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Best Tracks Of 2017 / Ryota Inoue


キュレーター、Ryota Inoueによる2017年の年間ベスト・トラック!

2017.12.27

20年ほど日本語ラップを追っているので、今年もリリースされた音源の殆どを聴きました。その傍ら、自身の音楽活動も再スタートさせることが出来たので、来年は色々と仕掛けていきたいと思います。


5. 鈴木真海子 / Blue

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レイドバックした珠玉のビートについ身を委ねたくなる快作。鈴木真海子の総合力の高さを再確認出来るヴァースも聴きどころ満載だ。独特の溜めで緩急をつけながら歌うようなフロウで一気に引き込む。MCとしての基礎体力が群を抜いている。大切な人と過ごす時間にジャスト・フィットしそうな優しいフックのメロディーも心地良い。程良く肩の力が抜けたMVも要チェックだ。


4. Mad Clown, JUSTHIS / WASH! WASH!

starRoプロデュースのウェットなビートが耳当たり抜群な、洗濯中に聴きたい1曲。実際に洗濯中に聴いてみたところ、いつもより柔軟剤の香りが長続きしたような気もする。低めの温度感からド渋な発声でタイトにこなしながらも、随所で遊びを効かせるJUSTHISのフロウがクセになるが、ハイトーン・ボイスで存在感を示すMad Clownの細かい譜割りのラップも同じくクセになる。トラックとの相性も含めて、奇跡のようなバランスの妙が愉しめる楽曲だ。


3. Awich / WHORU feat. ANARCHY

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長年の沈黙を破り、遂に今年、シーンの主役に躍り出たAwich。日本語ラップ史上、最も強くてクールなフィメール・ラッパーが放ったニュー・アルバム『8』には、愛娘であるYomi Jahが参加した、生々しくも慈愛に満ちた「Jah Love」や、スピリチュアルな楽曲が数多く収録。その中でも、客演にANARCHYを迎え、ヴァースの殆どが日本語で構成されたこの楽曲は特に異彩を放っていた。スティールパンの音色を攻撃的に鳴らすことでバッキバキのトラップ・サウンドを構築したChaki Zuluも凄いが、「欲しいの全部買う 売られてない喧嘩も買う」というパンチラインでRUMIの「あたし美味しいものしか食べたくなーい」からワガママ系パンチライン(褒めてます)のチャンピオン・ベルトを奪取したAwichは本当に強い。全体的に口語っぽい言い回しも実にリアルで、“媚びないエロス”とやらを感じさせる。ハートと身体全体で自己表現することが出来る稀有な存在だ。


2. Tsuyoshi Kawaguchi / 朝が来るまで feat.kiki vivi lily

2017年もkiki vivi lilyのフィーチャリング・ワークはどれも間違いなかったが、中でもこの楽曲のフックはとりわけ素晴らしい。リリックを読むまで「味のないチューインガムみたいに」と言っているようにはとても聴こえないが、それがまた聴き手の集中力を高める。答えが分からないまま繰り返しのリスニングに専心することで得るアハ体験的なカタルシス。スルメ・ソングとは一線を画す、味の消えないチューインガム・ソングだ。肝心のTsuyoshi Kawaguchiのラップも、メロウなトラックに灰汁を出さないシンプルなフロウと、クリアな声色が好印象。一切のクセ無し。HBの名曲「RIN:NE feat. asm.」を想起させる爽やかな仕上がりだ。


1. JP THE WAVY / Cho Wavy De Gomenne Remix feat.SALU

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今年、これを外したら噓になる。


Comment

今年何よりも嬉しかったのは、PUNPEEの1stアルバムが遂にリリースされたこと。そして、ラッパ我リヤが復活したことでした。JP THE WAVY「Cho Wavy De Gomenne」がバイラル・ヒットになったり、MIYACHIのように過去に類を見ないタイプのフレッシュな新人が台頭したことも、シーンのさらなる活性化に繋がったでのはないでしょうか。来年もリスナーとして、そして、プレイヤーとして様々な良い音楽に出会えることを愉しみにしています。


番外編 マイ・ベスト

【ベスト・ビートアルバム】

illmore 『mood』

KOJOEの最新作『here』へのトラック提供も記憶に新しい〈Chilly Source〉の最重要人物、illmoreの限定盤。常人なら副流煙で咳き込んでしまいそうな煙たいウワモノと、絶妙な声ネタの配合で独自のグルーヴを生み出した、全26曲収録の超大作。各種特典音源のリリース方法など、マーケティング戦略も含めて市場を巧くコントロールしている印象の〈Chilly Source〉。この作品が後にPUNPEE『Movie On The Sunday』のような位置付けの作品になることは間違いない。

■Ryota Inoue 過去記事:https://spincoaster.com/author/ryota-inoue


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