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REPORT / 佐藤千亜妃 “TIME LEAP” Release Party『LEAP LEAP LEAP』


佐藤千亜妃による半年ぶりのワンマンは、“私たち”の記憶をめぐるタイムマシーンに乗って――。

2023.03.07

Text by Yuki Kawasaki
Photo by Takeshi Yao

佐藤千亜妃の最新EP『TIME LEAP』のリリース・パーティが2月24日(金)、東京・渋谷WWWで開催された。

ひとつ前のEP『NIGHT TAPE』のリリース・パーティ以来、実に半年ぶりのワンマン・ライブである。前回のタイトルが『LOOP LOOP LOOP』だったのに対し、今回は『LEAP LEAP LEAP』。『TIME LEAP』がリリースされた段階で何となくこの2つのEPには繋がりを感じていたが、それを具体的に実感できた。事実、「Summer Gate」のリミックスを除き、今回のライブでは『NIGHT TAPE』に収録されている楽曲もすべて披露された。現行のビート・ミュージックを基軸に、秘密の夜を超えて、時間旅行へ――。

バンド編成で臨んだ今回のライブは、フロントマンの佐藤千亜妃を含めた5人構成。小川翔(Gt.)、まきやまはる菜(Ba.)、大井一彌(Dr.)、中村圭作(Key.)が名を連ね、極めてジャンルレスなサウンドが展開されていた。ジャズやファンク、ポストロックまでを自在に往来できる彼ら/彼女らは、人力でビート・ミュージックを再現するのに最適な人材だ。佐藤千亜妃曰く、「大井一彌ぐらい打ち込みの音をカッコよく叩けたら、そりゃあドラムも楽しいだろう」とのこと。筆者も彼がDATSやyahyelで演奏する度に、全く同じことを思う。

冒頭2曲に「Summer Gate」と「Lovin’ You」を持ってきていたが、今回のメンバーのポテンシャルとテーマ性を知らしめるには十分な幕開けだった。

セットリストにも白眉があった。続く「S.S.S.」や「真夏の蝶番」は、まさしく夜の“秘密”を共有するような内容である。これらの曲を披露するのに、WWWは極めて規模感がフィットした箱だ。さながら深夜ラジオの公開収録のような、あるいはインディ映画の試写会のような、静謐だけれども確かな熱量があった。それゆえに、直後の新曲ゾーンへと自然に誘われ、我々の時間旅行が本格的にスタート。宇多田ヒカルの「Automatic」のサンプリングを皮切りに、“それぞれの”時代へと繰り出した。

佐藤が(「タイムマシーン」のアレンジャーである)Chaki Zuluによって“宇多田ヒカル性”を見出されたのは、彼女がサントリー“ほろよい”のCMソング「今夜はブギー・バック nice vocal × 水星」に起用された時だった。彼女のヴォーカルを収録する際、スタジオにて同氏から「昔の宇多田ヒカルを思い出す」と指摘される。オールドスクールな素晴らしい音楽の影響力は、必ずしもリアルタイムに限らない。時を超え、まさしくタイムマシーンのごとく人に作用することがある。1998年にリリースされた「Automatic」が2020年代の佐藤千亜妃を照らし出すように、傑作はそれぞれの未来に光明をもたらすのだ。

そして「今夜はブギー・バック nice vocal × 水星」の後、縁が巡り佐藤とChaki Zuluは「タイムマシーン」で再びタッグを組む。

「CAN’T DANCE」、客演にa子を迎えた「melt into YOU」が披露されてから、印象的なMCがあった。「『EYES WIDE SHUT』は有名な映画と同じタイトルではあるんですけど、内容は全然違っていて。実は私、子供の頃“変わってる”ってよく言われてたんです。自分でもその自覚はあって、あまりよく思ってなかった。でも大人になってから、“それでもまぁいいんじゃない?”って考えられるようになってきて。この曲は、今の私が当時の自分に向けて書きました」。

彼女の誠実さは歌詞にも表れている。この曲は現在の私から見た“結果論”ではなく、その時間軸まで遡った上で自身の背中を押しているのだ。《だから今だけ EYES WIDE SHUT》というフレーズから分かるように、彼女はまさにタイムマシーンに乗るようにしてその時点まで下りて行っている。2021年にリリースされたフルアルバム『KOE』にも顕著だったが、佐藤千亜妃は闇に対して極めて真摯だ。ラブソングを歌うにしても、人の薄暗い部分まで克明に描いてみせる。『TIME LEAP』では“How”の文脈、すなわち時間旅行でもって、その陰影と対峙した。

さらに、ライブではその切実さがより普遍的なものに変貌する。オーディエンスに向けて語りかけるように歌われる「EYES WIDE SHUT」は、彼女自身だけでなく、その場にいる人の背中をも押す。トラウマや薄暗い感情の所在は人によって様々だが、それゆえに彼女の体験にその人自身を重ね、救われた人がいるかもしれない。その意味では、『TIME LEAP』はSF的でありながらも私小説的な音楽作品だと思う。

最もタイムリープ的体験を得られたのが、「1DK」だった。発声の仕方や素朴な都市生活の描写が「東京」を彷彿させるこの曲は、“私”を2014年に連れて行ってくれた。きのこ帝国を渋谷のタワレコで知り、彼女たちと同期のバンドを発掘するのに勤しんでいたあの頃。当時の私は、毎週のように渋谷のTSUTAYAへCDをレンタルしに行き、手当たり次第サーキット型のフェスに繰り出していた。WWWにいながら、頭の中ではめくるめく時間旅行が展開され、あの頃の感情や経験をありありと思い出していた。

あえて“私”と書いたのは、同じようにタイムトリップへ出かけていたオーディエンスがいると推測するからである。そこは2016年の野音かもしれないし、いつかの『BAYCAMP』かもしれない。とにかく、佐藤千亜妃の足跡を辿りながら、同じく“自己”を発見したであろう同志の存在を感じずにはいられなかった。

カッティングエッジな音楽を追っていると“新しさ”ばかりを追求してしまうが、自身の足跡をもう一度検証することに後ろめたさはない。“ひとりには少し広い部屋”が、それを優しく教えてくれた。

その流れで聴くアコースティックVer.の「Who Am I」は、それはもう格別な響きを持っていた。過去を辿った先に、現在の私がいる。繰り返すが、やはりこの日のセットリストは完璧だったと言い切れる。

音楽的な発見も多くあった。『NIGHT TAPE』に収録されている「PAPER MOON」は、リスニング・ミュージックとして出色の完成度だ。が、盤石の編成で聴くライブ・バージョンは、さらに身体性と熱いグルーヴを伴って聴こえる。それはさながら、打ち込みの内省と生身の演奏による情熱の邂逅。実にアンビバレンスな、けれども音楽として端正な仕上がりだった。

それは「夜をループ」にも言える。有歓声の許可が下りたことによってようやくオーディエンスとのシンガロングが可能になり、この曲の真価が発揮されたようだった。

アンコールでは新曲「花曇り」が披露され、少しだけ先の未来(春)の景色まで見せてくれた。しかしこの曲も“春が来たぜ超ハッピー!”的な内容ではなく、ほの暗い切なさがある。

必ずしも望んだ評価や未来が待っていなくても、音楽があればきっと大丈夫。ラストナンバーの「カタワレ」では、ささやかだけれども信頼できる終着が訪れた。秘密の夜を経由した時間旅行は、少しだけ背中を押してくれる音楽に辿り着く。

それは確かな手触りとぬくもりのある、幸せな旅路だった。

SETLIST
1. Summer Gate
2. Lovin’ You
3. S.S.S.
4. 真夏の蝶番
5. タイムマシーン
6. CAN’T DANCE
7. melt into YOU feat.a 子
8. EYES WIDE SHUT
9. 1DK
10. Who Am I
11. lak
12. PAPER MOON
13. You Make Me Happy
14. Bedtime Eyes
15. 夜をループ
en1. 花曇り
en2. カタワレ

佐藤千亜妃 “TIME LEAP” Release Party「LEAP LEAP LEAP」 SETLIST配信リンク


【イベント情報】


“TIME LEAP” Release Party 『LEAP LEAP LEAP』
日時:2023年2月24日(金) OPEN 19:00 / START 19:30
会場:東京・渋谷WWW

佐藤千亜妃 オフィシャル・サイト


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