石若駿率いる変則的プロジェクト、Answer to Rememberが2ndシングル「RUN feat. KID FRESINO」をリリースした。
若手No.1 ジャズ・ドラマーの名をほしいままにするだけでなく、近年ではくるりや「RUN」のコラボ相手であるKID FRESINOのバンド編成にも参加するなど、ジャンルやシーンを横断した活躍をみせている石若駿。すでに自身のリーダー作なども発表している彼が新たなプロジェクト=Answer to Rememberを始動させたということで、今回はその目的を聞くべくインタビューを敢行。聞き手は自身も音楽家として活動し、石若とも親交のある小池直也。Answer to Remember立ち上げの経緯からそのコンセプトまで、じっくりと語ってもらった。(編集部)
Text & Interview by Naoya Koike
Photo by 遥南 碧
「“ジャズ”という音楽のもとに集まっていたことを僕は大事にしたい」
――相変わらず、いろいろな活動をされていますね。
そうですね……人生で一番忙しい感じになってます(笑)。ライヴもですが、レコーディングもたくさんで休みの日もほとんどなくて。先日『第18回 東京JAZZ』の演奏が夕方に終わって、その夜にミュージシャンやフォトグラファーの友達と花火したんですよ。それが何十年ぶりくらいにやった線香花火が夏の思い出です(笑)。
――練習する時間も取りづらいのでは?
最近はできてないですね。よっぽど覚えなきゃいけないライブの時は夜中にスタジオに入ってやりますけど。ジャズの時は貯めていたアイデアを本番で試すイメージで演奏してますから。
――新プロジェクト、Answer to Rememberのコンセプトを教えてください。
「同世代でバックグラウンドにジャズを持っている人たちと新しい音楽を作る」ということです。音楽的には実験的に聴いたことのないサウンドを作っていこう、という感じ。僕は学生時代から自分と同世代のミュージシャンとの関係を大事にしてきました。大学(東京藝術大学・打楽器専攻)を卒業した2015年から、今まで一緒によく演奏していた人たちがそれぞれの活動を始めて。
それが2018年末にひと段落した気がして、またみんなで集まりたいなと。楽曲ごとに同じ人がいたり変わったりと様々ですが、単なる個人プロジェクトというより、さらに大きなものとして捉えています。以前も90年代生まれのアーティストが集う『JAZZ SUMMIT TOKYO』をやっていたんですが、そういうことを何かしらの形で残したかったので。
――『JAZZ SUMMIT TOKYO』にはWONK・江﨑文武さんやKing Gnu・常田大希さんも関わっていました。
そうなんです。あの企画に集まっていた人たちが今まさに活躍していて、大きいフィールドでやったりしている。でも根本的に「ジャズ」という音楽のもとに集まっていたことを僕は大事にしたいんですよ。
「自分の曲に歌詞を乗せたらパワーが出ることに気が付いた」
――Answer to Rememberとしてのデビュー曲「TOKYO featuring ermhoi」について訊かせてください。なぜタイトルが東京なのですか。
自分でLogicに打ち込んだデモのタイトルは最初「SUSHI」というタイトルでした(笑)。日本語のタイトルにしようと前々から決めていたんですけど、完成してから東京になったんです。東京五輪とかそういうことではなくて、名前や曲に「東京」という言葉が入ってるバンドとかは意識しましたね。きのこ帝国「東京」とか、くるり「東京」とか。東京という街自体には「目まぐるしいなあ」といつも思っていて、いずれ北海道に帰りたいなとは考えています(笑)。おじいさんになってからかもしれませんが。
楽曲としては「どぉらー!」って叩きたいなと思っていて、BPMを速くしました(笑)。このプロジェクトのために曲をたくさん作りましたが「TOKYO」は2年前に作っていて、それをLogicに打ち直して色々と実験をしてから生ドラムを足していった感じです。
――歌を入れることは最初から構想していた?
ずっと自分の曲がジャズ・バンドのインストとして演奏される時に「もっとパワーがあったらいいのにな」と思っていて。『Songbook』シリーズをスタートさせた時に、自分の曲に歌詞を乗せたらパワーが出ることに気が付いたんですよ。「TOKYO」は楽器でも演奏するのが難しいメロディですけど、そこに声のパワーが乗ることで色がヴィヴィッドになるんじゃないかなと。
ermhoiは『上海の夜』というイベントにCRCK/LCKSで出た時、対バンで知り合いました。それ以来は交流があって、同じ年の大事な仲間のひとりです。彼女はオリジナリティがあって自分の音楽を強く持っていますね。あと、ermhoiには否定されるかもしれないけど、アイデンティティをしっかり持っているのも好きなんですよ。人間的なバックグラウンドが見えるので、そこが普通のシンガーと全然違うなと。
――楽曲が難しいだけにレコーディングでも苦労したのではないでしょうか。
色々な実験ができておもしろかったですよ。トラックのテンポを落として遅く歌ってから最後にテンポを戻したり、トラックを一度アナログ・テープに録って回転数を落とした上で歌ったものを再度Pro Toolsでもとに戻したり。あとオートチューンで棒読みしてもらって無理やりメロディに当てはめていったりとかもしました。
それぞれおもしろい感じにはなったんですけど、でも、結局は最後に頑張って生歌で録ったものが一番しっくりきたんです(笑)。それもオクターヴ下で歌ったり色々なパターンを混ぜて採用してます。そこまで聴いてくれる人はいないと思うんですけどね。声のやりとりは全部1日でやって、歌詞もおまかせでしたがおもしろいものを書いてきてくれて。同じ歌詞を4回繰り返してるんですけど、それが循環する構造になっていて、流石だなと。あと「日本語と英語を混ぜてほしい」とは伝えました。
――そして新曲の「Run」は7/8拍子の曲で驚きでした。リフから作られたんですか?
ピアノで最初にリフを決めて、メロディを考えてからLogicでデモを作りました。最初は安藤康平くん(サックス)と佐瀬悠輔くん(トランペット)に吹いてもらった2管のメロディがあったんですよ。でもラップを乗せる曲が欲しいなと思って、メロディを外したビートをKID FRESINOくんに送ったんです。それで送られてきたのが(ガヤを含めた)このラップでした。楽曲については彼も「難しい」とは言ってたんですけど、こちらからディレクションは全くしてないです。
――石若さんはKID FRESINOさんのバンド・セットのサポートもしています。近くで見ている石若さんが感じる、彼の魅力というのは?
なんかレジェンド感がすごいな、という感じ(笑)。僕は日野皓正さん(トランペット)のバンドでも叩いているんですが、吹いている日野さんを後ろから見るのと同じ感覚になるんです。言葉にするのが難しいんですけど、ステージとか場をコントロールする力が強い。FRESINOくんと最初にライブした時にそう思いましたね。
元々はYasei Collectiveの斎藤拓郎さんが声をかけてくれてたんですよ。同じ時期、FRESINOくんが新宿ピットインの昼の部に吉本章紘カルテットでの演奏を観に来てくれてたみたいで。その時は話さなかったんですけど、その後に正式なオファーを頂いてやることになりました。最初はレコーディングで、それからライブも手伝うようになって。去年から「新しいソロのプロジェクトをやるんだけど、どうですか?」とチラっと話はしていて。
――リズムの拍子が変わる構成のアイデアについても教えてください。
曲ができた時からこうでした。最初に7拍子で始まって、次にスウィングに行きたいなと思って。Aメロ/Aメロ/Bメロ/Aメロ(ジャズ・スタンダードにおける定番進行のひとつ)の構成で書こうとしたら、最終的にAABCになりました。これにラップを乗せたらおもしろくなるんじゃないかなと。
――サックスとトランペット以外のレコーディング・メンバーは?
ギターはいなくて、6弦ベースをMarty Holoubekが弾いています。あと鍵盤は海堀弘太。彼は僕と同じ年で知り合ってからは長いですね。京都の天才ピアニストと言われていて、高校生の時に大阪のジャム・セッションで知り合いました。お互いに上京して再会していたんですけど、これまでセッション以外の公の場で共演することがなかったんですよ。だから、これを機会に一緒にやりたいなと。
「自分たちのアイデンティティを大事にして世界に行きたい」
――本当に同世代にこだわりますね。
たぶん、色々な世代の方と一緒に演奏してきたからじゃないですかね。上は渡辺貞夫さんから、下は学生たちも見ていますし。それに音楽を始めるきっかけになった札幌のビッグ・バンドの同級生が馬場智章(サックス)、寺久保エレナ(サックス)だったり、ひとつ上には山田丈造(トランペット)がいたんですよね。
彼らの成功を見ながら、同世代との共演を大切にしてきたのかもしれません。あとは藝大で常田(大希)や、(江﨑)文武、額田大志くんに会ったことも自分にとっては大きくて。たくさんの人と演奏したあとで「大切な人とは一緒にいるべきだな」と思ったんです。
――やはり「友人」という関係は音楽にとって大切な要素?
大切にしたいですね。音楽はもちろんですが、縁やシンパシーを感じることはさらに大事なんです。それぞれ趣味の違いはあるんですけどね。同世代の思い出として残っていることや、当時聴いていた音楽とかも共通しているんです。それに対する自分たちの答えを作品にして、日本だけじゃなく外の世界に発信したいという想いを込めて「Answer to Remember」という名前を付けました。
――外に発信したいという気持ちがあるんですね。
大学卒業してから海外のジャズ・フェスに行くことも増えましたが、日本人のバンドって全然ないんですよ。このプロジェクトならそこにも行けるな、という自信があります。自分もそこで演奏していて、現地の人がおもしろいと思ってくれてるのを感じるんですよね。日野さんのバンドでパリに行った時も、南アフリカに行った時もすごくよかったし。たぶん、世界のみんなは期待していますよ。「何で日本人のバンドはいないんだろう?」って思うこともあるんじゃないですか。それは行くためのコネクションがなかったり、ミュージシャン自身も行きたいという気持ちが少ない気がするんです。
あと、おもしろかったのは、大学4年生の時に同級生4人で『ルクセンブルク国際打楽器コンクール』に出た時のこと。北欧やフランス、アメリカ、中国、韓国とか、色々な国から来たグループが同じ課題曲を演奏するんです。でも、一番カッコいいなと思ったのはアジアや日本なんですよね。僕らはセミファイナルでダメでしたが、予選から勝ち上がるとオリジナル曲とかも演奏可能になったりして。
――なるほど。
でも、和楽器を使った楽曲を演奏した時は「おれたちにしか絶対できないよな」という自信があって、それが印象深いです。先ほどのermhoiの話にも通じますが、自分たちのアイデンティティを大事にして世界に行きたいなと思ってます。
アメリカに行って、現地の人と演奏して日本に帰って来たりすることは多いじゃないですか。それも確かにカッコいいし、僕自身もそれに憧れていた時期もありましたよ。でも、NYで普通に行われている音楽が日本から見たらおもしろい、という構造の逆パターンがあってもいいのかなと思うんです。もっと僕らが普通にやっていることのおもしろさが広がったらいいなと。
――現在、日本における動向でおもしろいと感じていることは?
日本で活動している僕らの世代とかちょっと上の世代が集まること、かもしれない。それぞれのバンドで頑張って音楽をやっているんですけど、みんなの気持ちやバックグラウンドは似たところにあって。それを元気玉みたいに集めたらおもしろいんじゃないですかね。常田もmillennium paradeをやったり、そういうベースが同時多発的に増えていくとおもしろくなりそうだなと予想しています。それが世界から注目されるといいですよね。
――それはジャズやジャンルにはとらわれずに自由な活動をしていくということでもある?
それもありますが、個人的にジャズは大事にしています。あと音楽を作ることはもちろんですけど、それ以外のポップなこともやりたいです。それが具体的に何なのかはまだ自分でもわかりませんが、例えばペプシコーラにペプシマンのキャップが付いていたような……そんなことができたらいいですね(笑)。そういうものが自分は好きだったと思うので。ポップなことをするのに抵抗はありません。それが音楽に良い影響を与えることを期待しています。
【リリース情報】
Answer to Remember 『RUN feat. KID FRESINO』
Release Date:2019.11.13 (Wed.)
Label:Sony Music Labels
Tracklist:
1. RUN feat. KID FRESINO
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Answer to Remember 『Answer to Remember』
Release Date:2019.12.04 (Wed.)
[初回限定盤] トレーディング・カード付特殊仕様 SICL-285 ¥3,200 + Tax
[通常盤] SICL-287 ¥2,700 + Tax
Tracklist:
1. Answer to Remember
2. TOKYO feat. ermhoi
3. Still So What feat. ATRBand
4. RUN feat. KID FRESINO
5. GNR feat. 黒田卓也
6. Cicada Shells feat. Karai
7. 410 feat. Jua & ATRBand
8. TOKYO(reprise)
9. GNR feat ATRBand
10. LIFE FOR KISS feat. 中村佳穂Band
11. RUN (ATRBand Version) ※Bonus Track
【イベント情報】
“Answer to Remember” OHIROME GIG Vol.1 ~石若駿 史上最大の祭り、よろしくワッツアップ~
日時:2020年2月4日(火) OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京・恵比寿LIQUIDROOM
料金:¥3,400 (1D代別途)
出演:
石若駿
MELRAW (Sax.)
中島朱葉 (Sax.)
佐瀬悠輔 (Tp.)
若井優也 (Key.)
海堀弘太 (Key.)
TONY SUGGS (Key.)
君島大空 (Gt.)
MARTY HOLOUBEK (Ba.)
新井和輝 (Ba. / from King Gnu)
……and more!
[GUEST]
KID FRESINO
ermhoi、
Jua
……and more!
・チケット
先行発売:11月25日(月)19:00〜12月1日(日)23:59
一般発売:12月7日(土)10:00
お問い合わせ:DISK GARAGE 050-5533-0888(平日12:00~19:00)