台湾のアーティスト・Mandark。オルタナティブ/エレクトロニックを軸に、内省的な世界観を自在に描き出す楽曲とライブで注目を集めるシンガー/プロデューサーだ。
そんな彼女の来日公演が10月18日(土)に開催された音楽フェス『MIND TRAVEL』で実現した。彼女がボーカルを務めるI Mean Us、Sweet Johnでの来日公演はあれど、日本でのソロパフォーマンスはこれが初となる。
当日のステージは今年リリースされた最新シングルや、日本のアーティストとのコラボ楽曲を携え、サポートドラマー・窪田大志、フィーチャリングゲストとしてオルタナティブユニットのjean、そしてダンサー陣も加わった“この日限り”の編成と、映像演出も加わり特別なライブセットを創り上げていた。
本記事では、来日公演の裏側、ここ数年で確立してきたソロアーティストとしての表現、そして今後の展望について話を訊いた。
Interview & Text by Megumi Nakamura
Interpeter Taichi Tagawa
Photo by Tatsuki Nakata
「日本でのソロライブがこんなに早く実現するなんて」
――今回の来日はどんな経緯で実現したのでしょうか?
Mandark:昨年、『BiKN Festival 2024』でバンドとして来日したときに取材を受けたのが、Spincoaster Music Bar Ebisuだったんです。そこで『MIND TRAVEL』を主催するSpincoasterのみなさんとも繋がって、帰国後すぐに出演オファーをいただきました。まさか1年経たずに日本でソロライブができるなんて思っていなかったから、終わった今も「まだ夢から覚めていないような感覚」です。
――1曲目“8ODY”のVJで日本語の歌詞が映った瞬間、「日本のライブのために特別な準備をしてきてくれたんだ」って感じました。
Mandark:日本のお客さんとの距離を縮めたかったので、日本語の歌詞を入れた楽曲や、日本のアーティストとコラボした曲を意図的に選びました。私をすでに知っている人も、初めて聴く人も楽しめるように。日本の文化が好き、その気持ちが伝わればいいなって。
それから、当初は屋外ステージでの予定だったのが、屋内に変更になったんです。そこで会場の雰囲気に合わせて、セットリストや演出を組み直したりして。ステージ上で「Mandarkとは何者なのか」を伝えることを一番大切にしました。
――Mandarkさんは台湾の『金音創作賞(Golden Indie Music Awards)』でも「ベストライブ賞」にノミネートされています。演出面で特にこだわったのは?
Mandark:台湾での演出をそのまま日本に持ってくることはどうしても難しかったので、その制約がある上で日本のミュージシャンやダンサーに協力してもらい、映像演出も細かく調整して、台湾公演に負けないクオリティを目指しました。『MIND TRAVEL』のVJの方も、台湾での映像をベースにしつつ、当日まで細かくブラッシュアップしてくれて。本当に感謝しています。
――今回のサポートミュージシャンは全員日本の方でしたね。
Mandark:これまでリリースした、尊敬する日本のアーティストたちとコラボした楽曲も歌えたし、「初めて」がたくさん詰まったライブでした。特にゲストで出てくれたjeanは、数年前にオンラインで知り合って、去年初めて対面して、一緒にMVも撮影して……。いまでは「一緒に挑戦を続ける親友」のような存在です。
――ドラマーの窪田大志さんとの演奏も、まるで長年のバンドメイトのようでした。
Mandark:窪田さんのことは、Instagramのリールで偶然見つけて、ずっと気になっていたんです。ある日、台湾のイベントで窪田さんが叩くと知り、観に行ったところ「こんなに若くて、才能ある人がいるんだ」と衝撃でした。飾らないのに、すごく自然体で純度の高いドラム。「一緒にライブがしたいな」と思って、自分から声をかけたんです。

3作連続で見せた、新しい「Mandark」の輪郭
――今回のライブでも披露された、2025年リリースのシングル3作“ASO”、“EXX”、“cold.”についてお聞きしたいです。まずは“ASO”について。この楽曲はどのようにして生まれましたか?
Mandark:私は記憶に残る強いフレーズから曲を作ることが多いんです。“ASO”は、発音を少し“Asshoxe”に似せて、歌詞も耳に残ることを意識しました。テーマは人間関係。深く関わるほどに裏切られたように感じることがあって、「なんで自分だけいつもこうなの?」「私が悪いの?」──そういう、内省から生まれた曲です。
――ネガティブな感情を昇華している、という意味では“EXX”もそうですよね。
Mandark:はい。“EXX”は元恋人に宛てた「手紙」のような曲です。タイトルの「EX」は元恋人の「EX」、最後の「X」は、そこにバツをつける「冷たい気持ち」。でも、ただ冷たく歌うのではなく、アフロビーツの揺れを使って、情熱と冷たさ、熱と氷を共存させました。情熱的な愛情と、冷え切った感情の両方を1曲で表現してみようって。
――“cold.”はどんなイメージで?
Mandark:“cold.”は心の中に生まれる狂気、「小さな悪魔」のような自分との対話を描いています。人に言われた嫌な一言を、一人の部屋の中で後から思い出して、それが心の中で積もり積もって、増幅して爆発していく感覚。それを描きました。
――ネガティブな感情を聴き心地の良い作品に仕上げられるのは、Mandarkさんらしいところかなと思うんですよね。音作りでこだわっていることはありますか?
Mandark:私が創作するときは、ひとりで部屋にいながら、別の場所にいることをイメージして、「そこにある空気や音」を想像しながら作ります。たとえば、「雪のいる場所にいたらどんな感覚だろう、すごく孤独だろうな」とか。その景色や感情を想像しながら、そこに漂う音を拾い上げることで、具体的な曲の形が決まっていきます。
――台湾での共同制作者にはどんな方がいますか?
Mandark:今年リリースした最新の3曲、それから昨年リリースした“DJV”は、台湾のバンド・莉莉周她說 Lily Chou-Chou Liedのボーカルでもある陳大慶 Ral Chenがプロデューサーとして参加してくれています。彼の電子音楽の繊細な音作りが、私の方向性と一致しているんです。
――ソロ活動を始めて約3年。明らかに「アーティスト・Mandark」の輪郭がクリアになりましたよね。
Mandark:ソロ活動を始めるときに「自分の音を追求しよう」と思っていたんですけど、初期の楽曲を改めて聴くと、バンド作品に引っ張られているなって思います(笑)。今は完全に電子音楽寄りのスタイルに変化して、「これが私の音」という形が見えてきました。
「まだ夢から覚めていない」──国境を越えて音楽を届けること
――今後の国際的な活動の目標や、計画があれば教えてください。
Mandark:私は大きな目標や夢をたくさん持つタイプではないんです。むしろ、何かをやりたいと思ったら、それを実現するまでの期間が非常に短くて、すぐに実現してしまうんです。だから大きな将来のステップを常に考え続けているわけではないんですけど、このやり方が自身に合っていると感じています。
――ちなみに、日本と台湾のライブ現場の違いはありますか?
そうですね、どちらのオーディエンスも全力で応援してくれて、そう変わらないです。ただ、日本のお客さんはとても礼儀正しくて、周りに迷惑をかけないように声を控えることがあるというのが、新たな発見でした。
――Mandarkさんのライブは「世界観を壊さないように聴こう」という気持ちもあるのかもしれません(笑)。そんな日本のファンへメッセージをお願いします。
Mandark:私の夢に出てきてくれてありがとう。一生のうち、この夢では一度しか会わないかもしれない。でも、また夢で会えることを楽しみにしています。
――私たちも、次の「夢」が訪れる日を楽しみにしています。ありがとうございました!
2. EXX
3. COLD
4. YUME
5. ASO
6. Playlist
7. DJV (LIVE VER.)
8. Don’t Blink ft. jean
9. Merry Go Round
10. Noisy love
11. CALL 911 (LIVE VER,)
[MEMBER]
Mandark(Vo., Syn)
窪田大志(Dr.)
JEAN(jean)(Guest Vocal)
Sota Nakamura(jean)(Guest Guitar)
DAIKI(Dancer)
YUYA(Dancer)
mari(Dancer)












