SOMETIME’Sが新作『Slow Dance EP』を5月26日(水)にリリースした。
初の全国流通盤となるEP『TOBARI』のリリースが昨年10月。そこからすでに数々のタイアップや、初の有観客ワンマン公演もソールドアウト。さらにPONY CANYON内のレーベル〈IRORI Records〉への所属も発表されるなど、急速的に活動の規模を拡大させている SOMETIME’S。前回のインタビューで「まだ何者でもない」と語っていた彼らは、この半年で一体どのように変化したのか。新作『Slow Dance EP』制作背景を中心に、彼らの今の心境に迫った。(編集部)
Interview & Text by Naoya Koike
Photo by 遥南碧
最初期の楽曲を再構築
――〈IRORI Records〉への所属など、ますます活動が活発ですが、ご自身としては現状をどう思われていますか?
SOTA:そう言っていただくことは多いですが、個人的に身の回りは相変わらずという感じです。
TAKKI:MVやストリーミングでの再生回数はインディーズの頃から考えると想像もしたことのない規模になっていて。もはや30万と100万の違いがよくわからないので、そこまで気にしない様にしています。先日のワンマンは半分のキャパでソールドアウトできたのでよかったなとは思いました。もっと普通に演奏できるようになって、目に見えることが増えれば実感に繋がるのかもしれません。
――そんななかでの新作『Slow Dance EP』のリリースですね。コンセプトや経緯などを改めて教えてください。
TAKKI:結成して初めて作った音源がEPの最初と最後に収録されている「Slow Dance」と「シンデレラストーリー」だったんです。この2曲を〈IRORI Records〉の方が気に入ってくれたので、リアレンジしようというのが最初でした。他の曲に関しては特に狙いなどはなく、1曲1曲作ったものを入れています。
SOTA:レーベルの方はもともと僕らのインディーズで出した2枚目の音源を聴いていたそうなんですけど、その後に「Slow Dance」が入った盤を聴いて「なぜ隠してたんだ」と(笑)。1枚目の自主制作盤なんて驚くほど売れてないのに、その曲を改めて世に出せるんですから光栄ですね。しかもジャケットは当時のCD裏ジャケを使わせてもらっていて、それも美しい構図だなと。なので、今作はSOMETIME’Sの初期にやっていたものを形にした“エピソード0”的な作品ですね。
――続いて収録された各楽曲についてお聞きします。まず「Slow Dance」は具体的にどの様なリアレンジを?
TAKKI:原曲は僕らだけで作っていたので、サウンドが今のSOMETIME’Sっぽくないんですよ。積み物(コード楽器)もギターとピアノと少しオルガンが入っているくらいで、サーフ味が強かった。だから“それを少しクールに仕上げる”という方向性で考えてました。
でも、あれ(自主制作盤)が僕らにとっての完成形だったので、やりすぎると違う曲に感じてくるんですよ。特にグルーヴが演奏の未熟さで揺れていたのですが、それが逆にサーフ感を醸し出していて、削ると魅力が半減するような気がして。結局、試行錯誤して“ver12.0”くらいまで詰めましたね。
イントロやバースを入れ替えてみたりしましたが、正直どれもしっくりこなくて。結局は元に戻して、単純にブラッシュアップを施した感じになりました。
――歌についてはいかがでしたか。
SOTA:もともと違うバンドを経てSOMETIME’Sを組んだので、もはや初期衝動みたいな要素はないと思っていましたが、歌い直したらニュアンスが別物になっていて。意外とブラッシュアップするのが難しく、「合ってるのかな?」と思うところもありました。
原曲のコーラスには当時アカペラ・サークルに入っていた大学生の弟も入っています。あとは彼に「サークルの上手い子と可愛い子を連れてこい」と(笑)。今回、弟のパートは僕が入れてしまいましたが、せっかくの再録なので、当時コーラスをお願いした小倉彩さんにも歌ってもらいました。REC中、ブースの外から「偉くなったでしょ」と冗談を言ったりしてました(笑)。
――2曲目の「Never let me」は打ち込み主体の1曲です。アレンジャーとして関わっている藤田道哉さんとはどのように話し合われましたか。
TAKKI:前作の打ち込みはどちらかというとグルーヴ感も含めてヒップホップに近かったので、「今回はEDMやハウスの要素を入れよう」とは話していました。この曲はSOTAが送ってくれたデモのイントロとサビ・メロが印象的だったんですよね。
SOTA:デモは前作『TOBARI』を作る前からありました。ただ、ビートのイメージはあっても打ち込みができないので、「こういうメロだからビートはこういう感じで、あとはよろしく」みたいな順序で制作することが多いです。
TAKKI:最初はEDMの要素が強く今のトレンドとは離れていたので、要素を絞ってハウスに寄せました。イントロもシンセだった部分をギターでアプローチし直したりしてみたら割と軽くなって。
SOTA:最初のイメージはAviciiだったんですよ(笑)。
TAKKI:あと、冒頭のサンプリング系の音は自宅のガレージで録った藤田のバイクの音だったり、そういうアナログなアプローチもあったりするところもおもしろい楽曲だと思います。
――続く「interlude」では英語のポエトリー・リーディングが入っています。
TAKKI:あれは「雨が降っている。草木を濡らして心を打つ雨が降っている」という文章を英訳してもらったものです。本当は「Raindrop」の冒頭という位置付けでしたが、語りを入れてみたら「イメージと違うかも」となったので、思い切ってカットしてインタールードにしました。
SOTA:声を入れてくれたのは、高木マーガレットさんで。
TAKKI:『TOBARI』をリリースした際、名古屋のラジオに出た時に出会った方です。英語も話せて、人柄もよかったのでお願いしたら引き受けてくださりました。
SOTA:色々なバリエーションの録音を送ってくれて嬉しかったです。
――「Raindrop」は、どことなくSting「Englishman in New York」を彷彿とさせます。そこから徐々に展開していくような。それから水の音をサビ前のフックにしたのも印象的でした。
SOTA:「Englishman in New York」はイメージとしてありましたね。あの雰囲気をイントロやAメロにしたかった。でも、サビは明るくしたかったのでメジャーな質感に変化させて、また戻ってくる感じですね。最後まで暗めにするのが個人的に苦手で、ラストは明るい方向に行きがちなんです。
TAKKI:水の音はサンプリングをフリー素材で探して、色々と聴き比べしながら決めました。この曲は2枚目の自主制作音源に入れた曲なのですが、その時はもう藤田くんがアレンジャーとしてジョインしていたので、「Slow Dance」や「シンデレラストーリー」とは違い、彼にとってもリアレンジになるんですよ。
SOTA:当時はギターと歌以外は(藤田)道哉のビートだったので、かなり苦労した1曲なんじゃないですかね。今回はサビに生ドラムも入っています。
――ピアノ・ソロはSNSの企画『俺の6秒フレーズ』でも知られるジャズ・ピアニスト、永吉俊雄さんによるものでした。彼が参加するのは初めて?
TAKKI:そうですね。前々から知り合いで“先生”って呼んでます。インディーズ時代に彼がやっているバンドと何度か対バンしてました。僕たちは割とミュージシャン/プレイヤーの人脈は多い方だと思うんですが、ピアニストは少ないんですよね。SOTAと「サポートのピアノどうしよう?」と話していた時に、“先生”を思い出して声を掛けたんです。彼のプレイは本当にジャズですね。こちらからはあそこまでジャジーなアプローチは提案できないので、思う存分自由にやってもらった感じです(笑)。
SOTA:そのために呼んでますからね(笑)。
――配信シングルとしてリリースされていた「HORIZON」は音源もさることながら、2月での有観客ライブ『TOBARI Release Event「TO“N”ARI」』でのアレンジが印象的でした。アウトロでバンドの演奏リズムがいきなりレイドバックする、というアイデアについても知りたいです。
TAKKI:音源でも“ハイハットだけレイドバックしていく”というギミックが入っていて、それをドラムで踏襲してもらったんですよ。藤田に打ち込みで再現してもらったこともあるのですが、あからさまで気持ち悪かったので、音源では控えめにしたんです。でも、せっかくのライブなので試せるものは試してみよう、と。
「明らかに曲を書いた時とは違う場所までこれた」
――おもしろいアレンジといえば「シンデレラストーリー」のベースと歌のユニゾン部分も興味深かったです。
SOTA:ベースは昔から友達で1枚目の自主制作盤でも弾いてもらったLUCKY TAPESのKeityです。この曲もリアレンジで、イントロのホーン隊のフレーズはもともとギターでした。当時から管(楽器)とかが入ったらよさそう、というイメージは見えていたので、編成以外はアレンジを大きくは変えてません。
なので、Keityもそのままでくるかなと思ったら、すごい攻めてきた。だから僕も歌を乗せてみたんです。入れてみてイマイチなら消すつもりでしたが、楽しかったのでそのまま入れました。
TAKKI:この曲に関してはSOTAのアイデアがかなり活かされていて、アレンジャーもほぼ関与していません。作詞もコード進行もバランス感もSOTAが作った当時のデモ段階からしっかり構築されていたので、それをよりストレートに仕上げた感じです。
Cメロでの転調もJポップらしくて、いい意味で予定調和があるんですよ。行くべき場所に曲が進んでいて、ライブでやっても楽しい。最後に入っているこの曲を聴いて「もう一周聴こうかな」という気持ちになってほしいですね。
――ということは曲順にも何か意図が?
TAKKI:意外にもパッと決まりましたね。最初の自主制作盤が「Slow Dance」「Stand by me」「シンデレラストーリー」という並びで3曲だったので、「Slow Dance」と「シンデレラストーリー」で挟もうとは考えていて。あとは「Never let me」をどこに入れようかなと。2曲目で驚かすか、最後の方にするか迷いましたが、曲調のバランスを考えてこうなりました。
――歌詞についてはいかがですか? 特にリアレンジした楽曲については解釈や意味合いが変わってくるのでは、と思います。
SOTA:「シンデレラストーリー」を作った時、僕はサラリーマンだったので、“結局は自分次第だぞ”と思いながらハッパをかけていたところがあると思います。今は最後のサビの<気づけば今歩んでいるのがシンデレラストーリー>という部分は自分とリンクしているなと。明らかに曲を書いた時とは違う場所までこれたというか。当時は自分の立ち位置はAメロ辺りでしたが、今は最後のサビ辺りまでこれた気がしますね。
――なるほど。ところで、先ほどもレコーディング環境の変化について言及されていましたが、自主制作盤と今の機材やサウンドを比較して、改めていかがでしょう。
SOTA:以前の「Slow Dance」のコーラスはレコーディングは横浜の小さくて安い機材しかないスタジオでやりました。マイクを立てて録っただけのデータを投げるという感じですね。
TAKKI:コンデンサー・マイクを立てると隣のスタジオのバンド練習の音が入ってしまうんです。知り合いが店長だったので「どうにかならない?」と聞いても「ごめんよ」と(笑)。なので、隣が休んでいる隙に録ったりしていました。それに関してはコンプレッサーもマイクプリ(アンプ)も使わずに、安いインターフェイスに直刺しで。
ミックス・エンジニアが優秀な方だったので、その音を何とか加工してもらってました。あとレコーディング・エンジニアはPAの後輩に「勉強だから」と言ってやらせたりして。本当に『TOBARI』以降はいい環境でやらせてもらっているなと感じています。
――最近は機材の進歩と低価格化の影響で、宅録とスタジオの違いもなくなってきている気もします。
TAKKI:僕らはエンジニアさんに頼ったり、お任せするスタンスなんです。ギターのサウンドに関してはこだわりはありますが、トータルの音に関しては何となくのイメージしか伝えられない。マイクを選ぶ時も「いい方で」みたいな感じですから。いつもエンジニアさんが真摯にレコーディングから向き合ってくれるので助かりますね。
SOTA:確かに。だからいい機材があったところで、僕らだけだと難しいと思います。
TAKKI:「Slow Dance」はアレンジが難航したので、クールに仕上げるためのプロセスが録音前のプリプロ(ダクション)段階で足りてなかったんですよ。何となく“いい感じ”というところでフワっとしていて。「これでサーフ感が取れるのか?」という不安がありました。でもエンジニアの西陽仁さんが持っている、ハイの抜けてくるようなエディットや、サビのキックに909系のバスドラをレイヤーする、といった驚きの技に助けられたんです。
それで成り立った音源とも言えますね。藤井亮佑さんがミックスダウンした曲も含め、エンジニアさんのやりたい方向にサウンドをまとめてもらったものを聴いて、意見を交わすのが『TOBARI』の時から楽しいんです。
「違う色で同じ太さの繋がり」――2人が考えるサポート・ミュージシャン、スタッフとの関係性
――他に当時と今のお互いを比べて、変わったところなどはありますか。
TAKKI:SOTAに関してはDAWの操作ができるようになったことですかね。昔はボイス・メモだけ。よくてギター弾いてる動画でしたから。ちゃんとデータでアレンジャーに音源を渡すなんて、昔だったら考えられなかった(笑)。でも、基本的には変わってないところの方が多いと思います。
SOTA:TAKKIは……実家を出たくらいじゃないかな(笑)。あとは関わってくれる人が増えたので、2人とも自分たちのことよりもチーム全体のことを考えるようになりましたね。
TAKKI:確かに。結成時の僕らは「結果を出す」という想いでしたから。でも今は夢物語的な漠然とした理想より、サポート・ミュージシャンやクルーを含めた皆がハッピーになれるようにという気持ちが強くなっています。当時ボランティア同然で手伝ってくれた人もいましたから、この機会に恩を返したい。
――以前のインタビューでは、「バンドではないからこそフレキシブルでいい」とも話されていましたが、結果的にチームになり、且つヘルシーな姿が興味深いです。
SOTA:そうなんですよ。“サポート・ミュージシャン”という言葉にはちょっと軽薄なイメージがあるじゃないですか。でも、実際はそういうわけでもないんですよね。メンバーでなくても、違う色で同じ太さの繋がりがある。単純に責任を取るというか、決定権が僕らにあるだけなんですよ。だから今はこのシステムが健康的ですね。逆に同じパワーを持ったメンバーがもう2人いたら、絶対ウザいと思うので(笑)。
――では、東京と大阪で行われるライブ『SOMETIME’S New EP Release Tour 2021』についても教えてください。
SOTA:そもそもの曲数がそこまでないので、前回のワンマン・ライブでも今回のEPの曲は全部披露しているんです。なので、新曲をねじ込まないとなって思ってます。
TAKKI:そうですね。EPの楽曲を中心にしつつ、今後リリースする作人もチラ見せできたらなと。いい曲がまだまだあるので。
――メジャー・デビューを控えていますが、今後の展望などはありますか?
SOTA:EPのレコーディング前から「いつかは出すから」と、ずっとレコーディングはしていたので、夏から秋くらいには何かしらリリースできたらいいなとは思っています。最初の方にもお伝えした通り、今作は“エピソード0”的な作品で、音楽性の最新盤としては今作より『TOBARI』の方が今の立ち位置に近いと思うんです。なので、まずはその両方を知ってもらって、次のリリースでさらに新しい状態を感じてもらえたら嬉しいです。
TAKKI:多様性のある音楽を恐れず、振り切ってやっているので、その点はもっと昇華させていきたい。「『Slow Dance』みたいな曲がいいよね」とか、「『Never let me』みたいな曲がいいよね」とならず、素直にやりたい音楽をブラッシュアップさせたいです。生楽器とエレクトロの融合などの実験も常にしているし、まだまだ限界じゃないと思うので。あとは変わった楽器のゲストとかも試していきたいですね。音源ならバンジョーとか、普段のバンドセットに入れづらい楽器もフィーチャーできると思うので。
――客演を招いたり、招かれたりはいかがですか。
TAKKI:将来的にはやっていきたいです。韻シストBANDは生楽器でヒップホップをやっているし、サウンド的にも親和性があると思っていて、その界隈の方々に客演してもらうのは合いそう。普段からヒップホップをよく聴くので、他のアーティストの曲を聴きながらSOTAがコーラスをしているのを想像しているんですよ(笑)。カルメラさんやEMPTY KRAFTなど、インストのバンドも知り合いに多いので、ふたりで客演させてもらったりも良さそう。
TAKKI:ただ、今サポートしてもらっているミュージシャン――Omoinotakeの冨田洋之進(Dr.)やLUCKY TAPESのKeity(Ba.)なども、自分たち的には“フィーチャリング”に近い感覚なんです。ただ表記が違うだけで、それぞれのミュージシャンの個性を色濃く出してもらっているつもりですし。
SOTA:僕は呼ばれたい欲が強いかもしれません。恐らくMr.Childrenの桜井和寿さんや松任谷由実さんと一緒にできたら、間違いなく「音楽で成功した!」って思えるはずです(笑)。そんな未来もいつかあるといいですね。
【リリース情報】
SOMETIME’S 『Slow Dance EP』
Release Date:2021.05.26 (Wed.)
Tracklist:
1. Slow Dance
2. Never let me
3. interlude
4. Raindrop
5. HORIZON
6. シンデレラストーリー
●CDショップ先着特典
タワーレコード、HMV 共通特典決定:
ライブDVD『TOBARI Release Event「TO“N”ARI」』 @2021.02.26 SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
●楽天ブックス、TSUTAYA、Amazon 共通特典
ライブDVD 『Acoustic Streaming LIVE』 @2021.01.15 Shibuya Milkyway
【配信情報】
『SOMETIME’S Youtube Studio Live』
日時:2021年6月6日(日) 21:00〜
配信:YouTube
料金:視聴フリー
出演:
SOMETIME’S
【イベント情報】
『SOMETIME’S New EP Release Tour』
日時:2021年10月15日(金) OPEN 18:00 / START 18:30
会場:大阪・阿倍野ROCKTOWN
料金:前売 ¥4,000 (1D代別途)
日時:2021年10月30日(土) OPEN 17:15 / START 18:00
会場:東京・渋谷WWW
料金:前売 ¥4,000 (1D代別途)
・チケット
オフィシャル先行(ぴあ):5月26日(水)10:00〜6月9日(水)23:59
※ご来場に関する注意事項など最新情報を公式サイトにて必ずご確認ください。公演前に発表する注意事項をご確認の上、ご来場をいただきますよう、お願い申し上げます。
※当日は新型コロナウイルス感染拡大防止のガイドラインを遵守し、然るべき安全対策を講じた上で開催されます。