オレンジの髪が特徴的なChi-によるソロユニット、カメレオン・ライム・ウーピーパイが新曲“REACH feat. PES”をリリースした。客演に迎えたのは、CLWPが「昔から大好きでスーパーリスペクトしている」というヒップホップアーティストPES。楽曲は「もう少しで当たりが来るんじゃない? 当たる? 当たれ! 当たる気しかしない!」という、リーチがかかったときの高揚感や妄想など渦巻く胸の内を描写した1曲だ。アシッドジャズを基盤にビッグビートアレンジを施したアッパーなトラックの上で、Chi-とPESがグルーヴィに共鳴している。
2組は去る今年の『SONICMANIA』にて、CLWPのオープニングアクトステージにPESがゲストとして登場し、リリース直後の同楽曲を初披露。ハイテンションな楽曲そのままに、熱度の高いパフォーマンスを繰り広げて初見の観客の度肝を抜いた。
今回はライブ共演を終えたばかりのChi-とPESによる初対談が実現。コラボに至った経緯から、お互いの印象、楽曲制作エピソード、アーティスト同士の質問や意見交換まで、ざっくばらんに話を交わしてもらった。
Interview & Text by Mami Naruta
Photo by Ray Otabe
「僕らが好きだった時代の音感」──PESからみたCLWP
――先ほど『SONICMANIA』でコラボパフォーマンスを初披露しましたが、まずはステージの感想から教えてください。
Chi-:めっちゃ楽しかったです! PESさんが出てきた瞬間に「やっぱりタダ者じゃないな」って思いましたね。最高でした。
PES:3分くらいだから覚えてないくらいあっという間だったね(笑)。でも、お客さんも結構盛り上がってくれたのでよかったです。「誰だよ」って感じではなかった。
Chi-:そりゃそうですよ(笑)。
――アクト全体を観ていても、あの曲で場内の熱がグッと上がった感じがしました。
Chi-:やっぱりソニマニは観に来てくれているお客さんが熱いというか、本当にここを選んでくれたお客さんなんだなって感じられて、超楽しかったですね。
PES:今日は、プラス台風による釣り橋効果もあったと思う。「俺ら音楽好きだもんな!」「台風なんかに負けねえぞ! 見せてくれよ!」みたいな強い気持ちを感じたね。
――では、今回のコラボに至った経緯について伺います。カメレオン・ライム・ウーピーパイは元々PESさんを「昔から大好きでスーパーリスペクトしている」そうですね。
Chi-:はい。仲間のWhoopies1号・2号も含めて3人ともめちゃくちゃファンで。私たちが一方的に見てる勝手なPESさんの印象で、声ももちろん素敵なんですけど、いい意味でヘラヘラしてる感じが……。
PES:いい意味でヘラヘラしてるってなんなのよ(笑)。
Chi-:ユーモラスというか(笑)、そういうところが私たちにすごく合いそうだなって勝手に感じていて、いつかご一緒できたらなと思っていたんです。それで、まずWhoopies1号・2号がトラックとサビを作って「この曲にPESさんに入ってもらったらすごくよさそう」「PESさんしかいないだろう」って話をしていて、ダメ元でお願いしてみたら、OKというお返事をくださって。
PES:僕、フィーチャリングは基本的に断らない姿勢なんですよ。声をかけられたら誰でもできるだけやりたい。CLWPに対しての予備知識は何もなくて、ファンシーでいて音がヘヴィな感じっていう第一印象だったんだけど、さらに聴いてると「この人たち、たぶん僕が若いときに聴いてたゾーンの曲が結構好きっぽいな」って感じた。
送ってくれた曲も、ビートとかロー感ですごく上手に昔の感じを出してて僕にとっては懐かしさを感じるものだったから、すごい気に入ったし、やりやすいだろうなと思ったんですね。そんなことを考えながら詞を書いて歌って「こういう感じにしたらいいですかね?」ってデモを送ったら、「これでいいです」ってきて、「これでいいんだ」って(笑)。
Chi-:本当にめちゃくちゃよくて、一発で「もうこれだ!」って感じでした。
――「僕が若いときに聴いてたゾーンの曲」という部分について、もう少し詳しく教えてもらえますか?
PES:例えばFatboy Slimとか、生音と電子音楽をごっちゃに鳴らし始めた時代の曲ですね。今回の曲も、ガチのヒップホップに、ロックがちょっと混ざってたり、ハウスの方向性があったり、ビッグビートが現れたりしてるでしょ。機材の音色もローファイ感を出してるから、そういう音が好きなんだろうなと思って。
現代でそれを表現するのはちょっと賭けみたいなところもあると思うんですよ。リスナーがいろんなデバイスで聴くから、こもった音よりクリアーな音で、イマーシブな感じに仕上げるのが今の主流で。それに反してカメレオンはドンシャリというか、僕らが好きだった時代の音感で上手にやってるなーと思いますね。
自身の置かれた状況を楽しむコラボ曲
――コラボ楽曲“REACH”では、パチスロなり恋愛なり「リーチがかかった時の高揚感」が描かれています。こういった主題はどのようにして生まれてきたのでしょうか。
Chi-:リリックはいつもそのときの自分の気持ちを書いてるんですけど、最近いろんな方から「(CLWPは)何かのきっかけでバッと広がりそうだよね。あとはきっかけだけだね」みたいなことを言ってもらえる機会があるんですは。私たちもそんな風に思ってはいて。そんな状況を「いまひとつ」みたいなネガティブな感じじゃなくてポジティブに捉えて、リーチがかかったときみたいに「もうちょっとなんじゃない!?」とワクワクして、この状況をおもしろがれたらいいんじゃないかなと思って。それを表現してみました。
――ブレイク寸前なCLWPの今の状態とかかっていたんですね。
PES:僕にはそういう説明がなかったから、今聞いて「あ、そうなんだ」って思ってる(笑)。僕はそういう状況とは知らなかったけど、もらった詞を読んで「音楽で一発大逆転」みたいなリーチがかかってるとはわかったよ。
――PESさんのラインには《ハマればみんなRich》とありますよね。
Chi-:それ、私ビックリして。説明不足だったのに「え? 汲み取ってくれてる!」って(笑)。
PES:ふわっとだけど上手に描いてあったから。他のカメレオンの曲は結構直接的に恋愛のことを書いてるものとかいろいろあるよね。でもこの曲って、得てしてリップ(RIP SLYME)っぽいっていうか「何が言いたいの? でもなんかわかるような気がする」みたいな。ああいう、はぐらかしながらテーマを描くのって結構難しいんですよ。だからレコーディングのときに「リリックのこの塩梅、上手だね!」って言ったら、Chi-ちゃんは席を外していて、僕の褒め言葉は空を切ったけど。
Chi-:いやいや、すみません!(笑)
――(笑)。アシッドジャズやビッグビートを織り交ぜたサウンドは、どういう風に固まったんでしょうか?
Chi-:いつも曲を作るときは私が先に「こういう感じの曲」と提案することが多いんですけど、今回に関してはWhoopiesの2人が勝手に作ってきた曲なんですよ。私が聴いたときにはできあがっていて、「これならPESさんに入ってもらいたいね」と3人で話して。
――PESさんの客演を想定して、PESさんのカラーを取り入れてトラックを作られた感じがします。Whoopies1号さん、2号さんも相当お好きなんですね?
Chi-:そうなんです。PESさんとかBeastie Boysが好きだったり、3人とも好みが似てて。もう好きすぎて私たちの体に染み込んじゃってて、作ったものにも滲み出ている感じだと思います(笑)。
「その場で自分たちで全部決める」──現代的な制作手法
――元々いちファンでもあったChi-さんですが、今回のコラボを通して感じたPESさんの魅力とは?
Chi-:さっきも言った、いい意味でヘラヘラしてるところと……。
PES:ふざけんじゃねーぞ(笑)。
Chi-:あははは、本当に「いい意味で」です(笑)。レコーディングで初めてお会いしたんですけど、私たちのことを絶対知らなかったと思いますし、曲作りがポンポン早く進んでいく中で、きっと状況がよくわからないだろうなって思っていたんです。でも、その全部をおもしろがってくれてる感じがしたんですね。器のデカさっていうのかな、そこが本当にリスペクトしている部分です。
PES:あっという間に終わったよね、レコーディングもMV撮影も。その場で自分たちで全部決める感じ。僕、MVがひと回し(ワンカット撮影)っていうのも聞いてなかったからね(笑)。
Chi-:そうですね(笑)。私たちもいろいろやろうと思ってたんですけど、最初の編集作業で色を入れて確認したときに、この一発撮りのテイクがよすぎて、「これでいこう」ってなって。
PES:現代らしくていいことだと思う。若い子たちのMVを見てると、そういう作り方多いよね。昔は最初からライトとかを作り込んで撮影することが大事だったけど、今は技術でいくらでもできるから、もう思いついたものをおもしろく撮っちゃえばいいやって。カメレオンみたいに自分たちで監督して編集できるのはすごくいいことですよね。
――これまで関係値がなかったとのことなので、相手に訊きたいことや話したいトピックがあれば、この機会にぜひ。
Chi-:じゃあ、私が質問してもいいですか? 私、ライブの練習を一切しないんですけど、練習ってしますか?
PES:ウソでしょ!?
Chi-:しないです。
PES:ああ〜、マイクだからか。僕は楽器があるから。死ぬほど練習する。いろんな人といろんなタイプのライブをやるからさ。今回は歌だけだけど、他のアーティストとセッションしたり。そういうときは迷惑かけないためにすごい練習しとくかな。
Chi-:ああ、そういうことですね。
PES:ただ、ラップに関しては家で「Yo! Yo!」とかやんない。聴いて覚えるって感じ。でもMVとかのために練習やっておいた方がいいのかなと思うときはある。けど、気づいたらその日になっちゃってるからやってないですね。
Chi-:よかった(笑)。安心したくて今聞いちゃいました。やってない人って少ないんですかね?
PES:ラッパーで、MVやライブに向けて練習をやりすぎなくらいやってる人も周りにいたね。僕はラッパーが身振り手振りや見られ方を練習してステージに出るのはどうなんだろうとは思ってたけど、もっとお客さんに対してアクションした方がいいっていう見方もあるし、最近はお客さんが一緒に踊れるTikTok的な振り付けものも流行ってるしなぁ……。練習するのとしないの、どっちが良い悪いはわかんないね。
Chi-:そうですよね。
――ちなみに、Chi-さんが練習しないのはどうしてですか?
Chi-:え、嫌いだからです(笑)。リハーサルは入るんですけど、そもそも練習って何を練習するのかがわからなくて。
PES:わかるわかる。でも、例えばバンドもので何曲かメインMCで出るときとかは、導線とかいろいろ考えるなぁ。僕は家に鏡がないから、IKEAでデカめの鏡を買うところから始めようかな。
Chi-:そうですね! 私もそこから始めたいです(笑)。
PES:僕からも質問いいですか? 僕を、これからどうするつもりなのか聞きたい。どうやって使っていくつもりなのか(笑)。
Chi-:それはもうできるだけ関わってほしいですね。ほんとに受けてもらえると思ってなかったくらい雲の上の存在だったので、すごくいい経験させてもらってるなって思っていて。よければずっと関わっていきたいなと。
PES:よかったよかった。じゃあ僕はこのままよくわからないままいればいいのね?
Chi-:そうですね。特に決めたりはしないですけど、おもしろがってくれれば……。
PES:毎回目の前のことだけ必死に頑張ればいいか。未来とか過去とかは考えなくていいよね。
両者の音楽活動に対する姿勢
――キャリアの長さが全く異なる2組ですが、いま現在の音楽活動に臨むモードはいかがですか?
Chi-:私は今、完全に頑張らないとっていうタイミングですね。去年1stアルバム(『Orange』)を出して初めてワンマンをやって、今年は海外からも結構チャンスをもらっているので、そのチャンスを上手いこと生かして日本も海外も隔たりなくやっていきたいです。それから、自分たちの音楽を広げるのと好きなものを貫くののバランスを上手く取りたいなって。3人ともそんなに器用なタイプではないので結局好きなものを作るしかないんですけど、それこそPESさんのように、この状況をおもしろがってずっと楽しんでやっていければな、という感じですね。
PES:頑張りどころだよね。
Chi-:はい、頑張って楽しみながらやっていければなと。PESさんはそういう風に、広げたい気持ちと、自分たちが好きなもののバランスについて考えることはありましたか?
PES:今思うと、無理してでも広げることをやった方がいいというか、そこはもっとやれたなと思う。自分がやりたいことって今でもやれるけど、結局できることの範囲って限られてきちゃうから。だったら若いときにちょっと無理かもって思うことでも、ガンガン挑戦していった方がおもしろいっていうか。
Chi-:ああ、そうなんですね。
PES:「そんなことできねーよ」っていうことを周りの大人がたくさん言ってくる、そのストレスは重々わかるけど。僕らもワケわかんないことたくさんやったからね。
でも、カメレオンもグループだからいいじゃないですか、話し合えて。なるべく若いときに何でもやっておいた方がいいよ。歳とってから海外行きたいって言っても体がキツくなってくるから、マジで。
Chi-:そうですね、いろいろやっていきたいですね。実は私たち3人とも内に内にっていう性格なので、今の言葉で、今までちょっとストップかけていた部分も、振り切ってみようかなと思いました。
――一方のPESさんは、今どういう姿勢でアーティスト活動に向き合っていますか?
PES:今はわりと「若い子のために」ってことを考えてますね。例えば、ひとりで長尺のワンマンライブをやるってこういうことだよって、若い人の参考として、僕ぐらいの歳の人がやっとかないとなっていう。やってないのに何か言っても説得力ないじゃないですか。今年から音楽をもう一度ちゃんとやろうと思ったのもそれが大きい。あとはまぁ、歳とると時間が早くてボーっとしてたらすぐに過ぎてっちゃうから、一個一個大事にちゃんとやろう、みたいな姿勢ですね。
――6月、7月におよそ2年ぶりの新作を連続リリースされましたが、今年からもう一度ちゃんと音楽をやろうと思い直していたんですね。
PES:音楽の制作ができるスタッフがだんだん集まってきたこともあって。がっつりポージングしてる人とは全然違うけど、とりあえずやってるポーズは取れてるから、ヘラヘラやらせてもらってます(笑)。
Chi-:いやいやいや(笑)。ずっと見た目も変わらないですし、裏表がなくて飾らない、自然体なところも本当に痺れました。私もそうありたいですね。
――30年近くのキャリアがありますが、歴が長くなってからの方がモチベーションの保ち方は難しそうですよね。
PES:そう。でもね、KANさんとか、FLYING KIDSの浜崎貴司さんとか、上の世代の人とライブをやると、すごい練習量に驚くの。リハを3回くらいやったりするから。
Chi-:ええ!?
PES:でもそれは美しく見えるよね。なんでそんなにやるのかなって思うけど、やっていたいんだよねって。そういう風に音楽に対する姿勢を見せてくれてたんだと思う。それは受け継いでいきたい。けど、とりあえず、うちに練習用の鏡がないから鏡買うところから始めようかな。
Chi-:ふふふ(笑)。今日は本当にありがとうございました!
【リリース情報】
カメレオン・ライム・ウーピーパイ 『REACH feat. PES』
Release Date:2024.08.14 (Wed.)
Label:CLWP Records
Tracklist:
1. REACH feat. PES