FEATURE

FEATURE / idom


「ときに優しく、ときに鋭く」――自身の多様な側面を収めた初のEP『i's』を本人の言葉とともに紐解く

2022.03.25

コロナ禍で音楽制作を始めて以降、数奇な運命を辿るアーティスト・idomが初のEP『i’s』を2月にリリースした。

海外での就職の道が絶たれたことで、“音楽”に巡り合ったidom。YouTubeやSoundCloudにUPした音源、映像で注目を集め、ソニー「Xperia」シリーズやTikTokのCMタイアップなども獲得。前例のないパンデミックで混沌としたこの時代において、異色のキャリアを築き上げている。

今作『i’s』には自らの“覚醒”を表現した「Awake」以降、Idomとしての活動が本格化してからの歩みをパッケージしたかのような作品となっている。タイトルの由来については、次のように答えてくれた。「“自分の様々な要素が詰まった”、という意味で名前のイニシャルを要素として、それを複数形にしたタイトルにしました。また、作品を通して大きな“愛”を届けることができればという気持ちも込めています」。

また、『i’s』(アイズ)という発音に掛けて、カバー・アートワークは自身の“目”(eye)を大胆に配したデザインとなっている。「“目は口ほどに物を言う”じゃないですけど、目はとてもパワーや感情を感じるパーツだと考えています。ときに優しく、ときに鋭く、そんな風に感じる作品たちを象徴するアートワークになったかなと思っています」――本人がこう語る通り、今作はidomの多様な面が収められている。

先述の「Awake」はプロデューサー/ビートメーカーのTomoko Idaとの初タッグ作品にして、壮大なサウンド・スケープを描き出す1曲。クオリティの高いMVで拡張する世界観も含め、それ以前からの作品と比べると、明確な進化を感じさせる作品であり、idomの活動をこれ以前と以降で区切れるような、ターニング・ポイントになったであろうナンバーだ。

続く「Moment」「Freedom」もTomoko Idaとの共作。前者は「Awake」との地続き感を感じさせる1曲で、音楽との出逢いや、それがもたらした人生の変化、そこで気づけた“今を生きること”の大切さを歌っている。一方、「Freedom」もテーマは共通している部分があるが、より軽快に、より挑戦的に自身を開放すること、自由に生きることを、アグレッシブなダンス・トラックに乗せて綴っている。ときにはラップも混ぜつつ、シンガー/ラッパーとしての表現力の高さも見せつける。

そして4曲目には今作で初解禁となった新曲「帰り路」が収録。温かみのあるギターのフレーズ、控えめなビートにラップ調のフロウが印象的な同楽曲は、洗練されたミニマリズムも感じさせつつも、初期からのリスナーであれば懐かしさも覚えるのではないだろうか。 

「実際に制作していたのは1年以上前で、大学時代の友人との会話がきっかけでした。その頃新卒だった友人たちが日々の苦労だったり、逃げ出したいけれどなんとか頑張っている気持ちを打ち明けてくれたときに、何か僕から伝えられることがあればと思って、制作した曲です。その友だちとは東京で会ったのですが、帰りの岡山行きの深夜バスのなかでイメージが湧いてきて、そのままバスのなかで原型を作り上げた記憶があります」――悩み苦しみ、追い込まれている人へ手を差し伸べるようなリリック。ときには現在(いま)を捨ててでも、自分らしくあること、自分らしく生きること。友人へ向けて優しく歌うような1曲だが、その内容はこれまでの作品ともリンクする、一貫とした姿勢を感じさせる。また、一度大きな挫折を味わったidomだからこその説得力が付与されていることにも注目したい。

トラックは久々のセルフ・プロデュース。「歌詞にフォーカスして欲しい」という思いから、音数も抑えたシンプルな構成に。レコードのスクラッチ・ノイズのような音もセンチメンタルな感情を刺激する。また、MVも自身がディレクションを務め、高校時代からの友人だという高鴨輝を迎えた、idomのパーソナルな要素を全面に出した作品となっている。

なお、EPにはもう1曲新録曲が収録されている。先述の既発シングル「Freedom」の別ver.となる「Freedom (PLANET ver.)」だ。元々はオリジナルver.と同時にTomoko Idaと共に制作した作品であり、idom個人的にも気に入っていたことから、この度日の目を浴びることになったという。「全く違うアプローチに挑戦してみたくて」と本人が語る通り、リリックもフック以外は新たに書き下ろし、オリジナルとは大きく異る仕上がりに。

ソリッドな原曲から一転、80’sシンセ・ポップなサウンドに仕上げた今作は、近年のThe WeekndやDua Lipaともリンク。グローバルなポップ・スターとの同時代性を有しつつ、よりメロディ・ラインを活かした構成になっている。

残り2曲は共に「Awake」のリミックス。先鋭的なエレクトロニック〜ベース・ミュージックで海外レーベルからのリリースも重ねるSeihoと、国内ヒップホップ・シーンを中心に、メインストリームでも活躍する名匠・BACHLOGICという個性的なプロデューサーをリミキサーに迎え、idomの多様性が別アングルから表現されている。

自身の様々な側面、そしてこれまでのヒストリーを濃縮したかのような今作を経て、稀代のアーティストはどこへ向かうのだろうか。「まずは僕のことを1人でも多くの方に知って頂くことが目標です。楽曲制作に触れてからまだまだ経験の浅い僕が、少しずつ成長する姿をクリエイティブを通して共有していけたらと考えています」――大きな喪失、新たな出会い、そして成長と進化。音楽や映像だけでなく、idomの歩みそのものがメッセージになり得る輝きを放っている。彼が照らす未来へと思いを馳せつつも、今はこのEPをじっくりと楽しみたい。

Text by Takazumi Hosaka


【リリース情報】

idom 『i’s』
Release Date:2022.02.25 (Fri.)
Tracklist:
1. Awake
2. Moment
3. Freedom
4. 帰り路
5. Freedom (PLANET ver.)
6. Awake (BACHLOGIC Remix)
7. Awake (Seiho Remix)

配信リンク

■idom:Twitter / Instagram


Spincoaster SNS