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Best Tracks Of 2018 / Yuki Kawasaki


キュレーター、Yuki Kawasakiの2018年ベスト・トラック!

2018.12.26

ネガティブな気分になることが非常に多い年でした。特定の何か(あるいは誰か)に対する嫌悪感でなく、もっと漠然とした大きなものに対する怒り。こういうときに“社会”とか言うと、「主語をデカくするな」と誰かからお叱りを受けるので明言は避けます。とにかく今年は常にイライラしてました。


  5. 生きろ。 / 水曜日のカンパネラ,yahyel

日本のアーティストは欧米とは違う意味で“大変だな”と感じます。エンタメ以外の意味(たとえば政治性)を持つと途端に避けられるし、それゆえに少しでも社会性を匂わせれば“そういう曲”として解釈され、そのうえ無責任なオジサンたちには「日本のアーティストは何も言わない」と批判される始末。どうすりゃいいんだって話ですよ。“創作物が社会性を持てないこと”そのものが、そもそも日本の社会性を示しているようで悲しくなります。そんな中、孤高に気を吐く存在には本当に勇気づけられますね。この水曜日のカンパネラとyahyelによる共作「生きろ。」は、何も言えなくなった時代の叙事詩。

  4. Portugal. The Man / Live In the Moment (Tokimonsta Remix)

いつかのグラミー賞でPrinceがプレゼンターを務めた時、彼は「アルバムって覚えてますか?」と皮肉交じりに語っていました。これは楽曲単位で音楽を聴くリスナーの態度を揶揄したものですが、しかし、逆にアルバムに評価軸を置き過ぎることによって批評の対象になり得ない場合も考えられるのではないでしょうか。例えばPeggy Gouは今年一枚もアルバムを発表していませんが、シングルの「It Makes You Forget(Itgehane)」はクラブ・シーンのアンセムとなりました。リミックス仕事ともなるとさらに見過ごされがちですが、Tokimonstaによる「Live In the Moment」(原曲はPortugal. The Man)にはもう少し光が当たって欲しかった。ドロップが神。

  3. CHVRCHES / Wonderland

The 1975の『A Brief Inquiry Into Online Relationships』は超名盤であります。芸術が敗北したトランプ当選以降、本作が打ち出した“コンシャス過ぎない”ことは極めて同時代的です。けれども、しっかりメッセージ性も忍ばせる。このような作品が出てくると、「やっぱり世界は進んでいるなー」と素朴な感想を持ちますね。で、この“2018年的”である点において、ビックリするほど過小評価されているのがCHVRCHESの『Love Is Dead』でしょう。特に「Wonderland」。歌詞に固有名詞が一切出て来ないのに、コンシャスに聴こえてしまう。当初はこの曲を一位にしようかとも思いました。

  2. Yoshinori Hayashi / Pneuma

「やっぱりダンス・ミュージックは逃避の音楽なのではなかろうか……?(真顔)」となったトラック。狂気じみた世界観と音像でありながら、しっかり踊れる。9分間、別の空間に飛ばされる快楽が味わえます。日常の瑣末から逃れ、その曲を聴いている間は何も考えなくていい。素晴らしいダンス・ミュージックは、いつだって僕たちを非日常に導いてくれます。本当に辛い時、欲しいのは励ましの言葉ではない場合もありますよね。僕にとって、この曲は至上の救済でした。

  1. Dj Koze / Bonfire

上に同じです。辛くなったら逃げろ! 音楽を聴け! 踊れ! 明日のことは、明日の自分が頑張ってくれるさ。

  Comment

この文章を書きながら、今の時代に音楽がある意味について真剣に考えてしまいました。何なら、本業の記事よりも真面目に書いたような気もします。総括のコメントとして正しくないかもしれないけれど、本当に今年は迷ってばかりでした。しばらく音楽から距離を置こうかとも考えたのですが、やっぱり僕は音楽が好きなのです。それはもう、どうしようもない。音楽によって苦しめられ、音楽によって救われる。個人的にもほどがある話ですけれども、僕にとっては2018年はそんな年でした。ただ、各メディアが発表する年間ベストを眺めると、例年にないぐらい自分と一致するので、そもそも今年はそういう世の中だったのかなとも思います。この調子だと来年もクラブに逃げ込むことが多そうです。

  番外編マイ・ベスト

「ベスト映画」

ダントツで『スリー・ビルボード』(原題:Three Billboards Outside Ebbing, Missouri)。近年は赦しや怒りをテーマにした映画が多いですが、その中でも本作は圧倒的に人々の記憶に爪痕を残したのでは。いや、オスカーも2部門受賞したので、記録としてもしっかり刻まれたことになります。本当にさ、こういう時代ですよね……。今って。そんな時、例え罪人であっても(もちろん限度はあります)、その人が困っていればオレンジ・ジュースをそっと出せる人間になりたいもんです。未見の方は何を言ってるかさっぱりだと思いますが、とりあえずまぁ本作で確認して頂きたい。最近の映画批評界がズルいのは、最初メチャクチャ評価が高かったのに、後になって何やら言い出す人が増えるところですよね。批評までオルタナティブで、どうやって指標を作る気なんでしょうか。その筋の方々にはそろそろ大人になっていただきたい。


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