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REPORT | and supported by Ploom


Westside Gunn来日、深夜の渋谷に灯るPloomの光──カルチャーが交わる一夜

2025.10.28

Text by Renya John Abe
Photo by Genki, yug, Yuma Yoshitsugu

台風の気配が残る曇り空の下、渋谷の夜がいつもより静かに、そして緊張感をはらんでいた。10月12日(日)、東京・渋谷Spotify O-EAST+東間屋で開催された『and supported by Ploom』。Westside Gunnの来日というニュースに、会場の前には開場前から長い列ができていた。少し肌寒い夜風の中に、何か特別なことが起こりそうな、そんな予感が漂っていた。

2会場をまたぐ構成の中で、O-EASTではオープンからBiBiYUAのDJセットで客を迎え入れた。FutureやSexyy Red、Ice Spice、Central Ceeなど、重心の低いトラップがプレイされ、先日横浜アリーナで開催された『FORCE Festival』の残り香を感じるような幕開けだった。フロアを行き来する人々の手には、会場1階の無料レンタルブースで配られたPloom AURAのデバイス。ブランドロゴの下で友人と語らいながらデバイスを試す姿もあり、「音を聴く」と「空間を楽しむ」が自然に溶け合う風景が広がっていた。

そして、会場2階にはスタイリッシュなスモーキングラウンジとPloomユーザー専用の喫煙可能な観覧エリアが設けられ、淡い照明とほのかな香りが漂う空間は、まるでクラブとギャラリーの中間のようだった。

0時50分、CFN MALIKのオープニング映像がスクリーンに映し出されるとその直後に“Do this shit 4 me”のビートが流れ、ペットボトルの水を振り撒きながら、MALIKが飛び出してきた。生々しくグライミーな彼のラップと紫の照明が作る世界観に、観客は歓声を上げながら没頭する。近年、急速に存在感を高め、今年3月には初のデビューミックステープをリリースしたばかりのCFN MALIK。新人アーティストのライブとは思えない熱気が会場に渦巻いていた。

続いてJP THE WAVYが登場すると、空気は一転してよりポップに。会場中がハイテンションで謝罪する“Cho Wavy De Gomenne”から始まり、“Friends”ではプロデューサータグの段階で観客が合唱状態になっていた。時折ダンスを織り交ぜながら、重厚なトラップビートの上で、軽やかにラップする彼のステージングにはベテランらしい余裕があった。MCでは、「アメリカからくっそかっけえ人きてるから!」と叫び、フロアの期待をさらに煽る。その笑顔の奥には、この夜が特別であることを誰よりも理解しているような確信があった。

その勢いを引き継ぐように、Gottz & MUDが登場。2人の額の上にはニューヨーク・ヤンキースのロゴがしっかりと据えられており、その時点で、この夜に向けた気合が伝わってきた。タフなビートと息の合った掛け合いが会場の空気を一気に引き締める。足元から沸々と湧き上がってくるような高揚感がそこにはあった。“Run”や“We Don’t Care”といった楽曲では、ビートに張り付くようなラップフローで交互に畳み掛け、聴く側に休む暇を与えない。揺るぎないヒップホップマナーを感じる、ラップ巧者のパフォーマンスであった。

U-LeeのDJセットでは、RakimやA Tribe Called Questといったクラシックから、Cash CobainやAsakeの最新トレンドまでを縦に繋ぐ。そして、時刻は深夜2時半。ステージが再び暗転すると、Awichが現れた。冒頭から最新の海外進出曲“Butcher Shop”と“Wax On Wax Off”を披露し、圧倒的な存在感で観客を引き込む。MCでは「ライブ観に行くと盛り上がりすぎて怒られる」と冗談を飛ばしながらも、その一言すら観客を煽る。中盤にはMFSが緊急出演。まだレコーディングも済ませていないという未公開楽曲で会場のボルテージをさらに上げてくれた。そして、「隔月で今日みたいな世界のアーティストをごちゃ混ぜにしたイベントをやりたい」と語るAwich。“GILA GILA”ではJP THE WAVYを再びステージに呼び戻し、ラストはヒップホップへの感謝を示す“Link Up”で締めた。自らが日本のシーンを押し広げていく、その強い意志を感じさせる力強いパフォーマンスだった。

そして、午前3時。空気が一変した。銃声のようなアドリブ「Boom Boom Boom……」を響かせながら、暗がりの中から「スーパーフライゴジラ」ことWestside Gunnが姿を現す。頭には自身が主宰するプロレス × ヒップホップのプロジェクト・4th Ropeのキャップ、トップスにはAVIREXのジャケット、足元はGriseldaモデルと思われる真っ赤なSauconyを身に付けていた。

“Kelly’s Korner”で幕を開け、なんと続く“Rayfuls Plug”ではWestが「4th Ropeブラザー」と呼ぶSmoke DZAがサプライズ登場。背後のスクリーンには迫力満点のプロレスの試合映像が映し出され、その上にGriselda Recordsと4th Ropeのロゴが交互に表示されていた。DZAは自身の楽曲“4th Rope Heels”と“Drug Trade”をソロで披露し、その「4th Ropeワールド」を音で補完。ラップとファッション、アートとプロレス、Westside Gunnのライブはそれらをひとつに織り上げる、まさに世界観そのもののプレゼンテーションだ。客席からはあまりの迫力に、歓声のみならず笑い声までもが聞こえた。

「クラシックをやらせてくれ」と言って放たれた“Summer Slam ’88”や“Freestyle”、“DR BRIDS”はビートやリリックなどすべてにおいてGriseldaブランドを象徴する楽曲。そして、“Kitchen Lights”では一転してエモーショナルな空気を作り出し、「最も美しいヒップホップソング」という言葉通り、Westの中にある芸術性が垣間見えた。終盤では、今年の新曲“OUTLANDER”と“LOVE YOU PT. 2”を挟み、前回の来日時にも披露した“Big Ass Bracelet”で右手の特大ブレスレッドをフレックス。最後はWestの哲学を象徴する楽曲“Mr. T”。「One brick, one brick……」のフレーズが響くたび、会場は一体となり、観客の指が一斉に天井を指した。

「東京は世界でもお気に入りの街だ」と語り、とある条件付きではあったが、引っ越す意思まで見せてくれたWestside Gunn。その姿は、ヒップホップの枠を軽々と飛び越える「フライゴジラ」そのものだった。

Westside Gunn 2025.10.12 Setlist
MICHELLE WORLD
Murder in Maxfields
Kelly’s Korner
Rayful’s Plug
Gustavo
Summer Slam ’88
Eric B
4th Rope Heels (Smoke DZA)
Drug Trade (Smoke DZA)
KITCHEN LIGHTS
Freestyle
Elizabeth
OUTLANDER
Love U
LOVE YOU PT. 2
DR BIRDS
Big Ass Bracelet
Mr. T

終演後も、フロアにはまだ音が鳴り続けていた。coldieとMinnesotahのDJがゆるやかに空間を包み、Ploomの柔らかな光が夜明け前の渋谷を照らす。さらに、会場に遊びに来ていたと思われるニューヨークのプロデューサー・Tweek TuneがDJブースに立ち、B2Bが始まる一幕もあった。音楽と喫煙文化、そしてそれを取り巻く人々のスタイル。すべてが交わったこの夜に、渋谷は1つの新しい風景を見せていた。


【イベント情報】


『and supported by Ploom』
日程:2025年10月12日(日)
会場:東京・渋谷 Spotify O-EAST & 東間屋
出演:
[LIVE]
Westside Gunn
Awich
CFN MALIK
Gottz & MUD
JP THE WAVY

[DJ]
BiBiYUA
coldie
Minnesotah
U-Lee

(AtoZ)

主催:and tokyo株式会社
協賛:JT

Ploom オフィシャルサイト

and tokyoオフィシャルサイト


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