楽で表現しているのでしょうか?
Mads:そうみたいだね。でも、僕はデンマークが世界で1番ハッピーな国っていうことに対して、賛成していいのかどうかわからないな。たぶん、福祉が良いからそう言われているんだろうなっていうのはわかるけど。
でもさ、そもそもハッピーな音楽って、退屈でおもしろくないと思うんだよね。ハッピーな感情ていうのは、他の感情比べると、とても単純な感情だと思うんだ。
ー以前あなたたちは他メディアのインタビューで「Communionsの曲は『Nowhere』(どこにも存在しない)な観点がある」と言っていたのを覚えています。デンマークから遠く離れたここ日本にも来ることができ、音楽は国境をも超えるということを今まさに肌で実感しているのではないでしょうか?
Mads:そうだね。音楽はユニバーサルなものだと感じているよ。僕らのサウンドや歌詞を違う国の人たちが理解してくれているし。まぁ、僕らの曲はどれもシンプルなメロディーを基調としているから、多くの人々から受け入れやすいっていうだけかもしれないけどね。
―話は変わりますが、あなたたちMVを手がけた若きデンマークのフォトグラファー、Lasse Dearmanとは親交があるようですが、彼との出会いを教えてください。
Mads:良い質問だね! 彼とはFrederikを通して知り合ったんだ。
Frederik:そうそう、僕の元ガールフレンドと彼が知り合いだったんだけど、彼はコペンハーゲンではなく違うところの出身で、そこから引っ越してきたんだよね。それで僕の元カノのペント・ハウスに住んでいて、一緒に過ごすうちに仲良くなったんだ、彼はナイス・ガイだよ。
―よく彼のInstagramにもあなたたちは登場しますよね。
Mads:酔っ払っている時の写真とかばっかだけどね(笑)。
※2017年2月リリースの『Blue』 アートワーク
―写真といえば、今作『Blue』のカバー・アートワークはアルバムのタイトルとぴったりで美しく儚い青ですね。あなたたちの友達がプールで撮ったものと聞いています。どういったコンセプトで撮影されたのでしょうか。
Mads:そう、あれはロンドンのJoeっていう友達が撮ってくれたものなんだけど、たまたまTumblrから見つけたんだよね。アルバムのアートワークを決めるときに全然時間がなくて、追い詰められていた時にさ。青色が印象的で、アルバムの名前とマッチするし、いいかなと思って。
Frederik:僕らのアルバムって、タイトルも何か具体的な物事を指し示したものではなく、作品が内包している空気感とか雰囲気を表したようなものだから、あの写真の色合いとかの雰囲気もすごく合ってるなって思ったんだよね。
Mads:このブリリアントな青がタイトルととてもマッチしてるだろ?
※2015年6月リリースの『Communions EP』 アートワーク
―ちなみに『Communions EP』のアートワークのあの男の人は誰なんでしょう?
Mads:彼はデンマークのスタイリストで、いい奴なんだよ。この写真はフォトグラファーの友人と一緒に、すごく寒い冬の季節にコペンハーゲンのスタジアムで撮ったんだけど、彼はショーツしか履いていなかったから本当に寒かっただろうね(笑)。
―MartinとMadsは一時期シアトルに住んでいたようですが、それらの経験はあなたたちのライフ・スタイルや作る音楽に影響を与えていると思いますか?
Mads:うーん、違う国での生活が音楽にどの程度影響を与えたかはわからないけれど、ただ確かにシアトルは有名なミュージック・シーンもあるからね。
―それこそ超有名どころを挙げればNirvanaもシアトルですしね。
Mads:そうそう! だから、シアトルでの生活は、音楽により自然と触れてこれたっていう面ではよかったかもしれないな。僕らはみんな色々なタイプの音楽を聴いて育ったからね。でも、かといってシアトルの経験が直接僕らの音楽に直結するというわけではないかな。
―過去2枚のEPの際はThe CureやThe SmithsのようなUKの90’sバンドの影響が伺える陰鬱な雰囲気があったように思うのですが、デビュー・アルバムでは、Oasisのようなブリット・ポップ的サウンドへと変化を遂げましたよね。こういった音楽性の変化はどのようにして起きたのでしょうか?
Mads:EPの頃よりももっとプロフェッショナルに作ろうとしていたからね。そしてもっとクリーンなサウンドにしたかった。特に意識してこうしようって決めてなったわけではなく、自然と変化していったという感じかな。
―Mayhemというリハーサール・スペースがあなたたちの原点だと伺っています。IceageやLowerといった若手のアーティストたちも出入りしていたようですが、そこでおもしろい出会いなどはあったりしましたか。
Mads:そうだね、あそこではおもしろい人々にいっぱい出会えたし、僕らにとっても本当に助かった。そこで出会った人々のおかげで僕らは今ここにいるんじゃないかって。
―ここ数年、先ほど挙げたバンドやLissなど、デンマーク出身のバンドの活動が目立ってきたように思います。何かおすすめのバンドはいますか?
Mads:いや、あんまり……。
Frederik:いないね(笑)。
―(笑)。え〜っと、あなたたちは80年代や90年代の音楽からの影響を公言しているし、やっぱり最近の流行りの音楽とかは聴かないのでしょうか?
Mads:そうだね。20年代、30年代、40年代、50年代、60年代……ロック以外の音楽を含めれば本当に色々な音楽を聴くんだ。でも、たしかに最近の音楽はあまり聴かないな。
―ではその中で憧れのロック・ヒーローを挙げるとすれば?
Frederik:Marc Bolan(マーク・ボラン)だね。あとIggy Pop(イギー・ポップ)。
Mads:もちろんDavid Bowie(デヴィッド・ボウイ)とJim Morrison(ジム・モリソン)もね。
―まだ若いのに、そういった古い音楽を好むのはなぜでしょうか?
Mads:父親の影響だね。僕が小さい頃からお父さんがBob Dylanとか、そういった古い音楽をかけていて、そういう環境の中で育ったんだ。古今東西の素晴らしいロックを聴きながら育ったから、今の音楽にあまり興味を持てないのかもね。
Frederik:僕もそういう家族の影響はあるけど友達から教えてもらったりとかもあったかな。
―なるほど。それでは最後にバンドとしての今後の展望や夢を教えてください。
Mads:特にないね。
Frederik:うん、特にはない。
Mads:これまでと同じように、曲を書いて演奏できればそれでいいかなって。
Frederik:今セカンド・アルバムを作っているしね。
―そのセカンド・アルバムについて、少しでもいいのでヒントをもらえませんか?
Mads:それはできないね。まだヒミツだから(笑)。
Frederik:いや、秘密っていうかそもそもまだ何もコンセプトがないだけだよ(笑)。
【リリース情報】
Communions 『Blue』
Release Date:2017.02.03 (Fri.)
Label:Fat Possum / Hostess
Cat.No.:HSE-6344
Price:¥2,300 + Tax
Tracklist:
1. Come On, I’m Waiting
2. Today
3. Passed You By
4. She’s A Myth
5. Midnight Child
6. Got To Be Free
7. Don’t Hold Anything Back
8. Take It all
9. It’s Like Air
10. Eternity
11. Alarm Clocks
12. It’s Like Air (Live)(※)
13. Midnight Child (Live)(※)
14. Eternity (Live)(※)
15. Got To Be Free (Live)(※)
※日本盤ボーナストラック
※全世界同時発売
※ボーナストラック4曲、歌詞対訳、ライナーノーツ(照沼健太)付
■レーベル・サイト:http://hostess.co.jp/artists/communions/