Text by Takazumi Hosaka
Photo by fukumaru
E.scene初のワンマン公演が3月10日(金)、東京・新宿MARZにて開催された。
2018年に結成され、わずか1年で『出れんの!? サマソニ!?』最終選考に選出、さらに『FUJI ROCK FESTIVAL』内の新人ステージ「ROOKIE A GO-GO」へ出演を果たすなど、急速に知名度を拡大させた彼ら。そのようなキャリアを考慮すると、今回の初のワンマン公演はやや遅く感じられるかもしれない。
しかし、当時の3人は平均年齢19歳という若さであったこと、そしてその後に訪れたコロナ禍の影響を考えると、今回のタイミングが順当な活動の結果なのだということがわかるはずだ。この日のワンマンは、混沌とする時代の中でも着実に歩みを進める3人の現在地が提示された一夜となった。
定刻を少し過ぎた頃、SEが鳴り止み暗転。「みなさんこんばんは、E.sceneです。よろしく」と短い挨拶とともに「Shimmer」でこの日のライブは幕を開けた。下手からベースのCHIPPI、ボーカルの真琴、ドラム・Yoshinaoというシンプルな構成はいつも通り。Yoshinaoのドラム・セットには以前は見られなかったスパイラル・シンバルが追加されており、随所で楽曲に華やかさを加えていた。
緩急の効いた真琴の表現力豊かなボーカル、そしてグルーヴィーなリズム隊の演奏により、一気にオーディエンスをE.sceneの世界観に引き込んでいく。続く「forgotten sun」ではCHIPPI、Yoshinaoもそれぞれのプレイイングで魅せる展開も用意しつつ、決して冗長になり過ぎないバランス感覚が素晴らしい。揺蕩うように体を揺らす真琴と、その脇を固める腕利きプレイヤー2人という構図からはもはや貫禄のようなものすら感じられた。
「forgotten sun」からまるでDJプレイのようにシームレスに繋がれた「traffic signal」では重戦車のようなベースラインからディープな音世界へと沈みこむようなサウンドスケープを展開。目を瞑って体を委ねているオーディエンスの姿も確認できた。
「みなさん、自由に揺れてってください」と言って披露されたのは、タメの効いたリズムと同期のシンセサイザーが絡み合う心地よいミドル・ナンバー「Cozy」。シンプルな構成ゆえに、真琴のボーカルもよりダイレクトに届く。
MCではこれまでも何度も出演し、昨年は自主企画も開催した会場である新宿MARZへの感謝も告げつつ、「今日はこれまでの集大成であり、私たちだけでなくみなさんにとっても大切な1日になればいいなと思います。私たちも“熱”をお届けするので、よろしくお願いいたします」と語る。もちろん最新EPのタイトルであり、本公演にも冠した“HEAT”と絡めた発言だが、決して派手に燃え上がるのではなく、心の奥底でじっくりと火を灯しているような、そんなイメージが今回のパフォーマンスからも感じ取れた。
幻想的な「Clever」から、「新宿MARZ盛り上がってますか」と真琴が珍しくオーディエンスを煽り、初期の代表曲へと流れる。フックで一気に開ける「麗しい日々」、真琴のソウルフルなボーカルが印象的な「いいじゃん」、どちらもキャッチーなメロディが耳を引くナンバーだが、ライブならではのアレンジも加わえられ、思わずオーディエンスからも歓声が漏れる。前回の自主企画では最後に持ってきた「Bye」ではCHIPPIとYoshinaoのリズム隊に真琴がスキャットで合流し、まるでジャム・セッションのようなパートで魅了した。
「ここで初めてライブをさせてもらった頃は、Yoshinaoは高校生で、CHIPPIも10代で、誰も運転免許を持ってなくて。先輩や友人に『お願いします』って言って運転してもらって東京に来てました」と過去を振り返りつつ、その当時からお世話になっていた新宿MARZでワンマンを開催できたこと、その感慨深さに浸りつつ、思わず言葉を詰まらせた真琴だったが、次に出てきた「……ヤバいっすね(笑)」という言葉で会場からの笑いを誘う。
続く「Compass」ではインタビューでも語ってくれたHiatus Kaiyoteのライブに影響を受けたというCHIPPIのベース・ソロも堪能。そこに絡み合うYoshinaoのスリリングなドラムにも唸らされた。
ライブも気づけば後半戦へ。同期のピアノと共に熱量の高い演奏を披露した「Marble」、妖艶なボイス・サンプルが独特の世界観を演出する「About Me」、求心力の高いフックが牽引する「Dizzy」を経て、真琴が「毎日過ごす中で、どうしようもなく悲しいことや嬉しいことだったり色々あると思うんですけど、E.sceneの音楽がみなさんの先を少しでも明るくできますように」と告げ、本編ラストの「Highlight」をプレイ。音の抜き差しやリズム隊の緩急を効かせたプレイ、そして迫真のボーカル・ワークでこの日のピークを更新した。
アンコールを受け再びステージに登場した3人。穏やかな空気感の中、真琴が「アートワークでも表現している通り、何か直接手渡せるように」という思いから作ったという最新EP『HEAT』の会場限定CDと、Yoshinaoがデザインを手がけたマーチャンダイズの告知を挟んで会場を和ませる。
アンコールの1曲目は会場限定CDにボーナストラックとして収録されている新曲「Moon」。どこか初期のE.sceneを想起させるような、真琴の芯の通ったボーカルが中心に据えられたミニマムな構成ながら、CHIPPIのベースとYoshinaoのドラムも遊び心溢れるプレイで華を添える。同期のローズ・ピアノのような温かい鍵盤の音色にも感情を揺さぶられた。
「今日感じたことを大切に持って帰ってほしいです。またライブ会場や作品の中で会いましょう」との言葉から、最後に披露されたのは「意識」。シンプルながらも力強いメロディに思わずオーディエンスも体を揺らす。E.sceneの3人も自分たちの世界観に入り込みつつ、同時にアイコンタクトや体の動きも合わせて、オーディエンスとも積極的にコミュニケーションを取ろうとする姿勢も感じられた。
メンバーは相変わらず寡黙ながらも、以前よりも自信に溢れたパフォーマンスが印象的であったこの日のライブ。活動初期に恐るべき神童たちとして騒がれた彼らだが、その後も自分たちを見失うことなく、一歩一歩積み上げてきた成果が結実した、まさに集大成と呼べる出来だったのではないだろうか。曲が終わり、メンバーがステージを去ってからも鳴り続ける拍手は、この日のライブの満足度を物語っているようであった。
2. forgotten sun
3. traffic signal
4. Cozy
5. Clever
6. 麗しい日々
7. いいじゃん
8. Bye
9. Compass
10. 3
11. Circle
12. Marble
13. About me
14. Dizzy
15. Highlight
16. Moon
17. 意識
【イベント情報】
『E.scene 1st Oneman Live “HEAT”』
日時:2023年3月10日(金) OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京・新宿MARZ
出演:
E.scene