オランダ出身のシンガーソングライター・JELISAによる最新作『Melancholia EP』は、モダンなR&Bを軸に、インディソウルやジャズなどを横断しながら、感情の風景を越えて辿った自己発見の旅路を描いた一作だ。
その骨組みを形作ったのは、昨年の日本滞在時に行われたセッション。Ovall、Kan Sano、Osamu Fukuzawa、LEOといった日本人アーティストとの親密なコミュニケーション、共に音を重ねていった時間が、本作には色濃く反映されている。
Spincoasterでは、そのEP完成前にインタビューを実施。共にライブやセッションを行った鍵盤奏者/コンポーザーのOsamu Fukuzawaと、ギタリスト & プロデューサーのYasper Molleが同席し、国や文化の違いを超えて交わされた音楽的対話が展開された。
なお本作は、オランダ・アムステルダムを拠点とするS2S Japanのサブレーベル〈Dontaku Records〉からリリースされている。「オランダと日本のクリエイターを結集し、共有されるサウンドと物語を探求する」という同レーベルの理念は、まさに『Melancholia EP』で見事に体現されている。(編集部)
Interview & Text by Naoya Koike
Photo by Motomi Mizoguchi

「音楽で通じ合えた」──Kan Sanoとの美しい時間
――今回の来日では『大阪・関西万博』オランダパビリオンでのライブと、東京・Robin Club 表参道でショーを行ったそうですね。
JELISA:OsamuとYasperの3人で演奏しました。Robin ClubはKan Sanoも一緒でしたね。大阪万博では電球の下で演奏したのですが、月みたいで綺麗でした。
日本で演奏するのは気持ちいいし、楽しかったです。感じるのは観客の意識の高さ。みんな本当に音楽を聴いているし、ちゃんと歌詞にも耳を傾けてくれる。音楽をリスペクトしていることが伝わってきました。

――よく海外のアーティストから、「日本のオーディエンスはシャイだ」と言われることもあります。
JELISA:確かに私の出身地のアムステルダムやヨーロッパ全体と比べると少し控えめかも。国によって特徴がありますね。例えばパリではすごく観客の声が大きい(笑)。
とはいえ日本でも拍手をもらえたし、シャイなのかもしれないけど、そうではない気もした。いずれにせよ、個人的に経験したことのないオーディエンスではありましたね。
――東京と大阪で印象の違いはありました?
JELISA:初めて行ったのは東京なので(※)、それが日本の第一印象。ただただ美しかったです。到着したときから居心地がよくて。Kano SanoやOvallたちとスタジオに入って、だんだんと滞在ではなく「住んでる」みたいな感覚になってました。日本での生活を体験できたような気がします。
建築に関してもコンクリートに囲まれた少し悲しげな側面もあれば、細部を見ると独自のスタイルとアートへの愛もある。そういう繊細さが音楽でいうと独自のリスニングバー文化に繋がっていると思います。
※2025年夏、JELISAは東京に数日滞在し、日本のアーティストたちとセッションを実施。そこで生まれた楽曲がEP『Melancholia』に収録されている。
――大阪についても聞かせてください。
JELISA:大阪は2日間の短い旅でしたが、もっと落ち着いた感じというか、東京とは違うエネルギーを感じました。地元の人たちの案内でお寺や街も少し散策しましたが、もっと探検したいですね。
――日本で制作したシングル“Home In Tokyo”にはそんな思いが込められている?
JELISA:OsamuとYasper、もうひとりのプロデューサー・Dimas、そしてAntonio Zantmanと一緒に作りました。都市の中で居場所を見つけて、帰属意識を持つことについての曲です。
――どのように制作したかも教えてください。
JELISA:曲作りは普段考えている色々なことを言語化するところから始めるんです。浮かんだアイデアをスクラップブックに書き留めて、それが曲になっていきます。この曲では最終的に「居場所を見つける」というコンセプトへと集約されていきました。それは私にとって場所かもしれないし、人かもしれない。ただ、いつもそれを探している気がする。
――なぜ「居場所」から「Home」を連想したのでしょう。
JELISA:「家って何だろう?」という疑問もあったんです。何が家を家たらしめるのか、なぜ居心地がいいと感じるのか。さらにその一方で人はなぜ旅を続けたくなるのかという問いも出てくる。
それを問うこと自体が自分のアイデンティティや「家」を見つけることでもある。内面への探求ですね。そういう流れで歌詞が出来上がりました。
Osamu:作曲に関しては来日前からオンラインでやりとりしていたんです。いくつか送った自分のビートのひとつをDimasとYasperがアレンジしてくれて、それを基に僕のスタジオで他の音を重ねていきました。
JELISA:そうでしたね。アムステルダムと東京間でお互いのことは話していたから、東京に来る前からすでに制作は始まっていました。
アムステルダムにいるときから頭にあったアイデアが、日本で次第に大きくなって形になった感じ。それをまたオランダに持ち帰って仕上げました。いい出来になったと思います。
――Kan Sanoさんとコラボした“I don’t want to leave”については?
JELISA:Kan Sanoとの制作もおもしろかった。だってお互いの音楽を気に入ってはいるけど、個人的に彼のことを全然知らなかったから。他のミュージシャンもそうでしたが、面識もない状態で同じ部屋で何かを作らなきゃいけない状況については、正直ちょっとプレッシャーもありました(笑)。
だからまずは心を開くところからでしたね。最終的にはみんな繋がって楽しんでました。Kan Sanoの場合はスタジオに人がたくさんいたから、集中するために私と彼だけで別の部屋に入ることにしたんです。
――どちらともなくコライトが始まったんですか?
JELISA:まずKan Sanoがピアノを弾き始めましたね。彼は音のムードを大事にするんです。私から伝えたのは「あまりハッピー過ぎず、少しメランコリックな感じにしたい」ということ。どこかに属している気持ちだけど、もうすぐそこを離れるような、ほろ苦さと切なさがほしくて。
それから私がメロディを歌い、彼が別のメロディを弾いて、という感じで自然とまとまっていきました。その場で作詞作曲からレコーディングまで、すべてを作り上げたんです。
特に計画していたわけではなったから、スタッフも「今、曲を作ってるの?」と驚いてました(笑)。美しい時間でしたね。言葉のコミュニケーションは難しかったけど、音楽で通じ合えた気がする。最終的にどのテイクを選ぶかが大変でした。
「レイドバックでカジュアルな人が多い」──オランダと日本、それぞれの違い
――Ovallとも制作したそうですね。そのときのことも知りたいです。
JELISA:Ovallのセッションはシンプルにファンキーでアップテンポな曲を作りたかったので、そのサウンドを掴むために一緒に試行錯誤した感じです。彼らともゼロから作る感じで、ただただ即興で演奏してもらい、私もフリースタイル的に言葉をマイクに吐き出しました。
それに対してYasperが「これも試してみよう」とディレクションしてくれて。ドラマー・mabanuaをはじめ、みんな超ファンキーでした。いい曲になっています。新しいEP(『Melancholia EP』)にも収録する予定です。
――さらに箏奏者のLeoさんともセッションしたと聞きました。和楽器と一緒に演奏することはレアな体験なのではないでしょうか。
JELISA:彼も素晴らしかったです。彼独自のエフェクターを使ったモダンな奏法も素晴らしいのですが、伝統的なスタイルも好みだったので、エフェクト有無の両方で演奏してもらいました。あれも新鮮な経験でしたね。
箏の存在は知っていましたが、同じ部屋で誰かが演奏するのを聴いたのは初めてです。瞑想的で脳を落ち着かせる音色、1日中聴いていられますね。あの独特な音色を曲にどう配置するかも悩みましたが、そこも勉強になりました。
――日本とオランダでミュージシャンの考え方に違いを感じたりは?
JELISA:本質的には似ていると思います。おもしろいことに日本で出会ったミュージシャン一人ひとりが、私が知っている別のミュージシャンを思い出させるんですよね。
Yasper:日本人ミュージシャンはみんな熱心に練習していると思う。
――逆にOsamuさんはオランダのアーティストとの共同作業を通して、日本人アーティストとは異なる部分を感じましたか?
Osamu:(オランダのアーティストは)ナチュラルというか、余白がある感じがしました。これはオランダに限らずなんですが、海外のアーティスト/プロデューサーは引き算的な考え、音の抜き方などが上手だなと感じます。あと、日本人は完璧主義というか、細かい部分まで気にする人が多い一方で、海外はラフな方が多い。ラップトップのキーボードで演奏したフレーズを使ったり、自由だなと思いました。
――とはいえ、どの国でもミュージシャンは誰しも練習なしにはなれませんよね。
JELISA:その通りです。ただオランダ人音楽家の方がレイドバックでカジュアルな人が多いかも。よくいえば、即興に慣れているのかなと。少なくとも私個人はそうです(笑)。
だから敢えて違いを言うならば、オランダ人はちょっとだけ大声で自由、日本人は抑制的で繊細というところかな。あと箏のような、古代から伝わる古い和楽器がオランダにはありません。
――オランダの音楽シーンについても聞きたいです。
JELISA:私はアムステルダム出身ですが、現地ではジャズやソウル、R&Bなどのミュージシャンが演奏する「Paradiso」というお店が熱いですね。ジャムセッションの機会も多いし、あらゆるジャンルのアーティストが集まっています。
国際的な都市で音楽シーンは豊かですが、オランダ自体は小さな国なので、アムステルダムは「創造的な村」みたいなイメージかなと思います。車さえあれば国内のどこへでも2時間か3時間で行けますよ。あとはヨーロッパ全体と繋がってるので、パリにもドイツにもロンドンにも行ける。すべてが本当に近い。
―――FukuzawaさんはKazuki Isogaiさんとの共同名義のアルバム『Inner Orchid』にて、オランダのアーティスト・Cézanne、Neema Nekesaと共作しています。このコラボレーションの背景を教えて下さい。
Osamu:もともとはインストでリリースしようと思っていたのですが、Dimasの紹介で急遽Cézanneに歌ってもらうことになったんです。タイトルやテーマは彼女の方から提案してくれて、結果的に思いもよらぬ形で素晴らしい曲に仕上がりましたね。
Neemaは紹介してもらったオランダ人シンガーの中から、Isogaiさんがやりたいということで参加してもらったんです。海外のシンガーに歌ってもらうのは初でしたが、日本人の近しい音楽性の人よりもナチュラルに歌うなと感じましたね。作り込み過ぎない、自然体な余裕を感じました。
「それぞれ違う感情を持つのは大切。でも時には互いを理解できる瞬間もある」
――JELISAさんはご自身の音楽について考えていることはありますか。
JELISA:私の音楽はオルタナティブやソウルR&B、ジャズ、インディの影響が強いですが、これまで色々なジャンルに影響を受けてきましたし、常に自分のジャンル外から何かを得ようと考えています。私にとって大切なのは、探求することや感情を表現することなので。
――2025年1月にリリースされたEP『Do you feel the same?』のタイトルにも示唆されていますが、なぜ自身にとって「感情」が重要なのでしょうか。
JELISA:私自身が「感じる」人間だからだと思います。自分の感情が創造へと導いてくれる。それが私という人間。人生は自分自身を知り発見する旅みたいなもので、それに伴う感情もたくさんあるじゃないですか。
そんなときに「この感情は何を意味するんだろう?」と考えるんです。だからそれについての何かを書いて、それが歌になっていく。私の曲はどれも小さな旅なんですよ。いつか書きたいエモい感情もあれば、たくさんの幸せや悲しみもある。
――なるほど。
JELISA:そこで気になっていたんです。「この気持ちを感じてるのは私だけなのかな?」って。でも実際、多くの人が同じ感情を抱いている。みんな時に幸せで、時に悲しくて、時に誰かを恋しく思ったり、時に落ち込んだり、また立ち上がったりしている。
それが人間らしいことだと思うんです。もし私が正直に自分の気持ちを共有すれば、もしかしたら人々と共感で繋がれるかもしれない。そういった考えをEPのタイトルにしました。
――もしJELISAさんの歌を聴いた人に、「共感できない」と言われたら?
JELISA:もちろん大丈夫。私も日々、多くの人と違うことを感じていると思います。誰かと同じように感じている人もいれば、日によって違ったりもするじゃないですか。今日あなたは幸せで、他の人は悲しかったとしても、また別の日に逆になることはあり得ますよね。
たまたま悪い日だっただけで、その人が悪い人間ということではないかもしれないし、自分と同じように人生のあれこれを経験しているのかもしれない。そうやって想像できれば、相手をすっと深く理解できるはず。
それぞれ違う感情を持つのは大切。でも時には互いを理解できる瞬間もある。だって各自それぞれの旅をしているんだから。同じ人生はあり得ないけど、大きく見たら似ている。意外とみんな人生の中で同じ感情を感じているんですよ。
――その他者への想像力は、共感できない人を傷つけがちなSNS社会において大切な考え方だと感じました。
JELISA:もちろん仕事やビジネスで必要かもしれないけど、SNSには警戒心を持ち続けることが大事。比較し合うより自分らしさを見つけて、それをシェアするべきですよね。同じ気持ちでない人をジャッジするのはよくない。
「音楽でコミュニティを作るのは世界の灯りになるのかも」
――ところで江戸時代、日本にとってオランダは数少ない公式な貿易国のひとつでした。知っていました?
JELISA:知っています。日本は鎖国していた時代があって、あまり外に開かれていなかった分、純粋な文化が今も残っているなと思っています。
――日本には今もオランダの影響が残っているんです。学生服の「学ラン」やオランダケーキの「カステラ」などなど(カステラの画像を見せる)。
JELISA:それはおもしろい。このケーキ(カステラのこと)、オランダでは何て呼ぶんだろう。
Yasper:今はただの「ケーキ」かな。オランダで「ケーキ」といえばこれ。
JELISA:確か名前があったはずなんだけど……(笑)。
――(笑)。では時代を超えた現代、このプロジェクトで我々は音楽を貿易することになりますが、この価値についてどう思います?
JELISA:私にとっては「発見」として始まりましたね。いつも日本文化における物事の進め方や食べ物の作り方、建物の様子、内装、アート、すべてが精密で美しいし本物だと思う。
だからこの場所にいたいし、吸収して学びたい。でも同時に自分の持っているものを、ここに持ち込めるかもしれないとも考えていて。そういった互いのアイデアや考え、音楽を交換し合えば、きっと国際的で美しい何かが生まれるんじゃないかな。
――具体的にいうと、どんなものが生まれることを期待します?
JELISA:コミュニケーションでいえば、日本には気遣いや象徴的な表現、詞的な言葉が多い。オランダは平坦でストレートな感じだから、日本の感覚から学べることは多いと思います。
逆にオランダからは自由さとか、流れに身を任せるような感覚……言語化が難しいけど、それを感じ取ってもらえるような気がしています。自転車に乗ってる人たちが叫んだりしてるのは美しいですよ。だから互いに高め合うことができたらいいなと。音楽でコミュニティを作るのは世界の灯りになるのかも。
Osamu:JELISAのようなアーティストが日本で知られるのは嬉しいですし、僕らにとってもヨーロッパとコネクションができることはありがたいなと思いますね。
――なるほど。
JELISA:あとおもしろい話として先日、DNA検査をしたんです。もともと母はアフリカ出身でスリナムに住んでいたんだけど、彼女の祖父はアジア系でほんの少しだけ日本人の血も入っていることがわかりました。だから私にとって日本は探求すべき要素みたいな感じで、ずっと惹かれてたんです。
私自身の内と向き合う性格も日本人気質なのかな……(笑)。そんなことも感じてます。ヨーロッパは私には少し騒がしすぎるし、日本はちょうどその中間で自分が馴染める場所。だから私個人としても少しでも長くこの国にいられたらいいな。
【リリース情報】

JELISA 『Melancholia EP』
Release Date:2026.01.16 (Fri.)
Label:Dontaku Records
Tracklist:
1. Drifting Away
2. Imperfections – JELISA & Ovall
3. Bring Me Back To Life
4. Home In Tokyo
5. I Don’t Want To Leave – JELISA & Kan Sano
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Osamu Fukuzawa, Kazuki Isogai 『Inner Orchid』
Release Date:2025.08.29 (Fri.)
Label:Dontaku Records
Tracklist:
1. First Petals
2. Unhold feat. ZIN
3. Loam
4. Alive feat. Lil Summer
5. Glint
6. Best Love feat. Neema Nekesa
7. Oyasumi
8. Keeping Faith feat. Cézanne
9. Inner Bloom
10. Closing Petals
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