シドニー出身の3人組、DMA’Sの3作目となるアルバム『The Glow』が本日7月10日(金)にリリースされた。
悪ガキのような雰囲気も相まり、“Oasisの再来”と呼ばれたデビュー時から本国を飛び越えイギリスやヨーロッパでも確固たるロック・バンドとしての地位を得ていた彼ら。かのMichael Jacksonの『Thriller』を始め、著名な作品を多数輩出したLAのウエストレイク・レコーディング・スタジオでも制作されたという新作『The Glow』は、Primal Screamのヒット作『Screamadelica』を彷彿とさせるダンサブルな「Never Before」、The Killersのような叙情的で力強いシンセが印象的な「Life is a Game of Changing」など、エレクトロニック・ミュージックの要素を昇華。ブリット・ポップ・リバイバルから逸脱し、さらなる進化を遂げたことを高らかに告げるような作品だ。
力強く歌われるタイトル・トラック「The Glow」やエモーショナルなピアノから始まるポップな「Criminals」は間違いなくロック・アンセムス。コロナ禍で中々実現できないスタジアム・ライブの一体感が恋しくなってしまうような1曲だ。“喜びなどの高まり”と言う意味も持つ『The Glow』というタイトルに相応しい、エキサイティングでドラマティックな作品になっている。今回はDMA’Sにインタビューを敢行。コロナ禍の中での活動から待望の新作『The Glow』について、メンバーのJohnny Tookが応えてくれた。
Interview & Text by Aoi Kurihara
Photo by Mclean Stephenson
――最近、シドニーのスタジオに戻ったとSNSに投稿していましたが、今また制作活動をしているのでしょうか。
Johnny:その通り。このロックダウン期間を活かしてできるだけ曲を書こうとしてるんだ。ずっと家にいるから、ソングライティングとプロダクションに時間を使ってる。ニュー・アルバムのリリースにももちろん興奮しているけど、それより先の未来もすでに楽しみだね。
――自宅でのセッション映像でFatboy Slimの「Praise You」をカバーしていましたね。ツアーやフェスが中止/延期となる中で、自宅でのライブ・ストリームの機会も多くなったのではないかと思いますが、実際どのように感じていますか。やはりツアーでの旅やライブの興奮、ファンとの一体感等が恋しいですか。
Johnny:あのカバーは楽しかったな。「Praise You」は最高の曲だよね。その他にもカバーは結構たくさんやってる。普段は女性ボーカルの曲が多いんだ。なぜかというと、原曲とカバーが確実に異なる作品になるから。アルバムも出るし、もちろんライブやりたい。パフォーマンスする準備は万端なんだけど、今は状況が状況だから難しいよね。今できることは、クリエイティブになることだと思う。ロックダウンの直前にロンドンのブリクストン・アカデミーでソールド・アウトのショーができたのはすごくラッキーだったな。あのショーは全部撮影したから、オンラインで配信もした。皆にパフォーマンスを届けることができて嬉しかったよ。
――NMEのインタビューで、「オーストラリアにいるときは自分たちがオーストラリアのバンドと思うけれど、イギリスではイギリスのバンドだと思っていて、自分たちはその間のどこかにいるのではないか」とおっしゃっていました。オーストラリアとイギリスでの音楽シーン、リスナーにどのような違い、または共通点を感じますか。
Johnny:比べたことがないからわからないけど、とりあえずイギリスにはオーストラリアよりも多くの人がいる。だからこそ、人に届けるということがより難しいことだと感じている。最近はオーストラリアの音楽シーンも結構良いんだよ。今は世界もオーストラリアの音楽に注目するようになったと思う。良いアクトが沢山出てきているし。友達と盛り上がれるっていうのは良いよね。
――新作の『The Glow』について、ハリウッドの歴史あるウエストレイク・レコーディング・スタジオでのStuart Priceとの制作の経験はどのようなものだったでしょうか。彼との仕事で学んだことを教えてください。
Johnny:アルバムは3箇所でレコーディングしたんだ。ひとつ目は、今おれがいるこの場所。シドニーから1時間くらい離れた自然の中にある小屋。すぐ隣に池があって、すごくキレイな場所。ここでは「Round & Around」と「Silver」をレコーディングした。Stuart Priceとはロンドンでも作業したんだ。ロンドンでは3曲をレコーディングして、残りをウエストハリウッドでレコーディングした。彼との作業は最高だったね。彼は人としても穏やかだし、スタジオに入るとまるで魔法使いみたいなんだ(笑)。
DMA’Sはギター・バンドだけど、今回のアルバムでおれたちはそこにエレクトロニックの要素を入れたかった。彼はそこに大いに貢献してくれたんだ。彼から学んだことは計り知れないけど、メロディへのアプローチはそのうちのひとつ。これまで言葉やギターで表現していたメロディを、代わりにシンセで奏でるとかね。ちょっとしたことだけど、そういうのは新鮮でクールだったね。
――アルバムのアートワークの鳥は何を象徴しているのでしょうか。
Johnny:あれはアイバスっていう鳥で、オーストラリアでは有名な鳥。いっつもゴミを漁ってる(笑)。アートワークのアイバスはカラフルでカッコいいけどね。最初のEPでもこの鳥を使ったから、今回も取り入れることにしたんだ。最初にアイバスを使った理由は、世界中に生息している鳥ではあるけど、オーストラリア、特にシドニーで有名な鳥だから。俺たちがシドニー出身ってことで使うことにしたんだよ。DMA’Sのマスコットみたいなものだな。
――前作でも電子ドラムのビートを取り入れたりはしていたと思うのですが、今作で、ブリットポップ・サウンドから、エレクトロニック・ミュージックの要素をより感じられる作品になったと思います。90年代のレイヴ・ミュージックからの影響だそうですが、なぜこの3作目にしてこういったエレクトロニックな要素を取り入れようと考えたのでしょうか。
Johnny:エレクトロニック・ミュージックにはコストが高くて、これまでは予算がなかったんだ(笑)。シンセとか機材とか買わないといけないからさ。ギター・ミュージックだったら、ギター一本あればお金がなくてもなんとかなるんだけど(笑)。
今回は、バンドが前よりビッグになったからこそ、たくさんの機材を購入できたんだ。そのおかげでユニークなサウンドを発掘できて良かったと思う。永遠に同じようなギター・レコードを作り続けたくはなかったしね。色々な音を探求して、バンドとして成長し続けていきたいし。
――エレクトロニック・ミュージックを取り入れて良かったと思う点は?
Johnny:ライブで演奏するのが待ちきれないよ。これまでにもアップビートなロックンロール・ソングや一緒に歌えるアンセムスはあったけど、ダンス・ソングはなかっただろ? 今みんなフェスやライブに行きたくてうずうずしてると思うし、そんな中DMA’Sと一緒に踊ってもらえたら最高!
――Johnnyはエディンバラで一時生活していたそうですが、なぜエディンバラをチョイスしたのでしょうか。今後、音楽制作のために住んでみたい国や街はありますか。
Johnny:エジンバラはすごくいいところ。スコットランドって前からなんか魅力を感じてたんだよね。ライブをする時もオーディエンスの反応はいつもいいし、風景も素晴らしい。まるでホグワーツみたいでさ(笑)。あと、おれのパートナーでミュージシャンのHayley Maryのお父さんがグラズゴー出身っていうのもある。だから、自分たちのルーツにちょっと触れてみたいというのもあって、スコットランドで生活してみることにしたんだ。ミュージシャンとしても、様々ま場所でインスピレーションを受けるのは大切なことだしね。次またスコットランドに住むなら、今度はグラズゴーにするかも。あとLAにはいつか住んでみたい。東京で曲作りをしてみるのもいいかもね。東京って自分たちが住んでる場所と全然違うからさ。
――アルバムのタイトル・トラックである「The Glow」は耳馴染みのいいキャッチーなアンセムスですが、歌詞は、“This is the end of all”と繰り返すようにネガティブな感情のようにも思います。この曲のテーマを教えてください。
Johnny:歌詞の通りさ。“The Glow”(=光)を追うのにうんざりして疲れた状況。より良いものを求め続ける中での変化だね。でも、その変化は悪いことではなく良い変化なんだ。自分の人生を受け入れ、上手く共存しながら生きていく。それこそが真の“Glow”なのかもしれない。今の状況にも言えることだと思う。この曲はおれがDMA’Sを始める前、6年前くらい前に書いた曲なんだ。もしかしたらおれたちは、このアルバム『The Glow』でその光に辿り着いたのかもしれないな(笑)。
――その曲を何故今書き直し、または仕上げようと思ったのですか?
Johnny:おれたちの曲の多くは、何年も眠っていたものなんだよ。おれたちの場合、その曲をどう仕上げていいかわらかなくなったら、無理に急いでそれを仕上げようとするんじゃなくて、自然にアイディアが出てくるまで寝かせておくんだ。「Silver」も6年前に書いた曲だし、「Cobracaine」も「Delete」(2016年発表の1stアルバム『Hills End』収録曲)と同じ時期に書いた曲だよ。
――そのアルバム最後の「Cobracaine」は祝祭感あるエレクトロニック・サウンドが展開される、あなたたちの音楽的進化が顕著に表れた、アルバムを締め括るのに相応しい曲だと思います。実際にはMattが18歳の時に書いた曲だそうですね。10代の頃に作った曲を、どうやってブラッシュアップしていったのでしょう? また、なぜこの頃の曲をこのタイミングで世の中に出そうと思ったのでしょう?
Johnny:「Cobracaine」は実は6年前、DMA’Sがスタートした時に一度制作に取り掛かった作品なんだ。その時はもっとスローで、ギターもノイジーだった。でも、何かが引っ掛かって、しっくりこなくてさ。レコードを出すたびに人目ってものを経験するようになるし、この曲を出すのはちょっと怖かったんだ。でも、今回はシンセやドラム・マシンの知識も前より増えたし、今回はそれを使うこともできたから、リリースする準備が整ったんだよ。(今作のプロデューサーである)Scott Horscroftと一緒に考えた新しいメロディを乗せた。あのメロディが曲をさらに美しくしてくれたんだ。
――「Life Is A Game Of Changing」のMVはタイのバンコクとパッタヤーで撮影されたそうですね。どうしてタイを舞台にしようと思ったのでしょうか。
Johnny:MVの監督(Bill Bleakley)が通っていたビデオ・スクールのクラスメイトの中に、タイ出身の生徒がいたんだ。彼を通してタイの人たちと繋がった。ちなみに、ビデオに出演してくれたタトゥーがある人は、Mattがインターネットで発見したタイのDMA’Sファン(笑)。「ビデオに出たい?」って聞いたら返事がきたらしい(笑)。
――アパートでレコーディングしていた初期の頃から、大きなライブ会場でのギグを経験したり、様々な賞を獲得して、国を越えたビッグ・バンドになりました。自分たちが成功したなと感じるエピソードがあったら教えてください。それともまだ自分たちは成功の道の途中にいると思いますか?
Johnny:ブリクストン・アカデミーのショーがソールドアウトになった時かな。5000人の前でプレイしたんだけど、あれは最高の気分だった。あとは、オーストラリアのフェス『Splendour in the Grass』で、夕暮れ時にプレイした時。30000人くらい人がいたんだけど、本当に素晴らしい瞬間だったね。でもバンドはまだまだ始まったばかり!(笑)
――では何を持って成功したと思えると思いますか?(笑) ゴールはありますか?
Johnny:フジロックでヘッドライナーを務める時!(笑)
――JohnnyはPLANETで活動している兄弟のMattyと一緒にBig Timeという別のプロジェクトを始めましたよね。この兄弟でのプロジェクトは、コロナウイルスでのステイホームがきっかけで始めたのでしょうか。
Johnny:Mattyとは小さい頃から一緒に音楽を作ってきたんだけど、ここ数年はおれもMattyもそれぞれのバンドで忙しくて時間がなかったんだ。でも、コロナ・パンデミックが始まってから時間ができてしまった。だから、今まで制作していたものをやっと外に出す機会がきたんだ。
――最近のお気に入りのアルバムを教えてください。
Johnny:The Chemical Brothersの『Further』。聴くたびに毎回新しい発見があるんだ。サウンド、プロダクション、なにかしら必ずそれまでに気づかなかったことに気がつく。あの作品を聴くたびにインスピレーションを受けるよ。
――最後に、今年はとても厳しい年だと思いますが、年内はどのように過ごしていきたいですか。
Johnny:新しいアルバムを作ることと、それとは別で様々なミュージシャンたちと作業をして色々と学びたい。良い作品を聴くこともそうだし、自分のスキルを上げるために何かをする期間にしたいと思ってる。あとは、今年中にショーができたらいいんだけど。
――ありがとうございました。
Johnny:こちらこそ! また日本にいけるのを楽しみにしてるよ!
【リリース情報】
DMA’S 『The Glow』
Release Date:2020.07.10 (Fri.)
Label:I OH YOU / BMG / ada
Tracklist:
01. Never Before
02. The Glow
03. Silver
04. Life Is a Game of Changing
05. Criminals
06. Strangers
07. Learning Alive
08. Hello Girlfriend
09. Appointment
10. Round & Around
11. Cobracaine