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連載 | タイムレスな輝きを求めて Vol.2


New Balance 550 × lil soft tennis | 若き才能が捉える過去と未来

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2023.12.19

3組のミュージシャンが〈New Balance〉の人気モデル「550」を着用し、そのブランドやスニーカーの世界観やストーリーとリンクする部分を探る本連載。第2弾となる今回は、ユースから高い支持を得ているラッパー・lil soft tennisに登場してもらった。

New Balance「550」商品ページ

その音楽性はジャンルの枠や時代性を越え、まさしくタイムレスなサウンドとして鳴り響く。今夏リリースの2ndアルバム『i have a wing』はヒップホップの枠組みに収まらず、フューチャー・ベースなどのダンス・ミュージックやシューゲイザーなどのロック・サウンドからもアイデアを引っ張ってきており、カオスな魅力を持ちながら我々の心を掴んで離さない。

時代とジャンル、様々なボーダーを越境しながら音楽を追求するlil soft tennisは、〈New Balance〉が考える“普遍性”に共振するアーティストだ。

Interview & Text by Yuki Kawasaki
Photo by Maho Korogi
Styling by lil soft tennis


“裸足”に近い感覚

――「550」の数あるラインナップから、「550 PHB」を選んだ理由を教えてください。

lil soft tennis:シンプルに自分に合ってると思ったからですね。靴にはこだわりがあるのですが、極端な表現をさせてもらうと、自分としては裸足が理想なんです。変な話に聞こえるかもしれないんですけど、“何も履いてないように見える靴”を常に探してるんです。他の人から見て、自分の格好に違和感があるとイヤなんですよ。「550 PHB」はカラーリングも含め、そういう感覚に合ってるなと。

――履いたときにご自身のイメージに馴染んでいるかが重要であると。

lil soft tennis:そうですね。この「550 PHB」はスウェットのセットアップとかを合わせればライブでも着用できそうですし、フーディーに大きめのパンツを合わせてもカッコイイと思います。自分が今日着ている雰囲気にも合わせやすく、この感覚が自分にとってはまさしく“裸足”に近いんです。

自分はいつもその日着る服を考えるときに、靴から先に選ぶんですけど、僕にとってはまず落ち着くことが大事で。靴は自分のマインドをそういう状況に持ち込めるアイテムだと思っています。

――lil soft tennisさんのInstagramもフォローしているのですが、〈New Balance〉のスニーカーを履いている写真を見つけました。普段から〈New Balance〉のアイテムについては注目されているのですか?

lil soft tennis:〈New Balance〉、好きですよ。ブランドとして、今自分が言ったようなニュアンスが得意なイメージがあって。今回履かせてもらった「550 PHB」以外にも「1906R」なんかも好みです。最近はカレッジっぽいニュアンスを求めることが多いので、〈New Balance〉のスニーカーはそれにも合わせやすいですね。それでいてちょっとしたミクスチャー感もあるというか。

――影響を受けたアーティストとしてよくKanye Westを挙げられてますが、彼もカレッジっぽいファッションが好きですよね。

lil soft tennis:今日もちょっと意識してます。Lil Bのファッションとかも好きで、自分はやっぱりそういうニュアンスが好きなんですね。ショート・トレンチにハンチングを合わせる格好とか、ヒップホップのマナーでそれをやるのが今の気分ですね。いい意味で“どっちつかず”というか。彼らのファッションからは、形式と素材が同居し過ぎていないような印象を受けます。

――元々そういうニュアンスのファッションがお好きなんですか?

lil soft tennis:あまり特定のファッションにフォーカスすることはないかもしれないです。“今はそういう気分”が絶えず続いていく感じというか、それをもとにアイテムを選んでいる気がします。今は家庭的なニュアンスが好きですね。「550 PHB」でもスエード生地が使われてますけど、“小さい頃から愛用してます”みたいなイメージに惹かれます。本来であればライブにも寝巻とか、着の身着のままで行けるのが理想です。できるだけ様式に捉われないようにしたい。


lil soft tennisのミクスチャー感覚

――なんだかlil soft tennisさんの音楽に重なる話のように思えますね。ハイパーポップ以降の価値観といいますか、最新アルバム『i have a wing』にもジャンル無き世界があるような気がします。

lil soft tennis:ハイパーポップはおもしろいと思います。そのジャンルの音楽を積極的に聴いているわけではないですけど、自分もジャンルで分けきれない音楽が好きです。特に原初的なハイパーポップって、どこにも属さない人たちの音楽だった気がするんですよね。

――2013年ぐらいにA.G. Cook(※)がロンドンの小箱で開催したパーティに行ったことがあるのですが、確かに当時の界隈には“るつぼ感”がありました。アジア系も多かったですし、クィアな人もたくさんいて、ファッションも本当にみんなバラバラでした。それこそパジャマみたいな格好で来ていた人もいましたね。

lil soft tennis:ただ、本当にパジャマみたいな格好は好きじゃないんですよ(笑)。その中に美意識が数点欲しいというか。

*A.G. Cook:ハイパーポップのルーツ、起源のひとつとされる重要レーベル〈PC Music〉創設者。近年では宇多田ヒカルの作品にもプロデューサーとして関わっている。

――そういった“数点欲しい”状態で、lil soft tennisさんの場合はどういうものにアイデンティティが宿りますか?

lil soft tennis:難しいですけど、今だとミリタリーなアイテムですかね……。少し前はゴルフウェア的なアイテムに惹かれることが多かったんですけど、そこから自分なりにアイデアを突き詰めていったときに、よりライフウェアかつユニフォームっぽいニュアンスが欲しいと思い至ったんです。

……で、そこからミリタリーに辿り着きました。もう少しカチっとした雰囲気を取り入れたいんです。

――まさに“ミクスチャー”の感覚ですね。

lil soft tennis:そういう意味では、最近サッカーをよく観るんですけど、イギリスのキッズに服飾的な憧れがあるんですよ。サッカーが文化に根付いている影響なのか、向こうの子たちはユニフォームを着てても“ワークっぽさ”があるような気がして。そういう雰囲気をそれぞれが纏いながらスタジアムに集まってゆく感じとか、なんか好きです。

そもそも、選手はユニフォームなのに監督はスーツなわけで、そういった意味でもミクスチャー感がありますよね。スーツで決めた(カルロ・)アンチェロッティとか、カッコイイと思います。

――確かに! 監督がカッコよく見える理由にはそういう一端が……。lil soft tennisさんは一貫してそういった“掛け合わせ”におもしろさを感じてらっしゃるんですね。『i have a wing』でも「Girl」でエリック・サティの「ジムノペディ」をサンプリングしてますが、より解像度が上がった気がします。

lil soft tennis:あれはもっとギャグ寄りというか、「ここでサティのフレーズを使ったらハイプだろうな」と思ってやりました。そもそも「ジムノペディ」自体が、自分にとってはおもしろいんですよ。「何をそんな物悲しそうにピアノを弾くことがあんねん」って(笑)。自分なら、友だちに目の前であんな風にピアノを弾かれたら笑ってしまう。

ギャング映画でもそういった音楽の使われ方はあるような気がしていて、たとえばタランティーノとかはシリアスな場面でクラシックな曲を使っておもしろ味を演出してますよね。最近だと(デヴィッド・)フィンチャーがNetflixの『ザ・キラー』でThe Smithsの曲を使ってましたけど、ああいうのは好きです。制作者は必ずしもギャグとして作ったシーンではないのかもしれませんが、自分はアンバランスなニュアンスに惹かれますね。

――そういったサンプリングだけでなく、歌詞においてもモチーフの選び方が独特だと感じます。lil soft tennisさんの楽曲では、言葉が具体と抽象の間を自在に飛び交っているようなイメージがあります。

lil soft tennis:自分のルーツにJ-ROCKとJ-HIPHOPの両方があるからかもしれません。前者は漠然と「光へ……」みたいな歌詞が多いですけど、後者は身の回りの日常をネタにすることが多い。それらの要素を上手いこと接続できると、おもしろい作品ができると思っています。音楽性も含めて、自分にとってはくるりが表現としては理想ですね。日本の音楽シーンにおける最高の“ミクスチャー”だと思ってます。


「リヴァイバルっていう概念自体が好き」

――ちなみに、今日履いている「550」は80年代のバスケットシューズを復刻したモデルになりますが、音楽でも同様に数十年前のサウンド・スタイルがリヴァイバルすることがありますよね。lil soft tennisさんはRed Bullのマイクリレー企画『RASEN』でもスーパーカーを引用されていましたが、そういったリヴァイバルや過去を参照することも、“ミクスチャー”として捉えていますか?

lil soft tennis:そうですね。普段から聴いている音楽、特に今年で言うと、どっちかというと旧譜の方が多いんですよ。だから、意識しなくても自然と混ざっていってしまうというか。その時々で聴いている音楽、ハマっている作品に影響を受けがちなので、すぐに引っ張られてしまう。

あと、個人的にリヴァイバルっていう概念自体が好きっていうのもあります。2000年代前半に起きたロックンロール・リヴァイバル/ガレージロック・リヴァイバルみたいに、古臭いものだったはずのスタイルが、ブワーッと広がっていくような感じ。それが現象として純粋におもしろいなって。

――なるほど。今年はアルバムもリリースして、ソールドアウトとなった初ワンマン、そして全国ツアーも開催するなど、lil soft tennisさんにとって飛躍の一年になったと思います。来年以降の動きや、さらにその先のビジョンはどのように描いていますか?

lil soft tennis:自分としては今年はあまり無理はしてない感じがあって。今まで通りのやり方で、自分に賛同してくれる人たち、自分の音楽を聴いてくれている人たちに向けて発信してきた感覚があるんです。でも、来年はそれをもっと拡大させたい。そのためには多少の無理も覚悟で動いていかないとなって思っています。

……やっぱり今のシーンに対して多少なり思うこともあるし、あと自分も少しづつ歳を重ねていく中で、周りの友人たちが音楽を辞めちゃったりして。そういうのを見ていると、何も考えずにやっているだけではダメだなって感じるんです。大袈裟かもしれないけど、自分が成し遂げなきゃいけないこともあると思うし、そのために来年以降はもっと外側に体をねじ込んでいきたいですね。あと、純粋にもっと稼ぎたい(笑)。それが音楽制作のレベルアップにも繋がるはずなので。

――最後に、今回の連載テーマについてお聞きしたいです。lil soft tennisさんにとって、“タイムレスな音楽表現”とはどういうものですか?

lil soft tennis:タイムレスなものは好きですね。『i have a wing』のメイン・テーマでもあるんですが、未来に何か残したいっていうのは表題曲でも明確に言っているつもりです。最近フォークをよく聴くんですが、ザ・ディランIIやかぐや姫みたいに、歌として根源的なものを作りたい気持ちはずっとあります。


【リリース情報】


lil soft tennis 『i have a wing』
Release Date:2023.08.09 (Wed.)
Label:lil soft tennis
Tracklist:
1. i have a wing
2. want be you
3. VIP (feat. VaVa)
4. Ni Che (feat. kegøn)
5. Fucked Up!!
6. かんがえる
7. Bicycle (feat. chelmico)
8. Talking (feat. RY0N4)
9. Girl

配信リンク

■lil soft tennis:X(Twitter) / Instagram


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