Text by Ryutaro Kuroda
Photo by Desital Natives
『Suchmos The Blow Your Mind 2025』、5年8ヶ月ぶりの有観客ライブである。2021年2月より活動を休止していた彼らの再始動を目撃しようと、2日間のライブで計20万枚のチケット応募が殺到したという横浜アリーナ2days公演だ。これは2010年代に彼らが塗り替えたシーン、およびその奇跡が不在の間も色褪せることなく、むしろその影響が様々な形で萌芽しながら、彼らに対する飢餓感が育まれていた証左だろう。昨年アナウンスされた復活の一報からこの日まで、Suchmosに対する期待は膨らむばかりだったように思う。本稿では2days公演の初日、6月21日(土)の様子をお届けする。
……会場が近づくにつれ、どうしたって思い出すのは休止を発表した年に亡くなったHSUのことである。きっと誰もがそうだろう。久しぶりのライブ、というだけでなく、彼がこの世を去ってから初のライブなのだ。定刻まで20分そこそこ、というところでアリーナに入ると、会場ではThe Birthdayの“カレンダーガール”が流れていた。そうか、この間に亡くなったのはHSUだけではない(ちなみにコロナ禍で中止になった2020年のツアーでは、The Birthdayとの対バンも予定していた。偶然の一致だろうか? Suchmosの再始動一発目の作品『Sunburst』は、The Birthdayのラストアルバムと同じタイトルである)。

さておき、アンコールに登場したYONCEが語ったように、オーディエンスの中にも「近しい人を失った人もいれば、新しい命を育んでいる最中の人もいる」のだろう。誰の人生にも出会いと別れがあり、オーディエンス一人ひとりがそれぞれの想いを抱えてこの音楽を聴きにきたはずだ。この日の主役である6人がステージに登場すると、「おかえりー!」という声が聴こえてくる中、TAIHEIが撫でるようなタッチで鍵盤を鳴らし、そして“Pacific”から久しぶりのライブが始まった。

新曲“Eye to Eye”にいきなり持っていかれる。TAIKINGの小気味よいカッティッグが映える華やかなR&Bといった印象で、先日リリースされた“Whole of Flower”然り、リリースを控える新作EP『Sunburst』でSuchmosはすでに新しい場所に行っているように思う。勢いが加速したのは“DUMBO”辺りで、原曲よりもテンポが速く、かなり走っているような気がした。いや、実際にそうだったのか、自分が興奮し過ぎていただけなのかはわからない。ともかくこの曲のOKのドラムには昂るような感触があり、TAIKINGのプレイも迸るような熱量である。「ギターを弾いている」というより、全身の細胞から音を鳴らしているような気迫を感じたのだ。

それにしても破格のボーカルだ。威風堂々、という言葉はこんなときに使うのだろう。YONCEのボーカルはのっけから迫力満点で、なんというか、有無を言わせない凄みがあった。そしてそのエネルギーが、終演まで衰えることなく続くのである。観客席から見て向かって左、バンド全体を眺めるように演奏するTAIHEIの破顔した表情も印象的で、技術があるだけではない、この6人で鳴らすのが楽しくてしょうがないといわんばかりのプレイに惹きつけられる。代表曲の“STAY TUNE”ではイントロのフレーズだけで怒号にも似た歓声が上がるなど、彼らがシーンに帰ってきたことを実感。どことなくニヒルな表情で歌うYONCEと、ヒリヒリと肌を焼き付けるようなアンサンブルがカッコいい。
さて、本当は最初に触れるべきだったのかもしれない。この2日間の重要なファクターとして、サポートベーシストとして参加した山本連(LAGHEADS)の存在を挙げないわけにはいかないだろう。後のMCで「1年ほど前からこのメンバーで集まり始めた」と語っていたが、彼のプレイは上手くSuchmosの音に溶け込んでおり、しなやかにして軽快なサウンドが堪らなく身体を揺らしていく。“808”辺りから一層惹き込まれ、なんとなくベースを追うように聴いていたところで、YONCEからも「Ladies and Gentlemen、紹介します。オンベース、山本連!」という一声が放たれ、会場からも俄然歓声が上がっていく。

「帰ってきたというか、また新しく始まったと言うべきかわかりませんが、今日この場所に来てくれてありがとう」(YONCE)という挨拶を挟み“PINKVIBES”へ。ここからはもうすこぶるテンションが上がる一方である。OKが叩くエネルギッシュなドラムと、これでもかと腰を揺らすベースが強烈な“Burn”は、バイオレンスな印象を与える赤黒い映像も相まってアリーナの温度がさらに上がっていったような印象だ。ハッキリ言って、超絶踊れる“Alright”まではほとんど記憶がない。

「今日は夏至なんですよ。昼間が一番長い日。だから普段いないやつも来てるんじゃない? そんな気がする」(YONCE)というMCの後だと“MINT”の歌詞はなおさら響き、そこから先日リリースされた“Whole of Flower”へと繋がっていく。この曲のなんと涼やかなこと(さっき上がった温度がここで戻ったと思う)。心の奥に染み渡るような鍵盤で始まり、どちらかといえば全体的に抑えた音数で聴かせる、Suchmos流のフィリーソウルと言ったところか。YONCEのボーカルは雲に乗ってどこまでも飛んでいきそうな軽やかさがあり、この日一番溌剌とした演奏だったように思う。
次も『Sunburst』に収録される新曲“Marry”である。YONCEはアコギを弾きながら歌っており、フォーキーなニュアンスを取り入れたロック調のラブソングのよう。そこからブルージーなギターが感傷を誘う“OVERSTAND”に接続。こちらはどこか夢想的で、心の内側から沸々と込み上げてくるような熱気を感じる演奏である。しかし新曲の“To You”でその景色は一変する。メンバー全員がおちゃらけたようなテンション……もとい、若返ったような勢いで聴かせる爽快なファンクナンバーである。アンサンブル全体に活力があり、思わず笑ってしまうような1曲だ(この曲が『Sunburst』に収録されないなんて!)。ちなみにYONCEはどれだけおどけてみても、喉を震わせれば色気が伴うボーカルを聴かせるからカッコいい。
Kaiki Oharaのスクラッチが気持ちいいインスト主体の新曲“Latin”では、じゃがたらの“でも・デモ・DEMO”を引用するサプライズである。YONCEは《思いつくままに動きつづけろ》と歌い、サウンドに身を任せて身体をくねらせる……この日のセットリストでは異色のインストナンバーと言えるだろう。その途中で演奏を止めると、メンバーの一人ひとりがこのライブへの思いを語る。OKが叫んだ「今日ここに来れなかった仲間に一言言わせてくれ。バカヤロー! ありがとなー!」は、どんな言葉よりも雄弁だったと思う。

最後は“GAGA”、“VOLT-AGE”、“YMM”を歌って終演。ダイナミックなサウンドに飲み込まれて、そこから出られなくなるんじゃないかと思った“VOLT-AGE”が痛快で、“YMM”のベースソロはカッコよすぎてクラクラした。きっとこのアリーナに詰めかけた1万人超のオーディエンスがそう感じたはずだ。山本連を加えた6人体制が今回限りのものなのか、はたまたパーマネントなものになっていくかはわからない。だが、またこのメンバーでの演奏を聴きたい。というか、やればやるほど育っていくのではないかと思わせる快演である。
アンコールに登場したYONCEはHSUについての想いを語り、「失ったものはかえってこない。だからずっと覚えていたいし、ずっと想っていたいと思います。一瞬、目を瞑って深呼吸しませんか?」と語りかけ、彼らの心の声が聴こえてきそうな数秒の静寂を挟んだ後、「クソバカな友達に贈ります」と告げて新曲“Stand By Mirror”を披露。叙情的な気分を含んだロックンロールは、先のMCの後ではガツンと響く。思えば彼らの音楽はどこまでも情熱的で、それでいて心のひだにそっと触れるような繊細さがある。だからこの音楽には、涙も笑顔も似合いすぎるのだ。最後は“Life Easy”をプレイ。黄昏時を思わせるしみじみとした音色があたたかく、《自分の言葉でsing along》《踊ろう 踊ろう》という歌が、先ほどの“Latin”と対になっているような気がした。
若いバンドにインタビューをしていると、Suchmosの名前は本当によく挙がる。この5年半ほどの間にも、彼らが耕したシーンから新たなバンドが次々と飛び立っているのだ。でも、本当の楽しみはまだこれから先にあるのだろう。この日披露された新曲はそのどれもが素晴らしく、真新しい気分を感じた。7月2日(水)にはEP『Sunburst』のリリースを控え、10月末からは海外公演を含む13都市を巡るアジアツアー『Suchmos Asia Tour Sunburst 2025』を開催するSuchmos。新しい風が確かに吹いている。ウェルカムバック、また旅が始まるのだ。
02. Eye to Eye(新曲)
03.DUMBO
04. STAY TUNE
05. 808
06. PINKVIBES
07. Burn
08. Alright
09. MINT
10. Whole of Flower(新曲)
11. Marry(新曲)
12. OVERSTAND
13. To You(新曲)
14. Latin(新曲)
15. GAGA
16. VOLT-AGE
17. YMM
En1.
6月21日(土)Stand By Mirror(新曲)
6月22日(日)BOY(新曲)
En2. Life Easy
【リリース情報】
Suchmos 『Sunburst』
Release Date:2025.07.02 (Wed.)
Label:F.C.L.S.
Tracklist:
1. Eye to Eye
2. Marry
3. Whole of Flower
4. BOY
【イベント情報】
『Suchmos Asia Tour Sunburst 2025』
2025年10月29日(水)神奈川 KT Zepp Yokohama
11月2日(日)福岡 Zepp Fukuoka
11月3日(月)大阪 Zepp Namba
11月8日(土)広島 BLUE LIVE HIROSHIMA
11月14日(金)北海道 Zepp Sapporo
11月16日(日)宮城 仙台 PIT
11月21日(金)愛知 Zepp Nagoya
11月23日(日)韓国・ソウル YES24 LIVE HALL
11月26日(水)中国・上海 VAS est
11月28日(金)台湾 ZEPP NEW TAIPEI
11月30日(日)タイ・バンコク VOICE SPACE
12月06日(土)富山 クロスランドおやべ
12月12日(金)東京 Zepp Haneda
12月13日(土)東京 Zepp Haneda
・チケット(国内公演)
オフィシャル一次先行(ぴあ):〜7月7日(月)23:59