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INTERVIEW | RACH? × idom


インドネシア発の新興ジャンルを取り入れた、国境を越えたコラボシングル制作背景

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2026.08.04

日本のアーティスト/マルチクリエイターであるidomと、インドネシアの新星シンガー・RACH?によるコラボ曲“Call It Love”が7月19日(日)にリリースされた。

本作は〈Sony Music Japan〉と〈Sony Music Indonesia〉によるクロスボーダープロジェクトから生まれた作品であり、8月7日(金)には第2弾となる楽曲“Tell Me What”のリリースも控えている。なお、RACH?はInstagramで140万人以上のフォロワーを持つインフルエンサー/モデルのRachel Florenciaによる音楽プロジェクトで、この2曲にはインドネシア発の新ジャンル「Hipdut」が取り入れられている。

インタビュー中、idomが発言していたように、アフロビーツやアマピアノ、ラテン音楽のように、その土地に根付いていたローカルの音楽がグローバルなトレンドとなることも珍しくない昨今。もしかしたら次に世界中が目をつけるのは、この「Hipdut」なのかもしれない。

今回は共通するテーマを軸に、日本語・インドネシア語・英語で紡いだ2曲の制作背景から、インドネシアと日本の違い、あるいは共通する部分について、国境もバックグラウンドも異なる2人にじっくりと語ってもらった。

Interview & Text by Takazumi Hosaka
Photo by Asuka Konishi
Interpreted by Fazatia Nindya Sasmi


「ローカルのカルチャーが混ざったサウンドで、若者が盛り上がっている」

――本プロジェクトへの参加が決まったとき、おふたりはどのように感じましたか?

idom:正直に言うと、お話をいただいたときはインドネシアの音楽シーンについて全然知らなかったんです。もらった資料もかなり限定的だったので、まずはSpotifyでいろいろ聴いてみようと思いました。それで調べていくうちに、1000万とかそれ以上の月間リスナー数を持つアーティストが、インドネシアにはゴロゴロいることがわかって。しかもR&Bやヒップホップアーティストの盛り上がりがすごくて、自分の好きな音楽性と近かった。USのR&Bの盛り上がり方とはまた違う熱量というか、ローカルのカルチャーが混ざったサウンドで、若者が盛り上がっているのが伝わってきて、これはおもしろいチャレンジになるなと思いました。

RACH?:最初はちょっとびっくりしました。私はもともと日本の音楽が好きで、13歳の頃から日本のアニメソングなどを歌っていたグループに在籍していたこともあるんです。山下達郎さんをはじめとしたシティポップからも大きな影響を受けています。

このプロジェクトのお話をいただいたときに、まずidomさんの曲を事前に聴き込みました。彼のサウンドスタイルはストレートなヒップホップ、R&Bというより、もっとグローバルなリスナーに届くように、いろいろな要素を混ぜたスタイルだと感じて、そこがすごく魅力的だなと思いました。特に声の温かさが好きで、亡くなった友人について歌った“Memories”にはすごく心を動かされました。周りの大切な人のために曲を作る人なんだなと。TikTokで見つけて、コメント欄で歌詞の内容を知りました。

idom:そう言ってもらえて、すごく嬉しいですね。

RACH?:あと、ビジュアルの雰囲気もどこかシンパシーを感じる部分があって、それも親近感を持った理由のひとつです。


「東京にいるときの感覚とは全く逆」──ジャカルタから受けた影響

――実際の制作は、どのように進んでいったのでしょうか。

idom:コラボが決まってから、まずはオンラインで打ち合わせをして、お互いの好きなジャンルや印象を話し合いました。そこにSony Music IndonesiaとJapan双方のスタッフ、そしてプロデューサーのF4dli(ファドリ)とGamaliel(Abram Pradipta)も加わって、みんなでディスカッションしながらプロデューサー陣が叩き台を作ってくれて。ただ、あまり時間の余裕があったわけではなかったので、細かい部分は現地で話し合いながら詰めていこうという流れになり、僕はその叩き台を飛行機の中で聴きながらジャカルタへ向かいました。

プロデューサー・F4dliの代表作“Aku Dah Lupa”(2025年)。Mikky、Ziaとの共作でリリースされ、大きなヒットを記録した。

idom:結果的に2曲作ったのですが、Gamalielと作った曲はわりと元の方向性のままで、F4dliと作った“Call It Love”は現地でかなり変化しました。もともとはもう少しポップでEDM寄りのトラックだったのを、印象をがっつり変えたいと思って、僕がギターでコード進行をいくつか提案したり、ギターが得意なGamalielとも意見を出し合いながら、F4dliやRachelに聴いてもらいつつ形にしていきました。

――ジャカルタでのレコーディング環境は、日本とはかなり違いましたか?

idom:全然違いましたね。僕は普段、基本的にひとりで作る「ベッドルームアーティスト」なんです。作曲、ビートメイク、レコーディングも自宅、最後のミキシングだけエンジニアと一緒に作業するくらいで。それ以外はほとんど人と一緒に作らない。でも今回はスタジオに10人くらい集まって、みんなでわちゃわちゃ言い合いながら1曲を作っていくスタイルで、それがすごく楽しかった。

日本だとソロで活動しているアーティストは予算感の都合もあって、どうしてもミニマムな体制になりがちなんですが、今回はプロジェクトとしてみんなで盛り上げていく感じで動けたのがすごくよかったですね。

――idomさんにとっては初のインドネシア、初のジャカルタになったそうですね。

idom:はい。ジャカルタの街自体も印象的で、最初めちゃめちゃ暑いなって思ったんですけど、「今は雨季で一番涼しい時期です」って言われて(笑)。空港はすごく綺麗だし、大きなショッピングモールもある一方で、街なかにはまだ発展途中な部分も混在していて、若者の新しいセンスと土地に根づいた伝統的なカルチャーが入り混じっている感じがすごくおしゃれでおもしろいなと。

あと、話す人みんなヴァイブスが明るいし、東京にいるときのような「明日のことを悩みながら生きる」感覚とは全く逆な印象を受けました。その空気感は、意識していなくても自然と曲にも滲み出た気がしていて、Rachelと作った2曲はどちらも、自分が思っていた以上に温かい曲になったなと感じています。

RACH?:私にとっても発見が多かったです。日本に来るのは今回で8回目なのですが、いつも感じるのは、日本の方たちの仕事の速さと丁寧さ。きっちりしていて効率的だなと勉強になります。それにidomさんは自分の意見をはっきり伝えるタイプで、プロデューサーと話しているときも、すごく細かく音楽的な話――ビートのハイハットのリズムやコード感など――をしていて、隣で聞いていてすごいなと思っていました。私よりも細かいセクションで曲を捉えることができる人なんだって。私もそういったアーティストになりたいですね。


「Hipdutは若者が盛り上げているジャンル」

――今回リリースされる2曲は、雰囲気は異なれど、リリックでは遠く離れた相手を想う気持ちが共通して描かれています。こういったトピック、テーマはどのように生まれたのでしょうか。

idom:ビートがある程度固まってきた段階で、メロディと歌詞をどうしようかという話になったときに、Rachelが「私たちも実際に別々の国に住んでいるし、遠距離のカップルってたくさんいるよね」と提案してくれて。そこに今の時代らしく、オンラインゲームやチャットで繋がる感覚も加えて、「離れているからこそ言えること」をテーマに曲を作ろうという流れになりました。

“Call It Love”はわりと純粋な恋愛感情を描いていて、もう一方の“Tell Me What”では上手くいかなくなっていく関係性を描いている。相反するテーマなんですが、2曲通して聴いたときにその共通点が見え隠れする方がおもしろいんじゃないかと。これは僕というよりRachelが出してくれたアイディアで、僕も「おもしろいね」と乗った形です。

RACH?:日本とインドネシアで離れて暮らす2人だからこそ描けるテーマにしたいと思いました。今の時代らしく、アプリで出会ったりオンラインで始まる恋の形も意識しています。

――リリックには日本語・インドネシア語・英語が混在しています。idomさんがインドネシア語を、Rachelさんが日本語を歌う部分もありますよね。作詞はどのように進めていったのでしょうか。

idom:日本語のパートは僕が考えて、逆にインドネシア語の部分はRachelが僕に提案してもらう、というやり取りをしました。恋愛でもお互いの言葉を覚えようとする気持ちってあると思うので、それが歌の中で混ざり合うとおもしろいんじゃないかなと思って。

RACH?:idomさんは英語も話せるので、まず英語で会話して、そこから日本語やインドネシア語を混ぜていきました。Hipdutは若者が盛り上げているジャンルなので、若者言葉を入れるのもいいなと思ったんです。

idom:ジャカルタ滞在中、コーディネーターや通訳の方から若者言葉をずっと教えてもらっていて、メモ帳に20〜30個くらい書き留めていたんです。その中のひとつが(“Call It Love”で使用されている)「Mantap(マンタップ)」という言葉で、《会えない時間すら君となら》に続けてこの言葉を当てはめてみたら意味的にもしっくりきて、そのままリリックに採用しました。他にも「Nyampe(ニャンペ)」という、最高到達点というようなニュアンスの若者言葉なども教えてもらって、印象に残っています。

RACH?:私は日本語で「あざす」や、「オッケーです」というフレーズが気に入って、実際にInstagramの投稿でもキャプションに使いました(笑)。

――Hipdutというジャンルについて、改めて教えてください。

RACH?:もともとDangdut(ダンドゥット)というインドネシアの伝統音楽があって、これは日本でいう演歌のような、都会の若者からするとやや距離のあるジャンルだったんです。でもここ数年でZ世代がそこにヒップホップやR&Bをミックスして、それが「Hipdut」や「R&B-dut」と呼ばれ、TikTokで拡散されていきました。今では同じZ世代の親世代も聴くようになり、ベテランのミュージシャンからも「新しいジャンルが生まれた」とリスペクトされる存在になっています。

ラジオやテレビでも普通に流れていて、著名なシンガーがHipdutをカバーする例も出てきました。伝統的な打楽器のケンダンや、西ジャワ発祥の竹楽器・アンクルンなども取り入れつつ、今の時代らしくデジタルでも表現しています。

「Dangdutの王様 (Raja Dangdut)」と呼ばれる伝説的アーティスト・Rhoma Iramaの代表曲“Begadang”(1973年)

2025年1月にリリースされ、Hipdutというジャンルを一般層やZ世代へと広く浸透させたヒット曲。現時点でYouTubeでは2億回近く再生されている。

idom:最初にオンラインで打ち合わせをしたとき、F4dliから「こういうサウンド(Hipdut)はどう?」と提案があったんです。実は僕もRachelも、それまでこのスタイルの曲を作ったことは一度もなくて。でも、2人でやるならおもしろいんじゃないかという話になって挑戦することにしました。

普段、USのR&Bやヒップホップをよく聴いている僕からしても、自然に耳に馴染む音というか、違和感は全然なかったですね。日本の伝統楽器を今っぽいヒップホップのトラックに混ぜようとすると、どうしてもアニソンっぽくなったり、もしくは和テイストが強く出過ぎてしまう気がするんですけど、Hipdutは伝統的な要素とすごく自然に噛み合っている。だからこそ若い世代にちゃんとヒットしているんだろうなと思いました。アフロビーツやアマピアノ、もしくはラテン系のサウンドがそうだったように、今後世界的なトレンドになる可能性は十分にあると思いました。


「もっとワールドワイドに届けたいという気持ちがある」

――明日、Billboard Live TOKYOにて開催される*idomさんの単独公演で、おふたりはコラボ曲を初披露するそうですね。

*取材は7月17日(金)に実施

idom:僕のショーにRachelをゲストとして迎える形なので、基本的には自分のバンドサウンドでアレンジさせてもらいます。Billboard Liveという場所柄、いつもよりムーディーな仕上がりにできたらと思っていて、原曲よりもリッチなボーカルを乗せたいですね。

RACH?:日本でのステージは今回が初めてなので、楽しみと同時に緊張もあります。日本には観光やお仕事でよく来ていますが、日本のオーディエンスはインドネシアなどと反応が違うとよく聞くので、そこも楽しみにしつつ挑みたいです。

――もし、またコラボレーションする機会があれば、次はどんな曲を作ってみたいですか。

RACH?:エレクトロニックポップやもっとR&B寄りの曲もいいかも。

idom:たしかにエレクトロニックポップもおもしろそうですし、彼女はシティポップも好きだと言っていたので、そのあたりもよさそうだなと。お互いこれからもっといろんなジャンルの曲を作っていくと思うので、成長した先でまたコラボしたとき、どう変わっているかが楽しみです。何年か経ってから、今回と同じようなテーマになるかもしれないし、全く違う方向になるかもしれない。そこがコラボレーションのおもしろさだなと思っています。

――最後に、それぞれの今後の活動について教えてください。

idom:僕としては、去年末に初のフルアルバム(『idom』)をリリースして、Zepp Shinjuku (TOKYO)でワンマンライブをやらせてもらって、そこで一区切りついた感覚があったんです。それでちょっと今年はスローダウンしていたんですけど、Billboard Liveのお話をいただいて。せっかくならと、そこに向けて温めていたものをアルバムのデラックス版(idom Deluxe Edition)という形で先日リリースしました。

idom:今年は他にも、IBUKIくんとの楽曲(“SLIDE LIKE THIS feat. idom”)や、AIRIEくんとの曲(“HEADLIGHT [Remix] feat. Tade Dust & idom”)など、割といろいろなコラボに携わらせてもらっていて。もともと個人で部屋にこもって作る人間だったので、こういうコラボレーションは多くなかったのですが、せっかくオファーをいただいたのであればやってみようと思ったんです。そして、そこから広がりが生まれていく1年にできたらなと。

あとは作家、プロデューサーとしての動きも少しずつ始めていて、楽曲提供などの仕事も含めて自分の幅を広げていきたいですね。ヒットに囚われ過ぎず、自分のペースを守りながら活動していきたいなと、今はそんなことを考えています。

RACH?:正直に言うと、このRACH?というプロジェクトは1年で走り切るつもりで始めたんですが、気づけばもう半年が過ぎてしまっていて(笑)。この先どう進めていくか、まだ全部が見えているわけではないんです。でも、ひとりのシンガーとして、必要なことはちゃんとやっていきたいと思っています。

今考えているのは、これから出すEPをパズルのような形にすること。1曲ずつ違うインドネシアのプロデューサーと組んで制作していく予定で、シングルとして徐々にリリースしながら、それぞれが少しずつ繋がったストーリーになっていくようなイメージです。そうすることでインドネシア国内でもいろいろなプロデューサーとの繋がりができていけたらと思っています。

曲は英語でも作っていて、それはやっぱりもっとワールドワイドに届けたいという気持ちがあるからです。idomさんとのコラボもそうですが、日本の方に新しく聴いてもらえるきっかけになったらいいなと思っています。


【リリース情報】


RACH?, idom『Call It Love』
Release Date:2026.07.19 (Sun.)
Label:Floorinc / Sony Music Entertainment Indonesia
Tracklist:
1. Call It Love [prod. F4dli]

配信リンク

idom オフィシャルサイト

■RACH?:Instagram / X


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