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Interview / Baio


「聴いている人が次に何が起こるのかを想像できないようなトラックを作りたい、そして何でもありな作品を作りたいというのがあったんだ」— Baio インタヴュー

2015.09.25

思い出すと2012年は、Vampire Weekendが再び集まって制作をしているという噂を耳にしながら『Contra』に次ぐ傑作を今か今かと待ちわびていた頃で、そんな中でのChris Baioによるダンスミュージック・プロジェクト=Baioの本格始動はなかなか驚きだった。そしてもっと衝撃的だったのは、そのトラックのクオリティが高かったことだ。デビューEPのタイトルトラック「Sunburn Modern」はキャッチーなニューディスコ。アフロなパーカッションの上で、マリンバのような音とエフェクトがかかりまくったヴォーカルが陽気なメロディーを奏でるDJユースなトラックは、Vampire WeekendのブレーンRostam Batmanglijの陰に隠れていた彼の才能を知らしめるには十分な完成度だった。
『Sunburn Modern EP』に続いてリリースされた『Mira EP』でも、Vampire WeekendのメンバーになるまでDJとして活動していたChris Baioの経験に裏打ちされたセンスが輝いていた。特に、ヨーロッパの名門ハウス/ニューディスコ・レーベル〈Permanent Vacation〉や〈Eskimo Recordings〉からのシングルを想起させるトラック「Mira」と「Zona」は、フロアをロックするメロディと、その前フリとなるインタールードにしっかりとメリハリがあり、いまもなおBaioのDJセットのクライマックスを飾っている。

ところが、ソロ活動を3年経て完成した1stアルバム『The Names』には、まるで現代版の踊るポップアイコンのような、また新たなBaioの姿がある。それは、「Sister Of Pearl」のMVで素敵なクネクネダンスをしながら歌うChris Baioを見ればまず明白……。もっと細かく言えば、先行公開された「Sister Of Pearl」や「Endless Rhythm」のような、Vampire Weekend的なシンセとフォーキーなロックのサイドを起点にしたダンスチューンは、これまでの彼の作品の中ではほぼ初めてのスタイルだ。ディティールもしっかりしていて、アルバムのオープニングの緩やかなハウストラック「Brainwash yyrr Face」からのリレーションを断たないように、ほのかにBPM120代の拍を残してとしているあたりもさすがの腕前といえる。さらに、Baioの作品でヴォーカルをここまでハッキリと披露するのも本作が初めて。彼の低くて品のあるヴォーカルは、「Sister Of Pearl」のMVでのスーツ姿以上にBryan FerryやDavid Bowieを彷彿とさせるものがある。というか、Bryan FerryをTodd Terjeがリミックスしたトラックの延長線上にある様なそのスタイル、確実に影響されているでしょう。

『The Names』を完成させたChris Baioに、どういうダンスミュージックが好きなのか、彼にとってのダンスについてを訊ね、Baioのプロジェクトについて語ってもらった。そしたら最後の最後に彼から意外なトピックが飛び出して、またしても僕は驚いてしまった。

Baio Interview

(Interviewer & Photo: Hiromi Matsubara, Interpreter: Miho Haraguchi)

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―ロンドンに移り住んでもう2年になるんですよね。そもそもなぜ移り住んだんですか?

2年前に僕の妻が、働いてる会社からイギリスへの転勤のオファーを受けて、それで僕も一緒に移り住むことになったんだよね。僕のこれまでの人生の中でニューヨークやニューヨークの郊外より外には出ることが無かったから、凄い興奮したし、嬉しかったんだよね。外国に住む機会なんて滅多に無いしさ。

―ロンドンでの生活はいかがですか? 制作環境とかライフスタイルに変化はありましたか?

ライフスタイルそのものはニューヨークに居た頃と変わらないかな。音楽活動は変わらずに続けられているし、オフに出掛けて出先で誰かに会うっていうことも、新しい出会いが増えたぐらいで、引っ越す前と変わらないしね。違うところって言ったら……、やっぱりニューヨークとロンドンは場所が違うから、ロンドンでパブに行くのと、ニューヨークでバーに行くのは雰囲気が結構違うよね(笑)。でも、いまのロンドンの生活は面白いし大好きだよ。引っ越しをしたことは外からアメリカを見る良いきっかけにもなって、また新しい世界観を持つことができたんだ。

―2年前に僕が制作に携わっていた『yajirushi』という音楽誌のインタヴューで、あなたとRostam(Batmanglij。Vampire Weekendのメンバー)に音楽的なバックグラウンドを伺った時に、「Vampire Weekendって本当にアメリカのバンドなの?(笑)」って思うぐらいBlurやRadioheadといったイギリスのバンドからの影響をお話してくださったんですよ。その後に、ロンドンに引っ越したって聞いたから、てっきり音楽のルーツを求めに行ったのかと思ってましたよ(笑)。

ハハハ、違うよーーー!(笑) 好きなイギリスのバンドはたくさんいるけどさ(笑)。ティーンの頃からギターをやってたらイギリスのロックは必ず通る道だと思うから、それで影響を受けるんだと思うよ。でも実際Vampire WeekendでUKをツアーをした時は、移動もハードだったし、ツアーをより良いものにしようと自分が常に努力をしなきゃいけない状況だったからあまり楽しめなかったんだよね。だから何かが無い限り、自らイギリスに住もうとは思うことはなかった。でも今回は偶然チャンスがあって住むことになって、住んでみたらツアーとは全く違うから楽めてるよ(笑)。

―あなたのソロプロジェクト、Baioとしては、これまでにハウスやニューディスコっぽいダンスミュージックの作品をリリースしていますよね。あなたの数々のトラックはヨーロピアンなものとアメリカンなものの、どちらのダンスミュージックの要素も含んでいると思うんですが、Baioのプロジェクトはどういうダンスミュージックがバックグラウンドあるんですか?

ヨーロピアンな音楽からの影響が少し強いかもしれないね。もちろんアメリカのプロデューサーやソングライターからも影響されてるけどね。このニューアルバム『The Names』の場合は、ジャーマン・テクノとかイギリスのプロデューサーとソングライターとか、よりヨーロピアンな音楽から影響を受けてできている作品だと思うよ。

―個人的には、『The Names』を聴いた時にTodd TerjeとかLindstrømといった北欧のプロデューサーたちの作るサウンドを連想したんですよ。

へぇ! 嬉しいな! 「All The Idiots」は、Todd Terjeの「Snooze 4 Love」にかなり直接的に影響されて出来たトラックなんだよ。良い耳してるね!

―ありがとうございます(笑)。詳しく言うと、まず最初にTodd Terjeの『It’s Album Time』を連想しました。それには、あなたのヴォーカルが入っているトラックと、『It’s Album Time』に入っていたBryan Ferryが歌っている「Johnny and Mary」のフィーリングが似ているように感じたから、とか、ずっと4/4トラックの「ただのダンスミュージックアルバム」ではなく、様々なジャンルとスタイルの音楽をミックスしてダンスミュージックを多角的に見せているから、とか色々な理由はあるんですが……。

確かにあのアルバムは最高だよね! 僕もたくさん聴いたよ。Bryan Ferryが歌ってるトラックは、クールに落ち着いていくフィーリングと感動できるメロディックなエレメントの2つが混ざり合ってて本当に素晴らしいよね。もちろん僕はBryan Ferryからもかなり影響を受けていて、 「Sister of Pearl」は、彼の「Mother of Pearl」をモジったタイトルでもあるんだ。3年前にリリースされた、Todd TerjeがRoxy Musicの「Love Is A Drug」をディスコダブ・エディットしたやつも好きで、何度も聴いたよ。果たして、自分が好きでたくさん聴いた音楽の要素が自分の作る音楽に現れるかどうかはわからないけど、Todd TerjeとBryan Ferryからかなり影響を受けていることは確かだね。

―その一方で、あなたはDJミックスではアメリカンなダンスミュージックもたくさんプレイしています。例えば、最近『Purple Sneakers』にアップされていたミックスでは、John Gibbsのディスコクラシック(John Gibbs & US Steel Orchestra 「Trinidad」)とか、Pablo & Shoeyの70’sディスコファンク・リエディット的なトラック(Pablo & Shoey 「Raw Human Emotion」)を使われていました。シカゴハウスなどのアメリカンなダンスミュージックからの影響についてはいかがですか?

もちろん影響されている部分はあるよ。4/4トラックを作る時に、シカゴハウスやデトロイトテクノみたいな、いまとなってはかなり伝統的なダンスミュージックを参考にしているしね。Cybotronの1stアルバム(『Enter』)はかなり好きで、毎年数回は聴いているね。あとMr. Fingers(Larry Heardの別名儀)の「Can You Feel It」も大好きだよ。でも……、僕は自分自身の影響を言い表すのって難しいなと思っていて。僕は本当に色々な音楽を聴いているから、あらゆるものが僕の作品に出てくる可能性があると思う。いま自分が物凄く影響を受けていなくても、ずっと人生の中で聴き続けている音楽って全部自分の頭の中に入っているから、トラックメイキングをしている時ってどうしても自然に頭の中のものが出てきてしまうことがあると思うんだよね。だから、『The Names』でも、メインの部分ではないわずかなところで、さっき挙げたプロデューサーたちや、シカゴハウスやデトロイトテクノからインスパイアされたものが現れている可能性はあると思うよ。

―では、もっとベーシックなことを聞きたいと思います。あなたが幼い頃に「Thriller」で家族と一緒にダイニングテーブルの周りをダンスをした思い出を、先日Facebookに書かれていましたが、音楽を聴いて踊ることには随分前から親しんでたんですか?

うん、小さい頃からいつも踊ってたよ。僕のお母さんが踊るのが好きで、踊ることが趣味だったぐらいだよ。チャイコフスキーの『くるみ割り人形』ってあるでしょ? あの作品にまつわる僕の最初の記憶は、僕のお母さんがあの話に出てくる悪いねずみの王様を演じていて、ネズミのコスチュームで踊っているところなんだ(笑)。本当よく踊るお母さんだったから、家庭にはいつもダンスがあったよ。

―そうやって幼い頃からダンスに親しみがあるあなたにとっては、「踊れる」っていう要素は音楽を作る時に1番に重視することですか?

そうだね。『The Names』の中でも、僕の多くのトラックの中でも、踊れるかどうかは大きな要素になってるよ。やっぱりテクノとかハウスみたいな4/4ビートのトラックを作る時は踊れるかどうかを意識するしね。でも、例えば『The Names』のクロージングトラックの「Scarlett」は「I Was Born In The Marathon」とかとは真逆とも言えるフォーク・スタイルで、踊れるトラックにはなってないから、確かに「踊れる」っていうのは僕にとってはひとつの重要なパートとしてあるけど、もっと別の要素も同じぐらい大事だし、「踊れる」ということが全てではないね。

―『The Names』は、ここ5年間、あなたの中で反響(reverberated through)していた物事が詰まった作品だそうですね。あなたは2013年にイギリスに引っ越すので、『The Names』にはアメリカでのエピソード(2010~2013)とイギリスでのエピソード(2013~2015)が、だいたい半分ずつぐらい含まれているということになると思います。さらにアルバムの収録曲も、ダンスミュージックのトラックとフォークやロックのトラックがちょうど半分になっています。これを知った時に、このアルバムの、4/4ビートのハウスやニューディスコっぽいトラックはイギリスに移り住んでからのエピソードを表していて、フォークやロックっぽいトラックはVampire Weekendのプロジェクトをしながら多くの時間を過ごしていたアメリカでのエピソードを表しているのかなと想像したのですが、実際はどうですか?

その考え方は面白いね! いま言われて初めて気付いたよ! その考え方好き! 僕も君の言う通りだと思うよ。アメリカに住みながら、ヨーロッパのダンスミュージックを聴いていた時期もあったから、そこはこのアルバムが含んでいる5年間のちょうど中間地点にあたるよね(笑)。そういう全てが詰まって、このアルバムの二面的な構成が出来上がってるんだろうね。

―中でも、「I Was Born In A Marathon」は、最初半分が4/4ビートのハウススタイルで、フェードアウトした後の残り半分はギターの音が強調されたシンセポップになっていて、このアルバムの二面の両方を持ったトラックです。「I Was Born In A Marathon」は、あなたがこのアルバムで目的としていることと、Baioというプロジェクトの音楽性を最も象徴しているトラックだと思ったのですが。

間違いなく僕もそう思うよ。今回、このアルバムとトラックを作っている中でのゴールとして、聴いている人が次に何が起こるのかを想像できないようなトラックを作りたい、そして何でもありな作品を作りたい、というのが僕の中にあってね。だから、アルバム全体としても最初は4/4ビートのトラックから入って、だんだんフォークの面やシンガーソングライター的な面を見せていく流れにしたんだ。この「I Was Born In A Marathon」も、アルバムの流れと同様のことをやりたいと思って作ったトラックなんだよ。

―『The Names』のアートワークも、絵かと思いきや写真、というちょっとした意外性のあるものですよね。このMatthias Heiderichの写真は、アルバムの明るい雰囲気に合っていて凄く良いと思うのですが、ディレクションはあなたがしたんですか?

そうだよ。アートディレクションは僕がやったんだ。彼の写真とは5年ぐらい前に出会って、好きで集めてて、もし自分が作品を出すときは彼の写真をアルバムかヴァーに使いたいと思ってて。それで『The Names』を作り終わった後に、「僕は君の大ファンで、写真を使わせてほしい」ってことと、僕の音楽のことを書いた長いEメールを彼に送ったら、快く許可してくれたんだ。彼の写真は、デザイングラフィックなのか写真なのか、言われるまでわからないところが面白いと思う。あれはハンブルグの写真で、僕がハンブルグに行った時はあの写真みたいに明るくてカラフルな印象は全く受けなかったんだけど、この写真はまるでマイアミのように明るいよね。そういう新しいイメージを与えてくれるところが良いと思ったんだ。

―音楽的にも、アルバムとしても、あなたが『The Names』の制作で目標としていたことは達成しているかと思いますが、次なるBaioのプロジェクトの目標は何ですか?

いま、去年D’Angeloがリリースした『Black Messiah』にかなり関心を持っているんだ。あのアルバムは出来るまでの15年間、彼はあまり上手くなかったギターをずっと練習していたらしいんだ。それで完璧にマスターして『Black Messiah』のレコーディングに臨んだっていう話を読んで、素晴らしいと思ったんだよね。だから僕も新しい楽器に興味を持っていてね。ドラムを叩いたことがないから、こないだロンドンの自宅の近所で見つけた安いリハーサルスペースでドラムをたくさん練習して、上手く叩けるようになって、僕のドラムを中心にしたサウンドのアルバムを作ることが次の目標かな。『The Names』のドラムは全部プログラミングだから、次は自分で叩いた音を使いたいね。

 


 

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Baio『The Names』
Release date: 2015/09/18 (金)
Label: Glassnote / Hostess
Price: 2,400円+税
*日本盤にはダウンロード・ボーナストラック、歌詞対訳、ライナー付(予定)

Tracklist
1. Brainwash yyrr Face
2. The Names
3. Sister of Pearl
4. I Was Born in a Marathon
5. Needs
6. All the Idiots
7. Matter
8. Endless Rhythm
9. Scarlett

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