FEATURE

INTERVIEW / 青い果実


「世の中、虎視眈々としてるものが多すぎて」――ヘッズに癒やしと活力を与えるスーパーグループが、その健康の秘訣を語る?

2018.05.03

今年1月に「mebius feat. ico!」のMVを投下して世間の耳目を集めた青い果実。

青い果実は、決して無理をしないという生き方で多くのプロップスを得る“日本語ライム”の提唱者・METEORと、ラッパーでトラックメイク、ビートボックスまでもこなすユーティリティー・プレイヤーであり、SD JUNKSTAの一員としてもシーンを牽引してきたKOYANMUSIC a.k.a. KYN(以下:KOYAN)そして、人々の懐にスッと入っていくような、どこかノスタルジックで温もりを感じる美声と、心の奥底から絞り出したようなシリアスな詞世界が魅力のSSW、butajiからなる3人組だ。

突然のMV投下から程なくしてリリースされたアルバム『AOKAJI』には、正真正銘、彼らにしか作ることができないオリジナルな音楽が詰まっている。決して奇をてらうことのない、地に足のついたリリック、さらに、奇跡的なバランスの妙が生み出す健康的で骨太なグルーヴ。スカウターがすぐに爆発してしまいそうなこの3人の総合力の高さを裏付ける大傑作だ。

今回は、そんなアルバム『AOKAJI』制作の裏側、そして、結成までのプロセスなどを自由気ままに語ってもらった。

Interview & Text by Ryota Inoue
Photo by Takazumi Hosaka


——アルバムのリリースおめでとうございます。各々の経験則が反映されたような作品で、終始、驚かされながら、そして、幸せな気持ちになりながら聴かせて頂きました。そもそも、青い果実というグループ名はどのように生まれたんですか?

butaji:これ、確かメテオさんでしたよね?

METEOR:いや、違うんだよね(笑)。

KOYAN:おれなんだよ(笑)。

butaji:あ、そうなんだ。

KOYAN:SD(JUNKSTA)の「呑む」っていう曲のMVでも使わせてもらったオザショー(小澤商店)って所で皆で呑んでたんですよ。それで、青い果実に決まる前に幾つか別の候補も出ていて。確か2つくらいあったんですけど……墓地? じゃなくて……なんだっけな?

METEOR:酒とか?

KOYAN:ちょっと違うかな。

butaji:酒はやばい(笑)

——エゴサーチし辛いことこの上ない(笑)。

KOYAN:その時に、何げなく青い果実って言葉が出てきて。自分の中で、年は取ってるけどまだまだこっからでしょっていう想いもあったのかな。

——なるほど、そういう意味が込められているんですね。では、結成の話についてもう少し詳しく伺いたいのですが、青い果実というグループ名が決まった後に、正体を隠してやろうという戦略になったのは、どのような流れからだったんですか?

KOYAN:それはどうしてだっけ? おれらが言ったんだっけ?

butaji:レーベルの担当さんです。

KOYAN:あ、そうだ。担当の方が、「覆面で出してみませんか?」って。

METEOR:覆面って言っても、そもそもおれら顔を隠すほど有名じゃないけどね(笑)。

KOYAN:そうそう(笑)。でも、事実として、3人ともそれぞれ別々に活動してきたキャリアがあって、すでにそれぞれの畑があるわけじゃないですか。CDを出したらこれだけ売れますっていう数字も、すでに大体わかっている。だから、ここで最初から名前を出してしまったら、その枠の中に収まっちゃうんじゃないかと思ったそうです。だったら、ほぼバレてるけど、最初は覆面にしてやった方がおもしろいんじゃないかって言われて。おれらも「それ、いいね!」ってなったんですよね。

METEOR:うん。でも、結果……覆面をおれたちが執拗に「やりたがってる」と思われてたら恥ずかしいよね(笑)。

METEOR

——ハハハ(笑)。

butaji:そうじゃないですもんね。

KOYAN:しかも、当たり前だけど実際に覆面は一回もしてないし。

METEOR:してないしてない。確かに麿くん(Mr.麿)に撮ってもらったMV(「mebius feat. ico!」)ではそういう雰囲気を出してもらったけど。

butaji:これでバズろうって気も全くなかったですもんね。

METEOR:そうそう。おれたちはYouTuberじゃないっていうか……まぁ、YouTuberの方々のことはめちゃくちゃ尊敬してるけど、尊敬した上で、おれらとはまた違う道だし。

KOYAN:でも、ありがたいことにMVの再生数が淡々と伸びてて。普通、途中でブレーキかかるもんなんですけど、未だに毎日ちょっとずつ再生されてて。

METEOR:麿くんにインタビューしてくれた伊藤ガビンさんって方が紹介してくれたのもデカいね。パラッパラッパーの開発に携わった方らしいんですけど。ちなみに、パラッパラッパーに出てくる道場の師匠の声は『SOUL TRAIN』(J-WAVEにおける伝説的ラジオ番組。2005年に放送終了)のMC RYUさんだからね。まぁ、これは別に関係ないけど……(笑)。

——非常に重要な情報をありがとうございます(笑)。その「mebius feat. ico!」のMVですが、今回のアルバムを通してフィーチャリング・アーティストはico!さんだけですよね。彼女を起用した経緯は?

butaji:単純に、女性ボーカルが入った方がアルバムを通して聴きやすくなるだろうなと思った所はありましたよね。青い果実は男性だけだし、より華やかになるというか、よりバリエーションを豊かにしたかったんですよね。ずっと同じ色のものを通して聴いたら飽きてしまうかもしれない。それに、今って1曲単位で聴くのも当たり前になっているわけで。そんな中、アルバム通して聴いてもらえるようにするには、アクセントとしてこういう色もあっていいんじゃないかなという考えでしたね。

KOYAN:まだ知り合って1年くらいですけど、butajiがやりたいって言っている人なら間違いないなって。単純にそれだけ。彼をすごく信頼しているので。

METEOR:そうですね。そこには何も口出しはしないです。

——butajiさんの推薦だったんですね。結果的に、これが青い果実として初めて発表した楽曲になったわけですが、アップテンポでファンキーなあの曲をリード曲にしたことによって、今までとは違う、より広い層にアプローチするキッカケにもなったと思います。

METEOR:(最初にこの曲を発表しようというのは)始めから決まってた感じですね。ラップ入れる前から。

KOYAN:まぁ、これだろうって感じでしたね。自然とみんなそう思ってた。

butaji:シングルを切るってなると、ある程度BPMとかノリが絞られてくるじゃないですか。その上で考えて、コラボ感もあるし、「この3人でやった」っていう感覚が一番強いのがこの曲でしたね。やっぱり、単純に1番リード曲っぽいですし。

KOYAN:あの曲を最初に出して、その後にアルバムが待ち構えてるわけじゃないですか。あの曲で期待してくれて、いざアルバム全体を聴いたら「これかい!」みたいな(笑)。よくも悪くも一番急角度な前フリができたんじゃないかなとも思ってます。

butaji:BPMで考えたら「健康ランド」もリード曲に成り得たけど、ああいうのを最初に出すとまた「シティ・ポップ」とか言われるんで……。やっぱり勢い的に「mebius feat. ico!」で間違いなかったんじゃないかな、と。

KOYAN:シティ・ポップね〜……。

METEOR:マウント取ろうとしてくる人たちが好きなシティ・ポップ(笑)。

KOYAN:大体ね、枠に入れたがる人は自分で何かを生み出してない人なんですよ。枠に入れることによりみんなで仲良しこよししたがるやつらなんですよね。

METEOR:でも、そうやって自分で何かを生み出せない人も、おれたちをサポートすることで、何かを生み出していると思ってくれたらいいと思います。おれたちを応援することで、その人たちは自己表現すればいいからね。

KOYAN:そうかそうか(笑)。

[L→R:butaji、KOYAN]

METEOR:1000円くれたりとかね(笑)。

KOYAN:それこそ励ます会のギャラだね。

METEOR:そうなんです。クラブのイベントとかで呼ばれるのもそうで、やっぱり箱のオーガナイザーっていうのは励ます会だと思うんですよ。たとえ赤字でもギャラとか渡すしね。

butaji:なるほど……!

METEOR:おれもイベントが赤字だった時でも演者にはギャラ渡してるもん。

KOYAN:渡す額が10万とかだったらキツいけどね(笑)。1〜2万程度だったら「今日はあざっした!」って感じで。

METEOR:一日楽しかったしいいかなってね。

——カテゴリやジャンルという枠に対してのこだわりと言えば、METEORさんは最近、ご自身の音楽を日本語ラップではなく「日本語ライム」と自称していますが、この日本語ライムというジャンルについて教えて頂けますか?

METEOR:そうですね、日本語ライム。うん、Jライム。

KOYAN:語呂いいなー(笑)。

METEOR:日本語ライムはとりあえず、韻を踏む。そこが大事だと思います。ラッパーの人たちってめちゃくちゃ踏むじゃないですか? 6文字とか。そこまで踏めない人たちは日本語ライムに来て欲しいなって思いますね。おれ、2文字とかしか踏めないんで。たぶん若い時はもっと踏んでたと思うんですけど、段々踏めなくなってきていて。そんな時に、参考までに海外留学経験がある友達に「どれくらいの長さで韻踏めばライムって言うの?」って確認したら、「2文字くらいでもライムって言うよ」って言ってたんで。じゃあ、おれのラップは「日本語ライム」、「Jライム」だなって。

——ただ、METEORさんは今でもわりと長い韻を踏まれることがあるようにも思います。

butaji:それは……サービス精神?(笑)

METEOR:いや、それはあの……脳みそが……調子よかったんですね(笑)。でも、長く踏めるときも途中でボロが出ますよ、やっぱり。ずっとイケるわけじゃないんで。最後は1文字になったり全く踏んでなかったりするんで。やっぱり、いち市民の人でもできるのがライムだと思ってるんですよね。ラップになるとハードルが上がってくるんですよ。ミュージシャンっぽくなると言うか。だから、自分がやってるのは日本語ライム。ラップっていうのはストリートのものかもしれないけど、ライムは脳内のものなんです。自分は結構、漫画とかそういうものから着想を得たりするので。色々な人のツイートとかも読んで勉強してますし。

——ツイートからですか?(笑) 年齢を重ねても日々勉強という意味では、青い果実のアルバムもその蓄積されたものを詰め込んだ中身の濃い作品だと感じました。リリックに関しては事前にテーマなどを決めずに、その場で書かれたものがほとんどなんですよね?

METEOR:そうですね。集まってから話し合って書き始めて。最初に書きあげた人のリリックからテーマが決まっていくパターンが多かったかな。「mebius feat. ico!」に関しては一旦持ち帰ったんですけど、結果、次に集まった時にその場で書きましたね。そういえば、あの曲のico!さんのリリックはbutajiが書いてて。

butaji:そうですね。最後の英語4行以外は僕が書いてます。

——そうだったんですね。そもそもフックとヴァースとでは、どちらが先にあがることが多かったのでしょうか?

butaji:僕(フック)が大体最後ですね。

METEOR:butajiはリリック見ないで歌いますからね。

butaji:だって4行とかですからね(笑)。

KOYAN:そうなんですよ。1曲目(「aokajintro」)なんかは、制作期間の後期にできたビートなんですけど、あれはbutajiにひとりでやってもらいたいなって直感的に思ったんですよね。それで、スタジオに入ってダラダラ話したりしながら10分〜15分くらいで「できました」ってなって。レコーディングもワン・テイクで終わり、みたいな。で、すぐ飲みに行きましたね(笑)。

——そのワン・テイクで終えるというのは、「これ以上はもう出ない」という感覚なんですか?

butaji:というかね……やったらやっただけ何かあるんでしょうけど、無駄に思えてしまうというか。曲毎に大きな枠みたいなものがあって、その中で細かい所をどこまで突き詰めるかっていうのは、たぶん作品の性質によって変わってくるんですよね。なので、今回はこれでいいと思いました。

METEOR:決して「ワン・テイクで決める美学」みたいなものはなく。

butaji:そうです。それはないんですよ。

METEOR:やればやるほどよくなるのであれば、とことん詰めていくこともあるだろうし。その時々で必要性があれば。

——そんな魂のワンテイクが光る「aokajintro」は、ライブでも度々披露されており、アルバムの導入という意味でも素晴らしい働きをしていると思います。そして、その流れから「ほんとそう」という人生の真理をつくような楽曲が続きますが、このリリックを書かれた時の心情というのは?

METEOR:いや、もう……忘れちゃったんですけど。これは最初、KOYANの家で宅録で作ったんだよね。

KOYAN:うん。もちろん本チャンは違うけど、仮トラックは宅録で。この曲作った時は、なんか久々に飲もうよ、ご飯でも食べようよっていうのがメインで集まった感じですね。それで、せっかくだから昼から集まって、遊びで曲でも作ろうよって。それで、その場でビートを作ってリリック書いて。

——その時にbutajiさんは一緒ではなかった?

METEOR:うん。それで、この曲を録り終えた後に、やっぱりシンガーいた方がいいよなって。

butaji:そう。これを聴いて絶対やりたいなって思ったんですよ。すごくよかったので。

——なるほど。この楽曲が青い果実として始動するキッカケになったんですね。「いいこともあれば悪いこともある」というフックも印象的で、皆さんの人柄を表すような生々しいリリックだなと思いました。これはどなたが考案されたんですか?

METEOR:フックはKOYANとふたりで作りましたね。おれが普段からよく「ほんとそう」って言ってるから、それをタイトルにしようって。

KOYAN:ここをMETEORが歌って〜みたいな掛け合いのアイディアはおれが出して。リリックはMETEORがサササッと書いてくれましたね。

METEOR:あとは、この曲だけガヤを入れてますね。

——が、ガヤですか??

METEOR:そう。ガヤっていうか、自分のヴァースの被せみたいなやつ。過去のレコーディングではヴァースを全部被せたりしてたんですよ。被せた方が、なんていうか粗が目立たなくなって誤魔化せたりすると思うんですよね。厚みが出るからラップが巧く聴こえたり。あと、なんか「やってる感」出るっていうか、それっぽくなる。でも、勇気を出して被せないでやってみたら、「あ、全然いいじゃん」って。それがナチュラルな状態だし。もちろん、最初は早くレコーディングを終わらせたいっていう気持ちもあったんですけど(笑)。

KOYAN:ハハハ(笑)。

METEOR:それからというもの、他の人の曲とか聴いてても、ラップとか被せてると……「あぁ、被せない方がいいのになって」思うようになりました(笑)。思えば、最初にレコーディングした時っていうのは環境も全然悪くて、MTRとかだったわけで。あとは、その前だったら家のラジカセでカセットテープに録ったりしていて、被せようがなかったんです。いわゆる原点回帰ですね。

——殆どのヴァースが被せなしでも全く違和感がないというか、確かに心地よく聴こえますね。そのような点も踏まえて、KOYANさんがアルバムのミックス段階で特に気を付けたことは何だったのでしょうか?

KOYAN:ふたりとの制作はほぼ初めてだったので、この波形をどう活かすかっていうのは考えましたね。でも、制作に使用しているフェンダー・ローズの音がすごくいいんですよ。2年前の10月から使い始めたんですけど、1年くらいしてようやく馴染んできた感じがあって。その音とbutajiの声の相性がとてもよかったんですよね。アルバムなのでもちろん加工はしてますけど、全体に加工を施すというよりは、なるべく地を活かすようなミックスになったと思いますね。

——ご自身のリリックに「長いトンネル抜けて3●歳 吹っ切れたミドルここからが強い」という骨太なラインがありますが、10代や20代と比べて制作方法やマインドの違いはありますか?

butaji:聞きたいなー(笑)。

KOYAN:なにニヤニヤしてんの(笑)。うーん、やっぱり気持ちの余裕を持って音楽を楽しめてるなって感じにようやくなってきて。アオカジに限らず、他のプロジェクトも色々と同時に進めてるんですけど、どのプロジェクトでも、飾らず、怠けず、力まず、普通みたいな。アオカジだとこうなるし、別のプロジェクトだと全然違うものが出来たり。今は充実してますね。

——一時期はトラックメイクに傾倒されているという印象もありましたが、青い果実ではほとんどどの楽曲でラップされていますよね。これは何か大きな心境の変化があったんでしょうか?

KOYAN:そうっすね。2枚目のソロアルバム『遺伝子変革』で良い感じになって、その勢いのまま3枚目のソロ・アルバム『渚』は全てセルフ・プロデュースで作ったんですけど、それでコケて。すげー赤字になったんです。それからラップ書くのもしんどくなって。正直言うと、1年間でラップのフィーチャリングの依頼が3件くらいしかこなかったような状況にもなってて。ライブはもちろんやってましたけど、「ビートを作ってくれ」っていう依頼の方がラップの依頼の10倍くらいあったりもして。
「おれはそっちの能力を求められてるんじゃないか?」って思うようになったんですよね。現実的に仕事量が違うので。それに、おれはそんなにドラマティックな人生送ってもいないし。ハードでもなければナードでもない、みたいな。だから、裏方に徹しようかなって。今ではレコーディング、ミックス、マスタリングまで出きるようになりました。

KOYAN:あの、赤字の話にも繋がるんですけど、レコーディング、ミックス、マスタリングって普通は他の人に投げなきゃいけないじゃないですか。例えばCDを1000枚売っても、流通に出したら70%以上はそういうところの費用になってしまう。正直、それじゃ回らないなって思い始めたんです。それが5年くらい前なのかな? だから、ちょっと潜る期間は長くなってしまうけど、先々を考えたら全部自分で出きた方が絶対いいなって思ったんです。そこで、厚木にあるスタヂオ別館っていう所で、おれの師匠のohld君っていうエンジニアの人に手取り足取り教わって。いちからノートに全てメモして、ひとつひとつ覚えて。そうこうしているうちに依頼が増えて財政も安定してきて、心に余裕が出来てきて。そしたら、いつの間にか楽しんでラップも書けるようになってたんです。無理やりではなくて、皆に体を委ねた結果です。

METEOR:最初はおれがひとりでラップして、KOYANがトラックっていう話もあったんですけど、もう「ほんとそう」の時点で「1日16小節が限界」みたいな状態になって。むしろ、それすらもヤバいみたいな(笑)。16小節だと思って書いたのが10小節しかなかったり。

KOYAN:ちょっと足りないなーってね(笑)。

METEOR:そう(笑)。で、また2小節書いて、まだ足りないみたいな。そこからまたパンチインして何とか作りましたね。

——butajiさんはいかがですか? ソロ活動との違いなどは。

butaji:こういうことができて良かったなと思いますね。全部ソロに還ってくるから。僕、ソロは本当に死にそうな顔しながら作ってるんです。血肉を削らなきゃ世に出せないというか。まず、何かしらのコンセプトがあって、そこに肉薄する為にどれだけ深く潜って息を止めて何を掴んでくるかってことを、今もまだやってるんですよね。だから、今回のようなプロジェクトは、何て言うんですかね……本当に良い機会で。このままソロ活動をしてたら……。

KOYAN:え? 死ぬんじゃないかって?

butaji:そのくらい切羽詰まるんですよね。

https://www.youtube.com/watch?v=lpEyUB94iH8

KOYAN:そういう時期もあるし、必要だとは思うな。おれも目回った時期があったから(笑)。2年くらい全然寝ずに介護の夜勤もやってたけど、最終的にぐるんぐるんになって冷や汗かくようになって(笑)。流石にヤバいくさいなって思ってから、ちゃんと睡眠を取るようにしたんですよ。だから、butajiも気を付けて(笑)。

butaji:いや、大丈夫です。ソロの方は、確かに追い込まれるけど、いつも早く出したいなっていう気持ちなんですよね。青い果実はその助けになったなって思います。なんとなしにやってるわけじゃないし、身になるようにやってるので。あと、僕の場合、色んなコラボとかやってるので、「このbutajiは好きだけど、このbutajiは好きじゃないな」というのを結構聞くんですよ。でも、それもまたおもしろいですよね。

——コラボ相手によってbutajiさんの中で使い分けをしているというわけではないんですよね?

butaji:使い分けるというか……元々の自分の中のポテンシャルっていうのを、これだって決めつけてないんですよね。僕自身が、これしかできないっていうことを全く考えていないので。何か求められたら絶対そこに追いつきたいから精一杯やるんですよ。そうなると、色が変わっていくんですよね。で、自分が考えているものとまた違うものができてビックリするんですけど。でも、そもそも人とやるってそういうことなんじゃないですかね? 自分が変わるくらい、人と突き詰めてやる方がコラボレーションとして楽しいんじゃないかなと思います。

——順応するというか、そこに染まりにいくというか。

butaji:うん、染まりにいくっていうのもありますね。

KOYAN:おれは全然スピリチュアルな体験とかしたこともほとんどないんですけど、例えばMETEORが青のオーラ、おれがグレーのオーラ、butajiが黒のオーラだとするじゃないですか? そうすると、この3人が集まっただけでまずオリジナルのカラーになっちゃうんですよね。多分、butajiが別の人たちとコラボしたものもオリジナルのカラーだし、METEORが秘密結社MMRでやったら、それもまた別のカラーだし。

——仰る通り、明らかに今作は青い果実の3人にしか成し得なかったオリジナルのカラーになっていますよね。それを象徴するような「健康ランド」という楽曲の中では、「テキーラ出される それ断る 白湯をショットで飲む」という健康的なパンチラインが飛び出しますが、このヴァースはMETEORさんご自身の経験に基づいたものですか?

METEOR:いや……あの、おれは全然タバコとかやめれてなくて(笑)。録音した日がすごく寒くかったから、とにかく歌の中では健康的なことを歌おうって。よくギャングスタ・ラッパーとかがリリックで殺伐としたことを言ったら、普段の生活もそっちに近づいてくるっていうのを聞いたことがあったんで。じゃあ、おれは健康的なリリックを書けばそうなってくるのかなと。

——いわゆる言霊というか。

METEOR:そうですそうです。それで健康的なリリックを書いてみたんです。そしたら、身体がポカポカしてきて。

——確かに、聴いているこちらも健康になれそうな楽曲ですよね(笑)。この楽曲と「ふらつこう」のトラックはbutajiさんが担当されていますが、KOYANさんのトラックとのバランスも絶妙です。

butaji:流れから考えて、ここにこういう曲があったらいいなって考えながら作り始めたのがその2曲だったので。

——流れと言えば、中盤の「無重力」「個人情報」という流れには「攻め」を感じました。

KOYAN:「無重力」はビート自体は2014年くらいにできたものなんですよね。超気に入ってたんですけど、なかなかラップが乗らなくて、今回ようやくって感じでした。最初の自分のヴァースは、さっきも話した介護やってた時の話をしてて。「眩暈ぐるんぐるんで団地で孤独死するのか、おれ?」みたいな状況だったんですよね。

METEOR:こんな遅いトラックっていうのは、あんまり経験がなくて。自分は今まで勢いでやってきたので、とにかく難しくて。これこそ、本当に何回もパンチインしたんですよね。

KOYAN:これは本当に家で録ったテイクを使ってるんです(笑)。だから、アカペラだけで聴いたら超ノイズが入ってるんですけど、でき上がったものを聴いてみると意外とわからないっていう。

METEOR:スタジオでリリック読みながらやっても同じ感じが出なくて。

——だからこそ、ヴァース終わりの笑い声もリアルな笑い声になったんですね?(笑)

KOYAN:よくあるじゃないですか? わざと「ハハッ」って笑い声を入れるような技法。そうじゃなくて、普通にただ笑ってましたね(笑)。

——後半では「やる気がないように見えるかい? ハイテンション若者 テンション低いオヤジではないぞ これ普通の これ普通の感情」というメッセージ性の強いラインがありますね。

METEOR:これはね、若者から見たらおれたちはやる気がないように見えるかもしれないけど、年とればこれが普通なんだよってことですね(笑)。もし、若者がおれたちとライブで一緒になって、「あいつら他人のライブも観ないで、ずっと楽屋にいるだけじゃねえか」って思ったとしても、予め曲で言っておけばね。大丈夫だろうって。おれら、友達のライブだって観ませんから(笑)。特別扱いはしないので。

——浮遊感たっぷりなbutajiさんのフックもクセになります。

butaji:これは「ベースラインなぞってみたら?」っていうKOYANさんの提案だったかな? それでやってみたらオクターブを上で重ねてみた方が響くなと思ったんですよね。あとは、無重力感ですかねー。息が抜けた感じとか、そういうのを考えて作りましたね。

KOYAN:なんか夜の霧って感じで、あれ以上のフックはないですね。大好物です。あと、次の「個人情報」なんかはおもしろい制作秘話があって。まず、ピチョンみたいな音が入ってるじゃないですか? あれはおれが団地に住んでる時、夜勤明けに自宅に帰ったら上の階からの水漏れで布団がビッチャビッチャだったことがあって。「うわ! 寝れねえじゃん、超疲れてんのに!」っていう感じで。もうこの怒りをビートにしようと思って、すぐ水滴が落ちる音を探して制作したんですよね。それで、アオカジになった時にそのビートを使いたいって思ったんだけど、そのまま「水漏れクソだな上のやつ」ってラップすんのも芸がないじゃないですか?(笑) それで、「漏れる」繋がりで「漏洩する」っていうのを思いついたんですよね。本人の知らぬ間に勝手に漏洩するっていう。そんな特別なことを言ってるわけじゃないけど、淡々とテーマに沿って。METEORのヴァースはヤバいっすよね(笑)。

METEOR:これはもう本当に脳みそが死んでる時で(笑)。全く閃きがなくて。とにかく、一音一音をながーーく伸ばして、文字数を少なく。でも、やっぱりJライムなんで、1文字は踏もうかなと思って。何と言ってもトラックのクオリティが高いのもそうだし、残りのふたりがしっかりしてるからこそ成立してますね。まとまるというか。

butaji:この曲があるから、このアルバムはシティ・ポップって形容されてもいいとも思っています。生活が表現に還ってきて、表現が生活に還ってくるっていう。それが都市の生活というか、その上でシティ・ポップっていう形容があるならいいんです。青春の甘酸っぱい感じだけじゃなくて、土着的なんですよね。

METEOR:チャラい、みたいなことじゃなくてね。

butaji:はい。「生活」だから、それが。

——続く「THIS TOWN」でMETEORさんはいわゆる“悪名フロウ”も披露されていますね。

KOYAN:なんか声的に時代に寄せてる感もあるけど、ジャイアンにも聴こえるよね(笑)。

METEOR:そうですね、あれはそのまま昔の“日本語ラップ”からヒントを得ていますね。「悪名」の頃の。内容としては、外で飲んでもいいけど迷惑はかけちゃ駄目だよっていう。とにかく、金がなければ外で飲もうよっていう曲ですね。そういうのが好きなんで。

KOYAN:サビはbutajiメイン風なんですけど、よく聴くとMETEORの「ジスタウン!」って声の方がサビに聴こえるんですよね(笑)。

——先ほどの「無重力」ではbutajiさんがKOYANさんのトラックのベースラインをなぞったという話がありましたが、「ふらつこう」では反対にbutajiさんのトラックにKOYANさんが呼応するようなフロウですね。

KOYAN:そうっすね。彼のビートに合わせたらそのままそれがフロウになったんで。元々、いつも直感でフロウ、メロディは固まるんですよね。書き直したりとかもほぼなくて。98パーセントくらい書き直さないんで。

——アオカジ流のサマージャムと言える「なつやすみ」もキラーチューンですが、ビートがワンループでもKOYANさんのフロウ、メロディによって展開がクッキリしていますよね。フックに入るまでのクッションとしても抜群に機能しているような印象です。

KOYAN:それはすごく意識しましたね。ここは繋ぎ役というか。特に話し合ったわけでもなく、あくまでも感覚なんですけど、ここはおれが目立つ所じゃないなっていうのを感じたので。酸いも甘いも知ってるからこそ、曲の中での役割がわかるというか。

——なるほど。聴いていても、その意図が伝わってきますね。そして、次の「許され許し」ではガラッと雰囲気が変わっています。

METEOR:これはとにかく……世の中、外で酒飲んでるだけで訝しげに見てくる人とかいっぱいいるじゃないですか? 眉をひそめるというか。でも、飲んでるだけなら何も悪いことしてないじゃないですか? そういう人たちに対して、許してくれっていう曲ですね。

KOYAN:人畜無害だもんね(笑)。

——「力なく笑うが力ほんとないんだ」というラインからも人畜無害であることが容易にわかりますね。

METEOR:そうですそうです(笑)。とにかく許してくれっていう思いですね。

butaji:これが3人で集まって初めて作った曲なんですね。去年の1月です。

——そうだったんですね! butajiさんは合流して初のフック参加ということだったわけですが、どのような流れで制作に入ったのでしょうか?

butaji:ギター弾きましたね、これ。

METEOR:butajiはギター弾けるんだよ! とか言って(笑)。そんで、弾いてもらおうと思ったらKOYANが持ってるギターの弦が切れちゃってて(笑)。

KOYAN:そう(笑)。うちのギターの1弦が切れちゃってて。何なら他の弦も錆びちゃってるんですよ。介護施設のおばちゃんに貰ったやつで。「娘が使わなくなっちゃったの要る!?」みたいな(笑)。それをbutajiが弾いて。直しゃいいのにそのままガンガン使ってますね(笑)。

butaji:そうですね。これのフックに関してはコードを4小節分くらい僕が足してるので、フックだけそれまでのループとは変わってるんですよね。

KOYAN:あ、それにおれが乗っけたんだっけ? そうかそうか、ドラムは何となく組んで。ローズで後追いをして、みたいな。

——インプロビゼーションのようなノリの制作で最高ですね。そして、ラストの「おやすみ」という締め括り。butajiさんの心地いい歌声でようやく寝かせてくれるのかと思ったら、その後にアラームより罪深い飯テロが待ち構えていたり。仕掛けがたっぷり施されているのに虎視眈々としていない感じが素晴らしいですね。

METEOR:あぁ、いい。それ一番いいですよ。虎視眈々としてちゃダメですからね。世の中、虎視眈々としてるものが多すぎて疲れちゃって。

butaji:虎視眈々はもうダメ(笑)。

KOYAN:これはおれらが今日一番言いたいことかもしれない(笑)。

METEOR:虎視眈々として、結局、認められてない人が見返そうとしたりしてるわけでしょ? 逆転しようとしたりとか。おれは、それはよくないと思うんですよ。その……見返す、逆転、っていうのはよくないし、許してあげようってことです。過去に嫌なことをされたとか、そういう人に対しても許され許しじゃないけど、許してやろうっていうか。で、もう極端な話、一生負けっぱなしでもいいわけです。だから、もう虎視眈々と何か企むっていうのはやめましょうよっていう話。虎視眈々としてる人はやっぱり信用できないですよ(笑)。

——では、今後の青い果実の活動内容に関しても、決して虎視眈々とはしていないという解釈でよろしいですか?(笑)。

METEOR:いや、実は虎視眈々としてる所もあるんですけど(笑)。でも、その人間的な? 虎視眈々はないぞっていう。経済的な虎視眈々はあるかもしれないけど(笑)。

butaji:そうですね(笑)。

――わかりました(笑)。あと、気になるのは次のリリースがあるのかどうか、ということなんですけど……期待してもいいのでしょうか?

KOYAN:順調にいけば……まあ、順調にいけば出しますって感じです。トラックは今年に入ってから20曲くらい作ってて……次のアルバムに入れようかなと思える曲もできています。とにかく青い果実でライブもして、次も皆、健康な状態で制作したいですね。

——耳寄りな情報をありがとうございます! 次の音源を制作し始めているというとのはファンにとってはとても嬉しいですね。では、最後に今回のアルバム『AOKAJI』という作品全体について、一言お願いできますか?

butaji:これを聴いて、「なんかゆるいっすね〜」というような感想を持つ人がいたら、僕は「不思議だな」と思うんですよね。何回かそういう感想を耳にしたことがあって。そういう感想も嬉しいんですけど、聴く人によっては僕のリリックは結構切実に響く要素があるんじゃないかな。だから、ただゆるいだけじゃないぞ、と。ひとつだけ言っておきたいですね。

KOYAN:でも、ゆるくはないけど、癒されるとは思いますね。ローズ(・ピアノ)はやっぱり癒しなんですよ。皆、そういうところを意識して聴いてないと思いますけど、人が癒されるヘルツが出てるっぽいんで。おれも弾いててマジで癒されますもん。その癒し効果が関係してるのかもしれないっすね。だから、リラックスして笑って聴いて欲しいっていうの気持ちもありますね。

METEOR:うん、これはもう完全に日本語ラップではなく、もちろんシティ・ポップでもなく、日本語ライムだと思ってます、自分は。ただ、日本語ライムというジャンルをどうしても普及させたいというような虎視眈々とした気持ちはないし、システム化するわけでもない。もちろんやりたいっていう人から月謝取るわけでもないし。ただ、レコード屋さんの棚に日本語ライムというカテゴリは作って欲しいですね。そしたら、これが最初の一枚になるんじゃないかなっていう気がします。


【リリース情報】

青い果実 『AOKAJI』
Release Date:2018.01.24 (Wed.)
Label:Vybe Music
Cat.No.:VBCD-0087
Price:¥2300 +Tax
Tracklist
1.aokajintro
2.ほんとそう!
3.健康ランド
4.mebius feat ico!
5.無重力
6.個人情報
7.THIS TOWN
8.ふらつこう
9.なつやすみ
10.許され許し
11.おやすみ


Spincoaster SNS