自分にとってのクラシックとなった己のレガシー(過去の遺産)と向き合い、感謝し、前を向いて進む。シンガーソングライター/プロデューサーであり、教育者でもあるRUNG HYANG(ルンヒャン)の2026年前半は、これまで築き上げてきたレガシーやクラシック──彼女の音楽キャリアを豊かにしてきた人たちとの再会が次々と実現している。
2月のBAROOM公演では、かつての盟友「ドラソ」こと「DRAMATIC SOUL」の面々(竹本健一、MARU、Hiro-a-key)と久々に楽曲を披露し、5月にはclaquepot、向井太一とのユニット「PARK」として3年ぶりにパフォーマンスを行った。そして6月には、BLUE NOTE PLACEにて『Legassic』と題したライブの開催を控えている。「Asia monsoon」と題したファーストステージでは、2009年に発表した同名アルバムの共作者であり、朝鮮の民族弦楽器ソヘグム(小奚琴)の演奏家・河明樹(ハ・ミョンス)をゲストに迎え、セカンドステージ「This is Tokyo!」では、2010年代後半に共に活動した菅原信介、ZINとのユニット「TOKYO CRITTERS」が久々に復活する。
6月19日(金)の同公演を前に、最新EP『Legassic』をリリースしたRUNG HYANG。今回のインタビューでは「レガシック」という言葉に込めた想いと共に、一時期は曲を聴くのも苦しかったと振り返るTOKYO CRITTERSでの経験をはじめとした自身のレガシー、そして音楽家として新たな挑戦となった高島屋のアートプロジェクトや、親交のある森山直太朗から受けたインスピレーションについて語ってもらった。
Interview & Text by Hiroyuki Suezaki
Photo by Joshua Helius
Hair & Make-up by Megumi Kuji
Styling by Shinnosuke Kosaka
衣装協力:KANAKO SAKAI
「音楽は劇薬にもなるし治癒薬にもなる」──改めて感じる責任の重さ
――昨年のインタビューは7年ぶりのアルバムとなった『MOMENT』を中心に話を伺いましたが、改めて同作のリリースを振り返っていかがでしたか?
RUNG HYANG:『MOMENT』を出して「広がった」感覚というのがありましたね。自分らしくある音楽をつくれているからこそ、浸透しやすくなっているのかなと思います。「みんなに求められていること」「私ができること」と、「私がやりたい音楽」がすごくマッチしているなというのを強く感じました。そこに辿り着くまでの旅をこれまでずっと続けていたような気がしたんで、もちろんまだ最終地点ではないんですけど、ひとつ到達したなっていう手ごたえがありましたね。
――毎年、EPなどの音源リリースに加えて、ライブもやっていますし、かたや大阪音楽大学の特任教授として大阪に通う日々でもあり、近年はすごく精力的というか、エネルギーに溢れているイメージがあります。
RUNG HYANG:確かに、身近な友人とか、私のやっているポッドキャスト『音沙汰』のリスナーのお便りからは、私がパワフルで、行動力があって、次から次に頑張っている、エネルギーがあるみたいに言われるんですけど。でもむしろ、たぶんここ2年が一番リラックスしているんですよね。楽曲制作も、追われてつくるという感じはなくて。大事にひとつずつ出そうって思ったら、このペースになっただけで。むしろ抑えてるぐらいなんですよね。
――そのリラックスできている感じって、楽曲でいうとどの曲のあたりからですか?
RUNG HYANG:“Life is vintage”(2025年1月)ぐらいからかも。年齢によって歌のテーマは変わっていくけど、生きている限り、いろんなテーマが永遠に降りかかってくるんだなっていう、当たり前のことを実感したんです。10代・20代は恋愛だったり、「持ってないもの」を掴みにいくみたいなテーマが多かったと思うんですけど、今は日常の生活のなかに細かくいろんな題材がある。そこにスポットライトを一瞬当てるだけで、小さな疑問や楽曲のテーマとなる種があるので、そういうところを自然に追っちゃうクセがついてますね。でもそうすることで、自分の生き方のヒントも増えていく。
――前回のインタビューでは、公演のアフターパーティでお客さんと直接交流するようになったことで、シンガーソングライターとして責任と覚悟が生まれたという話もありました。
RUNG HYANG:やっぱり自分の音楽をキャッチしてくれている人がいるっていう実感を得たのがアフターパーティで。お客さんとああやって直接触れる機会って意外となかったんですよね。自分がやることをまっすぐに受け止めてくれる人がいるんだっていう実感が、すごく自信にもなったし、責任も感じました。ものをつくって人に提供するっていうことの責任の重さは、この前の『PARK』でも本当に感じて。その責任を常に考える日々なんです。自分のつくったもので、人は希望も持てるし、失望もできてしまう。音楽は人の魂の一番近いところに届くものであり、劇薬にもなるし治癒薬にもなる。だからすごく責任が大きいなって感じていますね。
「未来に向かうために、一度レガシーを感じる」
――今度の新作EPは『Legassic』というタイトルです。ライブのMCでは、もともとは2026年のテーマとして「レガシック」という言葉を据えていたということでしたが、改めてレガシックとは何かを教えてください。
RUNG HYANG:レガシー……自分が残したものや人が残した遺産って、「後ろ」を振り返ることになりますよね。私はある時期まで、自分の良かった時代ばかりを振り返るのって「すごくダサいな」と思っていたんです。「今」に満足していないからそうなるんだって、自分は絶対やりたくないと思っていました。
でも去年、いろんなご縁が繋がって。昔の仲間と再会したり、また一緒にライブをする流れが起きたり……今年のBAROOMでのDRAMATIC SOULもそうだし、道端で偶然TOKYO CRITTERSの菅原信介に会うこともありました。久しぶりの人たちにたくさん遭遇して、過去をすごく思い起こさせられたんです。
RUNG HYANG:でも、ひどく傷ついた過去の出来事を振り返っても、不思議と苦しさがなくなっていたんですよね。それはたぶん、今、確かな手ごたえのある日々を過ごせていて、いろんな人がキャッチしてくれている環境にあるから。しっかり今を生きているという感覚があるからこそ、振り返ることができるようになったんだと思います。
そうやって思い返してみると、「あの人のひと言があったから」「今の活動はあの出来事がきっかけだな」と、一つひとつのルーツを思い出して。「井戸の水を飲むときは、井戸を掘った人のことを忘れてはいけない」(受けた恩義を忘れてはいけないという中国の故事成句のひとつ)という言葉があるけど、私にとっての「井戸を掘ってくれた人」の顔がたくさん浮かんだんです。
そういう人たちあっての自分だし、別れや悲劇も含めた経験のおかげで今の私がある。そう思うと、自分をつくり上げてくれたものへの感謝とリスペクトが溢れて……なんだか先祖のお墓参りをするような気持ちになりました。
一度しっかり「お礼参り」をすることで、未来がもっと健やかになる気がしたんです。未来に向かうために、一度レガシーを感じる。それは決して後ろ向きではなく、前を向くための作業。それで、レガシーとクラシックをひとつにした「レガシック」という言葉に行き着いた感じですね。
――過去には『CLASSIC』というタイトルのEPもありましたが、LegacyではなくLegassicというのには、その「前を向いている」という意味合いが大きいんですね。
RUNG HYANG:そうですね。まぁシンプルに、「Legacy」だとオリジナリティがないなって思ったんです(笑)。私は「ROMANTIC」を「ROMANTIA」(2022年発表のEPのタイトル)にしたり、自分がブランドをつくるとしたら絶対に他と名前が被ったりしないようにしたいんで。最初は「Legacy」や「My Legacy」とかいろいろ考えたんですけど、「ROMANTIA」みたいなRUNG HYANGっぽい造語にしてみました。
でもそもそもは作品名ではなくて、概念というか。2026年はこういう哲学でいこう、というスローガンみたいな感じで。去年の真ん中らへんから、来年はレガシックだ、過去もひっくるめて未来だってずっと決めてたんです。
旧友たちとの再会、自身で引き寄せた「潮の流れ」
――いろんな人との再会が重なったという話でしたが、今年は2月にBAROOM公演でドラソ(DRAMATIC SOUL)が集まって、5月には『PARK』があって、6月のBLUE NOTE PLACE公演では河明樹(ハ・ミョンス)やCRITTERSと共演するという。これまでのレガシー──足跡を辿るような活動になっています。
RUNG HYANG:それでいうと、去年末に池尻大橋のGOOD TEMPOで2025年最後のライブをやったんですよ。その会場にあったピアノが、たまたま昔ルンヒャンゼミ(RUNG HYANGによる音楽私塾)で使っていた施設のピアノだってことが判明したのが去年の夏で、年末のライブはそのピアノへのお礼参りみたいな感じだったんです。瑛人とか、過去のルンヒャンゼミの生徒だったり、お久しぶりの人たちも集まってくれて。ルンヒャンゼミ時代に一緒に曲をつくってくれたピアノに対して感謝をして、次の年へ向けた参拝をしたような感覚になったんです。だからそこから始まっている感じがありますね。
RUNG HYANG:ただ、ドラソもCRITTERSも、「潮の流れ」が来たんだという気もしていて。そういう、再会する周期みたいなものがあると思うんです。肌感覚なので説明は難しいんですけど、ドラソにもCRITTERSにもそういう周期が来ている感じがあった。
それで連絡してみたら、ZINも信ちゃん(菅原信介)も、「もちろんやるよ」「もう一回集めてくれてありがとう」って。なんか、そういう潮の流れに体を委ねて楽しもうって感じなんですよね、2026年は。そこにすごくメッセージを含まれている気がするというか。
――いろんな巡り合わせも、RUNG HYANGさんが「引き寄せて」いる感じですね。ちなみにCRITTERSについては、2月のBAROOMでは「正直、今世でまた一緒に歌う日が来ることはないと思ってた」とも話していましたが。
RUNG HYANG:いや、本当に。(TOKYO CRITTERSの最後は)「一緒にみんなで終わらせよう」っていう感じで活動が止まったわけじゃなくて。やっぱりちょっとずついろんなパズルがハマらなくなって、空中分解したような感じだった。以降は3人で集まることはほとんどなかったし、それこそ曲を聴くと苦しくなっちゃう部分もあったんですよ。曲はすごく好きだし、大事な作品だなって思うんですけど。空中分解した時期を思い出しちゃうから、ずっとトラウマで聴けなくて。
でも今はトラウマでもなく、あの3人で一緒に活動をしていたのは「奇跡だったな」って思っています。それぞれやりたいことが明確にある人たちの集まりだったんで、そもそもがユニットでやれるタイプじゃないというか。それがよく集まったな、なんかすごいなって気持ちが強くなってきたんですよね。
――CRITTERSの再集結について「怖い」とも話していましたよね。
RUNG HYANG:CRITTERSが活動しなくなった後の、信ちゃんのライブやZINの作品とか、彼らの音楽がすごすぎて。より一層、自分の刀を磨いているなと。CRITTERSでは、3人でやるからこそ、バランスを取るためにお互いでどこか抑えていたところもあったんです。たぶん、そこがみんなにとってストレスになってたのかも、なんて振り返られるようになりましたけど。今はそのタガがみんな外れてるから、この3人でおとなしく歌えるのかなっていう不安もあって(笑)。でも思えば、もともとはそこが好きな部分だったんですよね。
――3人とも、CRITTERS後のソロでひと皮むけたという印象があります。以前、ZINくんにインタビューしたとき、CRITTERSの後に出したEP『PINEAL GLAND』以降に変わったと言われることが多いと話していて、自分の音楽に改めて集中するモードに入ったからかも、とも話していました。
RUNG HYANG:私も、CRITTERSが終わった後に最初につくった曲が“Trapped”だったんですよ。終わったからこそ、「自分の音楽性をしっかり追求して、集中せねば」みたいな感覚になったんです。その時期のことは今でも忘れられないですね。
――しかし、CRITTERSでの苦しさも含めた経験と、久々の再集結は、まさにレガシックですね。
RUNG HYANG:そうなんですよ。だからレガシックって、ちょっと傷もついている感じがするんですよね。綺麗なツルツルのトロフィーじゃなくて、それなりに傷もついていたり、くすんでるところもある。でも、だからこそ渋みが出ているというか、そういうヴィンテージの貴金属みたいなイメージ。それがそのまま音楽と(BLUE NOTE PLACEでの)イベントにつながるかなと思っています。
「めちゃくちゃ制限されてるのにめちゃくちゃ自由だった」──高島屋プロジェクト内での制作
――EP『Legassic』ですが、「手放す」ことについての歌詞が多い印象があります。“Lull you”では「いつかはLet you go」、表題曲でも「Let it go」というフレーズがあったり、“tiny shine”では「余計なものはもうぜんぶ 明日には手放すつもりで」、“memento”ではまさに「大人になればなるほど 手放すことに慣れていくけど」と歌っていたり。ただ、どれも必ずしもネガティブなものではなくて、人生において必ずついて回るものとして描かれているのかなという印象です。
RUNG HYANG:本当ですね。なんか、執着からの解放かもしれないです。数字とか評価とか、このイベントに出る・出れないとか、そういう音楽家としての執着もそうだし、教育者としても「自分が関わっていたい」とか、そういう執着心が手放せて、やっと楽になったんですよ。それはやっぱり、曲を出したときに「確実に聴いてくれている人がいる」という感覚を得たからだと思うんです。だから曲をつくるのがやめられないのかもしれない。
でも、いつかそういう人たちも環境が変わったり、年を取って好きなものや興味が変わったりすることもあるから、これがいつまでも続くなんてことも思ってなくて。だからこそ「今」がとても貴重に思えるんです。とりあえず、今起きている物事に対して、ただひたむきに、まっすぐピュアにやれるだけやろうっていうことの連続で毎日が続いてて。それでそういう歌詞になってるのかな。
――なるほど。あと意外だったのが、今回はしっとりめの“Lull you”から始まるじゃないですか。ここ最近はずっとアッパーな曲を頭に持ってくることが多かったので。
RUNG HYANG:確かに。ライブもそうですもんね。でも今回は絶対“Lull you”だったんです。まずあの出だしのストリングスが本当に没入感があるから、聴いている人をちょっとずつ作品の世界の中に引き込むようにしたかったんです。
それに、“Lull you”っていう楽曲自体が自分にとってすごく大きいんですよね。ここ何年かでつくった曲の中でも特に好きで。“Lull you”をつくった後にShingo.Sさんからトラックを何個かいただいて曲もつくったんですけど、自分の中でなかなか“Lull you”を超えられなくて、形にできなかったんですよね。それぐらい特別な曲なんです。
あと楽曲自体もそうですけど、制作過程も大きいんです。曲のつくり方が新しくて。視覚に障がいがある方のために、音楽で絵を表現するっていうプロジェクト(高島屋の『Fashion for ALL your SENSES』の一環で、Lee Izumidaのアート作品から楽曲を制作した)でつくった曲なんですけど、めちゃくちゃ制限されてるのにめちゃくちゃ自由だったんですよ。『Legassic』の楽曲の中で特に印象深い楽曲だったので、1曲目に持っていこうって思ったんです。
――自分も好きです。特にあの終わり方、「しーんしーん」の入り方と、ここでもう一回サビにいくのかなって期待感がありつつ、そのまま静かに終わっていく感じがすごく情緒があって。
RUNG HYANG:実は楽曲をリリースする前に、視覚障がいのある方々に曲をリスニングしてもらう機会があって。そしたらみなさん、この「しーんしーん 静寂がうるさいな」っていうところを好きだっておっしゃったんです。「静寂がうるさいことをよくご存知ですね」って。自分もすごく気に入ってるけど、聴いた人からもそこが好きって言ってもらえたのはやっぱり嬉しかったですね。
――高島屋のプロジェクトでは、“Lull you”のほかに“Seeds of life”も制作されましたが、こちらもリスニングセッションを行ったんですか?
RUNG HYANG:しました。“Seeds of life”は「鳥」「ポピー」「山」「ツバキ」の4枚の絵で構成されたアートからつくった曲なんですけど、おもしろいことに、参加者のみなさんには絵が見えないはずなのに、曲を聴いてもらったところ、「鳥や山、植物が見えますね」という声が上がったんです。
絵の世界観がそのまま伝わっていることにびっくりして感動しましたし、一緒に企画を考えてくれた〈SALON adam et ropé(サロン アダム エ ロペ)〉のプロデューサーも、私たちがやろうとしていたことがしっかり表現され、伝わっているのを見て、「美しすぎます、このやりとり」って急に泣いちゃったんですよ。オオニシ先輩(オオニシユウスケ)のギターが描く情景も含め、本当にすごいなと思いましたね。
――“Lull you”はしっかりと歌モノですが、“Seeds of life”はどちらかというとBGMというか、劇伴のようなイメージです。元になったアートのインスピレーションの違いですか?
RUNG HYANG:絵のインスピレーションもありますけど、“Seeds of life”はちょっとビクビクしてたっていうのもあるんです。そもそも、あのオファーをいただいたときは、もっと映画音楽のような、サウンド的なものを求めているんだと思っていて。そしたら「RUNG HYANGの曲として」っていう提案をされて、それにちょっと萎縮しました(笑)。自己顕示しすぎないか不安だったというか、私の歌とか表現を押し出しすぎるようなことはしたくなかったんですね。絵のことも、私の個人的解釈だけで表現したくなくて、できるだけ余白が欲しかった。聴いた人がいろんな想像ができるような隙間をいっぱいつくりたくて。主役はみんなが頭の中に描いた自然とか風景で、それを支えるサウンドでありたかったんですよね。
“Lull you”に関しては、絵もすごくエッジーで、抽象画だったんで、ストーリーが頭の中でいっぱい浮かんじゃったんです。恋愛の歌なんですけど、男女の登場人物が頭に浮かんできて止められなくて。「これはドラマの主題歌にしよう」みたいな気持ちで、ああいう歌になりました。
――絵といえば、亡くなった祖父への想いを歌った“memento”も絵と縁のある楽曲ですね。
RUNG HYANG:本当に偶然ですけどね、これは。一番レガシーな作品になったなと思います。
――“memento”で印象的だったのが、サビの「Goodbye, Goodbye, I set you free」という歌詞で、グッバイと言った後に、「I set you free(あなたを自由にする)」という言葉が並ぶのがすごいなというか。これも先ほどの「手放す」話につながるかなと思っていて、自分の元から離れて悲しい、残念というだけじゃなくて、未来に続く形みたいな捉え方なのかなと。
RUNG HYANG:今年は自分の身近な人が亡くなる機会が多くて。あまり経験しないことだったんですけど、それも去年、なんか感じたんですよね。「来年はなんか別れが多くありそう」って。ちょっとスピリチュアルで、変な話ですけど。でも、亡くなったことを悲劇にしたくないんですよ。悲しいとか残念とか、それで終わらせたくないんですよね。それは自分のためでもあるし、逝く人のためでもあって、身近な人のためでもある。
「(亡くなって)残念ですね」っていう言葉は当たり前に使うんですけど、心の中ではいつも残念じゃねえって思っちゃう。「しっかり戦ったぞ、きっと」「やりきったぞ、この人。だから残念じゃねえ」って思ってるんで。
森山直太朗からのインスピレーション、自身の多面性を提示する2部制の公演
――表題曲の“Legassic”もグルーヴのある曲ではありますが、これまでのオープニングを飾ってきたアッパーな曲と比べると、どちらかというと抑えめというか、クールな感じで。
RUNG HYANG:そうですね。サウンドはT.O.M(Tomokazu Matsuzawa)さんにプロデュースしていただいて、レガシックなので、ちょっと昔の匂いを感じるものにしていただいたんです。“tiny shine”のときからその話はしていて、昔のソウルとかファンクを感じられたり、ちょっと懐かしいサウンド、「ちょっと古めかしくていいね」みたいなふうにしたいって話をしていて、仕上がったんですよね。
――まさに、EP全体としてソウルな感じのサウンドが増えたなという印象を受けました。
RUNG HYANG:そうなんです。リリックだけでなくサウンド面でもレガシックを感じさせたかったんで、「ちょっと懐かしく感じられるアプローチを」っていうのは全プロデューサーにリクエストしていました。
――“tiny shine”の冒頭のソウルミュージック的な歌声もそうですよね。2000年代のヒップホップのような、昔のソウル曲のサンプリングのような雰囲気で。
RUNG HYANG:そこも全部そういうイメージでやりましたね。だから最初にシャウトするみたいなフェイクも、昔のスウィートソウルな感じとかをイメージして。本来ガナらないですけど、あの時代の人たちはガナってエモーショナルに歌うから、あえてそれを入れようってことで、私の中のMARUを呼び起こしました(笑)。
――前回のインタビューの際に、「come full circle(一周する。成長や経験を経て元の場所に戻ることを指す)」ってお話をさせていただいたんですけど、まさに未来を向いたまま原点に戻ってきているという印象です。
RUNG HYANG:“Legassic”の歌詞でも「同じ場所回ってるようでもそうじゃない 螺旋の階段を登ってゆくように」って書いたんですけど、同じ場所を堂々巡りしているようだけど、ちゃんと上がっていってるっていう。いろんな人を巻き込みながら、渦巻きみたいになっている気がするから、巡っていることをあんまりネガティブに考える必要はないかなっていうのは思いますね。
――そして6月19日(金)にはBLUE NOTE PLACEにてライブが行われますが、こちらもどんな公演になるか改めて聞かせてください。
RUNG HYANG:ファーストステージは、ハ(・ミョンス)さんが民族楽器を持ってやってきてくれて、在日コリアンとしてのルーツが伝えられるようなセットになっていると思います。セカンドは「This is Tokyo!」と題して、東京だから出会えた人とか、東京だからこそ起きた化学反応みたいな思いを込めていて。どっちかっていうとパーティな感じですね。そして、東京だから出会えた奇跡の象徴としてTOKYO CRITTERSが出てくれる。みんながそれぞれが自分の場所で音楽を発信しているっていうところも含め、「みんな結局パーティ好きやん」みたいな、そういうセットになります。
――その両方を合わせて、ルンヒャン/RUNG HYANGというアーティストだということですよね。
RUNG HYANG:そうですね。両極端なんですけど、テーマを分けるっていうことで成立するっていう発見もできたし。……あの、森山直太朗さんが去年、2つのアルバム(『弓弦葉』と『Yeeeehaaaaw』)をリリースされて、それぞれの作品を掲げた全国ツアーもやっていたんです。同じ東京でも2回それぞれテーマの異なる公演をやっていて、私は両方とも観に行ったんですけど、ひとりのアーティストが音楽や人間の二面性をこうやって分けて表現するのって、すごくいい考えだなと思ったんです。実はそこから今回のイベントを2部構成にするアイデアをいただきました。
あと直太朗さん、楽曲を送っても基本スーンとしてるというか、感想も何も言ってくれないんですけど(笑)、“memento”については「すごくいい世界観だね」って言ってくれて。「これは曲から書いたの、詞から書いたの?」って訊かれて、「一緒に進めたんだよね」って言ったら「一番いいやり方だね」「それが一番いいよ」みたいな話をして。それも意外な展開でした。
――森山直太朗さんの影響もあったんですね。でも、自分の多面性を切り出してひとつのライブとして成立させられるのも、これまでずっとやってきたレガシーがあるからですよね。
RUNG HYANG:確かに。これまでは、いろんなことを器用貧乏にやっていたような気がしちゃってて、いろんなことをやっていることが、結局「一本筋がない」「何者かわかんない」みたいなことになってないか? っていうコンプレックスになっていたときもあったんです。だからそれを強みとして見せられるショーができるってことはラッキーだなって、今回はすごく思いましたね。お客さんも好きなほうを選べばいいし。2部とも予約してくれた方もたくさんいるんですけど、私の二面性を初めて知る人もたぶんいるはず。それはなんか、いい感じに作用するんじゃないかなと思ってますね。
【リリース情報】

RUNG HYANG 『Legassic』
Release Date:2026.05.20 (Wed.)
Label:RUNG HYANG
Tracklist:
1. Lull you
2. Legassic
3. Let’s beat it
4. Seeds of life
5. tiny shine
6. memento
【イベント情報】
『RUNG HYANG SPECIAL LIVE “Legassic” in BLUE NOTE PLACE』
日程:2026年6月19日(金)
会場:東京・恵比寿 BLUE NOTE PLACE
-1st Asia monsoon-
OPEN 18:00 / START 18:45
Special Guest:河明樹(Sohegum)
-2nd This is Tokyo!-
OPEN 20:15 / START 21:00
Special Guest:TOKYO CRITTERS(ZIN、菅原信介)
[BAND MEMBER]
小林岳五郎(Key.)
砂山淳一(Ba.)
白根佳尚(Dr.)
[Dress Code]
tiny shine
※ドレスコード着用者には素敵なプレゼント。
1st、2nd、それぞれ60分の公演となります。入替あり。
■公演詳細
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