シンガーソングライターの青谷明日香とHanah Springによる、石川県能登を舞台とした共作楽曲“てんでん”のMVが公開された。
「てんでん」――能登の方言で「それぞれに」を意味する言葉であり、この土地に暮らしてきた人々の生き方を映している。2024年1月1日、能登半島地震により大きく揺らいだ石川県能登では、暮らしと風景が少しずつ変化を遂げながらも、そこに生きる人々のまなざし、生き物たちの営み、風や波の音は、昔と変わることなく息づく。
楽曲を手がけたのは、『FUJI ROCK FESTIVAL』など大型音楽フェスから小さな集落の祭りまで、様々な場所で横断的に活動してきた青谷明日香とHanah Spring。東日本大震災以降、被災地に寄り添いながら歌を届けてきた2人が、今回能登を舞台に初めて共作した。


MVの監督は、写真家・映像作家のKenta Yamamoto。ポストドキュメンタリー的手法を基盤に、自然光と陰影、時間の移ろいを繊細に捉えることで、まるで土地の記憶や人々の思い出が静かに湧き出てくるような、被写体の内側にある生命力を描き出す。
また、本作は「被災地から日本を再構築する」を掲げ、福島・能登・東京を拠点に被災地の今を発信してきたクリエイティブレーベル・beatfic experimentがプロデュースを務めた作品となっている。beatfic experimentは芸術・音楽・食など文化的領域を通じて、都市部や若年層へ被災地の「いま」を届ける表現活動を展開してきた。
それぞれが能登で出会い、風景と人々の姿を紡いだ本作は、人と風景、そして歌が穏やかに交わる「記憶のメディア」として、「能登で今を生きる」ということの意味を映し出している。なお、今後は能登での上映会を兼ねたイベントも実施予定とのこと。
▼beatfic experimentより、本作における想い
2024年1月1日、能登の地が大きく揺らいだあの日から、季節はいくつも巡りました。壊れた家屋や崩れた道路は少しずつ片づけられ、人々の暮らしも変化をはじめています。
「てんでん」――能登の方言で「それぞれに」を意味するこの言葉の通り、漁業、農業、門前町など、それぞれの集落の成り立ちが異なることが、祭礼儀式、歴史文化、生活様式などにおける独特の多様な豊かさを育んできました。祭りの掛け声や方言が町ごとに違うように、暮らしや営みまでもが、地域ごとにそれぞれです。その多様さこそが、能登という土地の豊かさの根源にあると感じます。
震災からまもなく2年が経ちます。公費解体や土砂の撤去が進む一方で、畑を耕す人の姿や、仮設の台所から立ちのぼる湯気が、変わらぬ日常を営んでいます。被災の爪痕が残る風景の中で、それぞれが自分の場所から再び暮らしを紡ぎはじめてます。
私たちは何度も現地へ足を運び、今も能登で暮らす人々の姿を見つめ、その声に耳を傾けながらこの作品をつくりました。
被災は過去の出来事ではなく、いまを生きる私たちへの問いでもあります。日本では地震や台風、豪雨などの自然災害が毎年のように起こり、どこに暮らしていても誰もがその延長線上にいる。だからこそ、音楽と映像の力で、失われたものを悼みながらも、能登の“これから”を照らしていきたいと思いました。
今後は、能登での上映会を兼ねたイベントも予定しています。現地の人々と都市の人々が同じ映像を見つめ、語り合うことで、それぞれの痛みや優しさがゆっくりと響き合い、やがてひとつの希望のかたちへとつながっていく――楽曲や映像、そして今後の上演イベントを通して、そのきっかけを作っていければと思っています。

【リリース情報】

Hanah Spring & 青谷明日香 『てんでん』
Release Date:2025.06.27 (Fri.)
Label:Hanah Spring & 青谷明日香
Tracklist:
1. てんでん












