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INTERVIEW | NEWLY × ryo takahashi


一回り歳の離れた「音楽仲間」、両者がリスペクトし合う理由

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2025.04.15

昨年11月に配信リリースされたNEWLYによるアルバム『Not About All』が、3月26日(水)にCD、LP、カセットテープの3形態でフィジカルリリースされた。

コンポーザー兼アレンジャー兼プレイヤーとマルチに活躍するNEWLY。今作では粒度の細かく作り込まれた音使いで、リスナーを30分間のトリップへと誘う。また収録曲“Proust”には、chelmicoをはじめとする多くのアーティストの楽曲をプロデュースするryo takahashi(Pistachio Studio / CBS)が参加。「NEWLYが高校生の頃からの付き合い」だというryo takahashiは、彼の音楽家としての成長を間近で見守る存在のひとりである。

真摯に音楽へ向き合う者同士として、また先輩と後輩、歳の離れた友人として、両者はお互いの音楽をどう捉えているのだろうか。NEWLYのホームスタジオを訪れ、アルバム制作にまつわるエピソードとともに話を訊いた。

Interview by Takazumi Hosaka
Text by Nozomi Takagi
Photo by Hide Watanabe


遊びの延長線上で始まる音楽制作

――まずはおふたりの出会いについて教えてください。

NEWLY:初めて僕がryoさんを知ったのはたぶん2017年前後、16〜17歳くらいのときです。もともとPistachio Studio(以下、ピスタチオ)が好きだったので、学校の放課後にEBISU BATICAで開催されたピスタチオのイベントに遊びに行って、tajima halさんのビートライブでryoさんがドラムを叩いているところを観たんです。

そこからInstagramをフォローしたのを機に、ryoさんのInstagram Liveでの制作配信や、ドラムを叩いている動画を観たりするようになりました。
ただ、直接ちゃんとお話ししたのはBINという中目黒のセレクトショップで開催された、CBSのインストアライブだと思います。

ryo:NEWLYとの初対面、実はあやふやなんだよね(笑)。第一印象は「CBSのことが好きな、ヒップホップの要素が強いトラックメイカー」って感じ。「(高校卒業後は)大学に進学するの?」みたいな会話をしたことは覚えてます。その後、うちにも遊びに来てもらって。

NEWLY:当時はレコーディングの知識もなかったので、スタジオの機材やレコーディングのこともその場でバーって教えてもらいました。それで、遊んでいるうちに気づいたら一緒に何かを作る機会も増えていきました。

――最初に一緒に作った曲は?

NEWLY:僕がBASIさんにビート提供させてもらった“かさぶた”です。実家でレコーディングしたベースとギターに、ドラムを追加してくれて。その後はCBSの『Classic Brown Sounds 2』に収録されている“1F”。僕がSoundCloudで公開していたトラックに、ryoさんが手を加えることで完成しました。

ryo:あと、chelmicoの“Navy Love”でギターを弾いてもらったりもしたね。NEWLYに「ギターも弾けるならライブに出てよ!」って、鈴木真海子のサポートをお願いしたこともありました。

NEWLY:真海子さんのバンドセットは日本橋のCITANでライブしたときですよね。真海子さんの曲だと“どっかの土曜日”もレコーディングに参加していて。ベースを担当した曲もありましたよね。ryoさんの家にたまたま行ったとき、制作中のアルバムを聴かせてもらって、その場の流れで録りました。

――遊んでいるうちに、その場でレコーディングが始まることが多いんですか?

ryo:むしろそれしかないですね(笑)。NEWLYとは「一緒に作ろう!」っていうモチベーションで集まることがなくて。最近作った曲を近況報告がてらお互いに聴かせ合ううちに、その会話の延長線上で制作が始まります。

NEWLY:文字通り、気づいたら曲作りが始まってます。そして時間をかけすぎることもなく「もう十分やったし、飯食って銭湯行って帰るか!」みたいな(笑)。

もちろん先輩として、学ばせてもらう部分は尽きなくて。特にryoさんのミックスが個人的にすごく好きで、「今度あったらこの曲のミックスについて相談しよう」とか、ひとりで作っているときにふと思いついたりもします。ryoさんからはめっちゃ影響を受けていますね。


NEWLY視点で捉える、作曲家としてのryo takahashi

――ryoさんと一緒に曲作りをする中で、NEWLYさんはどういったところで特に影響を受けていると感じますか?

NEWLY:生活の一部で出たアイディアをとりあえず音にしてみる、という音楽への向き合い方ですね。「よし! 作曲するぞ」と制作に向き合うわけではなく、猫と遊んだりご飯を食べたりする中で、思いついたらパッと作る。そういう姿勢はすごくいいなって感じます。

ピスタチオのみなさんって音楽を作る、歌うことを生活の一部として捉えている気がするんですよね。もはや「音楽が好き」と明言するまでもないというか。

ryo:ピスタチオって基本的には音楽を専業でやってない人たちが中心なんですよね。僕や真海子、モリジュン(ESME MORI)、パーシー(TOSHIKI HAYASHI(%C))とか、本業でやってる人ももちろんいるけど、CBSを中心とした働きながら音楽をやっているメンバーの思想がメイン。だから、生活と制作の境目が曖昧なんだと思います。

ryo:NEWLYと一緒に曲を作るときも机に向かい続けるわけじゃないよね。だらだら喋っているうちにNEWLYが「そういえば……」と気になるところを質問してくれて、その会話から派生して制作に流れていったり。これはNEWLYに限らず、誰かと音楽を作るときは大体そういうスタイルなんですよね。

――ryoさんはなぜそういうスタイルに辿り着いたんですか?

ryo:NEWLYもそうだと思うけど、基本的に僕らはひとりで制作が完結できるタイプなんですよね。前提として誰かに参加してもらう必要性がないというか。だから、遊びながらノリでジョインしてもらわないと、曲に組み込もうってアイデアにならないんです。

特に自分は音楽を作ることそのものより、制約がある中で自分を表現し、いい提案をするっていうことに楽しみを見出しているタイプで。ソロ名義の作品を作れないのは、そのせいだと思います(笑)。

ドラムを叩くときもプロデューサーや作曲家の視点で、曲ごとに使う脳を根本的に切り替えるような感覚があります。

NEWLY:真海子さんのライブでryoさんが打ち込みの曲を上品に叩いているのを聴いて、僕のライブで叩いてもらっているときと全然表現の仕方が違うなって思いました。いい意味で、ryoさん自身のドラムスタイルは流動的というか。

ryo:ただ音作りに意識は向けつつも、コード進行だけはわからなくて(笑)。NEWLYに真海子のアルバム『mukuge』をリリース前に聴いてもらったとき、「コード進行がおもしろいっすね!」って言われたんですけど、「そうなんだ」みたいな(笑)。NEWLYが僕の曲をどう解釈しているかを聞くのは毎回すごくおもしろいですね。

NEWLY:ryoさんは全体を俯瞰して「こういう音を一瞬だけ入れたら曲としてよさそう」という感覚をもとに音をハメていく印象があるんです。そうやってリズムや細かい音作りの面で教えてもらったことも、自分の制作にこっそり反映させています。

特に今回のアルバム『Not About All』に収録した楽曲では、ryoさんに教えてもらったことを試した瞬間が多いかもしれません。


シナリオと抽象的な音のイメージから生まれた『Not About All』

――『Not About All』の制作について伺いたいです。豪華アーティストを客演に迎えた前作『NEUE』とは異なり、インスト中心の作品となった背景を教えてください。

NEWLY:目指していたのは、集中して聴けて、先入観もなく30分間没頭できる作品でした。そもそも、僕自身が言葉で人を圧倒するような人間性じゃないんです。そういった自分の性格上、インスト中心のアルバムになるのは自然な流れでした。なの、ボーカルとして参加してくれたLil SummerやMadness Pin Dropsにも、今回は声をあくまで「楽器のひとつ」として捉えてもらうようオーダーしました。

――過去のインタビューで「音響に興味がある」とおっしゃっていましたが、今作はまさに空間的な音の広がりが印象的でした。

NEWLY:ありがとうございます。大学ではPAや音響の勉強をしていて、ミックス自体は勉強してこなかったんですけど、今回のアルバムでは全曲ミックスも立ち会わせてもらって。エンジニアのYohey Tsukasakiさんにいろいろ質問したりアイデアを共有しながら進めました。

――Tsukasakiさんにミックスをお願いした背景は?

NEWLY:他のアーティストさんへ楽曲提供させてもらったとき、その作品のミックス担当がYoheyさんだったんです。ボーカルレコーディングに立ち会った際に僕の音源を聴いてもらったら「ミックスやりたい!」と言ってくれて。Yoheyさんとは家も遠くないので、制作中に近所で飲みながらアイディアを固めたりもしました。

あえてミックスのリファレンスを出さずに、「カートゥーンみたいにデフォルメされたドラムにしたい」とか、抽象的なお願いをすることが多かったです。ピアノやシンセなどで足りない音域を追加してもらったりもして、ラリーが楽しかったですね。

――今回のアルバムは特定のリファレンスみたいなものが感じられないなと思っていたのですが、制作手法に由来するものだったのか、と腑に落ちました。

NEWLY:自分の作品を作るときは、いつもリファレンスなどは考えないんです。ただ、常日頃たくさん音楽を聴いているのと、今回は1曲目から順に完成させていったこともあり、自分で聴き返すと「この時期はあの曲をよく聴いてたな」とかはなんとなく思い出せます。

ryo:1曲目から順番に作るってすごいね。自分がCBSや鈴木真海子のアルバムを作るときは、思いついたアイディアをどんどん詰め込むから。途中で振り出しに戻ったりすることもあるし、(NEWLYと)同じ作り方はできる気がしない……(笑)。

NEWLY:アルバムを作ったことがなかったので、シンプルに作り方がわからなかったのもあります(笑)。先にアルバム全体のシナリオを作ったんですよね。PCの前にいる時間より、文字を書いている時間の方が長かったはずです。

物語のようにアルバムを捉え、展開の構想や、シナリオから想起される音のイメージを練ってから「よし、1曲目を作ろう!」って。その代わり、最初の“Poppy Field”は、完成までに2年くらいかかりました……。3曲目“Dear.Ocean”くらいからは順調に生まれていったんですけどね。

――ryoさんは“Proust”に参加していますが、この曲のドラムも浮遊感があって独特ですよね。制作中はどんなコミュニケーションを取りましたか?

NEWLY:これは元々僕がクラシックギターで作っていた曲なんです。ドラムも全部自分で叩いたものをイジって作ったんですけど、ピアノに乗せたら普通になっちゃって。ジャズの要素を入れたくなり、いつも通り「シュワーって生音でブラシを入れてください!」ってryoさんの家にお願いしに行きました(笑)。

ryo:そう。だからメインのドラムは僕じゃないんです(笑)。クレジットも「アディショナルドラム」になっていて。

NEWLY:イントロからドラムが入ってくるまでの「シャカシャカシャカ……」みたいなところをお願いしました。


「トラックメイカー」から「ミュージシャン」への変化

――ryoさんはNEWLYさんのアルバムを聴いて、どのような印象を受けましたか?

ryo:出会った頃のNEWLYの作品は音がフラットに並んでる印象があったんだけど、今作はかなり奥行きが広がったよね。どの位置にどの楽器を置きたいか、立体的に考えているのが伝わってきた。アルバムで一気に彼のおもしろさが広がった気がします。

同時に音選びの細かさも伝わってきて、「トラックメイカー」から「ミュージシャン」への変化を感じました。特に2曲目“Waterscape”のドラム。最初に聴かせてもらったときに「えっこれ打ち込みでやってるの?」ってびっくりした。

NEWLY:“Waterscape”も完成までに時間がかかった曲なので、そう言ってもらえると嬉しいです。この曲は海の波を楽器で表現したかったので、「酔っ払ったようなドラムを入れたい」というイメージがあって。誰かに生で録ってもらうにしても、まずはMIDIで聴いてもらってからの方がイメージを共有できると思ったんです。そうやって作っていくうちに、「これでいいじゃん」って満足できるレベルまでいけて。

ryo:生っぽい要素も感じさせる、絶妙なバランス感だなって思いました。

……あと、こうやってフィジカルを手にとってみて思ったけど、このジャケット、色味も含めてめっちゃいいよね。これはどうやってオファーしたの?

NEWLY:嬉しいです。アートワークはこれまでの作品も含めて全てSHINJIさん(nyoro / SHINJI ItoU)っていうデザイナーさんにお願いしていて。今回の作品もわがままをたくさん聞いてもらいました。

――今回、待望のフィジカル化ということで、NEWLYさん自身は改めてアルバムを聴き返して感じることはありますか?

NEWLY:各音が物質的に聴こえるようになっていいなと俯瞰して思いました。もちろん個人的な反省点もありますけど。

――その反省から、次の作品へのアプローチがどう変化するかも楽しみです。

NEWLY:次はEPを作ろうかなって思っています。アルバムで使わなかったアイディアもあるし、リアルタイムで聴く音楽や価値観が変化している自覚もある。なので、今度は「いま」に集中してみようとリハビリしています。シナリオを準備したりせず、とりあえず作ってみる、みたいな。ryoさんのように生活の中で出会った音を拾っていきながら、まさに制作を始めたところです。

ryo:実際、NEWLYは自分にどんどん近づいていってる感じがします(笑)。少しずつ形のない、説明やジャンル分けが難しい音楽を求めるようになったというか。進む方向性が一緒なので、もはやご近所さんのような存在です。

ただ、アルバムが完成するにつれてミュージシャンらしくなってきたからこそ、ライブでのセッションがどんどん大変になってきました(笑)。一昨年に初めてサポートとしてライブに参加させてもらったときに比べると、求められる力量が格段に増えてきたなと(笑)。

――6月には東京・表参道WALL & WALLにてワンマンライブが行われるそうですね。

NEWLY:過去最大編成で演奏します。アルバムに参加してもらったアーティストのみなさんにサポートをお願いしました。ギターにyuya saito(yonawo)、サックスとフルートでKenT(Soulflex)、トランペットに寺久保伶矢、ドラムは窪田大志、そしてパーカッションはryoさんにお願いしました。ryoさん、当日もよろしくお願いします!


【リリース情報】


NEWLY 『Not About All』LP / CD / TAPE
Release Date:2025.03.26 (Wed.)
Label:Broth Works LLC.
Tracklist:
1. Poppy Field
Music, Arranged by NEWLY
Programming, Vocal, Guitar, Bass, Synthesizer:NEWLY

2. Waterscape
Music, Arranged by NEWLY
Words by NEWLY
Vocal:Lil Summer
Trumpet:Reiya Terakubo
Additional Vocal:Madness Pin Drops
Additional Synthesizer:Yohey Tsukasaki
Programming, Guitar, Bass, Rhodes Piano, Mellotron:NEWLY

3. Dear. Ocean
Music, Arranged by NEWLY
Words by Madness Pin Drops
Vocal:Madness Pin Drops
Piano:TENDRE
Programming:NEWLY

4. Freefall
Music, Arranged by NEWLY
Flute & Saxophone:KenT
Programming, Guitar, Bass, Synthesizer:NEWLY

5. Proust
Music, Arranged by NEWLY
Additional Piano:Yohey Tsukasaki
Additional Drums:ryo takahashi
Programming, Piano, Synth Bass, Classical Guitar:NEWLY

6. Until Healed Pt.1
Music, Arranged by NEWLY
Programming, Piano, Synthesizer, Clavinet, Mellotron:NEWLY

7. Until Healed Pt.2
Music, Arranged by NEWLY
Saxophone:KenT
Programming, Bass, Synthesizer, Clavinet, Mellotron:NEWLY

8. Sour Around
Music, Arranged by NEWLY
Programming, Synthesizer:NEWLY

9. Moda
Music, Arranged by NEWLY
Electric Guitar & Steel Guitar:Yuya Saito
Programming, Bass, Synthesizer:NEWLY

※LP(33回転・A式見開きジャケット仕様)/ CD(デジパック仕様)/ カセットテープ


【イベント情報】


『NEWLY ONEMAN LIVE “Not About All”』
日時:2025年6月15日(日)OPEN 17:15 / START 18:00
会場:東京・表参道 WALL & WALL
料金:ADV. ¥4,000
出演:
NEWLY [Mani. / Ba.]
ryo takahashi (Pistachio Studio) [Perc.]
yuya saito (yonawo) [Gt.]
KenT (Soulflex) [Sax / Fl.]
寺久保伶矢 [Trp.]
窪田大志 [Dr.]

チケット詳細(LivePocket)

■NEWLY:Instagram / X


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