FEATURE

特別対談 / JUQI × SUI


初のEPを上梓したJUQI。プロデューサー・SUIとの対談を通して語られる、ソロ・プロジェクトの背景、そしてジャバへの想い

2020.12.25

4人組ラップ・グループ、JABBA DA FOOTBALL CLUB(以下:ジャバ)のJUQIがソロ・プロジェクトを始動。12月16日(水)に『LuckySeven EP』をリリースした。

すでに同グループからはROVINがBuddyとのタッグ作や、Kick a Show、Sam Is Ohmらとのコレクティブ・B-Lovedとして作品をリリースするなどして注目を集めているが、それに続く形でソロ・プロジェクトをスタートさせたJUQIは、持ち前のメロディックなセンスを活かした、歌とラップの中間を行き来するようなフロウ、時にはオートチューンも駆使した今日的なラップ・ミュージックを展開。また、根底にヒップホップを感じさせながらも、メロウかつ洒脱な音色が印象的なトラックは、全てunderslowjamsのSUIが手がけている。

今回はそんなJUQIとSUIの対談を敢行。彼のソロ作を紐解きつつ、母体となるジャバの今後についても訊いた。

Interview & Text by Takazumi Hosaka
Photo by Maho Korogi

L→R:JUQI、SUI


「敢えての“白”」――ジャバでのJUQIの立ち位置

――おふたりの最初の接点から伺いたいのですが、SUIさんがジャバの作品に初めて関わったのは『OFF THE WALL』(2017年発表の2ndアルバム)のマスタリングでしょうか。

SUI:そうですね。その頃はまだお会いしたこともなくて。マスタリングって基本的にデータ上でのやり取りだけなんですけど、彼らは手紙を添えてきて、変な人たちだなって思った記憶はあります(笑)。

JUQI:「お願いできて光栄です」みたいなアツい内容を、メンバー全員で綴ってお送りしましたね(笑)。

SUI:その次の作品『FUCKING GOOD MILK SHAKE』では「MONKEYS」のディレクションを担当することになって、レコーディングにも参加しました。

――そもそもSUIさんにマスタリングをお願いするに至った経緯というのは?

JUQI:『OFF THE WALL』の頃はまだ〈OMAKE CLUB〉に所属していたので、TSUBAMEさん(〈OMAKE CLUB〉主宰/TOKYO HEALTH CLUBのDJ、プロデューサー)のスタジオでレコーディングしていて。制作中に「マスタリングをunderslowjamsのSUIさんにお願いしてみたいんだよね」って言ってくれて、僕らとしては「そんなこと可能なんですか? ぜひお願いします!」って感じでした。

――作品を通してSUIさんが抱いたジャバの第一印象を教えて下さい。

SUI:本人たちはカッコつけてるのかもしれないんだけど、破れかぶれな感じが僕は好きだなと感じました。その後ライブ観た時に、パワポを使って新曲の説明会みたいなコーナーも設けていて(笑)。音楽からちょっとはみ出すような演出もインパクトありましたし、マイクパフォーマンスで曲をグイグイ進める感じが彼ららしくてめちゃくちゃいいなと。

――「MONKEYS」のレコーディング時のことは覚えていますか?

JUQI:僕らだけでは気付けないような細かい部分を指摘してもらいました。一番覚えているのは、楽しげな雰囲気を出すために「体を動かしながらラップしてみれば?」というようなアドバイスをもらったこと。実際に言う通りやってみたら明るく楽しい雰囲気が出て、「こんな簡単なことで、ここまで変わるんだ」って思ったのを覚えていますね。

SUI:レコーディングとライブは別物なんですけど、それでもさっき言ったようなジャバのライブでの楽しさをパッケージしたかったんですよね。

JUQI:その頃から自分たちのラップにより豊かな表情が出てきたような気がしていて。本当、ありがとうございます!(笑)

――では、SUIさんから見たJUQIさんの印象は?

SUI:ジャバはメンバーみんなキャラが濃いので、その中にいる空白というか、敢えての“白”っていうイメージでした。ただ、ラッパーとしては短いヴァースの中にも引っかかるようなラインや言葉を必ず仕込ませてくる。ラップのスキルも申し分ないし、“やりよるな”っていつも思っていました(笑)。

JUQI:恐縮です(笑)。

――JUQIさんのソロ・プロジェクトは、SNSにカバー音源をUPするところからスタートしたようですが、その段階でSUIさんも関わっていたのでしょうか?

JUQI:発表したのはカバー音源、シングル、EPという順番なのですが、制作の時系列でいうとややこしくて。初のソロ作品「Bye again」をSUIさんと一緒に作った後に、いきなりソロ作品を発表するのではなく、流れとしてその前段階を作ろうということで、BAOBAB MC(以下:BAOBAB)と制作し始めたのがカバー音源なんです。

SUI:最初はオリジナル作品の方もBAOBABと作ってたんだよね。でも、どうやらその進みがあまりよくなかったみたいで、NOLOVから「JUQIのソロを手伝ってもらえますか?」って言われて。そこに加わってできたのが「Bye again」ですね。

JUQI:最初は本当に方向性が定まってなくて、BAOBABと色々なタイプのデモを作っていたんです。そこからSUIさんと一緒にやらせてもらうことになって、今のスタイルが見えてきた感じです。


JUQIの人間性も表れた『LuckySeven EP』制作秘話

――第1弾ソロ・シングル「Bye again」は映画のようなストーリーテリングをある種のテーマ、コンセプトにしたそうですね。こういったアイディアはどのようにして生まれたのでしょうか。

JUQI:SUIさんと制作スタッフ含め、どんな作品にしようかって話し合う中で生まれました。

SUI:NOLOVが「何か映画をテーマに書いてみれば?」って言ってくれたんだよね。JUQIはそういうストーリーテリングが得意だってことも自分でわかってなかったみたいで。いざやってみたら「できるじゃん!」ってなったのが「Bye again」。

JUQI:玉木宏さんと宮崎あおいさんが主演の『ただ君を愛してる』を題材に書かせてもらいました。もちろん自分で付け足したりした部分もあるんですけど。

SUI:その次の作品「Miss Untouchable」は実際に女性に振り回されているスタッフが制作チームにいたので、その体験談を元にして(笑)。

JUQI:「あ、そういう感じなんだ」って話を聞きながらリリックを膨らませていきました。相手を振り回す女性をイメージしながら、土日は本命と会う時間で、遊び相手となっている主人公とは水曜日に会う。そういう物語から<ではまた水曜日>、<キミ不在の金土日>っていうリリックが生まれたり。

SUI:ひとつ世界観とか物語を決めたら、そこに自分を投影して、一気に書き上げる。JUQIがそういうことが得意なんだっていうのは、今回の制作を通してわかったことですね。

――JUQIさんとSUIさんの間ではどのようにして制作を進めているのでしょうか。

JUQI:ビート、トラックを制作する前から話し合ったり、途中まで書いたリリックを見てもらって、その上で意見をもらったり。ただビートをもらうのではなく、その前段階から話し合って一緒に作っています。

SUI:最初にリファレンスとするアーティストや作品をいくつか挙げてもらって、それを僕なりに解釈して、いくつかトラックを作る。その中からJUQIが好きなものにラップを乗せてもらうっていうパターンが多いですね。それに対してフィードバックを返したり、アレンジしたりして練っていく。アレンジ段階で制作が止まっちゃってる曲もあるんですけど。

JUQI:実は「Bye again」はSALUさんの「ハローダーリン」へのアンサー・ソングという隠しテーマみたいなものがあって(笑)。あの曲はSUIさんとtake-cさん(underslowjams)がプロデュースしている曲なんですよね。

SUI:「ハローダーリン」に対して、洒落で「Bye again」ってタイトルを付けて渡したらそのまま使われて。そういうダジャレ的な感じで制作が進むことも多いよね(笑)。

JUQI:「Miss Untouchable」も実はリファレンスの中にあったAnderson .Paakの名前の語感から、「Miss Untouchable」っていう言葉が出てきて(笑)。そういうところからヒントを得ることも多いですね。たぶん、自分はゼロからイチを生み出すのが苦手で、何かひとつ種を見つけてから、それを育てていく方が得意なんだろうなって思います。

SUI:でも、「ラッキーセブン」はひとりで書いて持ってきたよね。「Bye again」と「Miss Untouchable」がわりとテーマを固めた上で書いた曲なので、「今度はもっと自由に書いてみれば?」って言って。

JUQI:確か「ラッキーセブン」のトラックを送ってもらった時に、「可愛い感じ」とか「ラブソング」っていう言葉が一緒に添えられていた記憶があって。トラックの雰囲気やその言葉からイメージを膨らませて書いていったんだと思います。

――では、「ラッキーセブン」は「Bye again」、「Miss Untouchable」と違って、自身の体験や感情を綴った曲になっていると。

JUQI:そうですね。出だしの<雲1つ無く晴れた昼間>とかは本当にリリックを書いていた時の景色で。そういった現実的な要素も盛り込みつつ作っていきました。

――『LuckySeven EP』にはソロ活動を本格化させる前に作ったという「Crush」も収録されています。この楽曲を改めて収録したのはどういった経緯なのでしょうか。

JUQI:「Crush」は2、3年前にBAOBABと一緒に作っていた曲で、SUIさんと一緒にやらせてもらうってことになった時に、その時点でのデモをまとめてお送りしたのですが、その中にも入れていて。制作を進めていく途中で、「昔もらった曲をちょっとアレンジしてみたけど、どう?」って送ってくれて。

SUI:アレンジというか、BAOBABが作ったサビをまるごとサンプリングしています。ちょっと前のLil Wayneみたいな、手法的にめちゃくちゃなことをしたくて。

――そもそも、この楽曲がどのようにして生まれたものかを教えてもらえますか?

JUQI:3年前に〈OMAKE CLUB〉からリリースされた『オマケのコンピ』で、chop the onionさんの「Leave Me Alone feat. ASHTRAY(JBHFC)」に参加させてもらったんですけど、1ヴァース目で言いたいこと全部言い切っちゃって。2ヴァース目を書き上げるのがすごく時間がかかってしまったんです。〆切もギリギリで、迷惑をお掛けしてしまって……。

SUI:グループ出身あるあるだよね。

JUQI:普段は1ヴァース書けば、残りはメンバーがラップしてくれるので。でも、このままじゃダメだと思い、すぐにBAOBABにビートをもらって16小節×2とか、8小節×3のラップを書くトレーニングを始めたんです。たぶん「Crush」はその中で一番最初にでき上がった曲だと思います。16小節×2に加えて8小節×3、さらにもう1ヴァースあるような、詰め込みまくった曲だったんですけど、そこから少し削ぎ落として。

SUI:元々はEPに入れるつもりはなかったんですけど、僕はこの曲の暗さが好きで。なよなよしているというか、リリックにもある通り“女々しい”感じ。こういう感情ってカッコ悪いんだけど、すごく多くの人が共感できるものだと思うんです。そういう意味ではとてもポップな作品だし、これをデモで埋もれさせるのはもったいないなと。あと、初のEPなので、やっぱりもっとJUQIの人間性が伝わるような曲も収録した方がいいと思って、提案させてもらいました。

――では、最後に「Here I Am」についても教えて下さい。

JUQI:制作時期で言うと「ラッキーセブン」と同タイミングだったと思うのですが、この曲も当初はEPに入れる想定ではなくて。

SUI:「Here I Am」のトラックは、送ってすぐに「これ、めっちゃ好きです!」って返ってきたことを覚えています。ぱっと聴きポップなんだけど、曲に込めたメッセージでヒップホップとして愛される。そういった要素をJUQIの作品にも取り入れてみたいなと思って。

JUQI:リリックでは一番自分と向き合った曲と言えるかもしれません。僕、基本的にはポジティブなタイプなんですけど、この曲のリリックを書いた時は嫌なニュースばかりが入ってきたのと、同時に音楽をいつまで続けられるんだろうかって考えるようになったタイミングで。不安もあるし、すごく悩むこともあるんですけど、それでも自分にとって音楽以上に好きなことはないなってことにも気づけた。リリックの“キミ”は聴いてくれている人にも向けていますが、“音楽”そのものを指してもいて。音楽を通して色々な人に出会えた、そして色々なことを体験できた。そういったことを表現できたのかなと思います。


修行の期間を経て

――タッグを組んでEPを制作した上で、改めて感じたお互いの印象、特性などがあれば教えて下さい。

SUI:本人にもちょっと前に伝えたのですが、僕が一緒に仕事をしていて好きだなって思うアーティストは、1伝えたら1.2で返してくるというか、+αの意見やアイディアをくれる人。でないとなかなか前進できないんですよね。JUQIはそれをコンスタントにやってくるし、その発想がおもしろいんです。そうなるとこちらのモチベーションも上がるし、僕も得るものが多い。一緒に制作をしていて楽しいですね。

JUQI:僕は本当にがむしゃらに作っているだけで、それをしっかりと形にしてくれる。正しい道に案内してもらっているというイメージです。なので、感謝しかないですね。

――今回リリースされたEP収録曲以外にも制作している作品はありますか?

JUQI:はい。今作には収録していないような思いっきりトラップなビートで、オートチューン効かせた感じの曲もやってみたいねっていう話もしていたり。

SUI:トラップのビートで、オートチューン効かせた歌モノ系のラップ・ナンバーって今たくさん発表されていますけど、言葉やメッセージ性の部分ではまだ追求できる要素があるんじゃないかなと思っていて。ちゃんとしたトラップを下敷きにしつつ、その上でしっかりと歌う。そういうことができればなとは考えています。

JUQI:あと、クリスマス・ソングも公開する予定です。僕、クリスマスに関する曲を書いたことがなくて。

SUI:9月くらいから言ってたよね(笑)。さっきもゼロからイチを生み出すのが苦手とか言ってましたけど、実はそんなことないと思うんですよ。ただ、自分ではあまり言葉にできない。なので、僕がトラックを投げつつ「こうじゃない?」って誘導すると、ちゃんと強い想いが出てくる。

JUQI:確かに。SUIさんにいつも引っ張り出してもらってます(笑)。

――ソロ・プロジェクトを本格的に始動させ、初のEPもリリースしましたが、改めてその感想をお聞きしてもいいですか。

JUQI:意外とひとりも好きだなと思いました。たまには自分自身と向き合うのもいいなと。ただ、これはジャバっていう戻れる場所があるからこそなんですよね。みんなといれる場所があるから、たまにひとりになるのもいいなって思える。

――ROVINさんもおっしゃっていましたが、JUQIさんもソロ活動で得たものをジャバに還元したいという思いが強いと思います。今年はコロナ禍ということもあり、外から見ているとジャバとしての動きはあまりなかったように感じました。実際、ジャバにとってはこの2020年はどのような期間だったと言えますか?

JUQI:4人の中では「修行の期間にしよう」と話していました。表立った動きはROVINと僕だけに見えるかもしれませんが、BAOBABもSUIさんに師事してもらいつつ制作合宿も行いましたし、NOLOVはROVINと僕のソロ・プロジェクトにも大きく関わってくれました。4人それぞれがやるべきこと、今やれることをやろうという感じですね。ジャバとしてまた動き出す時に、何か還元できるようにっていうことは常に考えていて、ソロ・プロジェクトも独り立ちするためではなく、ジャバの今後の可能性を広げるため、という思いで動いています。僕はジャバでやってなかったことをソロ・プロジェクトでやって、それを持ち帰ればジャバの選択肢が広がるはずだと。

SUI:それぞれが筋トレしていた感じだよね。

JUQI:そうですね。実際に今、ジャバとしても徐々に動き出していて。SUIさんにも色々と協力してもらっています。

――では、SUIさんは今後のジャバに、どのような動きを期待しますか?

SUI:自分は彼らにどうこう言える立場ではないのですが、自分がヒップホップやラップ・ミュージックのシーンで20年近くかけて培ってきたものは、出し惜しみなく彼らに伝えていけたらなと思っています。若さ故の勢いや衝動だけで作り上げるのではなく、一聴してやりたいことや伝えたいことが明確にわかるような作品作りのお手伝いができたら嬉しいですね。

JUQI:4人それぞれがこの修行の期間を経て、何を持ち帰ってきたのかを楽しみにしてもらえればなと思います。作品としてもライブの面でも、絶対にパワーアップしているはずなので。


【リリース情報】

JUQI 『LuckySeven EP』
Release Date:2020.12.16 (Wed.)
Label:Sony Music Labels
Tracklist:
1. ラッキーセブン
2. Miss Untouchable
3. Bye again
4. Crush
5. Here I Am

■JUQI:Twitter / Instagram


Spincoaster SNS