Metronomyが11月に東京・恵比寿LIQUIDROOMにて久方ぶりに来日公演を開催した。
Joseph Mount率いるMetronomyは、KlaxonsやLate of the Pierらを代表とする、ニュー・レイヴと呼ばれた潮流や、〈Kitsuné〉などのフレンチ・エレクトロ・シーンともリンクしながらも、同時に絶妙な距離感を保ちつつ、以来独自のスタイルで突き進んできたある種孤高のバンドと言える存在だ。彼らが世界にその名を轟かせたのは2ndアルバム『Nights Out』(2008年)だが、その当時デビューを果たした多くのバンド、アーティストのほとんどが雲散霧消している現状を考えると、彼らのこの10年ほどの足取りから気付かされることは多いように思う。
今回はそんなMetronomyの来日公演前に、ショート・インタビューを敢行。マイペースながらも激動の時代をサバイヴするMetronomyのパーソナルな一面に迫ることに。また、9月にリリースされた最新アルバム『Metronomy Forever』のセルフ解説も同時掲載。こちらも合わせて楽しんでもらえれば幸いだ。
Interview & Text by Takazumi Hosaka
Photo by Shinya Aizawa
――今回、Metronomyとしては5年ぶりの来日になります。昨日日本に到着したみたいですが、早速Instagramではおすすめのスポットをファンに尋ねていましたよね。
Michael Lovett(Key. / Gt.):『#teamLabBorderless』に行ってきたよ。Instagramでおすすめしてもらったから行ってみたんだけど、すごく良かった。
Joseph Mount(Vo. / Key. / Gt.):僕はラーメンを食べた。
Oscar Cash(Sax. / Cho. / Gt. / Key.):魚市場に行ったよ。
Olugbenga Adelekan(Ba. / Vo.):シンセサイザー・ショップの「5G」に行った。何も買わなかったけどね。
――今年はアルバムのリリース前から相当数のライブをこなしてるみたいですね。新作の曲も、ライブを経て仕上がってきているのではないでしょうか?
Joseph:そうだね。最初の頃は色々なセットリストを試していたんだけど、そのうちにセットリストも固まってきた。今では大分リラックスして演奏できるようになったよ。……ちょっとリラックスし過ぎかもしれないけどね(笑)。
――ライブを重ねていく中で変化した曲などは?
Joseph:全てだね。古い曲もセットリストに混ぜているから、その流れによっては全ての曲がそれぞれの変化を遂げるんだ。例えば「Sex Emoji」なんかはゆったりとして余白のある曲だから、演奏する度に大きく変わる曲だと思う。演奏している時の僕らの精神状況や考えなんかが毎回反映されるからね。
――今年一番印象的だったショウは?
Olugbenga:今年10月にパリのオランピア劇場(L’Olympia)で2日間連続でショウを行ったんだけど、古い劇場で、とても美しいヴェニューだったからすごく印象に残ってる。
Joseph:僕はベルリンでのショウかな。これまでにドイツで行ってきた中で一番規模のでかいところでパフォーマンスをすることができた。僕らにとってもすごくスペシャルなショウになったと思う。
――1stアルバム『Pip Paine (Pay the £5000 You Owe)』(2006年)のリリースからこの14年ほどの期間で、世界的に見て音楽を取り巻く環境も大きく変わったと思います。この期間を改めて振り返ってどう感じますか?
Joseph:とてもあっという間だったように感じる。Metronomyを始める前はキャリアも何もなかったし、子供もいなかった。個人的にはこれまでの人生の中で最も重要な期間だったと思う。
――Josephは別のインタビューで、前作『Summer 08』からのこの3年ほどの間で、「農家(Farmer)になった」と話していましたが、詳しく聞かせてもらえますか?
Michael:(Josephは)トラクターを買ったんだよ(笑)。
Joseph:そうそう。決してプロフェッショナルな農家になったわけではないんだけど(笑)、自宅で野菜を育てたり、色々と作業しているんだ。
――最近のMetronomyのムードについて教えて下さい。それぞれハマっている音楽は?
Michael:日本に行くっていうことで、最近はずっとCorneliusを聴いてるよ。
Olugbenga:僕はArcade Fireの2ndアルバム『Neon Bible』かな。
Anna Prior(Dr. / Vo.):私はDino D’Santiagoをよく聴いてる。彼は6月にリリースされたMadonnaの最新アルバム『Madame X』にも参加しているアフリカ系ポルトガル人のミュージシャンなんだけど、私も今ポルトガルに住んでいて、ポルトガル語を勉強中だから、彼の音楽を聴いて勉強してる。
Oscar:11月に『Empty』っていうアルバムをリリースしたばかりのM. T. Hadleyを聴いている。Joe(Joseph)の友達で、僕らのニュー・アルバム『Metronomy Forever』でもベースを弾いてくれてるんだ。
Joseph:僕はカナダのMen I Trustを最近良く聴いている。いいSpotifyミュージックだよね(笑)。
Olugbenga:Men I Trustのシンガーがやっているソロ・プロジェクト(Bernache)もいいよね。
Joseph:ツアー中はずっと一緒にいるから、移動中とかに音楽をかけて、メンバー間で結構共有しているんだ。
――では音楽以外で、最近ハマっていることは?
Joseph:イギリスでは……いや、たぶん世界的にもそうだと思うんだけど、夏ってバケーションの季節だからあまりおもしろいTV番組がなくて。秋頃からいい番組が始まったりするよね。自分は今『MasterChef』っていう料理人がバトルする番組にハマってる(笑)。
Michael:絵を描いたり、SFの本を読んだり。
Olugbenga:子供と過ごすことかな。ギグをするのとは全く異なる時間なんだ。
Anna:ポルトガルのクラブ・カルチャーに興味があって、遊びに行ってダンスしたり観察しています。もちろん、リラックスしたりすることも好き。
Oscar:僕は最近、奥さんと一緒にドミノを始めた。
Olugbenga:それはナイスだね(笑)。
――では最後に、ニュー・アルバム『Metronomy Forever』のタイトルにかけて、あなたたちがそれぞれ「永遠に」なってほしい、「永遠に」残ってほしい物事を教えて下さい。
Olugbenga:……世界平和(笑)。
Joseph:永遠に生き続けることかな。……いや、やっぱり嫌だな(笑)。時々すごく美味しいラーメンを食べてる時とか、「これが永遠になればいいな」って思うことはあるけど(笑)。でも、考えると難しいよね。永遠に続くなんてことはあり得ないし。
――確かに。ちなみにJoeのおすすめのラーメン屋さんは?
Joseph:実は日本では「一蘭」にしか行ったことがなくて。オススメがあれば逆に教えてもらいたいんだ。
『Metronomy Forever』 TRACK BY TRACK
「Whitsand Bay」
この曲は従来のアルバム(つまり、10曲らいを標準的とする形式)に対する古いアイディアと、「今の時代におけるアルバムとは何か」という問いの間に位置する重要なトラック。リン・ドラムを使ってライトなドラムンベースのリズム・ループを作ったんだけど、意図的に自由かつイージーな作風にしてる。今回のアルバムの出発点にもなったし、アルバムの中でも特に気に入っている楽曲のひとつ。また、「Bay」という違う曲を新たに作るというアイディアも気に入ったんだ。オリジナルの「Bay」から人々の目(耳)を逸らすためにね。(おそらく2011年発表の3rdアルバム『The English Riviera』収録の人気曲「The Bay」のことを指摘している)
「Insecurity」
パリでRobynとセッションしている時に書いた曲。僕は新たなアルバムへのアイディアをスタートさせようとしていたんだ。リン・ドラムとクラシックで汚い、グランジなギターを使っている。基本的に危なっかしい(不安定な)男でいることに対して不安を感じる曲。
「Lying Low」
「Lying Low」はここ数年、僕のラップトップ上でいくつかのバージョンとして異なる形で存在していた曲。一度、これに歌詞を加えて曲としてまとめようとトライしたんだけど、それが嫌になってしまった。だから、トランスっぽい、ムーディーなRobert Milesスタイルのインストルメンタルになった。
「Salted Caramel Ice Cream」
「結婚式で演奏できる12小節のブルース・アレンジのトラック」という設定を設けて、それに沿って論理的に組み立てていった。結果的に、僕が今まで手がけてきた中で最高の曲のひとつになった。
「Forever Is A Long Time」
この曲はアルバム内のドラムのない楽曲で一番最初に作ったという点でも重要な作品。そして歌というよりも感情や雰囲気について特化した楽曲になっている。こういうアンチポップ感や少し奇妙な感覚というのは、アルバムを作る上で念頭に置いていたことなんだ。もちろん、この曲がアルバム・タイトルの由来にもなっている。
「Lately」
みんな以前ほどエレキ・ギターを聴かなくなったよね。僕はBilly Bragg(英SSW)や彼のエレキ・ギター・ソングについて考えてみたけど、これまでは若者にとってはとてもつまらないものだと思っていた。おそらく、それは僕はドラマーで、ドラムを聴きたかったことが理由なんだと思う。でも、「Levi Stubbs’ Tears」のような曲を聴いていれば、すごく影響を受けていたと思う。エレキ・ギターをベースとした、魅力的な曲を書きたかったんだ。
「The Light」
「The Light」はキャンパー・ディスコ・トラックとして認識できるものから始まったんだけど、数ヶ月の間にそれはよりムーディーに、アトモスフェリックになっていった。ターニング・ポイントになったのはM. T. Hadleyがレコーディングに参加して、ベースを弾いてくれた時。そこからさらにシリアスなディスコ・ソングになっていったんだ。基本的には、00年代にロンドンのクールなショップでかかっていたような曲を作りたかった。
「Walking In The Dark」
「The Look」のMVにも映ってるキーボードのプリセットで作ったリズムを使ってる。それは何年も前に録音していたものなんだけど、いざ倉庫から新しいスタジオにキーボードを移した時に、「Walking In The Dark」を完成させた。もっと肉付けしようかなとも思ったんだけど、この奇妙なダンスホール風のトラックが気に入ってしまったんだ。
「Miracle Rooftop」
詳しい説明などはないハウスのような音楽で、永遠に続くかのような曲。「屋上」(Rooftop)のプレイリストがあったら加えたいね。トラックの中心にはバレアリックな要素があるんだけど、不吉な雰囲気もある。少しだけ屋上のバーに似ているよね。
「Upset My Girlfriend」
これはグランジにインスパイアされた曲。でも、グランジにはもっと悲壮なアイディアがあるよね。キャンプファイヤーの歌みたいに聴こえるところも気に入ってる。ヴァースのルールさえ設定すれば、誰でも作ることができると思う。僕のヴァースはロックンロール・バンドのドラマーであったことについて歌ってる。
「Sex Emoji」
魅力を感じる特定のワードがある中で、最もダメな例として挙げられるのがおそらく「Sex」という単語。私見では「Emoji」はバカバカしい言葉だけど、みんなの注意を引いている。人々は常に新しい絵文字について話しているしね。だから「Sex Emoji」は少しクールで注目を集める、ナンセンスな言葉だと思った。「Night Owl」のMVの監督を務めてくれたMr. Oizoはこの曲でいくつかのビートを手がけてくれて、アルバムで最もバギーな曲になった。
「Lately (Going Spare)」
僕がアルバム『Metronomy Forever』を作っている時、アメリカにいるOscarが同時にいくつかの収録曲のジャズ・ミックステープVer.を作ってくれた。これは子供を持つことに対しての歌。子供そのものに焦点を当てるんじゃなくて、その両親の状況について歌ってる。子供を題材にした良い曲はほとんどないからね。
「Wedding Bells」
結婚式に出席しているけど、自分自身の小さなロマンスを持ち、結婚式から逃げ出す。とても映画的な曲になったと思う。少しだけJohn Hughesの雰囲気もあるよね。
「ur mixtape」
人々のためにミックステープを作り、転々としながらも自分の人生を送るについての物語。完全に架空の歌だけど、今までに作ったことないタイプのように感じてる。ややストーリーテラー/スポークン・ワード的なスタイルとも言えるんじゃないかな。僕がこれまでやってきなかで最もコンテンポラリーな作品だと思う。
【リリース情報】
Metronomy 『Metronomy Forever』
Release Date:2019.09.13 (Fri.)
Label:Because Music / Caroline International
Tracklist:
1. Wedding
2. Whitsand Bay
3. Insecurity
4. Salted Caramel Ice Cream
5. Driving
6. Lately
7. Lying Low
8. Forever Is a Long Time
9. The Light
10. Sex Emoji
11. Walking In the Dark
12. Insecure
13. Miracle Rooftop
14. Upset My Girlfriend
15. Wedding Bells
16. Lately (Going Spare)
17. Ur Mixtape