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INTERVIEW / Alfie Templeman


UKの若きSSW・Alfie Templemanが語る、シティ・ポップの影響、実験的な新作、社会問題との向き合い方

2021.06.19

UK出身のSSW、Alfie Templemanが初のミニアルバム『Forever Isn’t Long Enough』を5月にリリースした。彼が影響を公言する日本のシティ・ポップの要素を前面に、そこに80’sシンセ・ポップやヒップホップ、インディ・ロックをブレンド。その上で自身が体験したロマンスや人間関係について歌う本作は、愛とノスタルジーに溢れる作品となった。

18歳のAlfieのSNSを覗くと「Wait, I Lied」のMVでの黒縁メガネをかけた姿の写真とともに「オースティン・パワーズに見える?」とインスタ・ストーリーで戯けてみたかと思えば、セクシャル・ハラスメントやBLM、飢餓や貧困など、今世界で起きている様々な問題を若いフォロワーたちに投げかける。彼が同世代に支持されているのは、もちろんそのセンスのいいポップ・サウンドと共感できるポジティブな歌詞が大きなウェイトを占めているのだろう。しかし、この人懐っこさと、強いメッセージを発信するカリスマ性が同居した個性的なキャラクターもその理由のひとつなのかもしれない。

さて、前回の取材から約1年、家族がいるベッドフォードシャーに滞在しているというAlfie(地元の牛と過ごす写真をSNSに投稿していた)にオンラインでインタビューを敢行した。ティーンエイジャーの遊びたい盛り、そしてアーティストとしても次のステップへと進むタイミングで起きたこの度のパンデミックでは、制限のある時間を得たことで前向きに将来や社会について考えていたようだ。終始くるくると表情を変え、ときに笑いやジョークも交えながら、UKの現状、最新作、そして彼がSNSを介して提起する社会問題について語ってくれた。

(※取材日:2021年5月19日)

Interview & Text by Aoi Kurihara
Photo by Blackksocks


シティ・ポップとの出会い

――イギリスはロックダウンも緩和し始めているようですね。徐々に日常生活は戻ってきているのでしょうか。

Alfie:はい、今は少しいい状況になってきて希望が見えてきたように思います。実は明日はBanquet Recordsでのインストア・ライブを控えています。昨年以来のギグで、久しぶりなのでとても興奮しています。絶対楽しいものになると思う。

――それは楽しみですね。ちなみに、ライブ時にはどのような感染対策を?

Alfie:参加するにはショーの直前でPCR検査を受け、陰性であることが必須になります。この検査結果を提出してもらっています。結果によっては参加できない人も出てくるだろうから、以前よりもライブのお客さんは少なくなるかもしれませんが、それでも有観客のライブは久しぶりなので、とても楽しみです。

――すでに音楽ヴェニューは営業を再開しているのでしょうか。

Alfie:パブなどは昨日くらいから開き始めて、ゆっくりと営業が再開してきています。ナイトクラブが公式に開き始めるのは6月頃になると思います。

――あなた自身も2021年の後半にはUSツアー、来年にはUKツアーの開催を発表しましたね。

Alfie:はい、実はヘッドライナーでやるツアーは初めてなんです。それに、アメリカで演奏するのも初めて。なので、とても興味深い経験になるに違いないです。UKでも、これまで自分がヘッドライナーのライブはほとんどが小さい会場だったし、もしくは誰かのサポート・アクトとしての参加でした。なので、外に出て自分のショーができるということにとてもワクワクしています。

――前回の取材で80’sのシティ・ポップ――特に松下誠の『First Light』を影響を受けた音楽として挙げていましたが、今作『Forever Isn’t Long Enough』でもその影響を感じるようなキラキラしたサウンドで、私たち日本人にとってはどこか懐かしさも感じられます。日本のシティ・ポップは今作の制作中にも聴いていましたか?

Alfie:正直に言うと、今作も松下誠の影響をすごく受けています。あとは、YouTubeで彼のスタイルに近い音楽をディグっていました。YouTubeのサジェスト機能で、たくさんの素晴らしいシティ・ポップのアルバムと出会えました。気になったアルバムやプレイリストのリンクを大量にメモしていて、いつでも聴き直すことができるようにしています。でも、やはり作曲やギターの弾き方などは松下誠のアルバムからの影響が大きいですね。彼は本当に素晴らしいミュージシャンだと思います。

――なるほど、あなたにとって遠い国である日本、しかもリアルタイム世代ではない80年代の音楽であるシティ・ポップには、どのようにして辿り着いたのでしょうか。

Alfie:僕はかつてローファイのレコードをたくさん聴いていて。数年前、Jinsangというローファイ・ビートのアーティストを特によく聴いていたんです。ある時彼の曲を聴いていて、ふと彼は楽器を弾いていないことに気づき、さらに興味を持ちました。そして、彼がサンプリングしていた「September Rain」から松下誠の存在を知って、そこからシティ・ポップをディグるようになったんです。

――日本のシティ・ポップは最近、海外でも人気が出てきているという話を聞いたことがあります。実際に今、イギリスでは人気があるのでしょうか。

Alfie:シティ・ポップのことを話している人はほとんど見たことがないですね。イギリスではまだジャンルとして認知されていないと思います。もちろん僕はイギリスでもシティ・ポップ好きを公言しているし、僕のバンドのベーシストであるCamのように、こういった音楽に精通している人もいます。でも、決して多くはないと思いますね。


様々な実験、挑戦を試みた最新作

――今作はHarry Stylesなどの著名アーティストを手がけているKid Harpoonがプロデュースしています。彼とは何年か一緒に仕事をしたようですが、彼について教えてくれますか。

Alfie:まず、今名前を挙げてくれたHarry Stylesの作品で、彼が素晴らしいプロデューサーだということが証明されていると思います。Harry Stylesの作品を聴いて、彼に頼みたいって思ったんです。それから、彼は元々ソロ・シンガーとしてキャリアをスタートさせて、自分でレコーディングも行っていた。自分がまさにやりたかったスタイルを実践していた人なんです。彼はシンガーとしての活動の後、様々なジャンルのたくさんのミュージシャンに曲を書き、素晴らしい作曲家でありプロデューサーになりました。そういった彼のバックグラウンドがとても興味深いなと思ったんです。

――「Shady」はJungleのTom McFarlandがプロデュースしたそうですね。レーベルを通じてこのコラボレーションが実現したようですが、一緒に仕事をしてどうでしたか?

Alfie:Jungleも僕も〈Chess Club Records〉に所属していて、お互いにリスペクトし合っているんです。これまでは話をしたことがなかったんですけど、レーベルのスタッフが僕が彼らのファンであること、一緒にセッションをしたいことを伝えてくれて。そこからTomがプロデュースするという話になりました。彼との仕事はとても楽しかったです。

――「Everybody’s Gonna Love Somebody」はシンプルにみんなが共感しそうなラブソングで、キャッチーなフレーズとディスコ風のサウンドも相まり、アンセムス的に口ずさんでしまいそうです。この曲は2017年(当時14歳)に書いていた曲だと知って驚きました。なぜここまで温めていたのでしょうか。

Alfie:完成していない曲のストックがたくさんあるのですが、この曲もそのうちのひとつでした。この曲を書いていた頃、すでにイメージは固まっていたのですが、当時14歳だった自分の声が高すぎて、自分がイメージしていたものにならなかったんです。数年後、この曲の存在を思い返して、18歳の今レコーディングすれば、当時イメージしていたものができるだろうと確信しました。曲を作った背景としては、今言ってくれた通り、シンプルな歌詞でみんなの心に響くようなものにしたくて。

――14歳ぐらいの頃って一般的には多感で、反抗期と言われたりする年齢だと思うのですが、この曲はとてもまっすぐですね。

Alfie:ハハハ。確かに怒りを込めた曲を作ってもよかったかもしれないですね。でも、この曲についてはポジティブな作品にしたかったんです。

――「Film Scene Daydream」はThe 1975『Notes On A Conditional Form』のコードから思いついた曲だそうですね。あなたの世代だとやはりThe 1975はロック・ヒーロー的な存在でしょうか。

Alfie:彼らは様々なジャンルを昇華して、ロック・バンドとして新しいスタイルを確立した素晴らしいバンドです。ここ数年で新しい規範を作ったと思います。昨年リリースされた『Notes On A Conditional Form』での新しいサウンド・スタイルもすごかった。彼らが影響を受けたであろう80年代のロックの雰囲気を、自分の作品にも取り入れたかったんです。

――また、この曲は曲名の意味から推測できるように、実際に青春もの、ハイスクールものの映画をたくさん観て作った曲だそうですが、その中で観た映画として『アメリカン・パイ』(1999)を挙げていましたね。青春映画の古典ですがおバカっぽいコメディなので少し意外かなと。

Alfie:確かにおバカっぽいですよね。いろいろこの時代の青春ものを観ていて『アメリカン・パイ』はチープですがおもしろくてお気に入りです。それと、音楽的にも自分が好きなような曲が使われていて、この曲と合っていると思います。

――他に音楽制作において影響を受けた映画はありますか?

Alfie:タランティーノの映画をたくさん観ています。次のアルバムはシネマティックなものにしようと考えていて、例えば最近作った曲では嵐のサウンドを入れてみたり。次作は彼の作品からの影響が表れそうです。

――それは楽しみです。さて、「To You」はインスパイア源としてTame Impalaの名前を挙げていて、実際にサイケデリックなシンセサイザーからその影響を伺えます。ポップな曲が多い中、この曲はしっとりしたバラードですが、どのようにしてメロディーを思いついたのでしょうか。

Alfie:このアルバムはまず実験的なものにしたいという構想があって。それでサイケデリックなシンセサイザーを使ってみたんです。一方メロディはシンプルで、印象的なものになったと思います。これまでやったことがなかった、異なる雰囲気の曲を1枚のアルバムに収めるという、ジグゾーパズルのように難しいことにトライする中で、この曲は他のポップな曲の間にフィットするような作品に仕上げようと意識しました。

――「One More Day」は誰かに助けを求めるように電話しようとしている、不安な気持ちについての曲だそうですね。他の曲よりもネガティブな内容ですが、実際の経験をベースにしているのでしょうか。

Alfie:はい、この曲では男性の登場人物がある女性に恋をしているのですが、彼女は彼を同じようには想っていない、というのがベースのストーリーです。Aprilというシンガーをフィーチャーしているのですが、彼女と一緒にそれぞれの観点からこの物語を考えたので、映画のような作品になったと思います。


「アーティストとして、ライブやフェスをより安全な場所にするために発信する義務がある」

――あなたはSNSでは社会問題を提起して発信していますが、歌詞自体はパーソナルの経験が基になっていて、恋愛や人間関係の歌が多いですよね。歌詞に社会問題などを組み込むことはしないのでしょうか。

Alfie:確かに今までの作品では愛、人間関係、ノスタルジーを書いたものが多いです。今、僕は成長している時期で、自分自身の考えはこれからどんどん変化していくと思います。次の作品では一般的な社会問題についても含める予定です。

長い間、政治や社会問題には興味があり、そういったテーマを音楽で発信したいと思っていました。でも、こういったテーマを音楽で扱うことは難しいと感じます。きっと、みんなバランスを取りたいと思うでしょう? 音楽として楽しめるということと、メッセージを伝えること、そのバランスを取るのはすごく難しいです。みんな正しいメッセージを受け取りたい、間違ったことは受け取りたくない。かといって、冗長に説明されるのは嫌ですよね。だから、長いことこういったテーマを音楽に取り入れたいと熱心に考えていますが、なかなか世に出すことはできていません。

――日本でも音楽に政治を持ち込まないで欲しいと考える人がいるようです。

Alfie:政治と音楽を混ぜたくない、という考え方は理解できます。でも、自分はすでにプラットフォームを獲得していると思いますし、自分のファンは素晴らしい音楽と素晴らしいメッセージの両方を求めていると思うので、試す準備はできています。

――Twitterで性暴力やセクシャル・ハラスメントに関して発信し、NMEの記事に取り上げられていたのを見ました。男性の立場であるあなたから、「そもそも男性は再教育されるべき」という言葉が出てきたことに少し驚きました。男性であるあなた自身がそれを認めて、発信するというのは、なかなか勇気がいることですよね。このような考えに至った経緯を教えてください。

Alfie:これは、主に学校に通っていて思ったことです。僕たちは学校でそういったトピックについてあまり議論をする機会がないことに気づきました。若い女性をセクシャル・ハラスメントから守るには、正しい知識を学び、議論する必要があります。

僕にはアーティストとして、ライブやフェスをより安全な場所にするために発信する義務があると思いました。特にパンデミックの間にも考えさせられる事件などがありましたし。NMEで男性が再教育されるべきと話しましたが、それについて認めない男性もいますよね。本来は、学生のうちにセクシャル・ハラスメントについて議論する機会を得るべきです。ライブの場だけではなくて、ありとあらゆる全ての場所でセクシャル・ハラスメントが起きていて、それは本当に最悪なことだと思います。それらを改善するためにも、まずは若いうちに学校でこのようなテーマを議論をする場が必要なのです。

※編集部訳:私は私のギグでの性的暴行/嫌がらせを決して容認しないことを皆さんに知らせたかっただけです。そして、もしそれが起きた場合、(加害者は)追い出され、ギグへの出入りは禁止されます。また、重要な請願書やリンクをできるだけ多く共有したいと思います。何かあればコメントしてください。

――ちょうど上記の記事が公開された時にWolf AliceのEllieに取材をして、彼女が受けたセクシャル・ハラスメント被害や今後状況を改善するにはどうすべきかについての意見を訊きました。音楽活動をしていてあなた他の周りでもそういった被害の話は聞きますか?

Alfie:幸運なことに、自分の友人たちはまだ若いということもあって、実際に(ライブなどの現場で)被害にあったという話を訊いたことはありません。しかし、音楽関係者の人たちから「あのライブ会場でこういった被害があった」という話を聞くようなことは多々ありました。そういった話を聞くたびに議論をして、僕のライブではオーディエンスにもバックステージでも絶対にそのようなハラスメント行為が起こらないようにしたい。人々がお互いをリスペクトし合って、安全に音楽を楽しめる場所を作りたいと強く思うようになったのです。

――同世代のたくさんの若いフォロワーに向けて、こういった社会問題を発信することは大きなプレッシャーもあるのではないでしょうか。

Alfie:そんなにプレッシャーを感じるということはないですね。自分は強いメッセージを発信していくことに情熱を感じているので、それを苦とは思いません。そして自分のフォロワーたちも同じように、こういった社会問題について議論することに熱心でいます。だから問題はないと思います。

――あと、個人的に気になっていることがあって……。あなたのSNS上によく登場する“Brian”が何者なのか教えてくれますか?(笑) 彼は「Everybody’s Gonna Love Somebody」のビデオに出てくるキャラクターで、トーク・ライブにも出演していますよね。

Alfie:ハハハ、彼は僕の小さなお友達です。緑でふわふわしていて、失われた愛を見つけるために一緒に旅をしています。そして、彼は時々僕の分身でもあります。

https://twitter.com/alfietempleman/status/1392957823764602885?s=20

――あなたはシティ・ポップが好きなので、日本に来たらきっと楽しめると思います。もし日本に来れるとしたら、何かしたいことはありますか?

Alfie:どうしよう! 美しい自然……あとは温泉も楽しみたいですね。旅行であちこち行ってみたいです。たまにGoogleのストリートビューで世界中を探索していて、日本も見ていますが、ゴージャスな風景ですよね。綺麗な桜が特に印象的で、他にも素晴らしい景色が広がっていて。もし行けることになったらとても興奮してしまうでしょう。もちろんライブもやりたいですし、実現する日が待ち遠しいです!


【リリース情報】

Alfie Templeman 『Forever Isn’t Long Enough』
Release Date:2021.05.07 (Fri.)
Label:ASTERI ENTERTAINMENT
Tracklist:
1. Shady
2. Forever Isn’t Long Enough
3. Hideaway
4. Wait, I Lied
5. Everybody’s Gonna Love Somebody
6. Film Scene Daydream
7. To You
8. One More Day feat. April

Alfie Templeman オフィシャル・サイト


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