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INTERVIEW / E.scene


E.sceneが語る、静かなる“熱”を湛えた新作。人間的成長も経て、バンドは次なるフェーズへ

2022.11.16

E.sceneが新作EP『HEAT』を本日11月16日(水)にリリースした。

前作『Found me』からおよそ8ヶ月という早さで届けられた本作には、タイトル通り彼らの静かなる“熱”が込められた4曲が収録されている。平均年齢19歳という若さでデビューを飾り、自問自答を経た上で自分たちらしさを見つけたという前作を経て、今回はさらなる深みへ。ソリッドなバンド・アンサンブルにしなやかなボーカル & コーラス・ワークが絡み合うそのサウンド・スタイルはより一層の円熟味を増した。

今回もレコーディングは自分たちだけで行うという純度の高い工程を経て生まれたEPについて、メンバー3人にインタビューを敢行。ここで語ってくれたのは、バンドのブレない姿勢と、人間的成長。作品を発表する度にベストを更新するE.sceneの現在地をお届けする。

Interview & Text by Takazumi Hosaka
Photo by fukumaru


バンドの熱量を反映。テーマ先行で作り上げた新作

――今年3月にEP『Found me』をリリースし、初の自主企画も開催しました。大きな手応えを感じたのではと思うのですが、以降バンドに変化は起きましたか?

CHIPPI:そうですね。EPをリリースして多くの人から反応をもらえたことも嬉しかったですし、それと同じくらい自主企画をやったことも大きかったです。そこで改めてライブの魅力に気づいたというか。今までは制作とライブの両立が上手くできていない部分もあったと思うんです。それがようやくいいバランスを見つけられたような気がしています。

――ライブに対する印象が変わったのはなぜだと思いますか?

CHIPPI:単純に僕らのことを知ってくれている人が増えたような気がして。それは演奏のリアクションも含めて感じることなんですけど、そういったことがモチベーションに繋がったんだと思います。大げさですけど、自分たちがやってきたことは間違ってなかったんだと感じられるというか、自信に繋がりました。

――今回のEP『HEAT』収録曲はいつ頃から制作していたものなのでしょうか。

CHIPPI:5〜6月くらいだっけ?

Yoshinao:レコーディングを始めたのは8月だよね。

CHIPPI:今までは主に自分が作っているデモが溜まってきたら、それをみんなに渡して完成させていくっていうスタイルだったんですけど、今回は自主企画が終わってから、まずテーマを考えてから作ろうという話をして。

――それは今まではやってこなかった手法ですよね。

CHIPPI:初の試みですね。単純に「一回やってみようか」という感じで出てきたアイディアです。

――では、『HEAT』というタイトルにも表されているであろう今回のEPのテーマはどのようにして生まれてきたのでしょうか。

CHIPPI:タイトルはあまり具体的過ぎない方がいいと思ったんです。抽象的で、その言葉を受け取る人にとって異なるイメージや意味を持つような言葉にしたかった。ちょうど自主企画が終わったばかりで、E.sceneとしてもこれまで以上に燃えているというか、活動に対する熱が高まっていたんです。その状態をド直球にテーマに据えました。

――個人的に、普段は物静かな印象を受けるE.sceneのみなさんが“HEAT”というテーマを挙げるのが素敵だなと思いました。

CHIPPI:ありがとうございます(笑)。

Yoshinao:そういう見え方的なものも少し考えて、“FIRE”だとちょっとE.sceneっぽくないなとか(笑)。

――なるほど(笑)。実際にテーマが固まってから最初に着手した曲というのは?

CHIPPI:1曲目の「Shimmer」だったと思います。デモを2人に聴かせたときに一番反応がよかったので、その勢いで制作に入りました。ちょうど季節の移り変わりのタイミングだったこともあって、リリックでは《さよなら》っていう言葉も出てくるんですけど、終わりではなくその先を見据えているようなイメージで鍵盤を弾いて、そこから膨らませていきました。

――フレーズやサウンド感ではなく、曲の内容というかイメージから作り上げていったと。

CHIPPI:そうですね。これまでは最初にサウンド面から構築していったんですけど、今回は先にEPのテーマを考えたということもあって、サウンド以外の部分もより綿密に練っていきたいなと。曲の内容やイメージを考えてから、それを音楽的に表現できるようにメロや各パートを作り上げていきました。イントロの鍵盤は最初のデモからほとんど変わっていなくて、あとは2人の生感が出るようにしたいなと考えていて、そこはスムーズに伝わったと思います。

――今“生感”という言葉が出ましたが、「Shimmer」と2曲目の「Marble」は特にライブ映えしそうだなと感じました。

CHIPPI:ありがとうございます。音源のアレンジが固まる前からその2曲はライブで披露していて。自主企画での勢いもあったので、ライブ映えする曲というのは意図していました。

Yoshinao:ライブでやってみてテンポを変えてみたりもして。

――特に「Marble」はE.sceneの中ではかなり速めのBPMですよね。

Yoshinao:やっぱりライブで演奏していると熱がこもって速くしたくなるんですよね。そういう思いも大事にしながら曲を作っていきました。

真琴:ボーカルでもジワジワ上がっていく感じというか、“熱”を込めるっていうのすごく意識したポイントです。

――では、「Marble」はどのように生まれた曲なのか教えてもらえますか?

CHIPPI:「Shimmer」と同じような意識で作った曲なのですが、これまでと違うのはシーケンスで重ねる音ですね。僕らはスリーピースなのでライブでも同期を使うことが多いんですけど、今まではシーケンスとして重ねる音には極力プレイングが反映されないようにしてきたんです。言い換えれば生っぽくない音で、シンプルなループにすることも多くて。でも、特に「Marble」ではそれをプレイング感満載に仕上げました。そこは新たな挑戦だったと思います。

――その試みに至ったのは、何か特定のきっかけがあってのことでしょうか。

CHIPPI:自然と……というか、作っていくうちにこれまでのやり方だと自分たちがイメージしている曲にならないと思ったんですよね。限界を感じたというか。あと、ライブで自分たちの演奏の熱量が高まっても、当たり前ですけどシーケンスはそれについてこない。そういった部分が課題だと感じていたんです。「Marble」ができたときに、そのひとつの回答が見えたというか、トラック含めて全体でグルーヴしていけるような曲ができたなと感じました。これはサポートなどを入れずに3人だけで積み重ねてきたからこそ出てきたものなのかなと

――なるほど。

CHIPPI:あと、これまではシーケンスを生演奏っぽくすると、変な感じになるというか、いわゆるカラオケっぽくなってしまうんじゃないかという不安もあったんですけど、やってみたら全然そんなことはなくて。E.sceneとしてやれる幅が広がったなと感じています。


不安定な時期に生まれた「Marble」

――「Marble」のリリックの面はいかがでしょう? 抽象的なリリックながら、タイトル通り様々な感情が混ざり合っているような印象を受けます。

CHIPPI:この曲は特に思い入れが強くて、言語化するのはかなり難しいんですけど……。自主企画後にバンドとして大変な時期というか、不安定になってしまったタイミングがあって、そのときの気持ちや感情も入っています。これまでもE.sceneの楽曲は色をハッキリとさせずに、曖昧な色をイメージして書いてきたんですけど、この曲はその曖昧さがより深いというか、混沌とした感じというか。

――差し支えなければ、バンドが不安定だったという時期についてお聞きしてもいいですか?

真琴:自主企画が終わって、私の中で気持ちにムラが出るようになってしまって。自主企画までの緊張の反動で集中できなくなってしまったり。私は元々感情の起伏が大きい方で、その落ち込んでいる時期に2人を巻き込んでしまったというか……。

――その状態を脱するのには何かきかっけや出来事があったのでしょうか。それとも時間を掛けて徐々に変化していったのか。

真琴:時間を掛けたと思います。グラグラっとしてしまったときにみんなと話し合ったことで、自分に対して改めて気づいたことがあって。これまでは自分ひとりではできないことも、「やらなくちゃ」って思ってしまう部分があったんです。変なプライドが邪魔して人に頼ることもできなかった。その結果、周りに迷惑を掛けてしまうことが多かった。それを改善するために日常の中で意識を変えていって。ダメなところも含めて自分を見つめ直したり、人に肩を預けることも覚えた。

結果として、改めて自分は恵まれているなと感じましたし、自分が感じたことをより大事にするようになりました。……これ、答えになってますかね?(笑)

――もちろんです。

真琴:まとめると、落ち着きを取り戻しました。悲観的にブワーッと考えるのではなくて、一旦じっくりと考えるようになって。

CHIPPI:まこっちゃんが今言ったように、過去にも落ち込んでしまうことはあって。その時々でじっくりと話し合ってきたので、もう僕らから言えることは全部出し尽くしたと思ったんです。だから、今回は信じて待つことしかできなかったというか。ひとりで考えるのが大事なのかなって思いました。

バンドってメンバー全員で100になるんじゃなくて、メンバーそれぞれが100の状態で集結するべきだと思っていて。メンバーはもちろん大切な存在だから気になるし、力になってあげたいけど、それでも自分は自分のやるべきことをやらないといけない。「Marble」はそういう曲なんです。

――ここで「Marble」に帰着するんですね。

CHIPPI:結局、それぞれ音楽に集中していく中で自然とまこっちゃんも戻ってきてくれて。それがよかったなと思います。

Yoshinao:僕らは音楽以外の面でも話し合うことが多いバンドなんですけど、ひとつ障壁を越える度にパワーアップしてきた感覚もあるので、今回も結果としてはより結束が強くなったなと感じましたね。

真琴:うん。レベルアップした気がします(笑)。

――後半の2曲は少しメロウというか、しっとりとしたトーンになっていますよね。これはEP全体の構成を考えてのことでしょうか。

CHIPPI:いえ、そういうわけではなくて。E.sceneのEPには毎回1曲Yoshinaoが書く曲を入れてるんです。何か違う要素を少し入れたいという気持ちがあってのことなんですけど、今回はそれが「Highlight」で。アレンジのパターンを3個くらい作ったり、一番時間が掛かりましたね。

Yoshinao:曲のテーマだったり内容は最初から固まっていたんですけど、それを元にスタジオで3人で作っていったら思ったよりも爽やかというか、優しい感じに仕上がってしまって。今回のEPに入れるのであれば、もっと強い想いを乗せないとダメだなと思ったんです。僕はコード理論がわからないので、CHIPPIに色々と無理言ってアレンジしてもらって、めっちゃ困らせちゃったんですけど……(笑)。

CHIPPI:いやいや(笑)。鍵盤なんてレコーディングのギリギリまで試行錯誤しましたね。

真琴:メロディも足したり引いたりね。

Yoshinao:そうそう。結果としてすごく大事な曲になったなって思います。

――だから作曲に3人クレジットされているんですね。無粋かもしれませんが、リリックはどのような気持ちで書いたのか、お聞きしてもいいですか?

Yoshinao:すごくピュアな気持ちで書いた曲です。活動していくなかでバンドに関わってくれる人が増えてきて、僕らだけのものだった音楽が、段々とそういった方々やリスナーのみなさんのものにもなってきたのかなっていう時期に書きました。いつも遠征のときは僕とCHIPPIで車を運転して行くんですけど、暗闇の中でライトを付けてみんなを乗せて走る姿をバンドに投影して。もっともっと色々な人に届いてほしいなという想いを込めています。


「自分たちの好きな“音”を突き詰めていきたい」

――最後は「Compass」。ゆったりとしたテンポ感やコーラスワークなども含め、どこか幽玄な雰囲気を湛えた1曲です。

CHIPPI:「Compass」は実は結構前に、E.sceneを結成して2年目くらい、自分が作詞を始めたばかりの頃に書いた曲なんです。ただ、その頃は全然違う雰囲気で。ドラムも電子パッドを使って、トラップみたいにハイハットを刻んだりと重めの曲でした。それを今回のEP制作に際して、Yoshinaoが「アレンジし直してみない?」って言ってくれて、聴き返してみたらいい曲だなと(笑)。それでリリックとメロディだけを残して、サウンド面を全部取っ替える形で作っていきました。

Yoshinao:シンプルに好きな曲だったので、今の僕らならどういう風に仕上がるのかなって思ったんです。あと、今回のEPのテーマにもリンクするものがあるように感じて。今の僕らの“熱”とはまた違う熱さが初期の頃にはあったと思うので。まこっちゃんの歌い方もすごく変わったよね。

真琴:当時は歌い方も全然違いましたね。というか、私の場合は作品毎に毎回歌い方が変わっていて、今作でようやく「これだ」というものが見つけられた感じがしているんです。

――というと?

真琴:今までは自分の中にあるエネルギーをブワーッと出すイメージだったのに対して、今はそのエネルギーをよりコントロールできるようになったというか。以前は感情を出して歌うっていうことに専念していたんですけど、その感情の解像度が上がって、それに寄り添う歌い方ができるようになったのかなって。

CHIPPI:より自然にまこっちゃん自身の魅力を出せるようになった気がしますね。前は色々なものをインプットしたり、咀嚼することに対して少し無理をしていた部分もあったのかなって。

真琴:うん。無理していたと思う。

CHIPPI:でも、そういうことを積み重ねたからこそ、今のまこっちゃんがあるんだと思う。

真琴:私よりも私のことわかってる(笑)。

――間奏ではまるでベース・ソロのように聴かせる展開で、こちらはスリリングな魅力も感じます。

Yoshinao:「Compass」の新アレンジを考えているときに、ちょうどフジロックでHiatus Kaiyoteを観たんです。その翌日にCHIPPIがあのソロが入ったデモを送ってくれました(笑)。

CHIPPI:「ああいうのやりたい!」っていう感じで、完全に影響されてます(笑)。

Yoshinao:デモのときはドラムはもうちょっとシンプルだったんですけど、レコーディングのときにCHIPPIに「もっと叩いちゃえ」って言われて(笑)。

CHIPPI:最初はもっとミニマムな感じだったんですけど、録っているうちに楽しくなってきて(笑)。そしたらドラムとベースが噛み合わなくなってきたので、さらにベースもアレンジし直すという。「やっちゃえ!」っていう勢いで作った部分ですね。

真琴:あのときの勢いはすごかったよね。おかげですごくカッコいい曲になったと思う。

――EP全体を通して、これまで以上にリズム隊のアンサンブルが際立っているようにも感じました。ボーカルを引き立てる演奏ではなく、それこそボーカルもシンセもベースもドラムも、全て並列でならんでいるような印象です。

CHIPPI:それもライブ感を意識した結果なのかなって思います。普段から「こういうベース弾くからドラムはこうやって叩いて」とか、あまり細かく話し合ったりはしないんです。そういう感覚が自然に合うように、普段から聴いている音楽などを細かくシェアしていて。今回は特に息が合ってるのかもしれませんね。いつも「いいドラムだなぁ」って思いながら聴いてます(笑)。

Yoshinao:ありがとう(笑)。

――ライブ感を意識したというだけあって、実際に披露する機会が楽しみですね。今後の展望はいかがですか?

CHIPPI:そうですね。3月には初のワンマンが決まったので、今からすごく楽しみです。あと、これまでお話したように、今作を通してより3人でグルーヴするような曲作りに辿り着いたので、この経験を元に早くも次の作品を作りたいですね。これまではシングルとEPしか作ってないので、それこそアルバムにも挑戦したいです。僕らのスタイルを崩さずに、誰にでも作れない作品を作りたいなと。

Yoshinao:自分たちの好きな“音”を突き詰めていきたいし、僕たちはレコーディングも自分たちだけでやっているので、“E.sceneの音”を確立させていきたいですね。

真琴:私はいつも2人に追いつくのに必死なので、今はまだ次のことが見えてきていないんですけど、きっとこの作品がリリースされてしばらくしたら、また何か課題が浮かんでくると思います。あと、最近実は曲を作っているんです。

CHIPPI:今、まこっちゃんがゼロから作っている曲があって。僕らにとってもどういう曲になるのかわからないですし、リスナーのみなさんも楽しみにしていてくれると嬉しいですね。


【リリース情報】


E.scene 『HEAT』
Release Date:2022.11.16 (Wed.)
Tracklist:
1. Shimmer
2. Marble
3. Highlight
4. Compass


【イベント情報】

『E.scene Twoman Live “HEAT”』
日時:2022年3月3日(金) OPEN 18:30 / START 19:00
会場:新潟・Golden pigs Black Stage
料金:ADV. ¥3,000 / DOOR ¥3,500(各1D代別途)
出演:
[LIVE]
E.scene
さらさ

チケット一般発売(e+):11月16日(水)10:00〜

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『E.scene 1st Oneman Live “HEAT”』
日時:2022年3月10日(金) OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京・新宿MARZ
料金:ADV. ¥3,000 / DOOR ¥3,500(各1D代別途)
出演:
E.scene

チケット一般発売(e+):11月16日(水)10:00〜

E.scene オフィシャル・サイト


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