Text by Yuki Kawasaki
Photo by @kyonntra / Masato Tanaka / Yusuke Oishi
NY生まれのブランド〈Manhattan Portage〉による都市型音楽プロジェクト『City Connection』が、7月15日(土)に東京・恵比寿LIQUIDROOMにて開催された。
LIQUIDROOM、KATA、Time Out Cafeの3つのエリアが解放され、オーディエンスはタイムテーブルを片手に会場内を駆け回る。この幸福なせわしなさは、音楽フェスのそれである。開演前からLIQUIDROOMの前には人だかりができており、各々が様々なファッション・アイテムに身を包んでいた。〈Odd Future〉のTシャツや〈NEMES〉(*ZEN-LA-ROCKがディレクターを務めるブランド)のキャップを身にまとったお客さんを見ると、勝手に仲間意識を感じてしまう。
Time Out Cafeにて全体のトップバッターを務めたのは、自身のYouTubeチャンネルで生配信を行ったDJ HASEBE。ドリンクを買いに並ぶオーディエンスも多い中、独特な緊張感でスタート。フェス形式のイベントではトリを飾るアーティストが目立つが、オープニングにはオープニングの凄みや楽しみがある。韻シストの「HOT COFFEE」から始まったこの日のDJ HASEBEは、まさにそういった魅力に溢れていた。自身の楽曲を巧みに織り交ぜたレイドバックなミックスは、フロアの四方に配置されたカメラの前で踊るオーディエンスを量産する。熱を帯び始めたタイミングでかかる「Welcome to my room」は、これから始まる素晴らしい物語を予感させた。
今回の『City Connection』において、KATAフロアは終始大盛況であった。このステージで先陣を切ったのはSSW/プロデューサーのSUKISHA。客演としてJU!iEも迎えていたようだが、後方からはその姿が全く見えない時間帯もあったほど。そりゃあもちろん好きなアーティストを観られるに越したことはないが、彼ら/彼女らがいかに人気者なのかを“後方腕組み”で眺めるのもまた一興である。「Cherry」でメロウなビートに体を揺らし、「Just Dance」の4つ打ちに狂喜乱舞していたら、あっという間に汗ばんできた。
メイン・フロアで口火を切ったのは、飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍するDURDN(ダーダン)だ。アリーナやドーム・クラスに成長したアーティストの多くがLIQUIDROOMのステージに立ってきたが、彼らにもそのスケール感がある。2021年に本格的に活動をスタートさせた彼らは、この日のMCで「こんなに早くリキッドでできると思わなかった」と語っていた。ほぼ5トラックでオーディエンスを巻き込む地力の高さからは、現在の進化速度に違和感はない。フロアの雰囲気から察するに、恐らく初見の人も多かったようだが、「WARUNORI」や「TOKIDOKI」への反応を見る限り、ポテンシャルは相当高いと感じた。
「ビート・ライブとしてはちょっと長くて、DJとしてはちょっと短い」として始まったKMのパフォーマンス。文字通りハイブリッドなニュアンスで展開された彼のライブは、自身のSoundCloudや様々なプラットフォームに散らばる音源を再構築する趣があった。tofubeatsの『TBEP』Tシャツを着たお客さんがスピーカーの真ん前で彼のビートを浴びていて、この日のイベントの批評や大義のようなものを感じた。パッドから紡がれる音が鮮やかに田我流 & KM「Vaporwave (KM Remix)」に繋がるさまは、この日のハイライトのひとつだ。KATAのライティングにも、KMの重く妖艶なビートはマッチしていたように思う。
Time Out Cafeに戻ると、ShioriyBradshawがレゲェ~ロックステディのサマー・チューンでフロアを作っていた。空調が効いた会場内とは言え、やはりアーティストたちの熱量にあてられる。無意識下においてもチルを求め始める我々を、まさしくオアシスのごとくPETER MANの「OASISがあるから feat.PUSHIM, MOOMIN & Keyco」が迎えてくれた。が、そこは様々なジャンルのパーティからラブコールが止まないShioriyBradshaw。“チル”に終始するはずもなく、少し目を離した隙にヒプノティック〜トライバルなニュアンスのハウスでオーディエンスを踊らさせていた。Zaida Zaneの「ZZ Planet」がかかったあたりで、彼女のDJとしての幅の広さを改めて実感した。
その次に同フロアでDJを務めたのは、バンド・OKAMOTO’Sのオカモトレイジ。今や深夜のクラブ・イベントでも活躍が著しい彼は、そのエキセントリックな選曲観において極めてユニークな存在である。あるいは、彼のDJとしてのスタイルについては「本来“そこ”にあるものの解像度をさらに上げている」と言った方が正確かもしれない。たとえばこの日は、NewJeansの「OMG」の裏にあるガラージやジャージー・クラブのニュアンスを積極的に見出し、それをダンス・ミュージックとして再解釈していた。今最も勢いのあるK-POPグループの楽曲を、Steve Poindexterの「Computer Madness」などと並べてミックスを展開する。ダンス・ミュージック側から聴くと、彼のDJは極めて批評的に感じられ、それがたまらなくエキサイティングなのだ。
多幸感溢れる会場で聴く佐藤千亜妃の「花曇り」は、いっそう切なさを増す。確かに「Summer Gate」や「線香花火」などのポジティブなサマー・チューンはお祭りのムードをさらに盛り上げてくれるが、《いつかした約束 覚えててごめんね》というフレーズは、夏が寂しさや侘しさとも関係が深い季節だと思い出させてくれる。「花曇り」は文字通り春の時期の楽曲だが、その普遍性の高さを改めて知った。そして「夜をループ」が演奏されたとき、後方でゆったり観ていたオーディエンスが階段を駆け下りて行く様を見て、ライブの本質みたいなものを感じた。
さらさにはアンビバレンスな魅力がある。ステージ上では凛とした雰囲気と迫力があるが、同時にそのへんの河川敷を歩いていたら偶然会えそうな親しみも感じる。自身もこの日のMCで「曲作ったり、散歩したり、美味しいもの食べたりしながら生きてます。みなさんと変わらないです」と言っていた。その言葉を体現するように、満員のKATAでギターを爪弾く彼女はオーディエンスと会話するようなライブを展開。スモーキーでブルージーな歌声に乗って、「太陽が昇るまで」が日常の繊細さと豊かさを教えてくれた。
阪神タイガースへの熱い思いを語りつつ、初っ端からオーディエンスを煽り煽っていたWILYWNKA。彼に負けず劣らずアグレッシブなファンも、彼の一挙手一投足に応えてみせる。「油断大敵」や「That’s Me」では観客への余白を残し、彼ら/彼女らはレスを送る。クラブでよく聴く「Company Flow」は、昼間の箱ではよりフィジカルな魅力を伴って感じられる。恵比寿はハイソな街だが、そんな場所で鳴り響く「Company Flow」は痛快だった。まさに“COUNTER”を感じやしないか。屈指のアンセムにして今回のイベントのティーザーにも使われた「Our Style」で、会場の熱量がもう一段上がったようだった。
この日最も“サウンドシステム”に意識を持っていかれたのが、KATAにおけるCampanellaのライブだったように感じる。リディムやダブステップのパーティのように、重い低音が我々の内臓を揺らした。『LIVING ROOM』や『BLACK FLAG』など、個人的に彼のライブを観るのは専らナイト・イベントであるが、昼だろうが夜だろうが彼の迫力の前には無関係だ。ここまでを振り返ると、それはこの日出演したアーティストのほぼ全組に言えるかもしれない。坂本龍一の「ZURE」をサンプリングした「Douglas fir」は、オルタナティブな品格を感じた。
そろそろイベントが終盤を迎える頃、この日もokadadaは空気を変えていた。彼はそのキャリアを通し、実に多くのパーティで様々な役割を担っている。ヒップホップにジャングル、ハウスにテクノ、今日まで幅広い音楽ジャンルに対応してきた。この日のTime Out Cafeで、彼はグライムありジャングルあり、RUB-A-DUB MARKETの「MAN A LEADER」ありの、夏仕様のオールジャンル・セットを展開した。その後に4つ打ちに移行し、オーディエンスと熱量とフロアの温度を上げる。okadadaがお客さん以上にノッているとき、そこにはダンス・ミュージックの神髄がある。
ライブ・ミュージシャンとクラブ・アクトの両方の道をほぼ同時進行で歩んできているtofubeats。CDJやドラムマシーンを操りつつ、自分でもマイクを握る様は実にユニークである。『TBEP』以降はプロデューサーとしても、リスニング・ミュージックとクラブ・ミュージックの間を意図的に往来しているように思われる。この日の彼は、そういったハイブリッドな現在地を指し示すようなライブを展開した。無理矢理たとえるならば、“歌うJeff Mills”といったところだろうか。「RUN」や「LONELY NIGHTS」などの歌モノ・アンセムを中心に組みつつ、アレンジではアシッド・ハウスやドラムンベースなどのレイヴィーなスパイスをまぶす。改めて、彼の存在は無二だと感じた。
KATAステージのトリを飾ったのは、猛暑の対極にあるクールなディーバ・一十三十一。サポートには盟友・Dorianを迎え、2人編成ながら盤石の布陣で登場した。今年の5月にリリースされたDÉ DÉ MOUSEとの共作「Love Groovin’」は、涼やかなテイストでありつつしっかり踊らせてくれる。ダンス・ミュージックに漂う儚さを端的に言い当てた歌詞は、この日のKATAのネオン感にもよく似合っていた。クラブ・セットだったことは間違いないのだが、彼女のライブに暑苦しさは微塵もなく(周りを酔っ払いに囲まれていたとしても)、終始心地よく音に浸れるのだ。「時を止めて恋が踊る」は、疲れ切った我々の足をさらに前へ進めてくれる。
いよいよ乳酸がたまってきた足を、アップリフティングなエレクトロニック・ミュージックが回復させる。Time Out Cafeのラストを務めたのは、数々のアーティストに楽曲を提供し続けるケンモチヒデフミだ。まさしく“最後のひとっ走り”といったニュアンスで、吉田凜音の「MU」やKMNZの「OVERNIGHT」を巧みに紡ぎ、我々のアドレナリンを大解放した。Reolの「綺羅綺羅」あたりで、ソファで座りながら彼のDJを聴いていたオーディエンスも立ち上がり、再びフロアで踊り始めていた。中盤以降のフェスでよく見かける光景だが、個人的にこの場面を見かけると大変嬉しくなる。
メイン・フロアでも最後のアーティストが出番を迎えた。キャリア30年以上の大ベテランのラップ・グループ、スチャダラパー。この日イベントに来ていた老若男女様々なファンを一手に引き受けるその胆力は、長年リスペクトされ続ける理由の証左でもある。この前日には大阪城野外音楽堂で、翌々日には茨城県つくば市で開催されたフェスにも出演しており、そのバイタリティたるや30年前と比較しても勝るとも劣らないのではないだろうか。
シーンが移り変わるごとに新たな解釈が起こる永遠のアンセム「今夜はブギー・バック」は、LUVRAWを客演に迎えトークボックス感が増し、よりファンキーな印象に昇華されていた。思えば彼らが日本の音楽シーンでもたらした革新性や面白味は、かのファンク・バンドZappに通ずるものがあるかもしれない。
最後に披露された「サマージャム’95」は、さながら今回の『City Connection』のエンディングテーマのようだった。今年も夏が始まった。
【イベント情報】
『City Connection powered by Manhattan Portage』
日時:2023年7月15日(土) OPEN 14:00 / CLOSE 21:00
会場:東京・恵比寿 LIQUIDROOM / KATA / Time Out Cafe
出演:
Campanella
DJ HASEBE
DURDN
一十三十一
ケンモチヒデフミ
KM
okadada
オカモトレイジ
佐藤千亜妃
さらさ
ShioriyBradshaw
スチャダラパー
SUKISHA
tofubeats
WILYWNKA