FEATURE

Interview / brinq


ようこそMagical brinq Tourへ! 気鋭のクリエーターにして今週末開催の”HYPER POP CLUB”首謀者へロング・インタビューを敢行!

2016.10.18

いよいよ今週末に開催が迫った”次世代ポップミュージックの祭典”と題した”HYPER POP CLUB Powered by TYPICA”の共同主催であり、今年1stアルバムをリリースし話題を集めたbrinq。

brinqは元々作曲家として活動しているユウフジシマが、その本業の傍らでゆるやかにスタートさせたプロジェクト。そんな彼が今年リリースした待望の1stアルバム『Magical brinq Tour』は、弾けるようなポップネスと煌びやかなサウンドがこれでもかと詰まったキャッチ―な傑作となっている。ゲストに招いたlyrical schoolのminanを始め、アンテナガールやSatellite YoungのEmiなどといった女性ボーカリストたちも、それぞれの個性を活かしながら鮮やかな華を作品に添えることに成功している。

しかし、それと同時に聴き込めば聴き込むほどにその整合性のとれたサウンドに唸らされる本作は、彼の作曲家としての豊かな経験、知識に裏付けされた職人気質のようなものまでも感じとることができる。

そこで今回、Spincoasterでは彼の作業場でもあるホームスタジオに潜入し、取材を敢行。彼のこれまでの道のりからそのバックグラウンドまで、様々なことを訊くと同時に、1stアルバム『Magical brinq Tour』を本人直々に全曲解説してもらった。

Interview by Takazumi Hosaka
Photo by Kohei Nojima

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—まず最初に、基本中の基本の質問なのですが、brinqとしてのキャリアをスタートさせた経緯を教えてください。

brinqという名前のプロジェクトを始めたのは3年前くらい、2013年頃。それ以前にもyunismという名前で、いわゆるJ-Houseみたいなものを作っていて。ただ、そのプロジェクトをやっていくうちに色々と時代も変わってきたなっていうのを実感してきたんだよね。世の中ではEDMがドカーンときたりしていて。もちろんそういうのもすごい好きだったけど、僕はその頃にPassion Pitとかtwenty one pilotsみたいなエレクトロとロック〜ヒップホップとかをクロスオーヴァーさせたようなバンドにすごくハマって。だからWONDERVERの相澤くんのインタビューとかこの前読ませてもらったんですけど、すごい共通する部分があると思うんだよね。

—それこそ今作『Magical brinq Tour』にカバーを収録しているPhoenixだったりもそうですよね。

そうそう。で、そういうの海外のバンドものみたいなのをちょっと遊びで作ってみたりしていて。英詩オンリーで、エレクトロな質感もありつつバンド・サウンドのやつを。でも、それもしばらくやってるうちに、やっぱり日本語でみんなが歌えるうたというか、もっとわかりやすい方がいいなって思って。相澤くんも言っていたけど、例えばぼくらのおじいちゃんとかに聴かせても「いいね」って言ってくれるような親しみやすさというか。そこから改めて日本語っていうフォーマットの上でやろうって方向転換して、でもサウンドはさっき言ったようなテイストを残しつつ。やっぱり日本語の詩を上手くメロディに乗せるっていう点ではすっごい苦戦もした。レキシとかきゃりーぱみゅぱみゅのようにおもしろいテーマやワードを持たせつつも、滑らかにメロディに乗っているようなリリックを目指して試行錯誤して……で、このアルバムが出来たって感じです(笑)。

—そのままアルバムの話に入る前に、brinqとしてというより、ユウフジシマとしての個人的な音楽のバックグランドをお訊きしたいのですが、やはりyunismでやっていたようなハウスなどに行き着くのでしょうか?

ルーツっていう意味では、コテコテのハウスやテクノというより、『SUPER EUROBEAT』みたいなコンピとか。それこそTWO-MIXとかm.o.v.eだったり。基本的には〈avex〉か〈KING RECORDS〉のCDしかうちにはなかったくらいで(笑)。

—なるほど。では音楽制作自体はどのようにして始めたのでしょうか?

実は幼少期ピアノ習ってたとか、音楽をやってたとかは全くなくて。何かオヤジは昔ドラムとかをやってたらしいんだけど、家庭では特に音楽の話をすることもなく。

—バンドとかやったりとかもなく?

全くなく。ただ、たまたま中3の時に合唱コンクールで指揮者をやることになって。それがぼくの人生の中ですごい重要な出来事だったんだよね。まだその時のタクトも持ってるし(笑)。
その時は譜面も全然読めないし、勉強もしなかったけど、それよりも何ていうか”音楽の楽しさ”みたいなものに触れたというか。それまではただの中の下で、運動もそんなにできないし勉強もできない何の取り柄もないガンプラ好きな中学生だったのが、それがキッカケで変わったという(笑)。

—めっちゃいい話ですね。合唱コンクールの指揮者を経験したことで、音楽の楽しさに目覚めたと(笑)。

うん。もちろんそれまでもある程度さっき挙げたような音楽は聴いてたんだけどね。しかもそのコンクールで指揮者賞みたいなものも取っちゃって、勘違いしちゃったんだよね。「おれ、才能あるんじゃないか?」って(笑)。

それで高校一年生くらいの時にバイトで頑張って最初の打ち込み用の機材を買って。このSC-8850は今でも持ってるんだけど、こいつのおかげで今の僕があると言っても過言ではない。当時で8万5千円したのもまだ覚えてるし、よく15歳とか16歳でそんな大金を注ぎ込めたなって(笑)。それで16歳くらいで音楽を作り始めて、高校を辞めて17歳で上京した(笑)。

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—結構破天荒な人生ですね(笑)。

破天荒だね(笑)。その後、専門学校に入って、そこで音楽理論とかを勉強したんだけど。

—そこから作曲家としての道を歩み始めるんですね。では、改めてここでbrinqの話に戻すと、最初は女性ボーカルとユニットのような形で活動していたんですよね?

そうそう。今回のアルバムにも「Can you undress my love」とか「TNIT」とかで参加してもらってるんだけど、mika shinzawaっていう女性シンガーの方がいて。今でもボーカル入れてもらったりとか、歌詞を考えてもらったりとかしてるんだけど、ちょっとしたキッカケがあり、渡英して今はロンドンに住んでいるので、いかんせんライブができないってなってしまって。
それで次は2代目brinqとも言うべきアオキマミっていうジャズ・シンガーに出会い。その子と一時期ライブ活動をしていた時期もあったね。今作に入ってるPhoenixの「If I Ever Feel Better」のカバーを歌っているのが彼女なんだけど。当初は曲名に「feat. 〜〜」ってあんまり付けたくなくて。

—バンド感というか、ユニットだぞっていう感じで。

そう。まぁ結局今回は色々な方に参加してもらう形で良いものが作れたからよかったけど、ホンネを言えばひとりじゃなくてユニットとかになりたい(笑)。

—なるほど。今作は待望の1stアルバムらしく、brinqとしてのこれまでの集大成ともいえる内容になっていますよね。

brinqをスタートさせた3年くらい前の曲から全部入ってるね。アレンジとかはもちろん何回も何回も作り直したりしてるけど。何か本当にSpincoasterに取り上げられて、遊びに行ったりした頃から色々と加速してきて。出会う人とかも増えて、今作のフィーチャリング・ボーカルの方々もこの半年ぐらいで決まっていったし。

—ではここからは今作『Magical brinq Tour』の収録曲を1曲ずつ紐解いていければと思います。まず1曲目の「overstars」はインストの短いイントロとなっていますよね。

基本的にいつも楽曲制作をしているときはクリック音とかメトロノームみたいなものでテンポを保ちながら作るのが当たり前なんだけど、この曲はそういうのを全部無視して、自分の感覚だけでババっと作った曲。実は意外と個人的に気に入ってて。製作時間は本当に30分とかそんくらいなんだけど(笑)。

—アルバムの全体像が見えてきてから、作品の流れをトータルで彩るために作った、と。

いや、というよりは最初の頃にライブのSEとして使うために作ったものが実は原型になってて。

—なるほど。ではお次は2曲目の「baby baby (feat. minan from lyrical school)」ですが、まずはlyrical schoolのminanちゃんと出会った経緯からお訊きしてもいいですか?

リリスクがまだtengal6っていう名前で活動してた時、彼女たちの1stアルバムに少し自分が携わったことがあって。そのアルバムはtofubeatsさんとかも参加してるんだけど、その時に僕が一緒に仕事したのが坪光っていうリリスクの今度のシングル(『マジックアワー』)の作曲とかもやってるやつで、そこで色々繋げてもらったって感じだね。

—この曲は最初から女の子ラップを入れるという構想ありきで生まれたのでしょうか?

実は原型は1年前くらいにはもう既にあって。フィメールラップというかガールズラップというか、そういうものが自分のなかで勝手に「いいな」って思ってたら、泉まくらとかDAOKOとかがグワーって人気が出てきて、結構世間でも流行ってきたのを感じて。そこから今回リリスクのマネージャーに連絡してみようかなって。

—ラップ部分のディレクションやリリックはどのようにして進行していったのでしょうか?

ラップ部分は知り合いのRONっていう人に、その他のリリックはさっき話したmikaちゃんにお願いした。「パーティ感」みたいなぼんやりしたテーマを設定して、それぞれに投げたっていう。実は元ネタ……っていうわけでもないけど、参考にした曲があって。アニメ『YAWARA』の初期のOP曲で「ミラクル・ガール」っていうのがあるんだけど、ああいう80〜90年代のアニメの主題歌とかのポップ感みたいなのが欲しくて。

https://www.youtube.com/watch?v=mMkyCer0knI

やっぱりこういう時代の音楽って昨今の”シティ・ポップ”的文脈で再発見・再評価されている感じがするし、なんといってもこの当時のキラキラ感がいいんだよね。今聴いても、というか今だからこそかもしれないけど、全然古びて聴こえない。

—では次は「question (feat. アンテナガール)」ですが、これはアンテナガールさんの歌声も手伝ってか、身も蓋もない言い方をすればYUKIっぽいというか。

これは最初のVer.だともっと全然明るくてカワイイ感じで。そこからコードとかアレンジも全部変えて、ちょっと「切なさ」みたいなものが欲しくなって……色々やっていたら「JOY」っぽくなったという(笑)。

—この曲の歌詞も、何度もお話に出てるmika shinzawaさんによるものですよね。

何だかんだいって今作も彼女に8割方歌詞書いてもらってるね。テーマとかは毎回自分で決めてるんだけど、最近はちゃんと自分でも書かないとなって思ってます(笑)。
この曲は自問自答というか、自分に対するクエスチョンをいっぱい投げてるっていう歌詞。

—次の曲はそのmikaさんが歌う「Can you undress my love」ですよね。これまでの流れを一旦変えるような、少ししっとりとしたメロディ・ラインが印象的なナンバーです。リリックを書いてもらうときは仮歌でメロディを入れて渡しているのでしょうか?

そうだね。でもあまりガチガチに作り込まずに、ある程度は向こうでイジれるような余白のような部分も残しつつ。この曲に関してはやっぱり憂いのある感じにしたかったっていうのと、「サビの頭は英語」っていうのだけはこっちから指示をしていて。あとは何回かキャッチボールして作り込んでいったっていう感じで。

—曲の途中で少々語りというか、ラップっぽいというか、そういう部分も出てきますよね。

何か自分の必殺パターンじゃないけど、例えば「小室哲哉の曲だったらこうきてこう展開するでしょ」みたいな。そういうある種の定石みたいなものを作りたいっていう思いもあって。結構至る所でラップとか語りっぽいのを入れてるんだよね。アンテナガールも今までラップやったことなかったんだけど、レコーディングの時に無理やりやってもらって(笑)。

—そしてお次が先程少し触れましたがPhoenix「If I Ever Feel Better」のカバーですね。

これはやっぱりアオキマミちゃんの声がすごいいいなって思ってて。これを作ったときはすごいCHVRCHESにハマってたから、こういう声質のボーカルを探していたんだよね。で、たまたまMySpaceで彼女を見つけて、Facebookで検索したら共通の友人もいたということで紹介してもらって。
あとはこの当時、男性ボーカルの洋楽曲を女性ボーカルでカバーしたらいいんじゃないかっていうアイディアもあって。別の仕事で洋楽カバーものをすごい量やってた時期があったりしたので、そういう影響もありつつ。この楽曲をカバーしていたおかげでSpincoasterのノジマくんとも話が弾んだっていうのもあって。

—洋楽好きにとっての共通言語になりやすい楽曲ですもんね。

そうそう。あとはPhoenixのギタリスト(Laurent Mazzalai)がPhoenix結成前にDaft Punkの2人と一緒にバンドを組んでいたっていうこともあって、この曲の最後にはDaft Punkを思わせるロボ声を微かに入れるっていう遊び心を発揮してる。ほとんど聴こえないと思うけど(笑)。

—次はイントロとアウトロを除けば唯一のインスト風のナンバー「dig」ですね。シカゴ・ハウスをちょっと今風にアップデートしたような印象を受けました。

これは僕が元々好きだったそういったシカゴ・ハウスやハード・テクノ、ディープ・ハウス的な要素を強く押し出した曲。ドラムにはわかりやすいくらいTR­909の素のサンプルを使ってる。

―やっぱりダンス・ミュージックが出自だというところもどこかで打ち出したいという思いが?

それもあるし、あとはやっぱり単純に好きなんだよね。さっき「誰にでもわかるポップなうたもの」がやりたいとか言っておきながら、そういうのばっかり作ってると、たまにこういうのを作りたくなってしまうという。

—揺り戻し的な。では、ここで一旦アルバムの空気を変えてからの、お次は盟友Satellite YoungのEmiさんをボーカルに招いた「Nonai Muchoo feat. Emi(Satellite Young)」ですね。

これは中山美穂の「Catch Me」みたいな、80年代のアイドル歌謡曲とかが元々すごい好きっていうのがあって、僕が国内で一番好きなシンセウェーブ・ユニット、サテライトヤングのボーカルのemiちゃんをゲストに招いてそういう曲がやりたかったんだよね。例えばWinkの「淋しい熱帯魚」みたいなベースラインとか。ああいうのがとにかく好きで、たぶんこの曲もYMAHAのDX7っていうシンセを使ってると思うんだけど、こういう感じの音を再現したくてさ。元々ちゃんとDX7も持ってたんだけど、売っちゃったから、もう一回モジュール版のやつを中古で買い直して。今回のアルバムではそいつがかなり活躍してれてます。「ベッベッベッ」っていういかにもFM音源っぽい音。

https://www.youtube.com/watch?v=lmK0YDSpqmE

—なるほど。では、次は「Time To Say Goodbye -Eng.ver-」ですね。これはなんというか……。

そう、モロにCHVRCHESに影響を受けてできた曲(笑)。これは最初にSpincoasterに取り上げてもらった曲で、CHVRCHESの楽曲構成とかアレンジを研究しまくった結果、できたっていう。元々はアレンジが全然違くて、普通の4つ打ちっぽい感じだったんだよね。

—具体的にCHVRCHESの楽曲の、どういうところに一番惹かれたのでしょうか?

もちろんLauren(Mayberry)ちゃんの声も素晴らしいんだけど、バックのIain(Cook)とMartin(Doherty)のふたりから伝わってくる”アナログ・シンセ愛”というかそういうところにもすごい惹かれて。実際に彼らが使ってる音源を集めようと思って揃えたのがこのモーグシンセなんだけど、これをシンセベースとして鳴らすと、グッとCHVERCHESっぽくなるんだよね。あと、昔すごい流行ったProphet 5(プロフェット5)っていうシンセの後継機として、Prophet 12っていうのがあるんだけど、それを使うとすごいCHVRCHES感が出るんだよね。そのサウンドがすごく……なんだろう……好きなんだよね、うん(笑)。

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なんかやっぱりこれにしかない質感があるから、派手に鳴らしても今流行ってるような”ザ・EDM”みたいな感じになりにくいというか。今のEDMは逆にソフト・シンセで完結しているのがほとんどだし、音もプリセットのままで作ったほうがそれっぽさが出るんだよね。安価で売ってるサンプリングセットを買えば結構誰でも作れちゃう(笑)。それはひとつのジャンルとしてしっかりと確立された証拠でもあるし、ダンス・ミュージックっていう性質上逃れられない運命ではあるんだけどね。でも、やっぱりクリエーターとしてそういうのじゃ自分は満足できない。今すぐにドカンといかなくても、今後長きに渡って残るようなポップ・ミュージックが作りたかったというか。

—この曲は最初から完全に英詩でお願いしていたのでしょうか?

うん。最初から完全に英語でお願いした。でも、タイトルに「-Eng.ver-」って付いているように、いつかは日本語Ver.も作りたいなって思ってる。ボーカルもできれば違う人に歌ってもらって。

—では、お次の「トキメク My Boy feat.ellie / yung ditto」は完全に2stepの曲ですよね。これも乱暴に言ってしまえばm-floですよね(笑)。

そう。やっぱり「Come Again」が超好きで。……あの、17歳で上京したての時、買ったばっかのシンセで何を作っていたかというと、ひたすら2stepみたいな曲ばっかで。こういういわゆるアンダーグラウンドなクラブ・ミュージックのサウンドを、女性ボーカルのポップ・ミュージックに仕立て上げるっていうのがすごく好きなんだよね。この曲のボーカルは以前、共通のクリエーター仲間を通して紹介されたellieさんで、新宿MARZでのライブでも歌ってもらったことがあります。

—でも確かにここ最近になって、イギリスではDisclosureやShift K3yが2stepな曲でヒットを飛ばしているし、Hardwellも最近になって2step〜UK Garageな新曲をリリースして話題となりましたよね。

ぶっちゃけていえば、Disclosureの「You & Me ft. Eliza Doolittle」にめちゃくちゃ着想を得ていて、あれを日本語詩でやったらどうなるんだろうというってところからスタートしてるんだよね。でも、確かにメロディラインでは「Come Again」っぽくて。一拍目にメロディが着地している感じというか。あとはこの曲の裏テーマとして、ネット上のシーンも意識してて。このBメロのキックの打ち方はJersey Clubっぽいし。BPM的にも130ちょいくらいでちょうどよかったし。

—そこは結構さり気なく取り入れてますよね。

そのさり気なさも意識はしていて、あまり露骨にやらないほうが良いなって。まんまドーンってFuture BassとかJersey Clubとかをやっちゃうんじゃなくて、これまで自分の中で培ってきたものに、アクセント的な感じで取り込むというか。

—でも今話に挙がったFuture BassやEDMとは違って、今作は敢えて音圧をあまり上げないように作ったそうですね。それはやはり音に奥行きが出るから?

それもDisclosureにすごい影響を受けたっていうのがあって。彼らの作品って実はそんなに音圧が高くないんだけど、ハイハットひとつひとつの音でもものすごくキレイというか粒が立って聴こえるんだよね。その感じがすごい不思議で、自分でもやってみたかった。それまではやっぱりEDMとかFuture Bassみたいに、聴いた瞬間にドーンってくるような音圧がカッコいいって思ってたんだけど、初めて彼らの「F For You」を聴いた時に、「あ、音圧って低くてもいいんだ」ってことに気付かされたんだよね。あと、波形で見ると一目瞭然なんだけど、実はCHVRCHESも意外と音圧は低くて。だからこそ彼らの音楽はダンス・ミュージックとしても機能しながら、ラウンジ感じゃないけど、ホームリスニングにも対応するソフトな感覚がある。そういうところにすごく惹かれるんだよね。今回のアルバムは他のクリエーターに聴かせたらちょっと馬鹿にされるかもってくらい音圧が小さいんだけど、まぁ友人知人に聴かせたら評価してくれたから、これでいいかなって(笑)。

—では次は「TNIT」です。これはややロック寄りの、アグレッシブなエレクトロ・ポップというか。

これはちょうど3年前とかにPassion Pitの「The Reeling」にすごく影響を受けて作った曲で。このベースみたいなシンセとかはモロだよね。でも、この頃はまだギリギリAfrojackとかも好きだったから、それがブレイクのところには表れている(笑)。この曲は歌詞もすごい気に入ってて。これもmikaちゃんが書いてくれた詩で、夜にフラフラしてる女の子の悲しい話なんだけど、このちょっとアンニュイなメロディにばっちりハマったなって。

—この曲はドラムとかがすごいバンド感を出していますよね。

そうそう。まさしくシンセ・ポップ・バンド、みたいな。だからドラムも生で録った音を加工して使ってたり。

—矢継ぎ早ですが次の「P.O.P」もシンセ・ベースが印象的ですよね。

これはLMFAOみたいな、ちょっとバカっぽいパーティー・サウンドを作りたいなって思って、テーマは「パーティーで浮かれてる人たち」。

—でも音的にそこまで派手ではないですよね。

そうだね。サウンド的にはレトロ・フューチャリスティックというか、80’sっぽいというか。ちょっとディスコっぽさもある。音数も少ないんだけど、この随所で入っているギターが個人的にはポイントかな。ブリッジ部で曲の構成をガラッと変えるのが好きなんだけど、この曲の場合はちょっとダブっぽくなる。あと、ドラムは生ドラムとサンプリング音を重ねて組み立ててる。

—じゃあ次の曲は「Satellites feat. Ken Kobayashi」。これはまさしく……。

Spazzkid(現Mark Redito)だよね(笑)。ボーカルに招いたのは日系英国人で、今もロンドンで活動しているシンガーソングライターのKen Kobayashiくん。来日イベントに行った際に仲良くなって、その後3日間くらい飲み歩いたりした仲で(笑)。その来日中にここでデモを一緒に作って、彼がイギリスに帰った後はデータをやり取りしながら完成させた曲。Spazzkidもそうなんだけど、最近フランスのトラックメイカーのFKJとかもよく聴いてて、たぶんそういうのからここに辿り着いた。いわゆるFutureな感じもあるけど、どこかオーガニックな感じというか、ソフトな質感もあるっていう、そういうのを目指した。

—次はアウトロで、本編はとりあえずここで一旦終了します。

イントロから始まりアウトロで終わるっていうベタな感じを、久しぶりにやりたくなっちゃって。これもイントロと同じくクリックとかは一切なしで、自分の間とタイミングのみで弾いた曲。最近の曲ってすごいキッチリとBPMに沿って作られてるので、それに抵抗したい、みたいな気持ちもありつつ。たまにこういう即興性の高い曲を自由に作るのがすごい楽しいんだよね。だから次アルバムを作るときは、TOWA TEIみたいな感じって言ったらアレだけど、インストをもうちょっと増やしたいかもって思ってる。

—次はボートラの「baby baby feat. minan(lyrical school) Remixed by YUSUKE from BLU-SWING」ですね。

これはさっきも話したニュージャズ・バンド、BLU-SWINGのクリエーターのYUSUKE NAKAMURAくんっていう人がリミックスしてくれたんだけど、彼とは同じイベントに出演したりしてた昔からの友達で。彼がソロのライブの時に使っているカオスパッドがあるんだけど、実はあれは僕があげたやつで。その代わりに「じゃあ、いつかリミックスしてね」って口約束をしていたんだけど、それが今回実現した(笑)。

—リミックスをアルバムに入れようというのは前々から決めていたんですか?

今作はポップスとダンス・ミュージックの間で上手くバランスを取りたいと思っていて、そういった点からみてもやっぱりボートラに何か一曲リミックスを入れたいなって思って。
あとはまだ全然企画段階ですらないけど、いつかリミックスとか「Time To Say Goodbye」の日本語Verも入れるような1.5枚目みたいな感じの作品も作れればなと。2枚目に行く前に。

—これで全曲解説の方は終了ですが、最後にこの『Magical brinq Tour』をご自身の言葉で総括するとなるとどのような表現になるでしょうか?

CDの帯にも「ようこそ2020年代型シンセポップ・ワールドへ」って書いちゃってるんだけど、やっぱりこれに尽きるよね。今作は勝手に2020年代のポップスを作った……つもり、っていうのがテーマで。2010年代ももう少しで終わっちゃうし、ここで2010年代の最新サウンド! って言ってもあまりインパクトないな、と。あと、これは僕の持論なんだけど、これからの音楽の世界は全く新しいものが出てくるというよりかは、ノスタルジーのあるものがどんどんブラッシュアップされて出てくるんじゃないかなっていう思いもあって。だからこそ、今作にも知ってる世代にとっては懐かしい、けど知らない世代の人たちには新しいっていう要素をいっぱいいれたつもり。

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―では、最後に10月23日(日)に開催される”HYPER POP CLUB Powered by TYPICA”についてお訊きします。まず、この日はこれまでの中でもおそらく最も豪華なメンツでのbrinqのライブになりますが、ずばり意気込みは?

リリスクのminanちゃんを筆頭にこのためにロンドンからくるmika shinzawaも含め今回がアルバム『Magical brinq Tour』を体現できる最大の機会かなと。
自分のこれまでの音楽人生の中でも一番のビッグ・イベントになってるので 昔から僕を知っている方、最近知った方、とりあえず来てみた方、色々な人たちにbrinqのサウンドと共演アーティストたちが紡ぎ出す世界観を堪能してもらいたいです。

―”HYPER POP”をキーワードに集められた今回のイベントの共演者たちで、特に気になっているアーティストは?

今回ブッキングはSpincoasterのノジマくんと一緒にやったんだけど、お互いのテーマ性「未来系」みたいなものにマッチしていて、アーティストそれぞれに個性があり、クリエーター/バンド/アイドルと多種多様だけど、新しいことにチャレンジしようとしている方々。僕は純粋にそれぞれのファンなので、今回共演できて本当に嬉しい。
特に気になっているアーティストをあえて挙げるとするならば、一番最後にブッキングさせてもらったパソコン音楽クラブかな。彼らの昔懐かしのホームページや使っているMIDI機材を見て、そこに当時の自分を重ねて懐かしいな〜と思いつつ。サウンドは80年代半ばのテクノやアシッドハウスとかそういったムーブメントの影響もあって、個人的にすごいハマってる。もし時間があったら彼らと一緒に吉祥寺のハードオフに行きたいな〜って(笑)。


【イベント情報】

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brinq presents “HYPER POP CLUB” Powered by TYPICA

会場:Shibuya WWW X
OPEN / START:15:30 (予定)
出演アーティスト:
brinq【Special Live Set】 feat.minan、アンテナガール、Emi、ellie、mika shinzawa
lyrical school
Yunomi feat. nicamoq
Satellite Young
WONDERVER
Avec Avec
Lucky Kilimanjaro
パソコン音楽クラブ 【OPENING ACT】

【VJ】 JOE(@jmworks

前売りチケット価格:¥3,500 (ドリンク代別途)
e+、ファミリーマート店頭、Peatixで発売中
brinq presents ”HYPER POP CLUB”

主催:brinq / Spincoaster
フライヤーイラストデザイン:北村みなみ(@kita__minami)
ロゴデザイン;山田和寛(@ymdkzhr

出演アーティストプレイリスト


【リリース情報】

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brinq『Magical brinq Tour』
Release Date:2016.09.07 (Wed)
Label:Haretoki
Cat.No.:HTR01
Tracklist:
01. overstars                
02. baby baby feat. minan(lyrical school)   
03.question feat. アンテナガール       
04.Can you undress my love            
05.If I Ever Feel Better            
06.Dig                   
07.Nonai Muchoo feat. Emi(Satellite Young)  
08.Time To Say Goodbye-Eng.ver-      
09.トキメク My Boy feat.ellie / yung ditto   
10.TNIT                  
11.P.O.P                  
12.Satellites feat. Ken Kobayashi       
13.next space               
14.baby baby feat. minan(lyrical school) Remixed by YUSUKE from BLU-SWING

【Official Store】
https://brinq.thebase.in/

【AMAZON】
https://www.amazon.co.jp/MAGICAL-BRINQ-TOUR/dp/B01H5JT22K


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