FEATURE

INTERVIEW / Elephant Gym


台湾発の3人組、Elephant Gymが「さらに進化していくための過程」と語る最新作の裏側。メンバーによるアルバム全曲解説も

2019.05.15

台湾・高雄出身のスリーピース・バンドであるElephant Gymは、昨年、都市型フェス“SYNCHRONICITY’18”や“りんご音楽祭”にも出演し、フル・アルバムとしては2枚目、4年ぶりとなる新作『Underwater』を11月にリリースした。

アルバム・リリース・ツアーとして東名阪を周るジャパン・ツアーも開催し、東京・代官山UNITでのファイナルはソールドアウト。日本でも精力的な活動を展開した。早くも今年5月にも来日公演が決まっており、もはや国境を感じさせないシームレスな活動を展開している一方で、新作『Underwater』に関して理解を深められるようなコンセプトや制作過程などは、これまで日本で語られることがなかった。

そこで、今回の来日に合わせ、2ndアルバム『Underwater』についてのインタビューを敢行。同作のセルフ・ライナーノーツをElephant Gymのメンバーと共に作り上げることに。来日公演でも多く演奏されるであろう『Underwater』の楽曲を楽しむ手助けになれば幸いだ。

Interview & Text by Sho Yoshimoto
Photo by Official / Live Photo by Takeshi Yao

Elephant Gym


「新しい」かつ「Elephant Gymらしい音」を見つける

――今回のアルバム制作にあたって、コンセプトはありましたか?

そうだね、コンセプトありきで制作に入ったよ。このアルバムを通して、Elephant Gymの新しい音像を見つけたかったんだ。これまでよくカテゴライズされていたインストとかマスロックみたいなものではなく、もっとその枠組みを超えたもの。でも、同時にElephant Gymらしい音、というのをね。

――実際にロックだけでなく、幅広い音楽性や要素が消化されているように感じます。

実はこれまで、曲作りをする際にメンバー同士で何度も衝突があったんだ。3人とも共通する好きな音楽もあるけれど、もちろん異なるスタイルや要素を持ち合わせてもいる。例えば、KT Chang(Ba. / 以下:KT)は複雑なインストが好きな面があったり、Tell Chang(Gt. / 以下:Tell)はラジオ向きでキャッチーな楽曲とかフィルム・ミュージックが好きな面があったり、Tu Chia-Chin(Dr. / 以下:Chia-Chin)は、ヒップホップや日本の音楽、シティポップが好きだったりする。

そういった違いを尊重し、それぞれの個性を自由に発揮するために、メンバーそれぞれにこのアルバムの楽曲を割り当てて、それぞれがプロデューサーとして立つことにしたんだ。プロデューサーとなったメンバーはその楽曲をまず最初に作ってきて、自ら掲げたコンセプトに達するよう他のメンバーを導くという役割を担った。それが今回の制作で一番重要なポイントだね。

――では曲ごとにもコンセプトがあるんですか?

そうだね。これまでは単純にメロディーを先に作って、そこから曲に構築していったけど、今回はまずコンセプトがあって、そこからメロディーなりリズムなりコードなりを生み出すという順序だった。

――外部のプロデューサー起用や日本のアーティストとのコラボも見受けられます。

それももちろん新しいElephant Gymを見つけるためのもので、例えば「Underwater」では台湾のバンド、Hello Nicoのメンバーでありながら、プロデューサーやエンジニアもやっているJoshaに依頼して、色付けをしていってもらった。また、今は台湾以外でも様々な国でレーベルがついてくれていてリリースやツアーができているので、中国語の原曲は一部、日本のアーティストに作詞と歌唱をお願いしてもらっているよ。

――アルバムにはスキット、インタールードのような楽曲も多く含まれていますね。

うん。コンセプトを持った曲と曲を繋ぐ役割で、その前後の曲とセットになっていたり、対になっていたりするものだね。

――ダウンロードやストリーミング全盛の現在では、なかなかアルバム全体での流れというものが崩れてきていて、バラ売り、バラ聴きみたいな形も多いですが、あくまでアルバム全体での流れを重視している?

そうだね。だからインタールードの楽曲はデジタルでは配信していないよ。国によっても配信するプラットフォームはそれぞれ段階的に分けている。世界各国で活動するようになって、その辺りはなるべくひとつのやり方を押し付けるのではなく、その国にあったやり方を選択するように心がけているよ。

――制作やリリースを終えて、今アルバムの出来はどのように感じていますか?

昔からずっとバンドを深く見てきてくれていた、特に台湾のレビューなどでは稀に見受けられたけど、やはり新しいスタイルに挑戦することでバンドのサウンド自体には一貫性がないなどとも言われたよ。ただ、Elephant Gymの初めてのリリースは「Balance」というタイトルだけど、Elephant Gymとは正にそういうバンドなんだ。ドラマーがライブではMCをしなかったり、曲作りの主体にならなかったりするバンドは多いと思うけど、私たちはそうではない。全員が対等にその創造性を発揮するバンドであり、このアルバムはそれが顕著に現れたアルバムなんだ。これはバンドとして今後さらに進化していくための過程であり、このアルバムが成功したとか、満足したとか、今そういうジャッジをするものではないと思っている。

――実際、リリース・ツアーとして日本を含めアジア各国で、また、カナダやアメリカなどワールド・ツアーを行っている最中ですが、ライブでの新曲の反応はどうですか?

アルバムに対してのレビューや評価で様々な意見が聞かれたように、オーディエンスも新曲のパフォーマンスはどんな感じだろう、と構えている感があったけれど、そのレビューとは対照的にライブでの反応は、やっぱりElephant Gymの音楽だ、という声が大きかったよ。ライブでは3人による一体感やエネルギーが発揮できるからね。



Elephant Gym 『Underwater』 全曲セルフ・ライナーノーツ

*インタールードは除く

【2. Underwater】

アルバムと同名のこの曲は、正に新しい音像を見つけるためにKTがプロデューサーとなって、外部のプロデューサーとも協力し制作した最初の楽曲だったね。まずはバンド・メンバーのみで、ドラム・ギター・ベースのインスト且つスリーピースでどこまで表現できるかを追い求め、構成していった。そこから、プロデューサーのJoshuaと共に、「Underwater」――つまり水中の世界を創り出すべくサウンド・エフェクトを足していった。

リスナーの皆には、現実やインターネット上の喧騒から逃れ、私たちと水中に飛び込んでほしい。そして、内なる混沌とした声や穏やかな声を聴き、暗くも深淵で力強いヴァイブスを感じて、最終的には自分の中の平和を見つけてほしい。

【3. Satellite】

「Underwater」と「Satellite」はKTのプロデュースとなっており、共通するコンセプトはあくまでもスリーピースのインストでできることを基調にしたいという点と、綺麗で美しい音を鳴らしたいということだった。この「Satellite」は宇宙空間を創造し、そこに到達する感覚を表現すべく、KTがシンセのアレンジを施した。感覚的にはデジタルとアナログを共存させていて、楽曲のピーク時にはシンセは消えてなくなり、3人のバンド・サウンドだけで爆発するイメージ。これは美しいものの裏にはいつでも危険が潜んでいるということを暗示しているよ。

【5. Bad Dream】

これはChia-Chinのプロデュースで、ラッパーとコラボするのは初だったね。最初は5分間のドラムのみのデモで、そこからこの楽曲が生まれたんだ。Chia-Chinがこの曲を創った時、彼はかなり陰鬱な時期を過ごしていた。そういった気分と向き合うプロセスの中で、音楽を通してその鬱々とした感情に自分自身で語りかけてみようとした。当初、TellとKTはメロディーやハーモニーを乗せていくのにとても苦労したよ。ただ、最終的には実験的でとてもおもしろいリズムが生まれたと思っている。

バック・トラックが完成した後に、Sowutという同郷(高雄生まれ)のラッパーがこのダークでプログレなヒップホップ・トラックの、最後のピースを埋めてくれた。カナダでも生活経験のあるSowutのラップは、中国語と英語をスムーズに行き来する非常に面白い響きのするラップで素晴らしいと思う。

【6. Half】

元々メンバー3人ともフィルム・ミュージックは好きで、いつかそういった音楽が創れないかと思っていた。そこでTellがひとつのアイデアを思いついた。PHMというMVなども撮っている映像ディレクターに、MVを先に創ってもらうよう頼み、そのMVに合わせて曲を創ろうと。それってまさしくフィルム・ミュージックを作ることにもなるんじゃないかってね。

PHMはElephant Gymが2018年春、“SYNCHRONICITY”に出演するために来日した時と、夏にNYでライブをやった時に同行して撮影をした。映像の主人公であるChen Yi-TingはWhite Dance Theaterというモダン・ダンス・グループのダンサーで、この撮影をした“SYNCHRONICITY”やNY公演でも、ダンサーとしてライブにも出演した。このMVには日本のバンド、How To Count One To Tenのメンバーとその息子にも少し出演してもらったりして、とてもおもしろい経験だったよ。

【7. Shell】

この曲は元々、先述したWhite Dance Theaterのために作ったんだ。2017年の冬、台北で私たちと彼らで共にクロス・オーバー・ショー“Gray”を開催した時のことだね。Elephant Gymが彼らのダンスや演技のバックで演奏する形で、このショーのテーマは個人が家族や社会、環境にぶつかってしまう葛藤や衝突を表現したものだった。

元々はKTが歌っていたんだけど、アルバムに入れることを決めてからはそのコンセプトや歌詞の内容に合うように、台湾の先住民族歌手であるCudjiy lja karivuwanに参加してもらって、悲しみや動揺といった感情を表現してもらった。

“Gray”は台北の工場跡「Bamboo Curtain Studio」にステージを建てて開催された。

【9. Quilt feat. Kento NAGATSUKA(WONK)】

この曲は台湾では中国語の歌詞があるけれど、それ以外の国でのリリースは日本のエクスペリメンタル・ソウル・バンド、WONKのボーカルであるKento NAGATSUKAさんに作詞と歌唱をお願いしたんだ。WONKは私たちの好きなバンドで、この話を受けてもらえてとても嬉しかった。Kentoさんには曲のコンセプトやストーリーを渡して作詞をしてもらったよ。

その内容は、私たちはいつか必ず、全ての愛する者に「さようなら」を言わなければならないけれど、だからこそ出会いに感謝し、喜びと感謝に満ちた「さようなら」を言えるようになれたらいい、というのがこの曲の大きなテーマだよ。

Photo by Asuka Fujino


ジャパン・ツアー・ファイナルではKento NAGATSUKA(WONK)との共演も。今回の来日ではWONKとのツーマンが実現。

【10. Walk】

このアルバム制作にあたって掲げた、新たなElephant Gymの音像を生み出すという点では、この曲もそのひとつになりそうだね。これはChia-Chinプロデュースの曲だけど、Elephant Gym製のダンス・ミュージックを生み出そうというのがコンセプトだった。

Chia-Chinは落ち込んだ時よく散歩をするんだけど、その足取りのようなビートがベースとなっている。そこにElephant Gymらしさのひとつでもある変拍子や自分たちなりの解釈によるダンス・ミュージックの要素を足してみた。ギターもベースもこれまであまりないテイストでアレンジをしてみたよ。ぜひ散歩しながらでも聴いてみて!

【12. Moonset feat. YeYe】

この曲は、愛する人と喧嘩をして、夜中に飛び出してしまう話なんだ。その間ずっと彷徨いながら喧嘩のことばかり考えて、別れてしまおうとか、もっと別の合う人がいるんじゃないかと思い出す。でも結局、人間なんてみんな違うんだから、そんなことはないんだよね。違いから衝突を生むのではなくて、結局は「許すこと」が必要だと思う。そして、その許すことに潜んでいるのは「愛」なんだと思う。じゃあやっぱり彼(彼女)の元に帰ろうって、そういう歌だよ。

そんな曲をYeYeさんに素敵な日本語詞と美しい歌声で彩ってもらって、とても光栄だった!

【13. Midway -Rgry Remix-】

「Midway」は2016年リリースの2nd EP『WORK』に収録された曲。KTのボーカルが入った最初の曲で、代表的な曲のひとつになっている。Rgryは台湾で近年注目をされているDJ/プロデューサー/ビートメーカーだ。ローファイなサンプリングと耳を引くリズムが彼の特徴だね。


【リリース情報】

Elephant Gym 『Underwater』
Release Date:2018.11.14 (Wed.)
Label:WORDS Recordings
Cat.No.:WDSR-003
Price:¥2,300 + Tax
Tracklist:
1. Shower
2. Underwater
3. Satellite
4. Half Asleep
5. Bad Dreams -feat. Sowut-
6. Half
7. Shell -feat. Cudjiy lja karivuwan-
8. Lake
9. Quilt -feat. Kento NAGATSUKA (WONK)-
10. Walk
11. Speechless
12. Moonset -feat. YeYe-
13. Midway -Rgry Remix-


【イベント情報】

“In&Out”
日時:2019年5月23日(木) Open 19:00 / Start 20:00
会場:東京・渋谷WWW X
料金:前売 ¥3,300 / 当日 ¥3,800 (各1D代別途)
出演:
Elephant Gym (Taiwan)
WONK

チケット発売日:4月6日(土)〜
e+ / ローソンチケット / チケットぴあ / iFLYER / WWW店頭

問い合せ:WWW X 03-5458-7688

公演詳細

Elephant Gym 日本レーベル・サイト


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